176 / 660
166 打ち負かしてやれ
しおりを挟む
「やあ! ユリス」
「来たな。デニス」
「だからデニーって呼んでよ」
「来たな。デニー」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは、今日も顔だけは可愛かった。昨日と同じくジャンとタイラー。そしてティアンもいる。どうやら俺とデニスのことが気になるらしく、最近ティアンがずっと俺の側にいる。
ちなみにアロンはいない。先程まで一緒だったのだが、仕事をサボっていることがブルース兄様にバレて連行されていった。やっぱりサボりだったか。
『今日こそはこいつを打ち負かしてやれ!』
鼻息荒い黒猫ユリスが足元でうろうろしている。言われなくともそのつもりである。お供を引き連れて来たデニスは、俺ににこっと微笑んで手を取ってくる。
「ねぇ、今日はさ」
「庭で遊ぶ!」
先回りして要望を伝えれば、デニスがちょっと眉を寄せる。
「寒いよ」
「大丈夫」
「僕が大丈夫じゃないんだよ」
そう言って屋敷内に入ろうとしてしまう。負けてたまるか! 踏ん張って阻止すれば、デニスが「そんなに外で遊びたいの?」と呆れ顔をする。遊びたいに決まっている。
「じゃあ訊くけど、デニスは部屋の中でなにして遊ぶつもりなの」
「お喋りしようよ」
断固拒否!
なにが楽しいのだ。俺はまったく楽しくないぞ。嫌だと声を張り上げれば、デニスが肩をすくめる。
「じゃあユリスはなにがしたいの?」
「噴水見に行く」
「それこそなにが面白いのかわからない」
なんだと?
つくづく趣味が合わない。俺は昨日デニスに合わせてやったんだから、今日はデニスが俺に合わせるべきだ。そうしないと不公平だ、と地団駄を踏めば、デニスのお供である男性が「デニス様」と控えめに声を発する。三十代くらいのピシッとした男だ。綺麗に髪を撫で付けて、細身の敏腕執事って感じの見た目だ。
「なに」
「あまり我儘を言うものではありませんよ」
お? なにやら敏腕執事が俺の味方を始めた。いいぞ、その調子だ。「そうだ! そうだ!」と拳を上げて同調すれば「やめなさい」とティアンに怒られてしまった。
小さく舌打ちをしたデニスは「はーい」とわざとらしい返事をしている。しかしこれはチャンスである。
大人しくなったデニス相手に再度「外で遊ぶ」とお伝えすれば、明らかに嫌な顔をするが直接の文句は言ってこない。ただただ俺を静かに睨み付けている。
『あの使用人つかえるな。褒めてやってもいいぞ』
黒猫が偉そうなことを言っている。概ね同意である。
「ユリス様」
そうして静かにデニスと睨み合いを繰り広げていた時である。ティアンが俺の袖を引いた。
「温室で遊んではいかがですか? あそこなら外よりは暖かいですよ」
「いいね、それ! じゃあ温室に行こうか、ユリス」
なぜか俺よりも食いついたデニスは、早く案内しろと俺を顎でこき使おうとしてくる。だが部屋でお喋りよりはマシである。仕方がない。俺が折れてやろう。
※※※
「ここが温室。たまに猫が寝ている」
「暖かいもんね」
黒猫ユリスをもふもふしてからデニスが満足そうに頷いた。
「ところでこの猫、なんて名前なの?」
「猫」
「……飼ってるんだよね?」
「そうだよ。俺の猫」
なんだか変な顔をしたデニス。「名前くらいつけてあげなよ」と再び黒猫ユリスをもふもふしている。
「猫ちゃん、お名前なくて可哀想だね? ユリス意地悪だね?」
『気安く触るな! ガキ!』
なにやら楽しそうに黒猫ユリスへと語りかけているが、すごい悪口言われてる。
「僕が飼ってあげようか?」
『ふざけるな! 誰がおまえみたいな性悪についていくか!』
「すごく鳴いてるね。僕に飼ってほしいみたいだよ」
んなこと言ってないよ。すごいデニスの悪口言ってるよ、その猫。
「僕が貰ってあげる」
「ダメ! 絶対!」
いきなりなにを言い出すのだ、このお子様。信じられない。慌てて黒猫ユリスを抱きかかえてデニスにとられないよう守ってやる。
じりじりと後退れば、デニスが不満そうな顔をする。
「ケチだね」
「近づくな! 猫泥棒め!」
もう我慢できない。なんだこのお子様。
庭遊びは拒否するわ、猫奪おうとするわ。やりたい放題じゃないか。もう耐えられない。俺の中でなにかが爆発した瞬間である。たまっていた苛立ちが一気に爆ぜた。
「ストレス!」
「は? なに急に」
「ストレス! ストレス! ストレス‼︎」
ありったけの大声で叫んでやれば、デニスが怪訝な顔で耳を塞ぐ。「あぁ、ついに我慢の限界が」とティアンがあわあわしている。タイラーとジャンも困惑顔である。
「ものすごくストレス! もうデニスと遊ばない!」
ビシッと指を突き付けてやれば、タイラーが間に割って入ってくる。「落ち着きましょう、ユリス様」と背中を撫でられるが、それくらいでおさまるストレス量ではない。
「もう遊んであげない!」
勢いそのままに駆け出して温室を飛び出してやる。『いいぞ! やれやれ!』と黒猫ユリスが鼻息荒く応援してくる。
「ちょっと! ユリス様!」
俺とデニスの間で、ティアンたちがオロオロしているが知らない。もう俺はデニスと遊んでやらないと決めたのだ。
「来たな。デニス」
「だからデニーって呼んでよ」
「来たな。デニー」
翌日。
宣言通りにやって来たデニスは、今日も顔だけは可愛かった。昨日と同じくジャンとタイラー。そしてティアンもいる。どうやら俺とデニスのことが気になるらしく、最近ティアンがずっと俺の側にいる。
ちなみにアロンはいない。先程まで一緒だったのだが、仕事をサボっていることがブルース兄様にバレて連行されていった。やっぱりサボりだったか。
『今日こそはこいつを打ち負かしてやれ!』
鼻息荒い黒猫ユリスが足元でうろうろしている。言われなくともそのつもりである。お供を引き連れて来たデニスは、俺ににこっと微笑んで手を取ってくる。
「ねぇ、今日はさ」
「庭で遊ぶ!」
先回りして要望を伝えれば、デニスがちょっと眉を寄せる。
「寒いよ」
「大丈夫」
「僕が大丈夫じゃないんだよ」
そう言って屋敷内に入ろうとしてしまう。負けてたまるか! 踏ん張って阻止すれば、デニスが「そんなに外で遊びたいの?」と呆れ顔をする。遊びたいに決まっている。
「じゃあ訊くけど、デニスは部屋の中でなにして遊ぶつもりなの」
「お喋りしようよ」
断固拒否!
なにが楽しいのだ。俺はまったく楽しくないぞ。嫌だと声を張り上げれば、デニスが肩をすくめる。
「じゃあユリスはなにがしたいの?」
「噴水見に行く」
「それこそなにが面白いのかわからない」
なんだと?
つくづく趣味が合わない。俺は昨日デニスに合わせてやったんだから、今日はデニスが俺に合わせるべきだ。そうしないと不公平だ、と地団駄を踏めば、デニスのお供である男性が「デニス様」と控えめに声を発する。三十代くらいのピシッとした男だ。綺麗に髪を撫で付けて、細身の敏腕執事って感じの見た目だ。
「なに」
「あまり我儘を言うものではありませんよ」
お? なにやら敏腕執事が俺の味方を始めた。いいぞ、その調子だ。「そうだ! そうだ!」と拳を上げて同調すれば「やめなさい」とティアンに怒られてしまった。
小さく舌打ちをしたデニスは「はーい」とわざとらしい返事をしている。しかしこれはチャンスである。
大人しくなったデニス相手に再度「外で遊ぶ」とお伝えすれば、明らかに嫌な顔をするが直接の文句は言ってこない。ただただ俺を静かに睨み付けている。
『あの使用人つかえるな。褒めてやってもいいぞ』
黒猫が偉そうなことを言っている。概ね同意である。
「ユリス様」
そうして静かにデニスと睨み合いを繰り広げていた時である。ティアンが俺の袖を引いた。
「温室で遊んではいかがですか? あそこなら外よりは暖かいですよ」
「いいね、それ! じゃあ温室に行こうか、ユリス」
なぜか俺よりも食いついたデニスは、早く案内しろと俺を顎でこき使おうとしてくる。だが部屋でお喋りよりはマシである。仕方がない。俺が折れてやろう。
※※※
「ここが温室。たまに猫が寝ている」
「暖かいもんね」
黒猫ユリスをもふもふしてからデニスが満足そうに頷いた。
「ところでこの猫、なんて名前なの?」
「猫」
「……飼ってるんだよね?」
「そうだよ。俺の猫」
なんだか変な顔をしたデニス。「名前くらいつけてあげなよ」と再び黒猫ユリスをもふもふしている。
「猫ちゃん、お名前なくて可哀想だね? ユリス意地悪だね?」
『気安く触るな! ガキ!』
なにやら楽しそうに黒猫ユリスへと語りかけているが、すごい悪口言われてる。
「僕が飼ってあげようか?」
『ふざけるな! 誰がおまえみたいな性悪についていくか!』
「すごく鳴いてるね。僕に飼ってほしいみたいだよ」
んなこと言ってないよ。すごいデニスの悪口言ってるよ、その猫。
「僕が貰ってあげる」
「ダメ! 絶対!」
いきなりなにを言い出すのだ、このお子様。信じられない。慌てて黒猫ユリスを抱きかかえてデニスにとられないよう守ってやる。
じりじりと後退れば、デニスが不満そうな顔をする。
「ケチだね」
「近づくな! 猫泥棒め!」
もう我慢できない。なんだこのお子様。
庭遊びは拒否するわ、猫奪おうとするわ。やりたい放題じゃないか。もう耐えられない。俺の中でなにかが爆発した瞬間である。たまっていた苛立ちが一気に爆ぜた。
「ストレス!」
「は? なに急に」
「ストレス! ストレス! ストレス‼︎」
ありったけの大声で叫んでやれば、デニスが怪訝な顔で耳を塞ぐ。「あぁ、ついに我慢の限界が」とティアンがあわあわしている。タイラーとジャンも困惑顔である。
「ものすごくストレス! もうデニスと遊ばない!」
ビシッと指を突き付けてやれば、タイラーが間に割って入ってくる。「落ち着きましょう、ユリス様」と背中を撫でられるが、それくらいでおさまるストレス量ではない。
「もう遊んであげない!」
勢いそのままに駆け出して温室を飛び出してやる。『いいぞ! やれやれ!』と黒猫ユリスが鼻息荒く応援してくる。
「ちょっと! ユリス様!」
俺とデニスの間で、ティアンたちがオロオロしているが知らない。もう俺はデニスと遊んでやらないと決めたのだ。
423
お気に入りに追加
3,169
あなたにおすすめの小説

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる