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165 真剣交際です
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また明日も来るね、とにこやかに手を振ったデニスを玄関先で見送って、俺はどっと疲れてしまった。もう来なくていい。
「……疲れた」
ぼそっと呟けば「二股なんてかけるからですよ」とアロンが嫌味を言ってくる。二股かけた覚えなんてないけどな。てかアロンは仕事どうしたの? サボりですか? ブルース兄様に怒られるよ。
「なんというか、ユリス様にしてはよく我慢しましたよね」
お疲れ様でした、と労ってくるティアンは、どうやら俺が早々にデニス相手にキレ散らかすと思っていたらしい。俺は大人なので。大人の対応をしたまでだ。だが褒められて悪い気はしない。
早速本日の成果を報告しようとブルース兄様の部屋に向かう。だが、まだ恋人ができた件をオーガス兄様に報告していないことを思い出して行き先を変更する。
「オーガス兄様!」
部屋に突入すれば「ノックをしてください」とニックが苦言を呈してくる。
「ニックも聞いて」
「なんですか?」
オーガス兄様とニック。ふたりが俺に注目していることを確認し、仁王立ちで口を開いた。
「大事なお知らせがある」
「あ、うん。ブルースに聞いたよ。デニスと」
「俺が言うの!」
「ご、ごめん」
なぜか俺より先に口走りそうになっているオーガス兄様を慌てて制止する。
「真剣に聞いて」
「う、うん。もう聞いたけどね」
ぐちぐちと文句を言うオーガス兄様を静かにさせるのに思いのほか苦労してしまった。
「恋人ができてしまった」
「おめでとう」
さらりと返したオーガス兄様。おかしい。もっと取り乱すと思っていたのに。
「泣かないの?」
「え? あ、僕が? なんで?」
本気で首を傾げるオーガス兄様は、どうやら先日の一件を忘れたらしい。ブルース兄様が先に結婚するのは許せないと泣き喚いていただろうが。
「俺に先越されて悲しくないの?」
「いや別に」
「ブルース兄様の時はキレてたじゃん」
「それとは違うくない? そんな子供のお遊びにいちいちキレるわけないだろう」
子供のお遊び?
「遊びではない。真剣交際」
すかさず訂正すれば、オーガス兄様は「そうなの?」と適当にあしらってくる。信じてないな、これ。俺とデニスはただの恋人ではない。結婚の約束をした婚約者なのだ。真剣そのもののお付き合いをしている。今はお試し期間だけど。
「ニックは? 俺に恋人できて羨ましいか?」
「え? あー、そうですね。はい、とても羨ましいです」
なにやら棒読みな気もするがいいだろう。ふふんっと胸を張れば、アロンが「二股はダメですよ」と余計な口を挟んでくる。だから二股ってなに? 覚えがありません。
アロンの発言をまるっと無視したオーガス兄様は「デニス、今日も来たんだろう? なにして遊んだの?」と問いかけてくる。なんだかんだ言って恋人の存在が羨ましいのだろう。ここは恋愛経験豊富な先輩として教えてやろうじゃないか。
「今日は、えっと。特になにもしてない」
「そんなことある? 部屋で遊んだの?」
「部屋にいたけど。なにもしてない。あ、お菓子は食べた」
「そうなんだ」
よくわからないと首を振るオーガス兄様に、ティアンが「お喋りしたんですよ。ユリス様はつまらないと言っていましたが」と補足している。
「つまんなかったの?」
「ものすごくね」
俺のお誘いを全部断ってきたのだ。おかげで今日は庭遊びできていない。噴水も見ていないし、泥遊びもしていないし、猫探しもしていない。ただただソファーに沈んでお菓子を食べただけだ。
いかにデニスの相手が大変だったか語ってやれば、オーガス兄様とニックが微妙な顔をした。
「一緒にいて楽しくないの? 一応恋人なのに?」
「そうだけど。もしかして倦怠期かな?」
「お付き合い始めた翌日に倦怠期は流石に早すぎるよ? それって単に性格が合っていないんじゃないかな」
困ったようにアドバイスをよこしてくるオーガス兄様。
ふむ。そうかもしれない。
デニスはなんかお坊ちゃんって感じがする。お上品でなんか合わない。
「……明日も来るって言ってた。どうしよう」
本日の苦労を思い出して肩を落とす俺。またあの我儘なお子様の相手をしないといけないなんて。
「憂うつだ」
「そんなに大変だったの?」
うんうん頷けば、オーガス兄様が「無理はしないでね」と俺を心配してくれる。
「明日ってカル先生来ないよね? なんでこんな時に限って。勉強するからって言ってデニスと遊ぶのお断りできないかな」
こんなにもカル先生が来ない日を恨んだことはない。ぼそっと呟いた俺であったが、それを聞いたみんなが目を見開いた。
「ユリス様が勉強するって言うなんて! そんなに嫌なんですか? デニス様とお会いするの」
信じられないと口元を押さえるティアン。タイラーとニックも驚愕しているのがわかる。
「そんなに嫌ならお付き合いするのやめたら?」
オーガス兄様が提案してくるが、それができるのならとっくにやっている。
「デニスはね、すごく強引なの。しつこいの。だからお手上げ状態」
「ユリスにそこまで言わせるって相当だね」
オーガス兄様が、ひくりと頬を引き攣らせた。
「……疲れた」
ぼそっと呟けば「二股なんてかけるからですよ」とアロンが嫌味を言ってくる。二股かけた覚えなんてないけどな。てかアロンは仕事どうしたの? サボりですか? ブルース兄様に怒られるよ。
「なんというか、ユリス様にしてはよく我慢しましたよね」
お疲れ様でした、と労ってくるティアンは、どうやら俺が早々にデニス相手にキレ散らかすと思っていたらしい。俺は大人なので。大人の対応をしたまでだ。だが褒められて悪い気はしない。
早速本日の成果を報告しようとブルース兄様の部屋に向かう。だが、まだ恋人ができた件をオーガス兄様に報告していないことを思い出して行き先を変更する。
「オーガス兄様!」
部屋に突入すれば「ノックをしてください」とニックが苦言を呈してくる。
「ニックも聞いて」
「なんですか?」
オーガス兄様とニック。ふたりが俺に注目していることを確認し、仁王立ちで口を開いた。
「大事なお知らせがある」
「あ、うん。ブルースに聞いたよ。デニスと」
「俺が言うの!」
「ご、ごめん」
なぜか俺より先に口走りそうになっているオーガス兄様を慌てて制止する。
「真剣に聞いて」
「う、うん。もう聞いたけどね」
ぐちぐちと文句を言うオーガス兄様を静かにさせるのに思いのほか苦労してしまった。
「恋人ができてしまった」
「おめでとう」
さらりと返したオーガス兄様。おかしい。もっと取り乱すと思っていたのに。
「泣かないの?」
「え? あ、僕が? なんで?」
本気で首を傾げるオーガス兄様は、どうやら先日の一件を忘れたらしい。ブルース兄様が先に結婚するのは許せないと泣き喚いていただろうが。
「俺に先越されて悲しくないの?」
「いや別に」
「ブルース兄様の時はキレてたじゃん」
「それとは違うくない? そんな子供のお遊びにいちいちキレるわけないだろう」
子供のお遊び?
「遊びではない。真剣交際」
すかさず訂正すれば、オーガス兄様は「そうなの?」と適当にあしらってくる。信じてないな、これ。俺とデニスはただの恋人ではない。結婚の約束をした婚約者なのだ。真剣そのもののお付き合いをしている。今はお試し期間だけど。
「ニックは? 俺に恋人できて羨ましいか?」
「え? あー、そうですね。はい、とても羨ましいです」
なにやら棒読みな気もするがいいだろう。ふふんっと胸を張れば、アロンが「二股はダメですよ」と余計な口を挟んでくる。だから二股ってなに? 覚えがありません。
アロンの発言をまるっと無視したオーガス兄様は「デニス、今日も来たんだろう? なにして遊んだの?」と問いかけてくる。なんだかんだ言って恋人の存在が羨ましいのだろう。ここは恋愛経験豊富な先輩として教えてやろうじゃないか。
「今日は、えっと。特になにもしてない」
「そんなことある? 部屋で遊んだの?」
「部屋にいたけど。なにもしてない。あ、お菓子は食べた」
「そうなんだ」
よくわからないと首を振るオーガス兄様に、ティアンが「お喋りしたんですよ。ユリス様はつまらないと言っていましたが」と補足している。
「つまんなかったの?」
「ものすごくね」
俺のお誘いを全部断ってきたのだ。おかげで今日は庭遊びできていない。噴水も見ていないし、泥遊びもしていないし、猫探しもしていない。ただただソファーに沈んでお菓子を食べただけだ。
いかにデニスの相手が大変だったか語ってやれば、オーガス兄様とニックが微妙な顔をした。
「一緒にいて楽しくないの? 一応恋人なのに?」
「そうだけど。もしかして倦怠期かな?」
「お付き合い始めた翌日に倦怠期は流石に早すぎるよ? それって単に性格が合っていないんじゃないかな」
困ったようにアドバイスをよこしてくるオーガス兄様。
ふむ。そうかもしれない。
デニスはなんかお坊ちゃんって感じがする。お上品でなんか合わない。
「……明日も来るって言ってた。どうしよう」
本日の苦労を思い出して肩を落とす俺。またあの我儘なお子様の相手をしないといけないなんて。
「憂うつだ」
「そんなに大変だったの?」
うんうん頷けば、オーガス兄様が「無理はしないでね」と俺を心配してくれる。
「明日ってカル先生来ないよね? なんでこんな時に限って。勉強するからって言ってデニスと遊ぶのお断りできないかな」
こんなにもカル先生が来ない日を恨んだことはない。ぼそっと呟いた俺であったが、それを聞いたみんなが目を見開いた。
「ユリス様が勉強するって言うなんて! そんなに嫌なんですか? デニス様とお会いするの」
信じられないと口元を押さえるティアン。タイラーとニックも驚愕しているのがわかる。
「そんなに嫌ならお付き合いするのやめたら?」
オーガス兄様が提案してくるが、それができるのならとっくにやっている。
「デニスはね、すごく強引なの。しつこいの。だからお手上げ状態」
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