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入学、魔術学院
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微睡みの中にいるような、そんな感覚だ。遠くで笑い声が聞こえる。それが何だか懐かしいような気がする。
そう言えば、学校で寝てる時ってこんな感じだったっけ? 机に突っ伏して、瞳を閉じる。教室中の音が遠のき、すぐ近くにあるはずの声が小さく聞こえる。
あっ、そう言えば。俺の荷物ってどうなったんだろう。確かカバンは持ってたはずなんだけど……。
自転車に置いてきたのか?
そこまで考えてたところで、不意に頭上から声がすることに気がついた。
「おーい」
どうやら俺を呼んでいるらしい。
なんだ? そう答えようとするも、声が出ない。
「まだ起きて無いのかな」
起きるって……。俺は寝てるのか?
そこでようやく視界が真っ暗であることへの違和感を覚える。寝てた感覚に陥ってたわけじゃなく、寝てたのか……。
瞼に力を入れ、ゆっくりと持ち上げる。幾回か瞬いた末に、完全に目を開ける。
おぉー、絶景……。
始めに目に飛び込んで来たのは、胸の谷間だった。
俺の顔を覗き込んでいる女子の緩くなった胸元がちょうど視界に収まる位置にある。
ノースリーブシャツの胸元は、そこまで開いてないと言えるだろう。だが、前かがみになればその壁は超えられる。見える……見えるのだ!
発育途中……と言った具合だろうか。重力に引っ張られ、垂れるなんてことも無く、だからといってまな板でも無い。予想するに、Cカップほどだろう。
「おっかしいなー。まだ寝てるのかなー」
谷間の主は声を出す。声を出すことによって、肺が上下し、それに伴い、乳が小さくぷるんと動く。
……エロいな。
ってか、俺の顔覗いてるだったら、目開けてるのはバレてるはずなんだけど……。
そう思いながら、視線をあげるとそこには銀髪美少女がいた。
外で会った……えっと名前はマリアだったけ?
「あっ、起きてる!」
そこでようやくマリアは俺の目が開いていることに気がついたらしい。
「あ、あぁ。結構前からな」
あー、もうこの素晴らしい乳は見れないのか……。
視線を谷間に持っていくとクギ付けになり、先ほどまで見ていたことがバレるのではと思い、俺は視線の先をマリアの顔に固定して話す。
「そっか、よかった」
「よかったって?」
そう言いながらマリアは体を引き戻す。マリアが退いたことにより、幾何学的な模様が描かれる天井が視界に入る。それで自分が寝転がっていることに気づく。
「君、結構寝てたんだよ?」
「みたいだな。頭がぼーってしてるし、そんな気がする」
「そうなんだ。大丈夫?」
心配そうな声音で訊いてくる。
転んだままの体を起こし、マリアに向き合うような形で座り、言う。
「大丈夫だ。それより、ここはどこだ?」
「保健室だよ」
「保健室……。俺、一体何で……」
「気失ってたらしいよ。校長先生と何があったか分からないけど、無理しちゃだめだよ?」
窘(たしな)めるように言うマリアに俺は、口先を尖らせ
「うっせぇ」
と答える。
確か記憶の中では教務課……とか言ってなかったっけ?
あやふやな記憶を辿り、マクベスの言ったことを思い出す。
あー、くっそ。分かんねぇ……。
頭を掻こうと、手を上げた瞬間、クシャという音がした。
「何の音?」
「知るかよ。それより、アンタは何で保健室にいる?」
恐らく紙の音だろう。開襟シャツの胸ポケット辺りから聞こえたので、そこに紙があるのだろう。それが手を上げた拍子にできるシワとちょうど重なる位置にあるのだ。
「私はちょっと……魔力切れで」
へへへ、と自虐的な笑みを浮かべながらマリアは言う。言われてみれば、少し顔色が悪いように感じなくもないな。
「魔力切れ?」
「うん。わからない?」
分かるわけないだろう。俺は魔力なんかと縁のない世界で生きてきたんだから……。
「ちっ」
だから俺は舌打ちで返事をして、腰を上げた。決して高いとは言えない身長だが、マリアを含むベッドを見下ろすことくらいはできる。
日本の保健室にあるパイプベッドのような形状で、俺はそのベッドのヘッドボードのあたりに腰を下ろしていたようで、マリアはフットボート寄りの位置で腰を下ろしていた。
「ど、どこいくの?」
「さぁーな」
答える義務もない。肩を竦めてマリアに背を向け、先ほど気がついた胸ポケットにある紙を取り出す。
「……ざけなよ、あのくそ野郎」
紙は入学証明書だった。要らないと思っていたそれだが、その紙の右端に新たな書き足しがあった。しかも、日本語で、だ。校長室にある本棚の中にあった本は全て何語であるか分からず、読むことが出来なかった。だが、今回は確実に読めるように日本語で書いてあったのだ。
「ど、どうしたの?」
怒気を含んだ声に、少し怯えたような声音でマリアは訊く。
「どうもしねぇーよ。くっそ、話しかけんな」
そう吐き捨て、俺は保健室を出た。のだが……。
おいおいおいおい……。これ……どうなってんだよ……。
目の前に広がるのはだだっ広い空間だった。あと数センチ。足の置く場所が悪かったら、落ちてた……。数センチの足場にギリギリ乗っていた俺は、冷や汗が体中から溢れ出す。
「どうなってんだよ、この学校は……」
「大丈夫ッ!?」
張り詰めたような声が背後からした。その声はマリアのものだと、すぐに分かった。
だが足場の幅は、数値化するならば30センチほど。つまり、人一人が足を置けるギリギリの幅だ。
そこへマリアが来たとなると──
「お前が来たから大丈夫じゃねぇーーーー!!!!」
落ちるしかないよね……。校長室から地上までの距離と比較すると、それは恐らく半分程度だと思う。しかし、考えてみてほしい。普通の人間が東京タワーの半分の高さから落ちたらどうなるだろうか。
死ぬに決まってんだろォォォォ!!!!
この数時間の間に何度目かの上空からの落下。日本にいた時には感じたことのない大気圧を全身に受けながら、脳がチカチカするのを感じる。
「ご、ごめんっ」
遠ざかる聴覚に微かに届いた声。何が……ごめんだよ……。
口にすることなく、虚ろになりかけた視線で訴える。
次の瞬間、一瞬にして俺の体が楽になった。
「ど、どうなった……?」
空中にいるにも関わらず、大気圧に圧される感じはない。そして何故か景色が止まっている。先程までは急降下していたはずなのに……。
「よかった……、間に合って」
不意に頭上から声がする。
「間に合うって──」
見上げれば、マリアにハゲ頭に掴まれていた場所と同じ襟を掴まれている。おかしいな……、俺男なのに……。
「風魔法よ」
まただ。マクベスも言ってた単語だったな……。
「なぁ、シ……」
風魔法の事について聞こうと思ったその瞬間だった。マリアが俺が持ってたはずの紙を俺に渡してきた。
「おまっ、魔女か!?」
「やめてよ、その言い方」
ヘラヘラと笑った様子はなく、真剣な表情でマリアは告げた。
「ん? 何でだ?」
この世界のことについて全く知らない俺は、魔女という言葉が意味するところを知らない。俺のいた世界でも、ヨーロッパなどキリスト教を強く信仰する地域では魔女を忌み嫌う風習があることは確かだ。だが、日本にいた俺はその感覚があまりない。
「魔術師。この言い方が普通だから」
魔女を嫌がる理由については述べられなかった。だからこそ、俺は悟った。この世界でも魔女という概念があり、嫌われているということが……。
「で、この紙一体何なの?」
マリアの手から紙を取ろうとした瞬間、マリアは紙を自分の方へと引き戻し、紙に書かれる文字に目を落とす。
「えっとー、 【入学証明書】……って、うそ!? 君、この学院に入学するの!?」
目を丸くしたマリアは、入学証明書と書かれた紙と俺の顔を交互に見ながら訊く。
「ちっ」
舌打ちをしてからそれを奪い返す。どうやら右端に書かれた日本語には気づかなかったらしい。
──小さな背は魔法でなんとかなる!
何度見ても腹立たしい。同じ書くなら頑張れと書けば良いものを、嫌味ったらしく書いてくる。脅し方、茶化し方、どれを取っても上手いマクベス。一体何者なんだ……?
今日何度目か分からない疑問が浮かぶも、その答えは持ち合わせてなかった。
「ねぇねぇ、本当に入学するの?」
「うるせぇーんだよ。するに決まってんだろ? 紙見たら分かるだろ」
ひつこく訊いてくるマリアに、ため息混じりに答えるとマリアはニコっと笑う。
「なら同学年だね」
「あっそ」
何がそんなに嬉しいんだよ。意味わかんねぇ。
「えへへ、教務課にはもう行った?」
俺の素っ気ない態度を気にした様子はなくマリアは嬉しそうに続ける。
「行ってねぇーよ」
「ならこのまま行くね」
空中でマリアに支えられていた俺は、ノーと言うことはできずそのまま降下していく景色を黙って見ていた。
それからどれくらい降下しただろうか。恐らくかなり低い場所まで来たと思う。
「ここが教務課だから」
30センチほどの足場に先に下ろされる。その先には木で出来たような扉がある。ここのも開けたら消えたりするんだろうな。
「って、まだ来るなよ!?」
そこでマリアが着地しようとするのが見え、俺は叫ぶ。さっき俺を落としたばっかりだぞ?
「あっ、ごめん」
ごめんじゃねぇーだろ。
わけわかんねぇという目でマリアを見てから俺は、扉に向き直り、その扉を奥に押す。
また軋む音はない。それどころか、扉を開けているという実感を持てる重さすらない。
まるでエアでその行動を取っているような、そんな風に思わせる。そして、校長室の時と同じく扉は煙のように消える。
「やっぱりな……」
予想はしてたけど、慣れるもんじゃないな。
ドアノブを回したり、押し込んだり、そんなことをしないってなると変な感じだよな。
当たり前になりすぎた日常を、今更ながらに凄いと思いつつ俺は教務課へと入った。
中には三つの大きな窓口があった。一つ一つ木製のようで、それはまるでギルドの受付口のような印象をうけた。
「な、なんだよ……」
「教務課だよ?」
ってかまず。教務課って何? 職員室的なところ?
高校生には聞きなれない単語故に、俺は戸惑いを隠せずギルドの入口のような光景に言葉を失っていると、後ろから声がした。
「うお!?」
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇーよ! 急に後ろから声かけられたびっくりするだろうが!」
どうして? マリアはそう言わんばかり表情で俺を見つめる。
「まぁいいやー。まず1番手前にある受付口が講義に関する時に使うの。それで真ん中が入学、休学、退学する時とかに使うの」
マリアはそこで説明を止めた。
「え、1番奥にあるやつは何をする所なんだ?」
「知らない」
「知らないって……ここの生徒だろ?」
申し訳なさそうに言うマリアに俺は、少し声を裏返しながら訊く。
「し、仕方ないじゃん! そ、それに校則全部覚えてる子なんていないじゃん?」
慌てた様子で早口で言うマリアは、顔をほんのりと赤くして可愛いなと思えた。けど──
「これ校則じゃなくて施設な?」
むぅぅ……。それを体現したような顔でマリアは、俺を見る。
そ、そんな顔されても……。
「いいから、真ん中行ってよ」
バツが悪そうに、俺と視線を交わえようとせずに言う。
「はいはい」
そう告げて俺は、三つ並ぶ窓口の真ん中に向かった。
そう言えば、学校で寝てる時ってこんな感じだったっけ? 机に突っ伏して、瞳を閉じる。教室中の音が遠のき、すぐ近くにあるはずの声が小さく聞こえる。
あっ、そう言えば。俺の荷物ってどうなったんだろう。確かカバンは持ってたはずなんだけど……。
自転車に置いてきたのか?
そこまで考えてたところで、不意に頭上から声がすることに気がついた。
「おーい」
どうやら俺を呼んでいるらしい。
なんだ? そう答えようとするも、声が出ない。
「まだ起きて無いのかな」
起きるって……。俺は寝てるのか?
そこでようやく視界が真っ暗であることへの違和感を覚える。寝てた感覚に陥ってたわけじゃなく、寝てたのか……。
瞼に力を入れ、ゆっくりと持ち上げる。幾回か瞬いた末に、完全に目を開ける。
おぉー、絶景……。
始めに目に飛び込んで来たのは、胸の谷間だった。
俺の顔を覗き込んでいる女子の緩くなった胸元がちょうど視界に収まる位置にある。
ノースリーブシャツの胸元は、そこまで開いてないと言えるだろう。だが、前かがみになればその壁は超えられる。見える……見えるのだ!
発育途中……と言った具合だろうか。重力に引っ張られ、垂れるなんてことも無く、だからといってまな板でも無い。予想するに、Cカップほどだろう。
「おっかしいなー。まだ寝てるのかなー」
谷間の主は声を出す。声を出すことによって、肺が上下し、それに伴い、乳が小さくぷるんと動く。
……エロいな。
ってか、俺の顔覗いてるだったら、目開けてるのはバレてるはずなんだけど……。
そう思いながら、視線をあげるとそこには銀髪美少女がいた。
外で会った……えっと名前はマリアだったけ?
「あっ、起きてる!」
そこでようやくマリアは俺の目が開いていることに気がついたらしい。
「あ、あぁ。結構前からな」
あー、もうこの素晴らしい乳は見れないのか……。
視線を谷間に持っていくとクギ付けになり、先ほどまで見ていたことがバレるのではと思い、俺は視線の先をマリアの顔に固定して話す。
「そっか、よかった」
「よかったって?」
そう言いながらマリアは体を引き戻す。マリアが退いたことにより、幾何学的な模様が描かれる天井が視界に入る。それで自分が寝転がっていることに気づく。
「君、結構寝てたんだよ?」
「みたいだな。頭がぼーってしてるし、そんな気がする」
「そうなんだ。大丈夫?」
心配そうな声音で訊いてくる。
転んだままの体を起こし、マリアに向き合うような形で座り、言う。
「大丈夫だ。それより、ここはどこだ?」
「保健室だよ」
「保健室……。俺、一体何で……」
「気失ってたらしいよ。校長先生と何があったか分からないけど、無理しちゃだめだよ?」
窘(たしな)めるように言うマリアに俺は、口先を尖らせ
「うっせぇ」
と答える。
確か記憶の中では教務課……とか言ってなかったっけ?
あやふやな記憶を辿り、マクベスの言ったことを思い出す。
あー、くっそ。分かんねぇ……。
頭を掻こうと、手を上げた瞬間、クシャという音がした。
「何の音?」
「知るかよ。それより、アンタは何で保健室にいる?」
恐らく紙の音だろう。開襟シャツの胸ポケット辺りから聞こえたので、そこに紙があるのだろう。それが手を上げた拍子にできるシワとちょうど重なる位置にあるのだ。
「私はちょっと……魔力切れで」
へへへ、と自虐的な笑みを浮かべながらマリアは言う。言われてみれば、少し顔色が悪いように感じなくもないな。
「魔力切れ?」
「うん。わからない?」
分かるわけないだろう。俺は魔力なんかと縁のない世界で生きてきたんだから……。
「ちっ」
だから俺は舌打ちで返事をして、腰を上げた。決して高いとは言えない身長だが、マリアを含むベッドを見下ろすことくらいはできる。
日本の保健室にあるパイプベッドのような形状で、俺はそのベッドのヘッドボードのあたりに腰を下ろしていたようで、マリアはフットボート寄りの位置で腰を下ろしていた。
「ど、どこいくの?」
「さぁーな」
答える義務もない。肩を竦めてマリアに背を向け、先ほど気がついた胸ポケットにある紙を取り出す。
「……ざけなよ、あのくそ野郎」
紙は入学証明書だった。要らないと思っていたそれだが、その紙の右端に新たな書き足しがあった。しかも、日本語で、だ。校長室にある本棚の中にあった本は全て何語であるか分からず、読むことが出来なかった。だが、今回は確実に読めるように日本語で書いてあったのだ。
「ど、どうしたの?」
怒気を含んだ声に、少し怯えたような声音でマリアは訊く。
「どうもしねぇーよ。くっそ、話しかけんな」
そう吐き捨て、俺は保健室を出た。のだが……。
おいおいおいおい……。これ……どうなってんだよ……。
目の前に広がるのはだだっ広い空間だった。あと数センチ。足の置く場所が悪かったら、落ちてた……。数センチの足場にギリギリ乗っていた俺は、冷や汗が体中から溢れ出す。
「どうなってんだよ、この学校は……」
「大丈夫ッ!?」
張り詰めたような声が背後からした。その声はマリアのものだと、すぐに分かった。
だが足場の幅は、数値化するならば30センチほど。つまり、人一人が足を置けるギリギリの幅だ。
そこへマリアが来たとなると──
「お前が来たから大丈夫じゃねぇーーーー!!!!」
落ちるしかないよね……。校長室から地上までの距離と比較すると、それは恐らく半分程度だと思う。しかし、考えてみてほしい。普通の人間が東京タワーの半分の高さから落ちたらどうなるだろうか。
死ぬに決まってんだろォォォォ!!!!
この数時間の間に何度目かの上空からの落下。日本にいた時には感じたことのない大気圧を全身に受けながら、脳がチカチカするのを感じる。
「ご、ごめんっ」
遠ざかる聴覚に微かに届いた声。何が……ごめんだよ……。
口にすることなく、虚ろになりかけた視線で訴える。
次の瞬間、一瞬にして俺の体が楽になった。
「ど、どうなった……?」
空中にいるにも関わらず、大気圧に圧される感じはない。そして何故か景色が止まっている。先程までは急降下していたはずなのに……。
「よかった……、間に合って」
不意に頭上から声がする。
「間に合うって──」
見上げれば、マリアにハゲ頭に掴まれていた場所と同じ襟を掴まれている。おかしいな……、俺男なのに……。
「風魔法よ」
まただ。マクベスも言ってた単語だったな……。
「なぁ、シ……」
風魔法の事について聞こうと思ったその瞬間だった。マリアが俺が持ってたはずの紙を俺に渡してきた。
「おまっ、魔女か!?」
「やめてよ、その言い方」
ヘラヘラと笑った様子はなく、真剣な表情でマリアは告げた。
「ん? 何でだ?」
この世界のことについて全く知らない俺は、魔女という言葉が意味するところを知らない。俺のいた世界でも、ヨーロッパなどキリスト教を強く信仰する地域では魔女を忌み嫌う風習があることは確かだ。だが、日本にいた俺はその感覚があまりない。
「魔術師。この言い方が普通だから」
魔女を嫌がる理由については述べられなかった。だからこそ、俺は悟った。この世界でも魔女という概念があり、嫌われているということが……。
「で、この紙一体何なの?」
マリアの手から紙を取ろうとした瞬間、マリアは紙を自分の方へと引き戻し、紙に書かれる文字に目を落とす。
「えっとー、 【入学証明書】……って、うそ!? 君、この学院に入学するの!?」
目を丸くしたマリアは、入学証明書と書かれた紙と俺の顔を交互に見ながら訊く。
「ちっ」
舌打ちをしてからそれを奪い返す。どうやら右端に書かれた日本語には気づかなかったらしい。
──小さな背は魔法でなんとかなる!
何度見ても腹立たしい。同じ書くなら頑張れと書けば良いものを、嫌味ったらしく書いてくる。脅し方、茶化し方、どれを取っても上手いマクベス。一体何者なんだ……?
今日何度目か分からない疑問が浮かぶも、その答えは持ち合わせてなかった。
「ねぇねぇ、本当に入学するの?」
「うるせぇーんだよ。するに決まってんだろ? 紙見たら分かるだろ」
ひつこく訊いてくるマリアに、ため息混じりに答えるとマリアはニコっと笑う。
「なら同学年だね」
「あっそ」
何がそんなに嬉しいんだよ。意味わかんねぇ。
「えへへ、教務課にはもう行った?」
俺の素っ気ない態度を気にした様子はなくマリアは嬉しそうに続ける。
「行ってねぇーよ」
「ならこのまま行くね」
空中でマリアに支えられていた俺は、ノーと言うことはできずそのまま降下していく景色を黙って見ていた。
それからどれくらい降下しただろうか。恐らくかなり低い場所まで来たと思う。
「ここが教務課だから」
30センチほどの足場に先に下ろされる。その先には木で出来たような扉がある。ここのも開けたら消えたりするんだろうな。
「って、まだ来るなよ!?」
そこでマリアが着地しようとするのが見え、俺は叫ぶ。さっき俺を落としたばっかりだぞ?
「あっ、ごめん」
ごめんじゃねぇーだろ。
わけわかんねぇという目でマリアを見てから俺は、扉に向き直り、その扉を奥に押す。
また軋む音はない。それどころか、扉を開けているという実感を持てる重さすらない。
まるでエアでその行動を取っているような、そんな風に思わせる。そして、校長室の時と同じく扉は煙のように消える。
「やっぱりな……」
予想はしてたけど、慣れるもんじゃないな。
ドアノブを回したり、押し込んだり、そんなことをしないってなると変な感じだよな。
当たり前になりすぎた日常を、今更ながらに凄いと思いつつ俺は教務課へと入った。
中には三つの大きな窓口があった。一つ一つ木製のようで、それはまるでギルドの受付口のような印象をうけた。
「な、なんだよ……」
「教務課だよ?」
ってかまず。教務課って何? 職員室的なところ?
高校生には聞きなれない単語故に、俺は戸惑いを隠せずギルドの入口のような光景に言葉を失っていると、後ろから声がした。
「うお!?」
「どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇーよ! 急に後ろから声かけられたびっくりするだろうが!」
どうして? マリアはそう言わんばかり表情で俺を見つめる。
「まぁいいやー。まず1番手前にある受付口が講義に関する時に使うの。それで真ん中が入学、休学、退学する時とかに使うの」
マリアはそこで説明を止めた。
「え、1番奥にあるやつは何をする所なんだ?」
「知らない」
「知らないって……ここの生徒だろ?」
申し訳なさそうに言うマリアに俺は、少し声を裏返しながら訊く。
「し、仕方ないじゃん! そ、それに校則全部覚えてる子なんていないじゃん?」
慌てた様子で早口で言うマリアは、顔をほんのりと赤くして可愛いなと思えた。けど──
「これ校則じゃなくて施設な?」
むぅぅ……。それを体現したような顔でマリアは、俺を見る。
そ、そんな顔されても……。
「いいから、真ん中行ってよ」
バツが悪そうに、俺と視線を交わえようとせずに言う。
「はいはい」
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