上 下
200 / 577

189 お誘いしよう

しおりを挟む
「いいですか、ユリス様」
「なんだ。クソ野郎」
「この際、クソ野郎呼びには目を瞑りましょう」

 上から目線でそんなことを言うアロンを、じっと睨み上げてやる。しかしそれを無視して、アロンは俺の前に膝を付く。

「俺は責任をとりたくはないです。手柄は欲しいですが、責任押し付けられるのはごめんです」
「正真正銘のクソ野郎だな」

 こいつは何でそんなに堂々と嫌な宣言ができるのか。メンタルどうなってんだよ。そんなのみんな本心ではちょっとくらい思っている。だが普通は口には出さない。遠慮なく堂々と宣言できるアロンは、ある意味すごい奴なのかもしれない。

 ちょっとだけ感心していると、アロンがふっと眉尻を下げる。困ったように笑う彼は、俺の両肩を掴んで真正面から顔を覗き込んでくる。

「いいですか? 俺が責任とらなきゃいけなくなるようなことはしないでくださいね? 約束できますか」
「うんうん。任せておけ」
「本当に大丈夫ですか?」

 大丈夫と元気に宣言すれば、アロンが「本当に?」と胡乱気な視線を向けてくる。俺だって湖を見に行きたいだけである。特に余計なことをする予定はないから安心してほしい。

「じゃあ明日行ってみますか」

 そう言って立ち上がるアロンに、俺は待ったをかける。

「今から行く」
「いくらなんでもそれは。今からちょっと危なくないか俺が見てきます」
「アロンだけずるい! 俺も行きたいぃ」
「いやですから。明日連れて行ってあげますって。俺らもそんなしょっちゅう足を運ぶ場所ではないので。ちゃんと道が歩けるか確認しないといけないんですよ」
「むむ!」

 それなら仕方ないか?

 たしかに手入れの行き届いていない森らしいしな。足場は悪そうだ。

「わかった。アロン、気を付けてね」
「はい。任せておいてくださいよ」

 にこやかに手を振ったアロンは、そのまま確認のために部屋を出て行く。彼の背中を見送ったブルース兄様が「おまえ、なんでそんなに水が好きなんだ」と呆れたように息を吐いた。

 だって楽しいだろ。俺は夏になったらプールやら海やら行きまくるタイプの人間だ。雪が降ったら全力で遊びに行くし、なんなら雨の中走り回るのも好きだったりする。

「兄様も一緒に行く?」
「あ?」

 ガラの悪い返事をした兄様は、しばし考え込むように口を噤む。やがて深くため息をついたブルース兄様は、「そうだな。おまえは目を離すとなにをするかわからんからな」となぜか俺をディスってきた。

「じゃあ明日の朝、みんなここに集合ね」
「勝手に人の部屋を集合場所にするんじゃない」


※※※


 ブルース兄様をお誘いしたのに、オーガス兄様だけお誘いしないのはちょっとどうかと思う。

 ちなみにティアンにも声をかけたところ、「僕、朝は勉強が。でも一日くらい大丈夫ですかね?」と忙しいアピールをしつつも同行を了承していた。

 そうしてオーガス兄様の部屋を訪れた俺は、湖探検ツアーのお誘いをしてみた。

「みんなで行くの?」
「ブルース兄様も行くって。なんだかんだ言ってブルース兄様も湖好きなんだよ」
「そうなの?」

 意外だな、と呟くオーガス兄様は、しきりにニックを気にしている。

「僕忙しいんだよね、仕事あるし。でも弟たちが行くのに長男である僕が行かないのもなぁ。なんか仲間外れされているみたいでなぁ」

 なんか急に忙しいアピールをし出す兄様。なんでみんな忙しいアピールしてくんの?

 挙動不審なオーガス兄様は、ちらちらとわざとらしくニックを見ている。それに気が付いたニックが、なんとも言えない顔で軽く咳払いをする。

「……たまの息抜きくらいよろしいのでは?」
「! そう思う? じゃあ僕も一緒に行こうかな」

 なにこの謎のやり取り。
 明らかに行きたいアピールするオーガス兄様と、それに忖度して口添えするニック。

「オーガス兄様って面倒くさいね」

 思わずぽつりと呟けば、ティアンが「こら」と注意してくる。だって面倒くさいだろ。素直に行きたいって言えばいいのに。

「じゃあニックも来てね。おやつ持って行ってみんなで食べよう」
「この寒空の下ですか?」

 嫌ですよ、と眉を顰めるニックには遊び心が足りないと思う。横ではティアンも「僕も嫌です」とニックに賛同し始める。

 まぁいいさ。俺ひとりでもおやつ食べるもんね。気分はさながらピクニックである。明日がとても楽しみだ。
しおりを挟む
感想 415

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

処理中です...