83 / 930
連載
153 とっておき(sideアロン)
しおりを挟む
「おい、なにをしている」
「ブルース様」
オーガス様の部屋の前にて。
困ったように立ち尽くすティアンがこちらを振り向いた。隣ではジャンも頼りなさげに肩を落としている。もっぱらユリス様の側に控えているふたりであるが、どう考えてもジャンよりティアンの方がしっかりしている。まぁ、ジャンはもともと騎士志望だったのをブルース様が無理矢理ユリス様の従者に据えたのだ。しかもヴィアン家にやって来てすぐの出来事である。ろくに従者としての教育も受けていない。仕方のないことだろう。
腕を組んでじっと押し黙っているタイラーは、どうしたものかと思案しているらしい。ユリス様を回収したいが、オーガス様に迷惑はかけられないとその顔に書いてある。
「ユリスは中か?」
「はい。鍵をかけられてしまって」
ドアに視線を向けるティアンは困惑顔である。ユリス様の突拍子のない行動はいつものことだが今回もなかなかだ。オーガス様まで巻き込むとは。さしずめオーガス様を人質にした立てこもり事件といったところか。非常によろしいと思う。こういう事件は大好物だ。
「兄上」
ブルース様が声をかけるが、たいした反応はない。それに苛立ったブルース様の足が出た。勢いよくドアを蹴り上げた主人に肩をすくめる。
なにやら部屋の中が騒がしくなる。
「合鍵で開ければよろしいのでは?」
この場を打開するための提案をしてみるが、ブルース様が苦い顔をする。
「合鍵は兄上が持っている」
「なんのための合鍵ですか」
オーガス様はちょっととぼけたところがある。ブルース様がいつも苦労している。
「では中からオーガス様に開けてもらえばいいのでは?」
「兄上にそんな度胸があるわけないだろ」
こりゃダメだな。ユリス様本人に開けていただくしかない。とりあえず抱えていた黒猫をジャンに持たせる。軽くノックして「ユリス様?」と呼びかけてみるが反応がない。
「……ユリス様? ブルース様が隠し持ってる美味しいお菓子あげますよ」
「勝手にあげるな」
ブルース様の苦言に耳を傾けている暇はない。しばらくして部屋の中から「お菓子だけ持って来い!」との指示があった。どうやら意地でもドアを開けないつもりらしい。
「ブルース様。立てこもり犯がお菓子を要求してますよ」
「無視しろ」
酷い対応である。
「犯人が逆上してオーガス様に危害を加えたらどうしますよ」
「おまえなんでそんなノリノリなんだ」
楽しいからに決まっている。正直、これくらいのドアさっさと蹴破ってユリス様を確保するなんて容易い。だが弟に振り回されるブルース様を見守るのは楽しい。すごく楽しい。最近ではユリス様に振り回されるブルース様を見たいがために出勤していると言っても過言ではない。
「許してあげればいいじゃないですか」
「は?」
「要するにブルース様に叱られるのが嫌で立てこもっているわけでしょ? だったら怒らないって約束すれば出てくるのでは?」
「おまえはあの所業を赦せるのか?」
「タイラー相手だったらまぁ、仕方がないかなとは」
「なんでだよ」
タイラーはちょっとな。悪いがこっちも思うところがある。あの野郎、俺がユリス様に頼まれてちょっと態度を改めろと注意をしに行ったところ、俺の日頃の行いについてネチネチ文句を言いやがった。
「このまま黙って出てくるのを待つおつもりですか? ユリス様の妙な頑固さはブルース様もご存知でしょう」
「そりゃそうだが」
決して信念を曲げないユリス様のことである。おそらくブルース様が折れるまで出て来ないだろう。ユリス様の妙な頑固さに毎度苦労していることを思い出したらしいブルース様は天を仰ぐ。
「どうにかしてくれ、アロン」
「どうにかって言われましても」
タイラーもティアンも黙り込んだまま役に立ちそうにない。ジャンに至っては黒猫を抱えて少し離れている。
仕方がない。ここは俺がひと肌脱ごう。
「これはとっておきなんですが」
「なんだ」
「ブルース様のためなら仕方ないですね。使いますか」
「なんだその恩着せがましい態度は」
大きくため息をついて首を振る。まったく俺がいないとどうにもならないとは嘆かわしい。
「ようはオーガス様に開けていただければ良いんですよ」
「だから兄上にそんな度胸あるわけないだろ。いまだにユリス相手に遠慮してんだぞ」
あるんだな、これが。オーガス様がユリス様を気にせずドアを開け放ってくれるとっておきが。
軽くドアをノックする。中がしんと静まり返るのを確認してから、俺がとっておきを披露してやる。
「オーガス様。俺、キャンベル嬢と結婚します」
「はぁ⁉︎」
すごい勢いでドアが開いた。ユリス様が「裏切り者!」と喚いている。こちらに掴みかかってこようとするオーガス様をかわして室内に突入する。
窓際に走って行くユリス様の背中を捕らえれば終了である。
「はい、犯人確保」
「オーガス兄様の裏切り者!」
後ろから脇の下に両手を入れて抱え上げる。「アロンめ! おまえも裏切りか!」と耳元で叫ぶユリス様に思わず笑いが込み上げる。
久々に楽しい時間だった。
「ブルース様」
オーガス様の部屋の前にて。
困ったように立ち尽くすティアンがこちらを振り向いた。隣ではジャンも頼りなさげに肩を落としている。もっぱらユリス様の側に控えているふたりであるが、どう考えてもジャンよりティアンの方がしっかりしている。まぁ、ジャンはもともと騎士志望だったのをブルース様が無理矢理ユリス様の従者に据えたのだ。しかもヴィアン家にやって来てすぐの出来事である。ろくに従者としての教育も受けていない。仕方のないことだろう。
腕を組んでじっと押し黙っているタイラーは、どうしたものかと思案しているらしい。ユリス様を回収したいが、オーガス様に迷惑はかけられないとその顔に書いてある。
「ユリスは中か?」
「はい。鍵をかけられてしまって」
ドアに視線を向けるティアンは困惑顔である。ユリス様の突拍子のない行動はいつものことだが今回もなかなかだ。オーガス様まで巻き込むとは。さしずめオーガス様を人質にした立てこもり事件といったところか。非常によろしいと思う。こういう事件は大好物だ。
「兄上」
ブルース様が声をかけるが、たいした反応はない。それに苛立ったブルース様の足が出た。勢いよくドアを蹴り上げた主人に肩をすくめる。
なにやら部屋の中が騒がしくなる。
「合鍵で開ければよろしいのでは?」
この場を打開するための提案をしてみるが、ブルース様が苦い顔をする。
「合鍵は兄上が持っている」
「なんのための合鍵ですか」
オーガス様はちょっととぼけたところがある。ブルース様がいつも苦労している。
「では中からオーガス様に開けてもらえばいいのでは?」
「兄上にそんな度胸があるわけないだろ」
こりゃダメだな。ユリス様本人に開けていただくしかない。とりあえず抱えていた黒猫をジャンに持たせる。軽くノックして「ユリス様?」と呼びかけてみるが反応がない。
「……ユリス様? ブルース様が隠し持ってる美味しいお菓子あげますよ」
「勝手にあげるな」
ブルース様の苦言に耳を傾けている暇はない。しばらくして部屋の中から「お菓子だけ持って来い!」との指示があった。どうやら意地でもドアを開けないつもりらしい。
「ブルース様。立てこもり犯がお菓子を要求してますよ」
「無視しろ」
酷い対応である。
「犯人が逆上してオーガス様に危害を加えたらどうしますよ」
「おまえなんでそんなノリノリなんだ」
楽しいからに決まっている。正直、これくらいのドアさっさと蹴破ってユリス様を確保するなんて容易い。だが弟に振り回されるブルース様を見守るのは楽しい。すごく楽しい。最近ではユリス様に振り回されるブルース様を見たいがために出勤していると言っても過言ではない。
「許してあげればいいじゃないですか」
「は?」
「要するにブルース様に叱られるのが嫌で立てこもっているわけでしょ? だったら怒らないって約束すれば出てくるのでは?」
「おまえはあの所業を赦せるのか?」
「タイラー相手だったらまぁ、仕方がないかなとは」
「なんでだよ」
タイラーはちょっとな。悪いがこっちも思うところがある。あの野郎、俺がユリス様に頼まれてちょっと態度を改めろと注意をしに行ったところ、俺の日頃の行いについてネチネチ文句を言いやがった。
「このまま黙って出てくるのを待つおつもりですか? ユリス様の妙な頑固さはブルース様もご存知でしょう」
「そりゃそうだが」
決して信念を曲げないユリス様のことである。おそらくブルース様が折れるまで出て来ないだろう。ユリス様の妙な頑固さに毎度苦労していることを思い出したらしいブルース様は天を仰ぐ。
「どうにかしてくれ、アロン」
「どうにかって言われましても」
タイラーもティアンも黙り込んだまま役に立ちそうにない。ジャンに至っては黒猫を抱えて少し離れている。
仕方がない。ここは俺がひと肌脱ごう。
「これはとっておきなんですが」
「なんだ」
「ブルース様のためなら仕方ないですね。使いますか」
「なんだその恩着せがましい態度は」
大きくため息をついて首を振る。まったく俺がいないとどうにもならないとは嘆かわしい。
「ようはオーガス様に開けていただければ良いんですよ」
「だから兄上にそんな度胸あるわけないだろ。いまだにユリス相手に遠慮してんだぞ」
あるんだな、これが。オーガス様がユリス様を気にせずドアを開け放ってくれるとっておきが。
軽くドアをノックする。中がしんと静まり返るのを確認してから、俺がとっておきを披露してやる。
「オーガス様。俺、キャンベル嬢と結婚します」
「はぁ⁉︎」
すごい勢いでドアが開いた。ユリス様が「裏切り者!」と喚いている。こちらに掴みかかってこようとするオーガス様をかわして室内に突入する。
窓際に走って行くユリス様の背中を捕らえれば終了である。
「はい、犯人確保」
「オーガス兄様の裏切り者!」
後ろから脇の下に両手を入れて抱え上げる。「アロンめ! おまえも裏切りか!」と耳元で叫ぶユリス様に思わず笑いが込み上げる。
久々に楽しい時間だった。
795
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。