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212 身内の恥

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 セドリックは有言実行するタイプである。口だけ達者なアロンとは大違いである。

 基本的に余計な仕事はしないのがセドリックである。必要最小限、己に与えられた職務だけをこなす寡黙な男である。最小限で収めようとするあまり、手を抜いてたまにクレイグ団長が静かにお怒りになっていることを俺は知っている。だが明らかに余計なことをするアロンとは違い、セドリックはしれっと手を抜くので、クレイグ団長が怒るタイミングを何度も逃しているということも俺は知っている。

 なにか言いたげな表情で、セドリックを凝視している団長をよく見る。それに対して、セドリックは「なにか問題でも?」とでも言うかのように堂々としている。

 そんなセドリックであるが、どうやら俺を黙らせるよりも、魔石をとってきた方がはやいと判断したらしい。賢明な判断である。俺は相当しつこいぞ。

「私が戻るまで、くれぐれも部屋で大人しくしていてください」

 そう念押ししてきたセドリックを、こくこく頷いて送り出す。

 というわけで。
 庭遊びを中断する口実を得たマーティーは、途端に表情が明るくなる。部屋に戻った彼は、「あー、寒かった」とかなんとか言ってゆったりと座っている。特になにもしていなのに。なんだそのお疲れアピールは。

 ジャンの腕から抜け出した黒猫ユリスは、先程まで包まっていたマフラーを執拗に踏んでいる。気に入ったのだろうか。でもそれ俺のマフラーだから。あんまり踏まないで欲しい。

 ガブリエルは所在なさげにそわそわしている。湖や潜るといった単語を聞き齧って、セドリックのことを心配しているようだ。けれども積極的に口は出せず、かといってジャンを差し置いて特にやることもなく、黙って控えている。

「……ガブリエルは、なんでマーティーの子分やってるの?」
「子分……?」

 意味がわからないと目を見張ったマーティー。子分ではなく従者だと説明してくるが、意味はだいたい同じだろ。

「俺にも子分いるよ。ふたり」
「もしかして、そこの従者といつもの護衛騎士のことか?」
「ジャンとタイラーのこと? タイラーは違う。ジャンは子分その1だけど」

 子分その1というところで、ジャンがきゅっと唇を引き結んでいる。何かを堪えるような仕草だ。

「あとひとりはね、ニック」
「誰だ」
「オーガス兄様の騎士」
「なんでそれがおまえの子分になるんだ」
「いいじゃん別に」

 細かいところに突っかかってくるマーティーは、ちょっと面倒くさい。

「あとね、セドリックは副団長なの」
「知っている。元々副団長だったあいつを、ユリスが解任したんだろ。我儘は相変わらずだな」
「違う。解任したのはオーガス兄様」
「は?」

 変な顔をするマーティーは、どうやら副団長の件を詳しくは知らないらしい。そこで俺は、事の顛末を教えてやる。ちょうどセドリック待ちで暇しているからな。

「オーガス兄様はね、ブルース兄様への縁談勝手に断っててね、それをセドリックに知られて。それで口止めに解任したの」
「……ど、どういう反応をすればいいんだよ」

 オーガス兄様のやらかしを聞いたマーティーは、困ったようにガブリエルを見ている。だが、ガブリエルも大変なことを知ってしまったといった感じで深刻な表情をしている。ジャンも青い顔だ。

 やがてマーティーが、ちょっと眉をキリッとさせる。

「あのな、そういう身内の恥をあちこちで触れ回るんじゃない」
「恥なの?」
「恥だろ。人間として恥ずべき行為だ」

 オーガス兄様の行為を酷評したマーティーは、「ちょっと考えればわかるだろ。下手をすればヴィアン家の信用に関わる。軽々しく口外するんじゃない」と上から目線で説教してくる。

「オーガス兄様の悪口言うなよ」
「いや。そんなつもりでは。てかあの人、そんなことしているのか?」
「そうだよ。オーガス兄様は気弱なのにプライドだけは高いから」
「あぁ、まぁ、そんな感じするよな」

 特に否定しないマーティー。オーガス兄様の気弱な性格が知れ渡っている。しかしマーティーの言う通り、オーガス兄様の恥を広めるのは可哀想かもしれない。

「ガブリエル! 今の話は内緒ね」
「は、はい! もちろんでございます」

 ガブリエル相手に口止めしておけば、彼は大袈裟なくらいに背筋を伸ばして応答する。よくわからんが、気合いバッチリだ。
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