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「決まった?」
「あ、えっと」
袖を捲った皇輝が帰ってくる。見慣れた姿なのにいちいち胸が鳴ってしまうのをやめたい。
心臓が持たない。あー、でも格好良いのはどれだけだって見たい。
「俺これがいい」
「あ、それも美味しそ」
「じゃあこれとこれでいい?」
「うん」
「じゃあ先風呂入ってきて、もうすぐ入れると思うし」
「えっ」
「えって」
「皇輝先に入りなよ」
「こういう時は客が先だよ、着替え出しとくから」
背中を押されて風呂に向かう。
皇輝の家は何度か泊まったことあるし、何人かで泊まったことも、僕だけで泊まったことだってある。
それは勿論ともだちとしてで、こうなってからの泊まりは意味が違う。風呂場で服を脱ぐだけで、見られてる訳ではないのにどきどきしてしまう。
どうしよう、ぴ、ぴっかぴかに躰、洗わなきゃ。
相変わらず綺麗な大きいお風呂だ。
足を伸ばせる広いバスタブ。
いいな、うちのもこれだったらいいのに。浸かってる時間が増えて母さん達にめちゃくちゃ怒られるかもしんないけど。
見たことないようなシャンプー類が並ぶ。
高そうなやつは多分おばさんのもの、だよな、どれを使ったらいいんだろう、色々な意味でおばさんのを使うのは気が引ける。
悩んでると、脱衣所に皇輝が着替えを持ってきたようで、ここに置いとくからな、と声を掛けられた。
ありがと、とお礼をいいつつ、どのシャンプー類を使っていいか扉越しに訊くと、下段のが俺の、と返事が返ってきた。
なるほど、一番上の色々置いてあるのがおばさんのもの、中段が恐らくおじさんの、下段が皇輝のものか。
うちなんて母さん以外は同じの使ってるぞ、金持ちは拘りが強い。
「これがシャンプー、で、こっちがトリートメント……トリートメント使ってるんだ」
思い返すと確かに皇輝はつやつやした綺麗な髪してるな、これもいいやつなんだろう。
ボディーソープすら見たことないやつだ。
ドラッグストアやスーパーで買ううちとは違うのだ。
まあいいけど。うちはうち、よそはよそ。
僕には特に拘りはないし。ただちょっとそわそわしちゃうのは、皇輝と同じものを使うということ。
シャンプーを手のひらに出して匂いをかいでみる。
うーん……直接かぐと皇輝と同じものだとわからないや。
でも流石お高いものだからか、洗い上がりはいい気がする。
ちゃっかりトリートメントまで済ませて、躰と顔も洗って、皇輝が入浴剤まで入れてくれたバスタブに浸かる。
あー……至れり尽くせりって感じ、気持ちいい~……
なんかいい香りが充満してて、お湯の温度も丁度良くて、もうこのまま寝ちゃいそー……
だめだめ、寝ちゃだめ。
あーでも気持ちいい、天国。お風呂から出たくなーい……
「あおー、まさか寝てないだろうな?」
「ひゃい!」
うつらうつらしてたところで声を掛けられてしまった。
皇輝にもお風呂で寝る癖を見破られている。
「あ、あとちょっとで上がるー」
「寝たら死ぬぞ、気をつけろよ」
「うん」
やばい、そんなに時間は経ってないと思うけど、流石に他人の家で長風呂はだめだ。
上がろう上がろう、次に皇輝も入る訳だし。名残惜しいけど。
「はー……気持ちかったあ」
用意されたタオルで躰を拭いて、用意された服に着替える。
新品の下着とかあるもんなんだな、うちに新品のパンツなんて常備してないぞ。
……皇輝のものなら嫌じゃないけど、余計なことばっかり考える羽目になりそうだから新品で有難い。
「こうきー、上がったあ」
「いや髪乾かしてこいよ」
「勝手に乾くし」
「学校では仕方ないけど家で位は乾かせよ、ただでさえ塩素でやられてる髪なんだから労りな」
「……禿げるかな」
「さあ」
笑いながらまた脱衣所に連れていかれた。
ドライヤーをしろということなのだろう、と思ったけど、まさかのドライヤーをかけられていた。
「あの……ドライヤー自分で出来るけど」
「いいじゃん、折角だしやらせてよ」
「皇輝がやりたいの?」
「やりたい」
素直に頷かれたもんだから、からかうことも出来ずに黙ってしまう。
子供みたいでちょっと恥ずかしいけど、でもまあ美容室とかでされると思えば、まあ……
「大丈夫?熱くない?」
「……ない」
皇輝の大きな手が僕の頭をわしゃわしゃしながら乾かしていくのが気持ちいい。
さっきまでうつらうつらしてたのもあって眠くなってしまう。
これなら毎日やってもらいたい。
「何笑ってんの……」
鏡に映ってる皇輝が笑いを噛み殺してるのが気になって訊いてみる。
そんな間抜けな顔をしてたか、十円禿げでもあるか。
「いや、当たり前なんだけど、同じ匂いがするなって」
「する?シャンプーしてる時あんまりわかんなかった」
「まあ全部俺のを使ってる訳だしな」
「トリートメントも使ったんだけどどお?さらさらしてる?」
「してるしてる、痛むからこれからも使いな」
「さらさらしてる方がいい?」
「撫で心地は良い方がいい」
撫で心地はいいとして、撫でられる回数が増えるなら……うちにもトリートメント買っておくかな……
単純なのでそんなことをすぐ考えてしまう。
「あ、えっと」
袖を捲った皇輝が帰ってくる。見慣れた姿なのにいちいち胸が鳴ってしまうのをやめたい。
心臓が持たない。あー、でも格好良いのはどれだけだって見たい。
「俺これがいい」
「あ、それも美味しそ」
「じゃあこれとこれでいい?」
「うん」
「じゃあ先風呂入ってきて、もうすぐ入れると思うし」
「えっ」
「えって」
「皇輝先に入りなよ」
「こういう時は客が先だよ、着替え出しとくから」
背中を押されて風呂に向かう。
皇輝の家は何度か泊まったことあるし、何人かで泊まったことも、僕だけで泊まったことだってある。
それは勿論ともだちとしてで、こうなってからの泊まりは意味が違う。風呂場で服を脱ぐだけで、見られてる訳ではないのにどきどきしてしまう。
どうしよう、ぴ、ぴっかぴかに躰、洗わなきゃ。
相変わらず綺麗な大きいお風呂だ。
足を伸ばせる広いバスタブ。
いいな、うちのもこれだったらいいのに。浸かってる時間が増えて母さん達にめちゃくちゃ怒られるかもしんないけど。
見たことないようなシャンプー類が並ぶ。
高そうなやつは多分おばさんのもの、だよな、どれを使ったらいいんだろう、色々な意味でおばさんのを使うのは気が引ける。
悩んでると、脱衣所に皇輝が着替えを持ってきたようで、ここに置いとくからな、と声を掛けられた。
ありがと、とお礼をいいつつ、どのシャンプー類を使っていいか扉越しに訊くと、下段のが俺の、と返事が返ってきた。
なるほど、一番上の色々置いてあるのがおばさんのもの、中段が恐らくおじさんの、下段が皇輝のものか。
うちなんて母さん以外は同じの使ってるぞ、金持ちは拘りが強い。
「これがシャンプー、で、こっちがトリートメント……トリートメント使ってるんだ」
思い返すと確かに皇輝はつやつやした綺麗な髪してるな、これもいいやつなんだろう。
ボディーソープすら見たことないやつだ。
ドラッグストアやスーパーで買ううちとは違うのだ。
まあいいけど。うちはうち、よそはよそ。
僕には特に拘りはないし。ただちょっとそわそわしちゃうのは、皇輝と同じものを使うということ。
シャンプーを手のひらに出して匂いをかいでみる。
うーん……直接かぐと皇輝と同じものだとわからないや。
でも流石お高いものだからか、洗い上がりはいい気がする。
ちゃっかりトリートメントまで済ませて、躰と顔も洗って、皇輝が入浴剤まで入れてくれたバスタブに浸かる。
あー……至れり尽くせりって感じ、気持ちいい~……
なんかいい香りが充満してて、お湯の温度も丁度良くて、もうこのまま寝ちゃいそー……
だめだめ、寝ちゃだめ。
あーでも気持ちいい、天国。お風呂から出たくなーい……
「あおー、まさか寝てないだろうな?」
「ひゃい!」
うつらうつらしてたところで声を掛けられてしまった。
皇輝にもお風呂で寝る癖を見破られている。
「あ、あとちょっとで上がるー」
「寝たら死ぬぞ、気をつけろよ」
「うん」
やばい、そんなに時間は経ってないと思うけど、流石に他人の家で長風呂はだめだ。
上がろう上がろう、次に皇輝も入る訳だし。名残惜しいけど。
「はー……気持ちかったあ」
用意されたタオルで躰を拭いて、用意された服に着替える。
新品の下着とかあるもんなんだな、うちに新品のパンツなんて常備してないぞ。
……皇輝のものなら嫌じゃないけど、余計なことばっかり考える羽目になりそうだから新品で有難い。
「こうきー、上がったあ」
「いや髪乾かしてこいよ」
「勝手に乾くし」
「学校では仕方ないけど家で位は乾かせよ、ただでさえ塩素でやられてる髪なんだから労りな」
「……禿げるかな」
「さあ」
笑いながらまた脱衣所に連れていかれた。
ドライヤーをしろということなのだろう、と思ったけど、まさかのドライヤーをかけられていた。
「あの……ドライヤー自分で出来るけど」
「いいじゃん、折角だしやらせてよ」
「皇輝がやりたいの?」
「やりたい」
素直に頷かれたもんだから、からかうことも出来ずに黙ってしまう。
子供みたいでちょっと恥ずかしいけど、でもまあ美容室とかでされると思えば、まあ……
「大丈夫?熱くない?」
「……ない」
皇輝の大きな手が僕の頭をわしゃわしゃしながら乾かしていくのが気持ちいい。
さっきまでうつらうつらしてたのもあって眠くなってしまう。
これなら毎日やってもらいたい。
「何笑ってんの……」
鏡に映ってる皇輝が笑いを噛み殺してるのが気になって訊いてみる。
そんな間抜けな顔をしてたか、十円禿げでもあるか。
「いや、当たり前なんだけど、同じ匂いがするなって」
「する?シャンプーしてる時あんまりわかんなかった」
「まあ全部俺のを使ってる訳だしな」
「トリートメントも使ったんだけどどお?さらさらしてる?」
「してるしてる、痛むからこれからも使いな」
「さらさらしてる方がいい?」
「撫で心地は良い方がいい」
撫で心地はいいとして、撫でられる回数が増えるなら……うちにもトリートメント買っておくかな……
単純なのでそんなことをすぐ考えてしまう。
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