転生したら異世界の神話《蒼穹の眠り姫》に巻き込まれてしまった

リョウ

文字の大きさ
8 / 27

驚愕の教務課

しおりを挟む
 三つ並ぶ窓口の真ん中。蛇の鱗のような皮膚を持つ、深緑色の肌の女性が待つそここそが俺の目的地である。
 少し狐目になっていて、気の強そうな印象を与えている。
「おい」
 しかし、気後れすること無く声をかける。
「何でしょうか」
 着込んだグレーのスーツのような服の胸の辺りに"ススバールマ"と書かれたネームプレートを持つその女性は、容姿からは想像できない抱擁力のある声で答えた。
「あー、なんだ。入学の手続きがしたいんだが……」
 あまりに意外すぎる声に、俺は戸惑いが生まれる。なんか……調子狂うわ。
「あ、はい。えっと、カーミヤ様でお間違いありませんか?」
「い……じゃなくて、はい」
 危うくいいえ、と言いかけそうになる。先程までは茅野嶺亜だったんだ。んじゃ、君は今からカーミヤくんねって言われてもすんなり入るわけがない。
 それをギリギリの所で気づき、俺はマクベスに貰った既にたくさんのシワが入った入学証明書を、ススバールマに渡す。
「はい、確かに受け取りました」
 髪の毛と言えるのだろうか。ゴルゴンの如く、蛇が巻きついた髪もどきは、俺に舌を見せながらシャーっと言う。
 んだよ、こいつら。ガチでこんなの見ると、恐怖しか生まれてこねぇーな。
「ん? 何でアンタ俺の……名前知ってんだ?」
 カーミヤ、というマクベスから貰った新しい名前を、自分の名前と言い切るのは少し変な感じがして口篭る。
「30分ほど前だったでしょうか。校長先生がこちらに来られて、カーミヤという蒼穹の髪と目をした男が来るって聞いてましたので」
 微笑みながら、ススバールマは手元で入学の手続きを進めている。
「蒼穹……か」
 自分では、そういう色だと調べて知っていた。でも、誰かからその色で指摘されたのは初めてだった。みんな、青色と言ったから。だから、俺は何故か少し嬉しく思えた。自分をちゃんと見てくれた。そう思えたのだ。
「綺麗な蒼穹です。まるで──」
「ちょっと……」
 ススバールマが何かを言おうとした瞬間、後ろからマリアがそれを止めた。
「すいません」
 話を止めことを謝ったのか、それとも言ってはいけない何かを言おうとしたことを謝ったのか。どちらかは分からない。それでも、マリアの反応の早さが後者だということを感じさせた。
「あと少しなので、もう少しお待ちください」
 ススバールマの口調に元気がない。それに伴ってなのか、髪の毛になっている蛇たちも萎れているように見えた。


 それから数分後、視線を落としていたススバールマが顔を上げた。
「手続き完了です」
 目の前で手続き完了なんて言われて少し違和感を覚える。日本の学校ではそういうことは無い。テストを受け、学校側が合格か不合格かを決め、取りに行く又は郵送で色々と届く。
 だから少し嬉しかった。
「こちらは学院証となっています」
 続いてススバールマがそう言い、運転免許証程度の大きさの金色のプレートを渡してきた。まず目に入ってきたのは、カーミヤ・アイリスという名前だ。
 やっぱり……な。もう俺は、茅野嶺亜じゃないんだ。カーミヤ・アイリスなんだ。
 強い実感があるわけじゃない。ただ、どうしてもそれを容易に受け入れることが出来なかった。名前というものには、それほどの力があるのだとはじめて知った。
 そしてその名前の少し上には、001568という数字の羅列があった。
「なんだ、これ」
 それを指差しながら隣に立つマリアに訊く。
「あー、それね。それは学院番号よ。この学院の生徒だって証明するための大事なものよ」
 微笑みながらそう言ったマリアは、空中に手をかざす。そして、ゆっくりと瞳を閉じながら口を開く。
「万象の理以て顕現せよ」
 刹那の時間も要さず、かざした手の下に仄かな光が宿り、その中から金色のプレートが出現した。
「ほらね、私のもあるよ」
 どうやらわざわざそれを見せるために取り出したらしい。マリア・イーグレットという名前の少し上に、001422という学院番号がある。
「ホントだな」
 マリアの学院証を一瞥してから自分の学院証に視線を戻す。1年生や、取得単位数など、その他学院に関係のある事柄が書いてあることを確認してから、顔を上げる。
 本当に来たんだな、異世界の学校に。
 こんな何とも思ってないような態度を取っている。でも、そんなはずが無い。怖いに決まっている。たった1人で、何も分からない場所に放り出されているのだから。でも、俺はそれを見せない。弱みは見せるものじゃない。隠して……隠して、相手に悟られぬようにして強く見せる。これが何事においても、大事なことだと、俺は思っている。
 何を想定してかは分からない。でも、母さんは俺に言っていた。
 短く息を吐き捨ててから俺は、受け取ったばかりの学院証を学生ズボンの中に押し込む。
「あっ、それから」
 受付口に背を向け、教務課の出入口へ向かおうとした時、ススバールマから声がかけられた。
「んだよ」
 人のやる気というか、決心というか、そういうのを折るなよ……。
「これをどうぞ」
 そんな俺の気持ちを読み取ったのか、ススバールマは少しバツが悪そうな表情で1枚の紙を渡してきた。
 何の変哲もない、ただのA4サイズのコピー用紙。
 訝しげな視線を送りながらそれを受け取り、目を落とす。
 
【カーミヤ・アイリス用時間割り】
 その紙の上部にはそう書かれていた。
「俺用の……時間割り……?」
 クラスごとによって時間割りが違う。日本の小中高ではこれが当たり前だろう。そして、俺は高校生。だから個別に時間割りがあるなんてことは知らない。
「今から決めるの?」
「き、決める?」
 紙を真剣に覗き込んでいる俺に、マリアは声をかけてくる。
「だから、時間割り……ってもう決まってるじゃん!」
 マリアは俺の手にある紙を見て、目を丸くして声上げた。
「はぁ? 普通決まってんじゃねぇーのか?」
「いやいや、この学院は取りたい授業を選んでとることが出来るんだよ?」
 え……。じゃあなんで俺の時間割りは決められてるんだ……?
 そう思った矢先、ススバールマはまたバツが悪そうな表情で告げた。
「校長がマリアさんと同じ時間割りにしておいてくれと仰られてたので……」
「はあ!? あのクソ野郎が……っ」
 ニタニタしながら俺とマリアの時間割りを同じようにしてくれ、と頼んでいるところが目に浮かぶ。それが何だか無性に腹が立つ。
「あ、あと……」
 ススバールマは俯き加減で、消え入りそうな声量で言葉を放つ。それと同じように、髪の毛の蛇も俯き、元気がないように見える。
「今度はなんだよ?」
 次から次へと……、そう思い俺の口調は気だるげものになる。
「寮のこと何ですけど」
「寮?」
「えー、カーミヤくんも寮に入るんだ!」
 マリアは表情を明るくして俺に言う。寮って、寮だよな。それに……も、ってことは。
「アンタ、寮暮しなのか?」
「そう。私、サーマンド州出身だからね」
 サーマンド州ってのがどこかは見当もつかない。でも、ここより遠いところだというのは推測できる。
「そうか」
「そ、それでね……」
 そこでススバールマが口を挟む。まだあるのかよ。
「これはマリアさんにも関係ある話なんだけど、カーミヤくんとマリアさんは今日から100号室で暮らしてもらうことになります」
 ……は?
 俺だけでなく、マリアもそう思ったのだろう。一瞬にして教務課に沈黙が訪れたのだ。待て待て待て。俺は男でマリアは女。そんな2人が同じ部屋で暮らすなんて……どう考えてもおかしいだろ!
「そ、それはちょっと……」
 マリアが引きつった笑顔でススバールマに言うと、ススバールマは手元でゴソゴソとして1枚の紙を取り出す。
「いい機会だから、新婚生活を体験してみろ」
 そしてススバールマは棒読みでそう告げた。
「あいつの言葉か?」
 声を潜めてそう訊く。すると、ススバールマは静かに首肯する。
「はぁ……。やっぱりか……」
 あの校長のやりそうな事だ。
「嘘……でしょ?」
 マリアは声を震わせる。
「これは決定事項だそうです」
 ススバールマはそう告げると、鱗のついた手を俺たちに向けた。
「万物の理を以て終焉せよ」
 マリアが学院証を取り出すときと似た文言でそう唱えると、窓口にシャッターが降りた。
 これ以上の追求は受けません。それを行動で表したのだ。
「な、何なんだよ……」
「ほ、本当に……一緒に……」
 俺、どんなに嫌がられてるんだよ。
 マリアは絶望を体現したかのような表情でその場に座り込む。
「俺隣にいるんだけど……」
 その呟きはマリアに届くこなく、マリアは神に頼むように天を仰いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...