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「でっかい湖見たいか! 見たいよね?」
「なんですか急に」
部屋に入って来たティアンを見るなり叫んでみれば、彼は怪訝な表情をする。
「森の中に湖あるんだって。俺も見たい。今から見に行こう?」
「ダメって言ってるでしょ。ダメなものはダメなんです。いい加減諦めてください」
ティアンをお誘いしたのに、なぜかタイラーが勢いよく食い付いてくる。おまえは誘ってない。勝手に首を突っ込んでくるな。
頭ごなしにダメと叱られる俺を、ティアンが微妙な目で見てくる。その顔には「また余計なことをしようとして」とわかりやすく書いてある。失礼だぞ。
「でも。ティアンも見たいって。大きい湖」
「僕そんなこと言っていませんけど?」
「ジャンも見たいよね? 前に泳ぎたいって言ってたもんね?」
「い、言っておりません」
控えめに否定したジャンは、すぐに「申し訳ございません」と頭を下げてくる。本当に申し訳ないと思っているのなら俺の味方をしろ。形だけの謝罪はいらん。
そうしてしばらく粘った俺だが、誰も味方にはなってくれなかった。酷すぎる。ちょっと湖見たいだけなのに。なんでこんなに大反対されなければならないのか。
だが諦めるという選択肢はもはやなかった。連日暇を持て余している俺である。幸い時間だけはたっぷりあった。
「よし。ブルース兄様と交渉しよう」
「無謀では?」
はなから諦めモードのティアンは、やる気がなくて困る。ブルース兄様だって一応は俺の兄だ。可愛い弟が一生懸命頼めば折れてくれるはず。「可愛い……?」と首を捻る失礼ティアンに構っている暇はなかった。
『なんだ。ブルースのところに行くのか? 僕も行く』
「よし! 行くぞ猫!」
なんだかんだ言って味方してくれる黒猫ユリスは偉い。あとで一緒におやつを食べよう。ちょっとだけなら分けてあげてもいい。
『ブルースがどれくらい怒るか見ものだな』
「わるにゃんこめ」
違った。全然俺の味方じゃなかった。ブルース兄様に怒られる俺が見たいだけのようだ。あとなんで俺が怒られるって決めつけてるの。ブルース兄様だってでっかい湖見たいに決まっている。快く賛成してくれるかもしれないじゃないか。
※※※
「ダメに決まっているだろ。ふざけたこと言ってないで勉強でもしてこい」
「ひどい兄だな」
偉そうに腕を組むブルース兄様は、まったく賛成してくれなかった。なぜに。
「でっかい湖だよ? 兄様も見たいでしょ?」
「見たくはない。勉強しろ」
勉強勉強うるさいブルース兄様は、とりつく島もなかった。
「嫌だ。湖見たい。遊びたい」
「湖でどうやって遊ぶんだ」
「泳ぐ」
「馬鹿」
シンプルに罵倒してきたブルース兄様は、俺の目をじっと見据えて再度「馬鹿」と罵ってきた。そんな念押しする必要あるか?
「あの湖は結構深かっただろ。泳ぐなんてダメに決まっている」
「でもオーガス兄様は泳いだって。潜ったって俺に自慢してきた」
「……なにやってんだ、あの人は」
盛大に頭を抱えた兄様は、「兄上の言うことは真に受けるな」と無茶を言う。ブルース兄様は、これまで俺にお母様、お父様、そしてオーガス兄様の話は聞き流せと言い聞かせている。俺は一体誰の話を真に受ければいいんだよ。周りにろくな大人がいないな。
やれやれと肩をすくめていれば、眉間に皺を寄せた兄様が再度「勉強でもしてろ」と言ってくる。だから勉強は嫌なんだって。
「いいでしょ? タイラーも連れて行くから。今は冬だから泳がないもん。ちょっと見るだけだから!」
「うるさい」
「猫触らせてあげるから!」
「いらん」
『勝手に僕を交渉に使うな』
お願い! と手を合わせるが、ブルース兄様に無視されてしまう。酷すぎる。
「見るだけならいいのでは? 騎士を同行させれば危険はないでしょう?」
「アロン……!」
なんていい人。
今までソファーからこちらを窺っていたアロンが、突然俺の味方をしてくれる。
「アロン、いい人。今までクソ野郎だと思っててごめんね」
「クソ野郎……」
苦い顔をしたアロンは、けれどもすぐにニコリと胡散臭い笑みを浮かべる。
「ユリス様のしつこさはブルース様もご存知でしょう」
「そうだ! そうだ! 俺はしつこいぞ」
アロンを応援しようと思って援護すれば、ティアンが「やめなさい」と注意してくる。
「このままでは本当に夜中にこっそり森に侵入しそうです。そうなった方が大変なのでは?」
「……」
無言でこちらを睨み付けてくるブルース兄様は、どうやら考え込んでいるようだった。
「ユリス様は夜中にお部屋を抜け出すのがお上手みたいなので。遭難でもされたらそれこそ厄介ですよ」
「まぁ、そうだな」
低く唸る兄様に、俺はわくわくと視線を送る。
『なんだ。つまらん奴だな。もうちょっと粘ってみろ』
黒猫ユリスがブルース兄様に文句を言っているが、当然ながら兄様には聞こえない。こいつは一体誰の味方なんだ。俺のペットなんだから俺の味方をしろ。
やがて、兄様が深くため息をついた。
「アロン。その時はおまえが責任持って面倒見ろよ」
「それはちょっと」
「アロン‼︎」
最後の最後に裏切ったアロンは、やっぱりクソ野郎だった。
「なんですか急に」
部屋に入って来たティアンを見るなり叫んでみれば、彼は怪訝な表情をする。
「森の中に湖あるんだって。俺も見たい。今から見に行こう?」
「ダメって言ってるでしょ。ダメなものはダメなんです。いい加減諦めてください」
ティアンをお誘いしたのに、なぜかタイラーが勢いよく食い付いてくる。おまえは誘ってない。勝手に首を突っ込んでくるな。
頭ごなしにダメと叱られる俺を、ティアンが微妙な目で見てくる。その顔には「また余計なことをしようとして」とわかりやすく書いてある。失礼だぞ。
「でも。ティアンも見たいって。大きい湖」
「僕そんなこと言っていませんけど?」
「ジャンも見たいよね? 前に泳ぎたいって言ってたもんね?」
「い、言っておりません」
控えめに否定したジャンは、すぐに「申し訳ございません」と頭を下げてくる。本当に申し訳ないと思っているのなら俺の味方をしろ。形だけの謝罪はいらん。
そうしてしばらく粘った俺だが、誰も味方にはなってくれなかった。酷すぎる。ちょっと湖見たいだけなのに。なんでこんなに大反対されなければならないのか。
だが諦めるという選択肢はもはやなかった。連日暇を持て余している俺である。幸い時間だけはたっぷりあった。
「よし。ブルース兄様と交渉しよう」
「無謀では?」
はなから諦めモードのティアンは、やる気がなくて困る。ブルース兄様だって一応は俺の兄だ。可愛い弟が一生懸命頼めば折れてくれるはず。「可愛い……?」と首を捻る失礼ティアンに構っている暇はなかった。
『なんだ。ブルースのところに行くのか? 僕も行く』
「よし! 行くぞ猫!」
なんだかんだ言って味方してくれる黒猫ユリスは偉い。あとで一緒におやつを食べよう。ちょっとだけなら分けてあげてもいい。
『ブルースがどれくらい怒るか見ものだな』
「わるにゃんこめ」
違った。全然俺の味方じゃなかった。ブルース兄様に怒られる俺が見たいだけのようだ。あとなんで俺が怒られるって決めつけてるの。ブルース兄様だってでっかい湖見たいに決まっている。快く賛成してくれるかもしれないじゃないか。
※※※
「ダメに決まっているだろ。ふざけたこと言ってないで勉強でもしてこい」
「ひどい兄だな」
偉そうに腕を組むブルース兄様は、まったく賛成してくれなかった。なぜに。
「でっかい湖だよ? 兄様も見たいでしょ?」
「見たくはない。勉強しろ」
勉強勉強うるさいブルース兄様は、とりつく島もなかった。
「嫌だ。湖見たい。遊びたい」
「湖でどうやって遊ぶんだ」
「泳ぐ」
「馬鹿」
シンプルに罵倒してきたブルース兄様は、俺の目をじっと見据えて再度「馬鹿」と罵ってきた。そんな念押しする必要あるか?
「あの湖は結構深かっただろ。泳ぐなんてダメに決まっている」
「でもオーガス兄様は泳いだって。潜ったって俺に自慢してきた」
「……なにやってんだ、あの人は」
盛大に頭を抱えた兄様は、「兄上の言うことは真に受けるな」と無茶を言う。ブルース兄様は、これまで俺にお母様、お父様、そしてオーガス兄様の話は聞き流せと言い聞かせている。俺は一体誰の話を真に受ければいいんだよ。周りにろくな大人がいないな。
やれやれと肩をすくめていれば、眉間に皺を寄せた兄様が再度「勉強でもしてろ」と言ってくる。だから勉強は嫌なんだって。
「いいでしょ? タイラーも連れて行くから。今は冬だから泳がないもん。ちょっと見るだけだから!」
「うるさい」
「猫触らせてあげるから!」
「いらん」
『勝手に僕を交渉に使うな』
お願い! と手を合わせるが、ブルース兄様に無視されてしまう。酷すぎる。
「見るだけならいいのでは? 騎士を同行させれば危険はないでしょう?」
「アロン……!」
なんていい人。
今までソファーからこちらを窺っていたアロンが、突然俺の味方をしてくれる。
「アロン、いい人。今までクソ野郎だと思っててごめんね」
「クソ野郎……」
苦い顔をしたアロンは、けれどもすぐにニコリと胡散臭い笑みを浮かべる。
「ユリス様のしつこさはブルース様もご存知でしょう」
「そうだ! そうだ! 俺はしつこいぞ」
アロンを応援しようと思って援護すれば、ティアンが「やめなさい」と注意してくる。
「このままでは本当に夜中にこっそり森に侵入しそうです。そうなった方が大変なのでは?」
「……」
無言でこちらを睨み付けてくるブルース兄様は、どうやら考え込んでいるようだった。
「ユリス様は夜中にお部屋を抜け出すのがお上手みたいなので。遭難でもされたらそれこそ厄介ですよ」
「まぁ、そうだな」
低く唸る兄様に、俺はわくわくと視線を送る。
『なんだ。つまらん奴だな。もうちょっと粘ってみろ』
黒猫ユリスがブルース兄様に文句を言っているが、当然ながら兄様には聞こえない。こいつは一体誰の味方なんだ。俺のペットなんだから俺の味方をしろ。
やがて、兄様が深くため息をついた。
「アロン。その時はおまえが責任持って面倒見ろよ」
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最後の最後に裏切ったアロンは、やっぱりクソ野郎だった。
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