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このままじゃ自分がおかしくなる。
離れたい。皇輝から離れて、忘れてしまいたい。
相手が女子でも男子でもどっちでもいい、普通にすきになって、恋愛して、普通にしあわせになりたい。
こんなにただ苦しくて、絶望しかない未来ならいらない。
もう王子様とかどうでもいい。
前世に縛られる必要なんかない。
あの時会わなければ、気付かなければ、思い出さなければ良かったのに。
「……帰ってほしい」
「……」
「帰って」
「いやだ」
まさか嫌だと言われると思ってなくて、振り向いてしまった。
すぐ近くに、少し苛立ったような顔の皇輝が立っていて、びくっとしてしまう。
こんな近くにいると思わなかった。
「な、なんで」
「碧が話から逃げるから」
「はなし、って……」
「こないだ」
「……っ」
近い、近い近い、顔がくっつきそうなくらい近い。息が、当たる。
「こないだは良い感じだったじゃん」
「……は?」
「満更でもなさそうな顔してた」
「はあ!?」
何言ってんだ、いやだって言っただろ、記憶おかしくなってんのか!
そう思ったけど、もしかして、顔にちょっと出ちゃってたんだろうか、皇輝に触れられるのが、嬉しい、って。
「前から思ってたけど」
「……っ」
「碧、俺のことすきだよね」
心臓がばくばくする。
ばれた。
ばれてた。
僕が、皇輝のことが、すきだって。
人魚姫は王子様に愛を貰えないと海の泡になってしまう。
そこまで意識したことがなかった。
ばれないように、ばっかり気にしていたから。
どうしよう、逃げたい、逃げたい、逃げたい、聞きたくない。
お前なんかすきになるわけないだろ、男じゃん、気持ち悪いって、 そんなこと言われたら。
佐倉いるからって……
「碧」
「聞きたくないってば!」
「碧」
「うるさい帰っう……」
皇輝の大きな手が口を覆う。
嫌な汗が出てきた。
やばい、やばい、しぬ。泡になってしんじゃう。
いやだ、振られたくない。
こわい。
皇輝と一緒にいたい。
いやだ。
まだ聞きたくない。
いやだ、いやだ、お願い、言わないでほしい。
口を覆う手が剥がせなくて、自分の手で耳を覆う。
涙が出てるのがわかる。視界が滲んでるのも。
でもそれを拭うより、皇輝の言葉を聞く方がこわいから耳を塞ぎたい。
皇輝の口の動きと、耳を塞いでも聞こえる薄らとした声が、名前を呼んでるのがわかる。
嬉しかったのに。
皇輝が僕を呼んでくれるのが嬉しかった。
だってそれは、海にいた時から望んでたことだったから。
名前を告げることが出来なかった。だからずっと、名前を、本当の名前を呼んでもらいたかった。
だから、碧、と呼ばれる度、嬉しくて仕方なかった。
皇輝が僕の瞳を見て、僕の名前を呼んでる。
僕だって、わかってて呼んでる。
それなのに、僕はもうそれすら望んではいけなくなってしまうの?
「んう、うう……」
「碧」
「んん……」
「聞けって、碧」
いやだいやだいやだ、
首を振る僕に、とうとう口から手を離した皇輝は、今度は耳を塞ぐ両手を引き剥がしてきた。
「いや……」
大きな声で遮ろうとした瞬間、また塞がれてしまう。
……今度は皇輝の口で。
「……!?」
やわらかくて、あつい。
皇輝の息を感じる。
ただの、唇を合わせるだけのものじゃなくて、映画でみたような、舌が入ってくるやつ。
ぬるっとした感触にびっくりして、皇輝を突き飛ばしそうになったけど、ぎっちり掴まれた両腕がそうはさせなかった。
離れられない。でも噛むことも出来ない。
こんなの、こんなのだめだって……わかってる、のに、馬鹿だから……僕、馬鹿だから受け入れてしまった。
あつい、気持ちいい、頭がぼおっとする、皇輝の顔が近い、くちゅくちゅいう水音が恥ずかしい、気持ちいい、
皇輝とキスできたのが、嬉しい。
どれくらい唇を重ねていたのかはわからない。
長かった気がする。息が苦しくて、でもそんなのどうでもいいくらい気持ちよくて、もっと、もっとしてって思ってしまった。
このまま皇輝と溶けてしまいたい。もっと。やだ、もっとしてほしい。
「は、ぅ、はあ、や、おわり……?」
「まだしたい?」
「うん、うん……もっとお……」
「……素直じゃん」
両腕で解放されて、でももう突き飛ばすことなんかなくて、その腕を皇輝の背中に回した。
皇輝のシャツを掴む指先に力が入る。
頭と重ねた口に力は入らないのに、指先は皇輝を離さないよう必死だった。
前世では出来なかったキス。
お姫様としているところを見ることしか出来なかったキス。
溺れた時の人工呼吸はカウントに入らない。
だってこんな気持ちよくなかった。
こんな、どろどろになりそうになんか、ならなかった。
「ん、ぅ、あッ、ン……う、」
苦しい。苦しい。気持ちいい。頭に酸素、足りなくなってそう。
でもいい、もっと、もっとほしい。まだ、まだずっとしてて。
「んぁ……」
「碧、もうとろっとろなってる」
「や、まだ、もっと……」
「だめ、話しよう」
「やだ、聞きたくない、ききたくないよお」
「泣くなよ、碧が泣くの弱いの知ってるだろ」
「いやだ、もっとして、いや、やだ、はなれないで」
「あお」
何も考えたくない。かなしくなりたくない。
馬鹿になってもいい。もう他のひとに渡したくない。ずっとずっとくっついててほしい。
離れたい。皇輝から離れて、忘れてしまいたい。
相手が女子でも男子でもどっちでもいい、普通にすきになって、恋愛して、普通にしあわせになりたい。
こんなにただ苦しくて、絶望しかない未来ならいらない。
もう王子様とかどうでもいい。
前世に縛られる必要なんかない。
あの時会わなければ、気付かなければ、思い出さなければ良かったのに。
「……帰ってほしい」
「……」
「帰って」
「いやだ」
まさか嫌だと言われると思ってなくて、振り向いてしまった。
すぐ近くに、少し苛立ったような顔の皇輝が立っていて、びくっとしてしまう。
こんな近くにいると思わなかった。
「な、なんで」
「碧が話から逃げるから」
「はなし、って……」
「こないだ」
「……っ」
近い、近い近い、顔がくっつきそうなくらい近い。息が、当たる。
「こないだは良い感じだったじゃん」
「……は?」
「満更でもなさそうな顔してた」
「はあ!?」
何言ってんだ、いやだって言っただろ、記憶おかしくなってんのか!
そう思ったけど、もしかして、顔にちょっと出ちゃってたんだろうか、皇輝に触れられるのが、嬉しい、って。
「前から思ってたけど」
「……っ」
「碧、俺のことすきだよね」
心臓がばくばくする。
ばれた。
ばれてた。
僕が、皇輝のことが、すきだって。
人魚姫は王子様に愛を貰えないと海の泡になってしまう。
そこまで意識したことがなかった。
ばれないように、ばっかり気にしていたから。
どうしよう、逃げたい、逃げたい、逃げたい、聞きたくない。
お前なんかすきになるわけないだろ、男じゃん、気持ち悪いって、 そんなこと言われたら。
佐倉いるからって……
「碧」
「聞きたくないってば!」
「碧」
「うるさい帰っう……」
皇輝の大きな手が口を覆う。
嫌な汗が出てきた。
やばい、やばい、しぬ。泡になってしんじゃう。
いやだ、振られたくない。
こわい。
皇輝と一緒にいたい。
いやだ。
まだ聞きたくない。
いやだ、いやだ、お願い、言わないでほしい。
口を覆う手が剥がせなくて、自分の手で耳を覆う。
涙が出てるのがわかる。視界が滲んでるのも。
でもそれを拭うより、皇輝の言葉を聞く方がこわいから耳を塞ぎたい。
皇輝の口の動きと、耳を塞いでも聞こえる薄らとした声が、名前を呼んでるのがわかる。
嬉しかったのに。
皇輝が僕を呼んでくれるのが嬉しかった。
だってそれは、海にいた時から望んでたことだったから。
名前を告げることが出来なかった。だからずっと、名前を、本当の名前を呼んでもらいたかった。
だから、碧、と呼ばれる度、嬉しくて仕方なかった。
皇輝が僕の瞳を見て、僕の名前を呼んでる。
僕だって、わかってて呼んでる。
それなのに、僕はもうそれすら望んではいけなくなってしまうの?
「んう、うう……」
「碧」
「んん……」
「聞けって、碧」
いやだいやだいやだ、
首を振る僕に、とうとう口から手を離した皇輝は、今度は耳を塞ぐ両手を引き剥がしてきた。
「いや……」
大きな声で遮ろうとした瞬間、また塞がれてしまう。
……今度は皇輝の口で。
「……!?」
やわらかくて、あつい。
皇輝の息を感じる。
ただの、唇を合わせるだけのものじゃなくて、映画でみたような、舌が入ってくるやつ。
ぬるっとした感触にびっくりして、皇輝を突き飛ばしそうになったけど、ぎっちり掴まれた両腕がそうはさせなかった。
離れられない。でも噛むことも出来ない。
こんなの、こんなのだめだって……わかってる、のに、馬鹿だから……僕、馬鹿だから受け入れてしまった。
あつい、気持ちいい、頭がぼおっとする、皇輝の顔が近い、くちゅくちゅいう水音が恥ずかしい、気持ちいい、
皇輝とキスできたのが、嬉しい。
どれくらい唇を重ねていたのかはわからない。
長かった気がする。息が苦しくて、でもそんなのどうでもいいくらい気持ちよくて、もっと、もっとしてって思ってしまった。
このまま皇輝と溶けてしまいたい。もっと。やだ、もっとしてほしい。
「は、ぅ、はあ、や、おわり……?」
「まだしたい?」
「うん、うん……もっとお……」
「……素直じゃん」
両腕で解放されて、でももう突き飛ばすことなんかなくて、その腕を皇輝の背中に回した。
皇輝のシャツを掴む指先に力が入る。
頭と重ねた口に力は入らないのに、指先は皇輝を離さないよう必死だった。
前世では出来なかったキス。
お姫様としているところを見ることしか出来なかったキス。
溺れた時の人工呼吸はカウントに入らない。
だってこんな気持ちよくなかった。
こんな、どろどろになりそうになんか、ならなかった。
「ん、ぅ、あッ、ン……う、」
苦しい。苦しい。気持ちいい。頭に酸素、足りなくなってそう。
でもいい、もっと、もっとほしい。まだ、まだずっとしてて。
「んぁ……」
「碧、もうとろっとろなってる」
「や、まだ、もっと……」
「だめ、話しよう」
「やだ、聞きたくない、ききたくないよお」
「泣くなよ、碧が泣くの弱いの知ってるだろ」
「いやだ、もっとして、いや、やだ、はなれないで」
「あお」
何も考えたくない。かなしくなりたくない。
馬鹿になってもいい。もう他のひとに渡したくない。ずっとずっとくっついててほしい。
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