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186 湖があるらしい
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「ところで、あの魔導書みたいなやつだけどさ。僕も読みたいからそろそろ貸してくれない?」
「……燃やした」
「は? はぁ!?」
急に大声を上げたオーガス兄様は、勢いよく立ち上がる。先程までみっともないと言われて落ち込んでいたのに、切り替えが早いな。
「な、なんで? 読み終わったら僕にも貸してくれるって約束だったよね? てか普通は読み終わっても燃やさないだろ。どういう神経してんだよ」
怖い、と呟くオーガス兄様は絶望していた。だが仕方がない。魔導書が見当たらないのは事実だし、本物ユリスが燃やしたと主張している。であれば俺としてもそれをそのままお伝えするだけだ。
どんまい、と執務机に突っ伏すオーガス兄様の頭をぽんぽん叩けば、タイラーが「ダメですよ」とティアンみたいなことを言い始める。
「なんすか、その魔導書って」
「ニックは知らないの?」
再度「知りません」、と否定するニックは、どうやら本当に魔導書の件を知らないらしい。正直に言えば俺もよく知らない。オーガス兄様がそういうものがあると言っているのを聞いただけで現物にお目にかかったことはない。
いまだに突っ伏すオーガス兄様の頭をペシッと勢いつけて叩けば、「やめて」と力ない声が返ってくる。
「その魔導書ってどこにあったの?」
「えぇ? 君、僕と一緒に取りに行っただろ。もう忘れたの?」
「うん。忘れた」
オーガス兄様は色々抜けているところがあるから、適当にうんうん頷いておけば会話が成立する。だから忘れた忘れたとうんうん頷いておけば、案の定、オーガス兄様はひくりと頬を引き攣らせた。
「あんだけ揉めたのに。もうなかったことにされている。いくらなんでも酷すぎる」
「どんまい、兄様」
「君のことだよ?」
はよ魔導書について教えろとせっつけば、オーガス兄様は「うーん」となぜかニックに視線を向ける。釣られて俺もそちらを向いた。
「……ニック」
「なんですか」
「えっと、そうだな。えー、なんかあの、あの仕事をやって来てくれないかな」
「あの仕事とは?」
「あの、ほら。なんかこういい感じの。えー、なんかうん」
びっくりするくらい口下手なオーガス兄様は、どうやらニックを部屋から追い出したいらしい。ニックには魔導書の件を教えていなかったみたいだし、どうやら彼に知られるとまずい類の話のようだ。にしても追い出し方が下手くそだ。
ニックも俺と同じ結論に至ったようで、呆れた表情をしている。「もうちょっと上手い嘘つけないんですか?」とまで言っている。全面的に、彼に同意である。
しかしニックはできた騎士である。主人の望みには概ね乗っかるタイプの騎士である。「なんか余計なことしましたね?」と口では言いつつも、タイラーとジャンを連れて廊下に出てくれる。さすがオーガス兄様の側近騎士をやっているだけある。あの下手くそな誤魔化しで誤魔化されてくれるなんて。いい人。
ふたりきりになった室内にて。
オーガス兄様が開口一番、「なんでニックの前でその話するのさ!」となんだか悲痛な叫びをあげた。だが先に魔導書の話を出してきたのはオーガス兄様だ。俺じゃない。
「入手経路はダメだって! 君も知ってるだろ」
「うんうん」
知らんが、とりあえず勢いよく頷いておく。
だが魔導書について、存在自体はニックに知られても構わないが、入手経路だけは知られたくはないらしい。兄様はずっと魔導書について買ったとは言わず、とってきたと表現していた。一体どんな手で入手したのか。犯罪行為的なものが一瞬だけちらりと脳裏をよぎるが、やったのはこの頼りない兄様である。多分しょぼい理由だと思う。
「で? どこでとってきたの」
「裏の森にある湖だろ。君が僕を潜らせたんじゃないか。忘れたとは言わせないぞ」
「湖」
泥棒じゃなかった。拾い物ってことか?
要するに、騎士棟裏にある広大な森。あそこには湖があるらしい。そしてそこに落ちていた魔導書を、オーガス兄様が潜って取りに行ったということらしい。ふーん。
それにしても巨大湖か。
行きたい。絶対見たい。オーガス兄様が潜れるくらいなら、泳ぐのにバッチリな広さだと思われる。
「その湖どこにあるの」
「森の奥でしょ。一緒に行ったじゃん」
だが湖で拾っただけならニックに隠す必要はない。オーガス兄様はなぜ頑なに隠しているのか。よくわからないまま「俺も行ってくる。湖。ティアンもお誘いする」と言えば、オーガス兄様が「ダメだよ」と反対してきた。
俺のお遊びに口出しするとは何事だ。もしかして兄様も仲間に入れろということか。考えてやらなくもないぞ。
「あの森は入っちゃダメって言われてるだろ。前回だって、騎士たちの目を盗んでふたりでこっそり行ったじゃん。もう忘れたの?」
「ほう」
そういえばアロンに言われたことがあったな。騎士棟裏の森は広過ぎて手入れが行き届いていないから入ったらダメだと。まさかそんな困難があるなんて。てことは湖とやらに行くためには、タイラーたちを撒かなければならないわけで。仮に撒けたとしても俺は湖の場所を知らない。話を聞く限り、相当広い森みたいだし、下手に踏み入れば遭難しそうである。
「じゃあ行けないじゃん、湖」
「そうだよ。諦めなよ」
諦めたくはない。だがオーガス兄様は協力してくれそうにない。なんてこった。
「……燃やした」
「は? はぁ!?」
急に大声を上げたオーガス兄様は、勢いよく立ち上がる。先程までみっともないと言われて落ち込んでいたのに、切り替えが早いな。
「な、なんで? 読み終わったら僕にも貸してくれるって約束だったよね? てか普通は読み終わっても燃やさないだろ。どういう神経してんだよ」
怖い、と呟くオーガス兄様は絶望していた。だが仕方がない。魔導書が見当たらないのは事実だし、本物ユリスが燃やしたと主張している。であれば俺としてもそれをそのままお伝えするだけだ。
どんまい、と執務机に突っ伏すオーガス兄様の頭をぽんぽん叩けば、タイラーが「ダメですよ」とティアンみたいなことを言い始める。
「なんすか、その魔導書って」
「ニックは知らないの?」
再度「知りません」、と否定するニックは、どうやら本当に魔導書の件を知らないらしい。正直に言えば俺もよく知らない。オーガス兄様がそういうものがあると言っているのを聞いただけで現物にお目にかかったことはない。
いまだに突っ伏すオーガス兄様の頭をペシッと勢いつけて叩けば、「やめて」と力ない声が返ってくる。
「その魔導書ってどこにあったの?」
「えぇ? 君、僕と一緒に取りに行っただろ。もう忘れたの?」
「うん。忘れた」
オーガス兄様は色々抜けているところがあるから、適当にうんうん頷いておけば会話が成立する。だから忘れた忘れたとうんうん頷いておけば、案の定、オーガス兄様はひくりと頬を引き攣らせた。
「あんだけ揉めたのに。もうなかったことにされている。いくらなんでも酷すぎる」
「どんまい、兄様」
「君のことだよ?」
はよ魔導書について教えろとせっつけば、オーガス兄様は「うーん」となぜかニックに視線を向ける。釣られて俺もそちらを向いた。
「……ニック」
「なんですか」
「えっと、そうだな。えー、なんかあの、あの仕事をやって来てくれないかな」
「あの仕事とは?」
「あの、ほら。なんかこういい感じの。えー、なんかうん」
びっくりするくらい口下手なオーガス兄様は、どうやらニックを部屋から追い出したいらしい。ニックには魔導書の件を教えていなかったみたいだし、どうやら彼に知られるとまずい類の話のようだ。にしても追い出し方が下手くそだ。
ニックも俺と同じ結論に至ったようで、呆れた表情をしている。「もうちょっと上手い嘘つけないんですか?」とまで言っている。全面的に、彼に同意である。
しかしニックはできた騎士である。主人の望みには概ね乗っかるタイプの騎士である。「なんか余計なことしましたね?」と口では言いつつも、タイラーとジャンを連れて廊下に出てくれる。さすがオーガス兄様の側近騎士をやっているだけある。あの下手くそな誤魔化しで誤魔化されてくれるなんて。いい人。
ふたりきりになった室内にて。
オーガス兄様が開口一番、「なんでニックの前でその話するのさ!」となんだか悲痛な叫びをあげた。だが先に魔導書の話を出してきたのはオーガス兄様だ。俺じゃない。
「入手経路はダメだって! 君も知ってるだろ」
「うんうん」
知らんが、とりあえず勢いよく頷いておく。
だが魔導書について、存在自体はニックに知られても構わないが、入手経路だけは知られたくはないらしい。兄様はずっと魔導書について買ったとは言わず、とってきたと表現していた。一体どんな手で入手したのか。犯罪行為的なものが一瞬だけちらりと脳裏をよぎるが、やったのはこの頼りない兄様である。多分しょぼい理由だと思う。
「で? どこでとってきたの」
「裏の森にある湖だろ。君が僕を潜らせたんじゃないか。忘れたとは言わせないぞ」
「湖」
泥棒じゃなかった。拾い物ってことか?
要するに、騎士棟裏にある広大な森。あそこには湖があるらしい。そしてそこに落ちていた魔導書を、オーガス兄様が潜って取りに行ったということらしい。ふーん。
それにしても巨大湖か。
行きたい。絶対見たい。オーガス兄様が潜れるくらいなら、泳ぐのにバッチリな広さだと思われる。
「その湖どこにあるの」
「森の奥でしょ。一緒に行ったじゃん」
だが湖で拾っただけならニックに隠す必要はない。オーガス兄様はなぜ頑なに隠しているのか。よくわからないまま「俺も行ってくる。湖。ティアンもお誘いする」と言えば、オーガス兄様が「ダメだよ」と反対してきた。
俺のお遊びに口出しするとは何事だ。もしかして兄様も仲間に入れろということか。考えてやらなくもないぞ。
「あの森は入っちゃダメって言われてるだろ。前回だって、騎士たちの目を盗んでふたりでこっそり行ったじゃん。もう忘れたの?」
「ほう」
そういえばアロンに言われたことがあったな。騎士棟裏の森は広過ぎて手入れが行き届いていないから入ったらダメだと。まさかそんな困難があるなんて。てことは湖とやらに行くためには、タイラーたちを撒かなければならないわけで。仮に撒けたとしても俺は湖の場所を知らない。話を聞く限り、相当広い森みたいだし、下手に踏み入れば遭難しそうである。
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