冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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214 兄様にも見せてやる

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「見て、オーガス兄様。魔石をゲットした」
「あ。それ僕があげたやつ」

 なにやら言葉を切ったオーガス兄様は、微妙な表情をしていた。

「いや、気に入ってくれたのは嬉しいけどさ。君一度捨てたよね、それ」
「そうだっけ?」

 いちゃもんつけてくるオーガス兄様は、適当にあしらっておくに限る。これ捨てたのは本物ユリスであって、俺ではないからな。きらきらの魔石をお披露目してやれば、オーガス兄様は無意識に手を伸ばそうとしてくる。慌てて手を引っ込める俺。なんで全員とりあえず魔石に触ろうとしてくるのか。これは俺のだって言ってるだろうが。

 マーティーとティアンは部屋に置いてきた。兄様たちに魔石自慢しに行くと伝えたところ、「僕は行かない」とマーティーが我儘言ったためだ。どうやら兄様たちの部屋に突入することを遠慮しているらしい。変なところで気遣いを発揮するお子様である。
 マーティーをひとりにするわけにはいかないと、ティアンも部屋に残った。そうだな。ガブリエルが一緒とはいえ、ベイビーをひとりで部屋に残すのは心配だな。ティアンには、マーティーが黒猫にいじめられないよう見張っておけと伝えておいたから安心だ。

 というわけで。

 ジャンとセドリックを引き連れて、オーガス兄様の部屋にやって来た俺。

「ところでどうやってとったの? 湖に沈んでいたやつだよね」

 首を捻るオーガス兄様。ちらりとセドリックに目を向ければ、これまで黙っていたニックが「え!」と突然の大声を発した。びっくりしてニックを振り返ると、驚愕のあまり目を見開いた彼が、呆然とセドリックを見つめていた。

「……まさか副団長にとりに行かせたんですか」
「うん」

 他人事みたいにそっぽを向いているセドリックに代わって頷けば、ニックが「副団長になにやらせているんですか⁉︎」と俺の肩を掴んでくる。なんでって、おまえが頑なにとってくれないからだろ。

「セドリックは優しいから」

 とりあえずセドリックを褒めておけば、ニックが口元を引き攣らせる。俺と話してもどうにもならないと思ったのだろう。緩く首を左右に振った彼は、セドリックに向き合う。

「言ってもらえれば、俺がとりに行きましたのに」
「……そういうことは早く言え」

 ニックの申し出に、微かに眉を上げたセドリック。押し付けることができるのならば、押し付けたかったという本音が丸わかりである。

 だがしかし。俺は大事なことを訊かねばならない。

「ニック! 俺の言うこときかないのに、なんでセドリックの言うことは素直にきくんだ!」
「なんでって。うちの副団長ですよ?」
「俺は⁉︎」
「え? あー? そういやユリス様はユリス様でしたね」

 わけわからんことを口走るニックは、ばつが悪そうに首に手をやっている。どうやらセドリック信者である彼は、ついうっかり俺のことを忘れてセドリック一直線になってしまったらしい。意味がわからない。

 セドリックが余計な仕事するんて珍しいと驚いているオーガス兄様は、きょろきょろと視線を彷徨わせている。

「マーティーは?」
「俺の部屋」
「一緒に遊ばないの?」
「遊んでる。今はティアンにお任せしている」

 そうなんだ、とたいして興味なさそうなオーガス兄様。エリック相手だとビビるくせに、マーティー相手だと普通らしい。マーティーがベイビーだからか?

「そういえば、オーガス兄様。マーティーがね、オーガス兄様の行為は人間として恥ずべき行為だって言ってたよ」
「え、なんで?」

 どういうことだよ、と首を捻る兄様は「えーと、具体的にはどの行為のこと?」と困ったように佇んでいる。どうやら心当たりがたくさんあるらしい。さすがオーガス兄様。

「勝手に人の縁談お断りしたらダメだよ」
「あー、その件。はい、ごめんなさい」

 遠い目をしたオーガス兄様は、相変わらず頼りのない長男であった。
 

※※※


「見て、ブルース兄様。魔石」
「……セドリックが動くなんて珍しいな」

 ひくりと頬を引き攣らせるブルース兄様は、信じられない物でも見るかのような目で、セドリックを凝視している。

「さっさと取りに行った方が早いと判断致しました」
「そうか」

 簡潔に報告するセドリックは、多くを語らない。再び黙り込んだ彼は、我関せずといった顔で控えている。

「アロンと違って、セドリックは優しい」
「副団長のは優しさではなく、妥協ですよ。できるだけ仕事を最小限にしたいだけです。今回だって延々とユリス様を宥めるより、湖に潜った方がマシだと判断しただけですよ」
「やめなよ、アロン」

 彼がなんと言おうが、実際に魔石を取ってきてくれたセドリックの方が優しい。なぜか喧嘩腰となるアロンを落ち着かせて、俺は魔石を自慢する。

「ほら見て。きれい」
「ユリス様の方が断然お綺麗ですよ」
「まあね」

 魔石ではなく、俺を凝視するアロンは、俺の魅力をよくわかっている。得意になって胸を張れば、ブルース兄様が「どういう会話なんだ」と眉を寄せる。どうやら俺だけアロンに褒められて拗ねているらしい。だがブルース兄様は顔が怖いからな。綺麗という言葉は似合わない。眉間の皺をどうにかしたらいいと思う、とお伝えすれば「やかましい」とひと睨みされてしまった。酷い。
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