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そう、思ったのに、皇輝は僕の腕を剥がしてゆく。
離れた体温が寂しくて、でも言葉に出来なくて、ただ涙を流した。
このまま離れたら、終わりな気がして。
もう一度腕を伸ばす。その腕をまたやんわり戻されて、あ、終わった、と思った。
「う、うう……うぇ、っ、ふ、ううう」
「泣くなって」
「いやだ、う、ごめん、っごめんなさい……」
「何がごめん?」
「すっ……すき、すきで、ごめ……ごめんなさっ、ぃい……」
そこまで言って、惨めになった。
なんですきになってごめんなんて言わなきゃいけないの。
皇輝が言わなきゃ、こんなこと、言わなくてすんだのに。
黙ってたのに。皇輝が言うから。あんなキスするから。
もしかしたら、もしかしたら受け入れて貰えるんじゃないかって、佐倉より、僕を選んでくれるんじゃないかって。
僕がぱっと王子様を思い出したように、皇輝も急に思い出してくれたんじゃないかって。
でも違う。わかる。皇輝はなにも思い出してない。
今皇輝の瞳にうつってるのは、人魚姫じゃなくて、僕だ。
だから僕を選ぶ筈がないんだ。
「うえっ、うう、ふっ……うああ……」
「ごめん、俺の方が悪かった、ごめん、碧」
「やだ、や、ききたくない、いやだ、ごめん、いやだ」
「碧、違う、佐倉のことで話がしたかった」
「いやだってばあ……ききたくないい」
「佐倉は」
「いや!」
なんで僕の話を聞いてくれないんだろう、枕を投げて、それでも僕を見る皇輝を腕を伸ばして押し退ける。
僕の力じゃ皇輝を退かすことなんて出来ないんだけど、何もしない訳にはいかなった。
だって足に力が入らなくて、自分が逃げることは出来なかった。
「俺がすきなのは碧だよ」
世界が静かになった気がする。
遠くでエアコンとトラックの音だけがした。
自分の泣き声も聞こえなくなって、かわりに、心臓の音が聞こえるような。
「うそ」
「嘘じゃないよ」
「だって、佐倉」
「その佐倉の話をしようとしてるのに聞いてくれないんじゃんか」
「……だって……だって……なんか、皇輝、最近、おかしくて……」
「……我慢出来なくなったんだよ」
「がまん……」
「毎日毎日毎日、俺がどういう気持ちでプールに浮く碧を見てたと思うの」
「へあ……」
間抜けな声が出た。
なんか、自分で思ってたことと、違うことばかりで……
僕も、皇輝も、どっちもおかしくなってしまったかのような。
「かわいいよ、ずっと。俺は、中学の頃から、ずっと碧がかわいい」
「えっ……え、」
「閉じ込めておきたいくらいかわいい、部活でもプールに入れたくないくらいかわいい」
「な、な……」
「ほんとは誰にも見せたくないけど、碧はプールに入らなきゃ死にそうだから」
「……っ」
「碧もずっと、俺のことすきでしょ」
「うう」
「それなのに俺に告ってくる女子の手伝いばっかりしてさ」
「……」
「自分から傷付きにいくなんてとんだドMだなって思うくらい」
「……どえむじゃない」
「痛いの嫌いだもんな?」
にっと笑いながら、僕の髪に触れてきた。
皇輝の大きな手が、あと少しで頬に当たる。髪じゃなくて、そっちに触れて欲しい。髪もいいけど、今は。
「……すきでいていいの」
「だめって言ってどうにかなるもんじゃないし。っていうか俺、碧のことすきだって言ったよな、碧も俺のことすきじゃないと困るんだけど」
「……」
「碧、俺のことすきだよね?」
「っ」
「返事は?」
「……すきっ」
「俺も」
「すき、すき、すき、ずっと、すきだった……!」
ずっと、ずっと、ずっと。
口になんて出せないと思ってた。
海で見た、あの日からずっと。
「すきだよお……」
「うん」
一回口に出すと、もう止まらなかった。何回言っても足りなくて、何回だって言ってほしかった。
皇輝が微笑んで、腕を開く。
少し躊躇って、それから、その腕に飛び込む。
飛び込んだ僕を、皇輝がぎゅっと抱き締めた。
嘘みたいだ、こんなことになるなんて思わなかった。
中学の頃からかわいいって言ってた。そんな前から?
どういうこと?わからなかった。
わからなかった。だって、皇輝が僕といるのは、世話を焼いてくれるのは、当たり前みたいになってたから。わからなかった。
こうやってくっついてたらもっと早くわかってたのかな。
心臓が早くなってるって。
「……っ、ふふ」
「なに笑ってんの」
「だって……皇輝、心臓どきどきしてる」
「……そりゃそうでしょ」
「え」
「碧と一緒だよ」
見上げると、すぐそこに皇輝の顔がある。
柔らかい、優しい笑顔だった。
……ずるい、ずるい、すきだ。
「うん、おんなじだ」
またぎゅうっと抱き着く。あったかい。皇輝のにおい。
心臓の音、大きな手、耳元に触れる息。
自分の心臓の音と、重なりそうで重ならなくて、だからすごくうるさい。
うるさいのに、嬉しい。
すごい、皇輝が僕のことすきなんだって。何年も。
嘘みたい。ちゃんと話を聞きたいんだけど、でも今は離れたくない。
聞いた方が安心するのはわかるんだけど、でも、それでも今はまだここに居たい。少しでも長くこうしていたい。
離れた体温が寂しくて、でも言葉に出来なくて、ただ涙を流した。
このまま離れたら、終わりな気がして。
もう一度腕を伸ばす。その腕をまたやんわり戻されて、あ、終わった、と思った。
「う、うう……うぇ、っ、ふ、ううう」
「泣くなって」
「いやだ、う、ごめん、っごめんなさい……」
「何がごめん?」
「すっ……すき、すきで、ごめ……ごめんなさっ、ぃい……」
そこまで言って、惨めになった。
なんですきになってごめんなんて言わなきゃいけないの。
皇輝が言わなきゃ、こんなこと、言わなくてすんだのに。
黙ってたのに。皇輝が言うから。あんなキスするから。
もしかしたら、もしかしたら受け入れて貰えるんじゃないかって、佐倉より、僕を選んでくれるんじゃないかって。
僕がぱっと王子様を思い出したように、皇輝も急に思い出してくれたんじゃないかって。
でも違う。わかる。皇輝はなにも思い出してない。
今皇輝の瞳にうつってるのは、人魚姫じゃなくて、僕だ。
だから僕を選ぶ筈がないんだ。
「うえっ、うう、ふっ……うああ……」
「ごめん、俺の方が悪かった、ごめん、碧」
「やだ、や、ききたくない、いやだ、ごめん、いやだ」
「碧、違う、佐倉のことで話がしたかった」
「いやだってばあ……ききたくないい」
「佐倉は」
「いや!」
なんで僕の話を聞いてくれないんだろう、枕を投げて、それでも僕を見る皇輝を腕を伸ばして押し退ける。
僕の力じゃ皇輝を退かすことなんて出来ないんだけど、何もしない訳にはいかなった。
だって足に力が入らなくて、自分が逃げることは出来なかった。
「俺がすきなのは碧だよ」
世界が静かになった気がする。
遠くでエアコンとトラックの音だけがした。
自分の泣き声も聞こえなくなって、かわりに、心臓の音が聞こえるような。
「うそ」
「嘘じゃないよ」
「だって、佐倉」
「その佐倉の話をしようとしてるのに聞いてくれないんじゃんか」
「……だって……だって……なんか、皇輝、最近、おかしくて……」
「……我慢出来なくなったんだよ」
「がまん……」
「毎日毎日毎日、俺がどういう気持ちでプールに浮く碧を見てたと思うの」
「へあ……」
間抜けな声が出た。
なんか、自分で思ってたことと、違うことばかりで……
僕も、皇輝も、どっちもおかしくなってしまったかのような。
「かわいいよ、ずっと。俺は、中学の頃から、ずっと碧がかわいい」
「えっ……え、」
「閉じ込めておきたいくらいかわいい、部活でもプールに入れたくないくらいかわいい」
「な、な……」
「ほんとは誰にも見せたくないけど、碧はプールに入らなきゃ死にそうだから」
「……っ」
「碧もずっと、俺のことすきでしょ」
「うう」
「それなのに俺に告ってくる女子の手伝いばっかりしてさ」
「……」
「自分から傷付きにいくなんてとんだドMだなって思うくらい」
「……どえむじゃない」
「痛いの嫌いだもんな?」
にっと笑いながら、僕の髪に触れてきた。
皇輝の大きな手が、あと少しで頬に当たる。髪じゃなくて、そっちに触れて欲しい。髪もいいけど、今は。
「……すきでいていいの」
「だめって言ってどうにかなるもんじゃないし。っていうか俺、碧のことすきだって言ったよな、碧も俺のことすきじゃないと困るんだけど」
「……」
「碧、俺のことすきだよね?」
「っ」
「返事は?」
「……すきっ」
「俺も」
「すき、すき、すき、ずっと、すきだった……!」
ずっと、ずっと、ずっと。
口になんて出せないと思ってた。
海で見た、あの日からずっと。
「すきだよお……」
「うん」
一回口に出すと、もう止まらなかった。何回言っても足りなくて、何回だって言ってほしかった。
皇輝が微笑んで、腕を開く。
少し躊躇って、それから、その腕に飛び込む。
飛び込んだ僕を、皇輝がぎゅっと抱き締めた。
嘘みたいだ、こんなことになるなんて思わなかった。
中学の頃からかわいいって言ってた。そんな前から?
どういうこと?わからなかった。
わからなかった。だって、皇輝が僕といるのは、世話を焼いてくれるのは、当たり前みたいになってたから。わからなかった。
こうやってくっついてたらもっと早くわかってたのかな。
心臓が早くなってるって。
「……っ、ふふ」
「なに笑ってんの」
「だって……皇輝、心臓どきどきしてる」
「……そりゃそうでしょ」
「え」
「碧と一緒だよ」
見上げると、すぐそこに皇輝の顔がある。
柔らかい、優しい笑顔だった。
……ずるい、ずるい、すきだ。
「うん、おんなじだ」
またぎゅうっと抱き着く。あったかい。皇輝のにおい。
心臓の音、大きな手、耳元に触れる息。
自分の心臓の音と、重なりそうで重ならなくて、だからすごくうるさい。
うるさいのに、嬉しい。
すごい、皇輝が僕のことすきなんだって。何年も。
嘘みたい。ちゃんと話を聞きたいんだけど、でも今は離れたくない。
聞いた方が安心するのはわかるんだけど、でも、それでも今はまだここに居たい。少しでも長くこうしていたい。
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