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放課後。あんなことがあってから初めての部活だ。
皇輝の前に半裸で出るのは慣れてる筈なのに妙に緊張する。
世界中の誰もが気にしないただの男子学生の水着姿なのに、皇輝にだけはやらしい目で見られそうで。
とか考えちゃう僕が一番おかしいんだけど。
皇輝からしてもただの慣れた水着姿だよ、意識してる方がおかしいよ、うん、いつも通り、いつも通り僕は水に浮くだけ。
悩みながらも結局水の誘惑に勝てる訳がないのだ。
◇◇◇
「碧」
「……」
「あお!」
「!」
急に大きな声で呼ばれて、びっくりして少し沈んでしまい……鼻に水が入った。
噎せる僕に、もう帰るぞ、と呆れたように皇輝が言う。
え、と周りを見ればもう誰もいなかった。いつにも増して、ぼんやりしていたよう。
「全く、ラッコの方が芸が出来るぞ、ラッコ先輩」
「うっ、芸は出来なくても流石に人間のが色々出来るし」
げほげほ噎せてると、手を出される。
……また水に引きずり込んでやろうか。
そう思って僕も手を伸ばすと、その手を引っ込まれた。
空振った僕の腕を見て、皇輝は意地悪く笑う。
くそおおおおかっこいい、すき!
「ほら、暗くなるぞ、帰ろ」
「……今皇輝意地悪したからやる気なくなった」
「だって今、碧、またプールに落とそうとしただろ」
「……!」
「別にいいけどさ、今度はプールん中でやるよ」
「出ます出ます出ます!帰る!」
にやりと笑う皇輝が悪魔的に色っぽくて、こんなやり取りをしてたら触られなくても勃ってしまうんじゃないかとこわくなって切り上げる。
毎日あんなことやってたら僕の頭がおかしくなる。
猿みたいにあのことしか考えられなくなる。だめです。
「あーもうやだ、皇輝が意地悪しやすくなってしまった」
「意地悪してないじゃん、碧が我儘だから悪いんでしょ」
「……でもそんな僕のことすきなんでしょ」
「うん、かわいいよ」
「……!」
「そんな真っ赤になるなら自分から振らなきゃいいのに」
一瞬で顔が熱くなってしまう。
そりゃそうだけど、そんなにストレートに普通に返されるとは思わないじゃないか、馬鹿ばっかり言うなよ、とか、悪態か冗談で返されると思ってたんだ。
少なくとも前まではそうだった。
なのに気持ちが通じてからの皇輝はあっさりこんなことを言うもんだから、僕の感覚がおかしくなってしまう。
不意打ちのデレは心臓に悪い。
「ていうか」
「……?」
「碧が煽んないで欲しいんだけど。流石に学校や外でやる趣味はないんだよね」
「どっ、どの口が言う……!」
「あの時はどう考えても碧が誘ってた」
「さささ誘ってない!」
「くっついてきたのは碧だよ」
「くっついただけだもん!」
「背中に乳首擦り付けてきたのに?」
「ちっ……いいいい言い方!言い方ずるい!」
ばん、と皇輝の背中を叩く。
周りに誰もいないとはいえ、ただでさえ恥ずかしいことを学校で言われるのが更に恥ずかしかった。
「はー……」
「……なに、でっかい溜息吐いてさ」
「土曜日文化祭かって」
「やなの?」
「平日は流石にあれだから金曜か土曜にうちに呼ぼうと思ってたのに」
「?」
「碧をだよ」
「……!」
着替えながらそんなことを言う皇輝に、やっぱり煽ってんのは皇輝じゃないかと思ってしまう。
思い出しちゃう、つい数日前のことを。こんなところで。
「でもまあ実質デートか、佐倉居るけど」
「デート!?」
ででで、デート!?
そんなこと考えたこともなかった。
デートとか出来るんだ、付き合ってたら当たり前だけど、普段から皇輝と出掛けたりしてたから……それもこれからはデートになるってこと?
うわ、デートだって、デート……
「嬉しいの?」
「えっ、やっ、え、だって……」
そりゃあ、ねえ……
僕からしたら夢みたいだもん。
「やっぱ違う、土曜のはデートじゃない」
「えっ……」
「デートは今度、他の日にちゃんとするわ……」
「う、うん……」
顔を逸らした皇輝が恥ずかしそうに言うものだから、僕も恥ずかしくなってしまった。
そうか、ちゃんと、してくれるのか……
ふたりの時に。
佐倉には悪いけど。いや当たり前だけど。
嬉しい。どこかにちゃんと連れてってくれるのも嬉しいんだけど、皇輝が適当に誤魔化さずに、恥ずかしがりながらもそう決めてくれたのが嬉しかった。
「着替え終わった?」
「うん」
「じゃあ鍵返してくる」
「ちょっと待って」
「なに」
小指を出す。
意図を察した皇輝はやっぱり恥ずかしそうにしながら、そこまでしなくてもいいだろ、と言う。
「んーん、約束したい」
「するって、ちゃんと……」
「うん、だから約束」
少し考えて、皇輝が小指を出してくれた。
指切り。
子供かよ、って呟いたけど、それでもいい。
ちょっとした約束が嬉しいんだ、僕からじゃなくて、皇輝からのものが。
「めちゃくちゃ期待してるからね」
「……ハードル上げんなって」
「どこでもいいよ、デートだったら」
形勢逆転。
恥ずかしそうにしてる皇輝はレアだ。楽しくなっちゃう。
にやにやしてると、照れ隠しなんだろうな、髪をくしゃくしゃにされて、そのまま皇輝の背中が離れていった。
皇輝の前に半裸で出るのは慣れてる筈なのに妙に緊張する。
世界中の誰もが気にしないただの男子学生の水着姿なのに、皇輝にだけはやらしい目で見られそうで。
とか考えちゃう僕が一番おかしいんだけど。
皇輝からしてもただの慣れた水着姿だよ、意識してる方がおかしいよ、うん、いつも通り、いつも通り僕は水に浮くだけ。
悩みながらも結局水の誘惑に勝てる訳がないのだ。
◇◇◇
「碧」
「……」
「あお!」
「!」
急に大きな声で呼ばれて、びっくりして少し沈んでしまい……鼻に水が入った。
噎せる僕に、もう帰るぞ、と呆れたように皇輝が言う。
え、と周りを見ればもう誰もいなかった。いつにも増して、ぼんやりしていたよう。
「全く、ラッコの方が芸が出来るぞ、ラッコ先輩」
「うっ、芸は出来なくても流石に人間のが色々出来るし」
げほげほ噎せてると、手を出される。
……また水に引きずり込んでやろうか。
そう思って僕も手を伸ばすと、その手を引っ込まれた。
空振った僕の腕を見て、皇輝は意地悪く笑う。
くそおおおおかっこいい、すき!
「ほら、暗くなるぞ、帰ろ」
「……今皇輝意地悪したからやる気なくなった」
「だって今、碧、またプールに落とそうとしただろ」
「……!」
「別にいいけどさ、今度はプールん中でやるよ」
「出ます出ます出ます!帰る!」
にやりと笑う皇輝が悪魔的に色っぽくて、こんなやり取りをしてたら触られなくても勃ってしまうんじゃないかとこわくなって切り上げる。
毎日あんなことやってたら僕の頭がおかしくなる。
猿みたいにあのことしか考えられなくなる。だめです。
「あーもうやだ、皇輝が意地悪しやすくなってしまった」
「意地悪してないじゃん、碧が我儘だから悪いんでしょ」
「……でもそんな僕のことすきなんでしょ」
「うん、かわいいよ」
「……!」
「そんな真っ赤になるなら自分から振らなきゃいいのに」
一瞬で顔が熱くなってしまう。
そりゃそうだけど、そんなにストレートに普通に返されるとは思わないじゃないか、馬鹿ばっかり言うなよ、とか、悪態か冗談で返されると思ってたんだ。
少なくとも前まではそうだった。
なのに気持ちが通じてからの皇輝はあっさりこんなことを言うもんだから、僕の感覚がおかしくなってしまう。
不意打ちのデレは心臓に悪い。
「ていうか」
「……?」
「碧が煽んないで欲しいんだけど。流石に学校や外でやる趣味はないんだよね」
「どっ、どの口が言う……!」
「あの時はどう考えても碧が誘ってた」
「さささ誘ってない!」
「くっついてきたのは碧だよ」
「くっついただけだもん!」
「背中に乳首擦り付けてきたのに?」
「ちっ……いいいい言い方!言い方ずるい!」
ばん、と皇輝の背中を叩く。
周りに誰もいないとはいえ、ただでさえ恥ずかしいことを学校で言われるのが更に恥ずかしかった。
「はー……」
「……なに、でっかい溜息吐いてさ」
「土曜日文化祭かって」
「やなの?」
「平日は流石にあれだから金曜か土曜にうちに呼ぼうと思ってたのに」
「?」
「碧をだよ」
「……!」
着替えながらそんなことを言う皇輝に、やっぱり煽ってんのは皇輝じゃないかと思ってしまう。
思い出しちゃう、つい数日前のことを。こんなところで。
「でもまあ実質デートか、佐倉居るけど」
「デート!?」
ででで、デート!?
そんなこと考えたこともなかった。
デートとか出来るんだ、付き合ってたら当たり前だけど、普段から皇輝と出掛けたりしてたから……それもこれからはデートになるってこと?
うわ、デートだって、デート……
「嬉しいの?」
「えっ、やっ、え、だって……」
そりゃあ、ねえ……
僕からしたら夢みたいだもん。
「やっぱ違う、土曜のはデートじゃない」
「えっ……」
「デートは今度、他の日にちゃんとするわ……」
「う、うん……」
顔を逸らした皇輝が恥ずかしそうに言うものだから、僕も恥ずかしくなってしまった。
そうか、ちゃんと、してくれるのか……
ふたりの時に。
佐倉には悪いけど。いや当たり前だけど。
嬉しい。どこかにちゃんと連れてってくれるのも嬉しいんだけど、皇輝が適当に誤魔化さずに、恥ずかしがりながらもそう決めてくれたのが嬉しかった。
「着替え終わった?」
「うん」
「じゃあ鍵返してくる」
「ちょっと待って」
「なに」
小指を出す。
意図を察した皇輝はやっぱり恥ずかしそうにしながら、そこまでしなくてもいいだろ、と言う。
「んーん、約束したい」
「するって、ちゃんと……」
「うん、だから約束」
少し考えて、皇輝が小指を出してくれた。
指切り。
子供かよ、って呟いたけど、それでもいい。
ちょっとした約束が嬉しいんだ、僕からじゃなくて、皇輝からのものが。
「めちゃくちゃ期待してるからね」
「……ハードル上げんなって」
「どこでもいいよ、デートだったら」
形勢逆転。
恥ずかしそうにしてる皇輝はレアだ。楽しくなっちゃう。
にやにやしてると、照れ隠しなんだろうな、髪をくしゃくしゃにされて、そのまま皇輝の背中が離れていった。
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