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185 あわれな兄
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「オーガス兄様と喧嘩してるの? ダメだよ、仲良くしないと」
「喧嘩はしていない。いつも通りだろう。くだらないこと言っていないで勉強でもしたらどうなんだ」
腕を組んで偉そうに鼻を鳴らすブルース兄様は不機嫌だった。だがブルース兄様の不機嫌はいつものことだ。あまり気にしない方がいい。
「オーガス兄様が落ち込んでたよ。ブルース兄様がなんか怒ってるって。憐れだから仲良くしてあげてね」
「あの人は本当に……!」
言葉を失ったブルース兄様は、オーガス兄様相手に静かにキレていた。「ユリスの前でなにしてんだ」となんだかブチ切れていらっしゃる。
オーガス兄様とブルース兄様を仲直りさせるつもりだったのだが、逆効果だったかもしれない。
なんか兄様の眉間に深い皺が刻まれている。
「オーガス兄様ってキャンベルと結婚するの?」
あのふたりは気弱同士で相性バッチリだと思う。しかしブルース兄様は浮かない表情だ。おそらく身分がどうとか難しいことを考えているに違いなかった。
でもエリックは別にいいと言っていたけどな。なんか身分関係なく相手を選べば民が好意的に受け止めるとかなんとか。
「子供が首を突っ込む話ではない」
せっかく相談に乗ってやろうと考えていたのに、ブルース兄様は素っ気ない。
そのまま部屋を追い出された俺は、タイラーとジャンを引き連れて廊下を歩く。ティアンは午後にならないとやって来ない。遊び相手が不足していた。
「タイラー、なにして遊ぶ?」
「お勉強しましょうね」
「嫌に決まってる」
最悪の提案をしてくるタイラーは役に立たない。暇であれば勉強するって話ではないのだ。暇で暇で仕方がなくても、勉強はしたくないのだ。そこら辺をきっちり理解してもらわないと困る。
「マーティーが来たら、噴水を見せてあげる。あとロニーも紹介する」
「はぁ」
前回、王宮を訪れた時にはお供がタイラーとジャンだけだった。素敵な長髪男子くんをまだマーティーに紹介できていないのだ。
「あと猫をちょっとだけ見せてあげる。マーティーが猫にいじめられたら大変だから、ちょっとだけね」
「いけませんよ、ユリス様。そうやってマーティー様を子供扱いしてはいけません」
タイラーが横から苦言を呈してくるが、別に子供扱いしているわけではない。なんせあの黒猫は本物ユリスなのだ。正真正銘のいじめっ子である。先日もわざと暴れてマーティーをビビらせていた。
「ジャン。マーティーが来たらあの猫ちゃんと見張っててね」
「はい」
小さく頷いたジャンにお任せしておけば、とりあえずは大丈夫だろう。ジャンは最近、黒猫の扱い方が上手くなった気がする。ずっと抱っこ係だったからな。
だがブルース兄様いわく、マーティーが遊びに来るのはまだ先になりそうである。おもてなし準備の時間はいっぱいある。
そうしておおよその計画を立てた俺は、再び暇になる。だが暇な素振りを見せると、タイラーが勉強しろとうるさい。俺は暇であることを表に出さないよう細心の注意を払う必要があった。
廊下を歩いて自室の前まで戻ってきた。だが部屋の中でやることは特にない。暇がタイラーにバレてしまう。危惧した俺は、くるりと向きを変えた。「ユリス様?」とタイラーが怪訝な声を発するが、無視をした。そのまま来た道を戻る。
二階に上がって、向かったのはオーガス兄様の部屋だ。
「お邪魔しまーす」
タイラーに言われてノックをしてからドアを開ける。すかさずニックが寄ってくる。
「なんの用ですか、ユリス様」
「ニック。オーガス兄様とお話しに来た」
ちらりと室内を見やったニックは、やがて「どうぞ」と通してくれる。
「オーガス兄様! ブルース兄様怒ってたよ!」
「マジで⁉︎ やっぱりなぁ」
あぁ! と天を仰ぐオーガス兄様は顔を覆う。
「……ちなみにブルースはなんだって?」
「ユリスの前でなにしてんだってキレてた」
「? 僕、君の前でなにかしたっけ?」
「さぁ?」
首を捻りまくるオーガス兄様を見かねたのか。ニックが遠慮がちに声をかけてくる。
「おそらく、ユリス様の前でみっともない姿を見せたことにお怒りなのでは?」
「ニック。オーガス兄様はいつもみっともないよ」
ひどい、と俺を恨めしい目で見つめてくるオーガス兄様。だがオーガス兄様がみっともないのは事実だ。俺はまだ、かっこいいオーガス兄様を見たことがない。いつも泣き喚いている。
「……オーガス兄様ってマーティーに似てるね」
「あぁ。髪色とかだろ。僕はお父様似だから」
「違う。見た目じゃなくて性格。マーティーもすぐ泣く。オーガス兄様もすぐ泣く。そっくりだね」
「それ僕の精神年齢が十歳児だって言いたいの?」
半眼になるオーガス兄様だが、残念ながら味方はいなかった。
「オーガス兄様あわれ」
「だから。憐れまないでって」
「喧嘩はしていない。いつも通りだろう。くだらないこと言っていないで勉強でもしたらどうなんだ」
腕を組んで偉そうに鼻を鳴らすブルース兄様は不機嫌だった。だがブルース兄様の不機嫌はいつものことだ。あまり気にしない方がいい。
「オーガス兄様が落ち込んでたよ。ブルース兄様がなんか怒ってるって。憐れだから仲良くしてあげてね」
「あの人は本当に……!」
言葉を失ったブルース兄様は、オーガス兄様相手に静かにキレていた。「ユリスの前でなにしてんだ」となんだかブチ切れていらっしゃる。
オーガス兄様とブルース兄様を仲直りさせるつもりだったのだが、逆効果だったかもしれない。
なんか兄様の眉間に深い皺が刻まれている。
「オーガス兄様ってキャンベルと結婚するの?」
あのふたりは気弱同士で相性バッチリだと思う。しかしブルース兄様は浮かない表情だ。おそらく身分がどうとか難しいことを考えているに違いなかった。
でもエリックは別にいいと言っていたけどな。なんか身分関係なく相手を選べば民が好意的に受け止めるとかなんとか。
「子供が首を突っ込む話ではない」
せっかく相談に乗ってやろうと考えていたのに、ブルース兄様は素っ気ない。
そのまま部屋を追い出された俺は、タイラーとジャンを引き連れて廊下を歩く。ティアンは午後にならないとやって来ない。遊び相手が不足していた。
「タイラー、なにして遊ぶ?」
「お勉強しましょうね」
「嫌に決まってる」
最悪の提案をしてくるタイラーは役に立たない。暇であれば勉強するって話ではないのだ。暇で暇で仕方がなくても、勉強はしたくないのだ。そこら辺をきっちり理解してもらわないと困る。
「マーティーが来たら、噴水を見せてあげる。あとロニーも紹介する」
「はぁ」
前回、王宮を訪れた時にはお供がタイラーとジャンだけだった。素敵な長髪男子くんをまだマーティーに紹介できていないのだ。
「あと猫をちょっとだけ見せてあげる。マーティーが猫にいじめられたら大変だから、ちょっとだけね」
「いけませんよ、ユリス様。そうやってマーティー様を子供扱いしてはいけません」
タイラーが横から苦言を呈してくるが、別に子供扱いしているわけではない。なんせあの黒猫は本物ユリスなのだ。正真正銘のいじめっ子である。先日もわざと暴れてマーティーをビビらせていた。
「ジャン。マーティーが来たらあの猫ちゃんと見張っててね」
「はい」
小さく頷いたジャンにお任せしておけば、とりあえずは大丈夫だろう。ジャンは最近、黒猫の扱い方が上手くなった気がする。ずっと抱っこ係だったからな。
だがブルース兄様いわく、マーティーが遊びに来るのはまだ先になりそうである。おもてなし準備の時間はいっぱいある。
そうしておおよその計画を立てた俺は、再び暇になる。だが暇な素振りを見せると、タイラーが勉強しろとうるさい。俺は暇であることを表に出さないよう細心の注意を払う必要があった。
廊下を歩いて自室の前まで戻ってきた。だが部屋の中でやることは特にない。暇がタイラーにバレてしまう。危惧した俺は、くるりと向きを変えた。「ユリス様?」とタイラーが怪訝な声を発するが、無視をした。そのまま来た道を戻る。
二階に上がって、向かったのはオーガス兄様の部屋だ。
「お邪魔しまーす」
タイラーに言われてノックをしてからドアを開ける。すかさずニックが寄ってくる。
「なんの用ですか、ユリス様」
「ニック。オーガス兄様とお話しに来た」
ちらりと室内を見やったニックは、やがて「どうぞ」と通してくれる。
「オーガス兄様! ブルース兄様怒ってたよ!」
「マジで⁉︎ やっぱりなぁ」
あぁ! と天を仰ぐオーガス兄様は顔を覆う。
「……ちなみにブルースはなんだって?」
「ユリスの前でなにしてんだってキレてた」
「? 僕、君の前でなにかしたっけ?」
「さぁ?」
首を捻りまくるオーガス兄様を見かねたのか。ニックが遠慮がちに声をかけてくる。
「おそらく、ユリス様の前でみっともない姿を見せたことにお怒りなのでは?」
「ニック。オーガス兄様はいつもみっともないよ」
ひどい、と俺を恨めしい目で見つめてくるオーガス兄様。だがオーガス兄様がみっともないのは事実だ。俺はまだ、かっこいいオーガス兄様を見たことがない。いつも泣き喚いている。
「……オーガス兄様ってマーティーに似てるね」
「あぁ。髪色とかだろ。僕はお父様似だから」
「違う。見た目じゃなくて性格。マーティーもすぐ泣く。オーガス兄様もすぐ泣く。そっくりだね」
「それ僕の精神年齢が十歳児だって言いたいの?」
半眼になるオーガス兄様だが、残念ながら味方はいなかった。
「オーガス兄様あわれ」
「だから。憐れまないでって」
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