嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
145 / 930
連載

213 泣いてみろ!

しおりを挟む
「魔石とは、こちらでよろしかったでしょうか」
「多分これ。ありがとう、セドリック」
「いえ」

 疲れた顔をしたセドリックは、宣言通りに魔石をとってきてくれた。ちょっと髪が湿っている。おそらく湖に潜ったあと、軽く体を清めて着替えてきたのだろう。必要最小限しか働かない彼にしては、珍しく余計な仕事を引き受けてくれた。お辞儀して感謝しておけば、セドリックは「お気になさらず」と素っ気ない反応を返してくる。

「お礼にこれあげる」

 以前アロンにもらったキャンディーを差し出すが、セドリックは「お構いなく」と首を横に振るばかりで受け取ってくれない。仕方がないので、自分の口に放り込んでおく。

 そんな俺を、マーティーがなにか言いたそうな表情で見つめていた。

「キャンディー欲しかったのか? もうない。我慢しろ」
「欲しいなんて思っていない」

 ふいっとそっぽを向くマーティーは、ご機嫌ななめだった。欲しいなら欲しいって素直に言えばいいのに。まぁ、言ったところでもうキャンディーはないけどな。

 セドリックがとってきてくれた魔石とやらは、とてもきらきらしていた。見る角度によって色が変わる不思議な石だ。片手におさまる程度の大きさで宝石のような輝きである。装飾品として用いられるのにも納得である。

「すごくきれい」

 マーティーにも見せてやれば、「すごいな」と興味津々に手を伸ばしてくる。隙あらば奪おうとしてくるお子様マーティーをかわして、魔石を眺める。

 細かく角度を変えれば、七色に輝くそれは、眺めているだけでも楽しい。

『僕に貸せ』

 ちょいちょいと手を出してくる黒猫の前足を掴んで、肉球を触っておく。「マーティーも触るか?」と猫の前足をぐいっと引っ張るが、マーティーは「なんか怒っていないか?」と黒猫ユリス相手にビビるばかりで触ろうとはしない。これくらいで怒ったりする黒猫ユリスではない。ちょっと不機嫌にはなるけれども。今も『放せ! 馬鹿』と俺を罵っている。

「すごくきらきら。あとでティアンにも見せてやろう」

 満足する俺とは対照的に、湿った髪を気にするセドリックは酷く疲れた顔をしていた。なんかごめんよ。


※※※


「みろ! ティアン! 魔石」
「うわ、すごいですね」

 午後。
 のんびりやって来たティアンに、早速魔石を自慢する。遠慮なしに手を伸ばそうとしてくるティアンを慌てて避けてから、もう一度魔石を掲げて自慢する。なんでみんな勝手に触ろうとしてくるのか。少しは遠慮しろ。本物ユリスがオーガス兄様からもらった物だから、正真正銘俺の物だ。

「どうやってとってきたんですか?」

 首を傾げるティアンは、壁際に控えるセドリックを視界に入れて軽く目を見張る。

「え! まさか副団長殿に取りに行かせたんですか」

 驚いているらしいティアンは、「そんなのタイラー殿に頼めばいいじゃないですか」と、突然タイラーを見下したような発言をし始める。急にどうしたよ。

 どうやら副団長にそんなことやらせるな、ということらしい。だがセドリックが自分で取りに行くと言ったのだ。それにタイラーは頑なに湖に潜ることを拒否していた。おまけに今日はお休みだ。
 しかしティアンが少し怒っているらしいので、とりあえずマーティーに責任を押しつけておこうと思う。隣に立つマーティーを指さして、「こいつのせい」と主張する。

「マーティーがどうしても魔石見たいって泣くから。仕方なくセドリックがとりに行ったの」
「僕がいつ泣いた! 事実を捏造するんじゃない」

 すかさず否定してくるマーティーは、ぎゅっと拳を握っている。

『最近、こいつ泣かないな? 面白くない』

 足元に寄ってきた黒猫ユリスが、マーティーの足をめがけて猫パンチを繰り出している。『ほら! 泣いてみろ!』と性格悪いことを言っている。

 俺相手にはビビらなくなったマーティーであるが、本物ユリス相手だとまだビビっている。

 じっと、足をひたすらパンチされているマーティーを観察する。驚いたように一歩後ろにさがる彼を、黒猫ユリスは執拗に追いかけてパンチしている。マーティーがサンドバッグになっている。

「……泣くのか?」

 一応確認すれば、「だから! 泣くわけないだろ!」と威勢の良い答えが返ってきた。しかし、その声がちょっと震えている。もうちょいで泣きそうである。というか既に泣いていないか? 再び「泣いてんの?」と確認しておけば、「だから泣いてない!」と先程よりも震えた声が返ってきた。

 たまらずガブリエルの背後に隠れるマーティーを、黒猫ユリスがすごい勢いで走って追いかけている。そろそろ可哀想だからやめてやれよ。
しおりを挟む
感想 724

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。