223 / 577
212 身内の恥
しおりを挟む
セドリックは有言実行するタイプである。口だけ達者なアロンとは大違いである。
基本的に余計な仕事はしないのがセドリックである。必要最小限、己に与えられた職務だけをこなす寡黙な男である。最小限で収めようとするあまり、手を抜いてたまにクレイグ団長が静かにお怒りになっていることを俺は知っている。だが明らかに余計なことをするアロンとは違い、セドリックはしれっと手を抜くので、クレイグ団長が怒るタイミングを何度も逃しているということも俺は知っている。
なにか言いたげな表情で、セドリックを凝視している団長をよく見る。それに対して、セドリックは「なにか問題でも?」とでも言うかのように堂々としている。
そんなセドリックであるが、どうやら俺を黙らせるよりも、魔石をとってきた方がはやいと判断したらしい。賢明な判断である。俺は相当しつこいぞ。
「私が戻るまで、くれぐれも部屋で大人しくしていてください」
そう念押ししてきたセドリックを、こくこく頷いて送り出す。
というわけで。
庭遊びを中断する口実を得たマーティーは、途端に表情が明るくなる。部屋に戻った彼は、「あー、寒かった」とかなんとか言ってゆったりと座っている。特になにもしていなのに。なんだそのお疲れアピールは。
ジャンの腕から抜け出した黒猫ユリスは、先程まで包まっていたマフラーを執拗に踏んでいる。気に入ったのだろうか。でもそれ俺のマフラーだから。あんまり踏まないで欲しい。
ガブリエルは所在なさげにそわそわしている。湖や潜るといった単語を聞き齧って、セドリックのことを心配しているようだ。けれども積極的に口は出せず、かといってジャンを差し置いて特にやることもなく、黙って控えている。
「……ガブリエルは、なんでマーティーの子分やってるの?」
「子分……?」
意味がわからないと目を見張ったマーティー。子分ではなく従者だと説明してくるが、意味はだいたい同じだろ。
「俺にも子分いるよ。ふたり」
「もしかして、そこの従者といつもの護衛騎士のことか?」
「ジャンとタイラーのこと? タイラーは違う。ジャンは子分その1だけど」
子分その1というところで、ジャンがきゅっと唇を引き結んでいる。何かを堪えるような仕草だ。
「あとひとりはね、ニック」
「誰だ」
「オーガス兄様の騎士」
「なんでそれがおまえの子分になるんだ」
「いいじゃん別に」
細かいところに突っかかってくるマーティーは、ちょっと面倒くさい。
「あとね、セドリックは副団長なの」
「知っている。元々副団長だったあいつを、ユリスが解任したんだろ。我儘は相変わらずだな」
「違う。解任したのはオーガス兄様」
「は?」
変な顔をするマーティーは、どうやら副団長の件を詳しくは知らないらしい。そこで俺は、事の顛末を教えてやる。ちょうどセドリック待ちで暇しているからな。
「オーガス兄様はね、ブルース兄様への縁談勝手に断っててね、それをセドリックに知られて。それで口止めに解任したの」
「……ど、どういう反応をすればいいんだよ」
オーガス兄様のやらかしを聞いたマーティーは、困ったようにガブリエルを見ている。だが、ガブリエルも大変なことを知ってしまったといった感じで深刻な表情をしている。ジャンも青い顔だ。
やがてマーティーが、ちょっと眉をキリッとさせる。
「あのな、そういう身内の恥をあちこちで触れ回るんじゃない」
「恥なの?」
「恥だろ。人間として恥ずべき行為だ」
オーガス兄様の行為を酷評したマーティーは、「ちょっと考えればわかるだろ。下手をすればヴィアン家の信用に関わる。軽々しく口外するんじゃない」と上から目線で説教してくる。
「オーガス兄様の悪口言うなよ」
「いや。そんなつもりでは。てかあの人、そんなことしているのか?」
「そうだよ。オーガス兄様は気弱なのにプライドだけは高いから」
「あぁ、まぁ、そんな感じするよな」
特に否定しないマーティー。オーガス兄様の気弱な性格が知れ渡っている。しかしマーティーの言う通り、オーガス兄様の恥を広めるのは可哀想かもしれない。
「ガブリエル! 今の話は内緒ね」
「は、はい! もちろんでございます」
ガブリエル相手に口止めしておけば、彼は大袈裟なくらいに背筋を伸ばして応答する。よくわからんが、気合いバッチリだ。
基本的に余計な仕事はしないのがセドリックである。必要最小限、己に与えられた職務だけをこなす寡黙な男である。最小限で収めようとするあまり、手を抜いてたまにクレイグ団長が静かにお怒りになっていることを俺は知っている。だが明らかに余計なことをするアロンとは違い、セドリックはしれっと手を抜くので、クレイグ団長が怒るタイミングを何度も逃しているということも俺は知っている。
なにか言いたげな表情で、セドリックを凝視している団長をよく見る。それに対して、セドリックは「なにか問題でも?」とでも言うかのように堂々としている。
そんなセドリックであるが、どうやら俺を黙らせるよりも、魔石をとってきた方がはやいと判断したらしい。賢明な判断である。俺は相当しつこいぞ。
「私が戻るまで、くれぐれも部屋で大人しくしていてください」
そう念押ししてきたセドリックを、こくこく頷いて送り出す。
というわけで。
庭遊びを中断する口実を得たマーティーは、途端に表情が明るくなる。部屋に戻った彼は、「あー、寒かった」とかなんとか言ってゆったりと座っている。特になにもしていなのに。なんだそのお疲れアピールは。
ジャンの腕から抜け出した黒猫ユリスは、先程まで包まっていたマフラーを執拗に踏んでいる。気に入ったのだろうか。でもそれ俺のマフラーだから。あんまり踏まないで欲しい。
ガブリエルは所在なさげにそわそわしている。湖や潜るといった単語を聞き齧って、セドリックのことを心配しているようだ。けれども積極的に口は出せず、かといってジャンを差し置いて特にやることもなく、黙って控えている。
「……ガブリエルは、なんでマーティーの子分やってるの?」
「子分……?」
意味がわからないと目を見張ったマーティー。子分ではなく従者だと説明してくるが、意味はだいたい同じだろ。
「俺にも子分いるよ。ふたり」
「もしかして、そこの従者といつもの護衛騎士のことか?」
「ジャンとタイラーのこと? タイラーは違う。ジャンは子分その1だけど」
子分その1というところで、ジャンがきゅっと唇を引き結んでいる。何かを堪えるような仕草だ。
「あとひとりはね、ニック」
「誰だ」
「オーガス兄様の騎士」
「なんでそれがおまえの子分になるんだ」
「いいじゃん別に」
細かいところに突っかかってくるマーティーは、ちょっと面倒くさい。
「あとね、セドリックは副団長なの」
「知っている。元々副団長だったあいつを、ユリスが解任したんだろ。我儘は相変わらずだな」
「違う。解任したのはオーガス兄様」
「は?」
変な顔をするマーティーは、どうやら副団長の件を詳しくは知らないらしい。そこで俺は、事の顛末を教えてやる。ちょうどセドリック待ちで暇しているからな。
「オーガス兄様はね、ブルース兄様への縁談勝手に断っててね、それをセドリックに知られて。それで口止めに解任したの」
「……ど、どういう反応をすればいいんだよ」
オーガス兄様のやらかしを聞いたマーティーは、困ったようにガブリエルを見ている。だが、ガブリエルも大変なことを知ってしまったといった感じで深刻な表情をしている。ジャンも青い顔だ。
やがてマーティーが、ちょっと眉をキリッとさせる。
「あのな、そういう身内の恥をあちこちで触れ回るんじゃない」
「恥なの?」
「恥だろ。人間として恥ずべき行為だ」
オーガス兄様の行為を酷評したマーティーは、「ちょっと考えればわかるだろ。下手をすればヴィアン家の信用に関わる。軽々しく口外するんじゃない」と上から目線で説教してくる。
「オーガス兄様の悪口言うなよ」
「いや。そんなつもりでは。てかあの人、そんなことしているのか?」
「そうだよ。オーガス兄様は気弱なのにプライドだけは高いから」
「あぁ、まぁ、そんな感じするよな」
特に否定しないマーティー。オーガス兄様の気弱な性格が知れ渡っている。しかしマーティーの言う通り、オーガス兄様の恥を広めるのは可哀想かもしれない。
「ガブリエル! 今の話は内緒ね」
「は、はい! もちろんでございます」
ガブリエル相手に口止めしておけば、彼は大袈裟なくらいに背筋を伸ばして応答する。よくわからんが、気合いバッチリだ。
335
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる