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連載
213 泣いてみろ!
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「魔石とは、こちらでよろしかったでしょうか」
「多分これ。ありがとう、セドリック」
「いえ」
疲れた顔をしたセドリックは、宣言通りに魔石をとってきてくれた。ちょっと髪が湿っている。おそらく湖に潜ったあと、軽く体を清めて着替えてきたのだろう。必要最小限しか働かない彼にしては、珍しく余計な仕事を引き受けてくれた。お辞儀して感謝しておけば、セドリックは「お気になさらず」と素っ気ない反応を返してくる。
「お礼にこれあげる」
以前アロンにもらったキャンディーを差し出すが、セドリックは「お構いなく」と首を横に振るばかりで受け取ってくれない。仕方がないので、自分の口に放り込んでおく。
そんな俺を、マーティーがなにか言いたそうな表情で見つめていた。
「キャンディー欲しかったのか? もうない。我慢しろ」
「欲しいなんて思っていない」
ふいっとそっぽを向くマーティーは、ご機嫌ななめだった。欲しいなら欲しいって素直に言えばいいのに。まぁ、言ったところでもうキャンディーはないけどな。
セドリックがとってきてくれた魔石とやらは、とてもきらきらしていた。見る角度によって色が変わる不思議な石だ。片手におさまる程度の大きさで宝石のような輝きである。装飾品として用いられるのにも納得である。
「すごくきれい」
マーティーにも見せてやれば、「すごいな」と興味津々に手を伸ばしてくる。隙あらば奪おうとしてくるお子様マーティーをかわして、魔石を眺める。
細かく角度を変えれば、七色に輝くそれは、眺めているだけでも楽しい。
『僕に貸せ』
ちょいちょいと手を出してくる黒猫の前足を掴んで、肉球を触っておく。「マーティーも触るか?」と猫の前足をぐいっと引っ張るが、マーティーは「なんか怒っていないか?」と黒猫ユリス相手にビビるばかりで触ろうとはしない。これくらいで怒ったりする黒猫ユリスではない。ちょっと不機嫌にはなるけれども。今も『放せ! 馬鹿』と俺を罵っている。
「すごくきらきら。あとでティアンにも見せてやろう」
満足する俺とは対照的に、湿った髪を気にするセドリックは酷く疲れた顔をしていた。なんかごめんよ。
※※※
「みろ! ティアン! 魔石」
「うわ、すごいですね」
午後。
のんびりやって来たティアンに、早速魔石を自慢する。遠慮なしに手を伸ばそうとしてくるティアンを慌てて避けてから、もう一度魔石を掲げて自慢する。なんでみんな勝手に触ろうとしてくるのか。少しは遠慮しろ。本物ユリスがオーガス兄様からもらった物だから、正真正銘俺の物だ。
「どうやってとってきたんですか?」
首を傾げるティアンは、壁際に控えるセドリックを視界に入れて軽く目を見張る。
「え! まさか副団長殿に取りに行かせたんですか」
驚いているらしいティアンは、「そんなのタイラー殿に頼めばいいじゃないですか」と、突然タイラーを見下したような発言をし始める。急にどうしたよ。
どうやら副団長にそんなことやらせるな、ということらしい。だがセドリックが自分で取りに行くと言ったのだ。それにタイラーは頑なに湖に潜ることを拒否していた。おまけに今日はお休みだ。
しかしティアンが少し怒っているらしいので、とりあえずマーティーに責任を押しつけておこうと思う。隣に立つマーティーを指さして、「こいつのせい」と主張する。
「マーティーがどうしても魔石見たいって泣くから。仕方なくセドリックがとりに行ったの」
「僕がいつ泣いた! 事実を捏造するんじゃない」
すかさず否定してくるマーティーは、ぎゅっと拳を握っている。
『最近、こいつ泣かないな? 面白くない』
足元に寄ってきた黒猫ユリスが、マーティーの足をめがけて猫パンチを繰り出している。『ほら! 泣いてみろ!』と性格悪いことを言っている。
俺相手にはビビらなくなったマーティーであるが、本物ユリス相手だとまだビビっている。
じっと、足をひたすらパンチされているマーティーを観察する。驚いたように一歩後ろにさがる彼を、黒猫ユリスは執拗に追いかけてパンチしている。マーティーがサンドバッグになっている。
「……泣くのか?」
一応確認すれば、「だから! 泣くわけないだろ!」と威勢の良い答えが返ってきた。しかし、その声がちょっと震えている。もうちょいで泣きそうである。というか既に泣いていないか? 再び「泣いてんの?」と確認しておけば、「だから泣いてない!」と先程よりも震えた声が返ってきた。
たまらずガブリエルの背後に隠れるマーティーを、黒猫ユリスがすごい勢いで走って追いかけている。そろそろ可哀想だからやめてやれよ。
「多分これ。ありがとう、セドリック」
「いえ」
疲れた顔をしたセドリックは、宣言通りに魔石をとってきてくれた。ちょっと髪が湿っている。おそらく湖に潜ったあと、軽く体を清めて着替えてきたのだろう。必要最小限しか働かない彼にしては、珍しく余計な仕事を引き受けてくれた。お辞儀して感謝しておけば、セドリックは「お気になさらず」と素っ気ない反応を返してくる。
「お礼にこれあげる」
以前アロンにもらったキャンディーを差し出すが、セドリックは「お構いなく」と首を横に振るばかりで受け取ってくれない。仕方がないので、自分の口に放り込んでおく。
そんな俺を、マーティーがなにか言いたそうな表情で見つめていた。
「キャンディー欲しかったのか? もうない。我慢しろ」
「欲しいなんて思っていない」
ふいっとそっぽを向くマーティーは、ご機嫌ななめだった。欲しいなら欲しいって素直に言えばいいのに。まぁ、言ったところでもうキャンディーはないけどな。
セドリックがとってきてくれた魔石とやらは、とてもきらきらしていた。見る角度によって色が変わる不思議な石だ。片手におさまる程度の大きさで宝石のような輝きである。装飾品として用いられるのにも納得である。
「すごくきれい」
マーティーにも見せてやれば、「すごいな」と興味津々に手を伸ばしてくる。隙あらば奪おうとしてくるお子様マーティーをかわして、魔石を眺める。
細かく角度を変えれば、七色に輝くそれは、眺めているだけでも楽しい。
『僕に貸せ』
ちょいちょいと手を出してくる黒猫の前足を掴んで、肉球を触っておく。「マーティーも触るか?」と猫の前足をぐいっと引っ張るが、マーティーは「なんか怒っていないか?」と黒猫ユリス相手にビビるばかりで触ろうとはしない。これくらいで怒ったりする黒猫ユリスではない。ちょっと不機嫌にはなるけれども。今も『放せ! 馬鹿』と俺を罵っている。
「すごくきらきら。あとでティアンにも見せてやろう」
満足する俺とは対照的に、湿った髪を気にするセドリックは酷く疲れた顔をしていた。なんかごめんよ。
※※※
「みろ! ティアン! 魔石」
「うわ、すごいですね」
午後。
のんびりやって来たティアンに、早速魔石を自慢する。遠慮なしに手を伸ばそうとしてくるティアンを慌てて避けてから、もう一度魔石を掲げて自慢する。なんでみんな勝手に触ろうとしてくるのか。少しは遠慮しろ。本物ユリスがオーガス兄様からもらった物だから、正真正銘俺の物だ。
「どうやってとってきたんですか?」
首を傾げるティアンは、壁際に控えるセドリックを視界に入れて軽く目を見張る。
「え! まさか副団長殿に取りに行かせたんですか」
驚いているらしいティアンは、「そんなのタイラー殿に頼めばいいじゃないですか」と、突然タイラーを見下したような発言をし始める。急にどうしたよ。
どうやら副団長にそんなことやらせるな、ということらしい。だがセドリックが自分で取りに行くと言ったのだ。それにタイラーは頑なに湖に潜ることを拒否していた。おまけに今日はお休みだ。
しかしティアンが少し怒っているらしいので、とりあえずマーティーに責任を押しつけておこうと思う。隣に立つマーティーを指さして、「こいつのせい」と主張する。
「マーティーがどうしても魔石見たいって泣くから。仕方なくセドリックがとりに行ったの」
「僕がいつ泣いた! 事実を捏造するんじゃない」
すかさず否定してくるマーティーは、ぎゅっと拳を握っている。
『最近、こいつ泣かないな? 面白くない』
足元に寄ってきた黒猫ユリスが、マーティーの足をめがけて猫パンチを繰り出している。『ほら! 泣いてみろ!』と性格悪いことを言っている。
俺相手にはビビらなくなったマーティーであるが、本物ユリス相手だとまだビビっている。
じっと、足をひたすらパンチされているマーティーを観察する。驚いたように一歩後ろにさがる彼を、黒猫ユリスは執拗に追いかけてパンチしている。マーティーがサンドバッグになっている。
「……泣くのか?」
一応確認すれば、「だから! 泣くわけないだろ!」と威勢の良い答えが返ってきた。しかし、その声がちょっと震えている。もうちょいで泣きそうである。というか既に泣いていないか? 再び「泣いてんの?」と確認しておけば、「だから泣いてない!」と先程よりも震えた声が返ってきた。
たまらずガブリエルの背後に隠れるマーティーを、黒猫ユリスがすごい勢いで走って追いかけている。そろそろ可哀想だからやめてやれよ。
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