11 / 55
1
11
しおりを挟む
くっついたまま少し上を見ると、皇輝と目が合う。
ずっとどきどきしていた心臓が、これ以上おかしくなることなんかあるの、ってくらい早かったのに、まだぎゅっとなった気がした。
かっこいい、すき、またキスしたい、していいかな、してほしいな、
手を伸ばしたその瞬間、皇輝くーん!と階下から声が掛かった。
母さんだ。
「今日ご飯食べてくー?あと少しで出来るんだけどー!」
思わずびくっと離れてしまった僕をまた片腕で抱き寄せると、扉から顔だけ出して、今日はもう帰る、と返す皇輝。
母さんがすぐ近くにいるっていうのに、なんでまた抱き締めたんだ、と思うのに、もう頭ん中がお花畑になってしまった僕は嬉しい嬉しいとしか思えなかった。
「もう時間ないな、話、明日にしようか」
「……うん?」
「ごめん、帰るな」
「待って」
離れようとした皇輝を引き止める。
もう一回、もう一回だけ、
「もっかい……」
皇輝は驚いたような顔をして、それから少し意地悪い顔になった。
もっかい、何すんの、と訊かれて言い淀む。絶対わかってる。
絶対わかってるのに、僕に言わせる気だ。
言わなきゃしてくれない?
「さ、さっきの……」
「さっきの?」
「……くち」
「口が?」
「…………くっつけるやつ」
「……」
「皇輝?」
「……ごめん、そんな幼稚園児みたいな言い方されるとは思わなくて」
「だって!」
だって口にするのすっげー恥ずかしいなって気付いて。動いてしまった方が幾らかましだってくらい。
しょうがないじゃん、ずっとこういうの、無縁だったんだし。それも皇輝のせいだし。
「だめなら……」
「ごめんごめん、違う、碧がいつもそんなんだから……」
「……?」
「だから俺はずっと碧がかわいいんだよな」
顎を掬われて、固定されて、ちゅっちゅと軽く二回。
一瞬唇が離れて、あ、次、またあの、舌入ってくるやつ、と思ったら、そんなことはなく、もう一回唇が重なって、終わり、と言われた。
終わり?これだけ?あのふわふわなるやつやんないの?もう帰っちゃうの?
「碧、顔に出てる」
「へ」
「だめだよ、これ以上は俺も我慢出来ないし。下、おばさんたちいるし」
「あ」
「今度ね」
今度、という言葉に、どきっとした。
今度。
今度がある。
今度があるのかあ……
「う、うん……」
「ほら、下に降りる前にその顔どうにかして。おばさんたちにみせられない顔してる」
「ど、どんなかお……」
「真っ赤でとけてる」
「……」
「また明日」
碧はここでいいから、と皇輝は出て行った。
下の方で母さんと何か話してる声が聞こえる。
玄関の開いて、閉まる音。皇輝がうちから出て行った。
「はー……」
力が抜けて、しゃがみこんでしまう。
この十数分で、なんかどえらいことになってしまった気がする。
皇輝も僕のことがすきで……
まだ佐倉の話とか、ちゃんと出来てないけど、でも話してくれるって言ってたし……多分、大丈夫。
前世のことは思い出してないっぽいけど、もう寧ろ思い出してくれない方がいいのかもしれない。
僕が余計なことをしなければ、これはこれでハッピーエンドだ。
前世の人魚姫の恋は報われなくても、僕の恋は報われたのだ。
「……うそみたい」
時間が経つにつれ、さっきまでのことが僕の勝手な妄想ではないかという気持ちになってくる。
でも唇を触って、あの感触を思い出すと、いや妄想なんかじゃない、確かに触れたし、もっとすごいこともしてしまった、とそこまで思い出してじたばたしてしまう。
嬉しくて恥ずかしくて、しあわせで少しこわくって。
ひとりでにやにやして、泣きそうになって、でもやっぱりにやけちゃって。
頬が緩むってこんな感じなんだな、油断してるとにへっと笑っちゃう。
碧、ご飯!と母さんに呼ばれるまで部屋の中でずっと皇輝のことを考えてたし、夕飯中も、まだあんた熱あるんじゃないのと指摘する言葉にまた皇輝を思い出してたし、お風呂でだって鏡を見ながらついつい唇を触ってしまったりした。
……先日のプールのことだって大事件だったんだけど、キスよりもっとすごいことされたんだけど、それでもやっぱり、今日の方がもっと……もっと衝撃的だった。
寝る前にきた、おやすみ、だけの連絡が、前だってしたことはあるけど、だけど、今日の方がずっとずっと嬉しい。嬉しい。すき。
全部保存しておきたいくらい。
いや待てよ、中学の頃からってことは、昨日までの連絡にも、少しは好意が紛れてたりしない?
遡って読んでみる。わからん。
わからないんだけど、やっぱり皇輝が優しいのはわかった。
たまに嫌味や怒ったり、スルーされることもあったけど。
でも、これだけまめに連絡があるのはきっと僕だけだ。
黒川や塚山もだけど、女子達も連絡遅い、ないって言ってたっけ。
でも僕には結構口煩いくらい連絡あったんだよな、それってやっぱり僕と連絡取りたかったってことだよね。
……かわいいとこあんじゃん。
ふふふと笑ってしまう。皇輝本人はいないのに、なんか胸がきゅっとなって、でもなんだかあったかい気持ち。
これは余裕が出来たからなのかもなあ。
この日はスマホを握り締めたまま、寝落ちした。
ずっとどきどきしていた心臓が、これ以上おかしくなることなんかあるの、ってくらい早かったのに、まだぎゅっとなった気がした。
かっこいい、すき、またキスしたい、していいかな、してほしいな、
手を伸ばしたその瞬間、皇輝くーん!と階下から声が掛かった。
母さんだ。
「今日ご飯食べてくー?あと少しで出来るんだけどー!」
思わずびくっと離れてしまった僕をまた片腕で抱き寄せると、扉から顔だけ出して、今日はもう帰る、と返す皇輝。
母さんがすぐ近くにいるっていうのに、なんでまた抱き締めたんだ、と思うのに、もう頭ん中がお花畑になってしまった僕は嬉しい嬉しいとしか思えなかった。
「もう時間ないな、話、明日にしようか」
「……うん?」
「ごめん、帰るな」
「待って」
離れようとした皇輝を引き止める。
もう一回、もう一回だけ、
「もっかい……」
皇輝は驚いたような顔をして、それから少し意地悪い顔になった。
もっかい、何すんの、と訊かれて言い淀む。絶対わかってる。
絶対わかってるのに、僕に言わせる気だ。
言わなきゃしてくれない?
「さ、さっきの……」
「さっきの?」
「……くち」
「口が?」
「…………くっつけるやつ」
「……」
「皇輝?」
「……ごめん、そんな幼稚園児みたいな言い方されるとは思わなくて」
「だって!」
だって口にするのすっげー恥ずかしいなって気付いて。動いてしまった方が幾らかましだってくらい。
しょうがないじゃん、ずっとこういうの、無縁だったんだし。それも皇輝のせいだし。
「だめなら……」
「ごめんごめん、違う、碧がいつもそんなんだから……」
「……?」
「だから俺はずっと碧がかわいいんだよな」
顎を掬われて、固定されて、ちゅっちゅと軽く二回。
一瞬唇が離れて、あ、次、またあの、舌入ってくるやつ、と思ったら、そんなことはなく、もう一回唇が重なって、終わり、と言われた。
終わり?これだけ?あのふわふわなるやつやんないの?もう帰っちゃうの?
「碧、顔に出てる」
「へ」
「だめだよ、これ以上は俺も我慢出来ないし。下、おばさんたちいるし」
「あ」
「今度ね」
今度、という言葉に、どきっとした。
今度。
今度がある。
今度があるのかあ……
「う、うん……」
「ほら、下に降りる前にその顔どうにかして。おばさんたちにみせられない顔してる」
「ど、どんなかお……」
「真っ赤でとけてる」
「……」
「また明日」
碧はここでいいから、と皇輝は出て行った。
下の方で母さんと何か話してる声が聞こえる。
玄関の開いて、閉まる音。皇輝がうちから出て行った。
「はー……」
力が抜けて、しゃがみこんでしまう。
この十数分で、なんかどえらいことになってしまった気がする。
皇輝も僕のことがすきで……
まだ佐倉の話とか、ちゃんと出来てないけど、でも話してくれるって言ってたし……多分、大丈夫。
前世のことは思い出してないっぽいけど、もう寧ろ思い出してくれない方がいいのかもしれない。
僕が余計なことをしなければ、これはこれでハッピーエンドだ。
前世の人魚姫の恋は報われなくても、僕の恋は報われたのだ。
「……うそみたい」
時間が経つにつれ、さっきまでのことが僕の勝手な妄想ではないかという気持ちになってくる。
でも唇を触って、あの感触を思い出すと、いや妄想なんかじゃない、確かに触れたし、もっとすごいこともしてしまった、とそこまで思い出してじたばたしてしまう。
嬉しくて恥ずかしくて、しあわせで少しこわくって。
ひとりでにやにやして、泣きそうになって、でもやっぱりにやけちゃって。
頬が緩むってこんな感じなんだな、油断してるとにへっと笑っちゃう。
碧、ご飯!と母さんに呼ばれるまで部屋の中でずっと皇輝のことを考えてたし、夕飯中も、まだあんた熱あるんじゃないのと指摘する言葉にまた皇輝を思い出してたし、お風呂でだって鏡を見ながらついつい唇を触ってしまったりした。
……先日のプールのことだって大事件だったんだけど、キスよりもっとすごいことされたんだけど、それでもやっぱり、今日の方がもっと……もっと衝撃的だった。
寝る前にきた、おやすみ、だけの連絡が、前だってしたことはあるけど、だけど、今日の方がずっとずっと嬉しい。嬉しい。すき。
全部保存しておきたいくらい。
いや待てよ、中学の頃からってことは、昨日までの連絡にも、少しは好意が紛れてたりしない?
遡って読んでみる。わからん。
わからないんだけど、やっぱり皇輝が優しいのはわかった。
たまに嫌味や怒ったり、スルーされることもあったけど。
でも、これだけまめに連絡があるのはきっと僕だけだ。
黒川や塚山もだけど、女子達も連絡遅い、ないって言ってたっけ。
でも僕には結構口煩いくらい連絡あったんだよな、それってやっぱり僕と連絡取りたかったってことだよね。
……かわいいとこあんじゃん。
ふふふと笑ってしまう。皇輝本人はいないのに、なんか胸がきゅっとなって、でもなんだかあったかい気持ち。
これは余裕が出来たからなのかもなあ。
この日はスマホを握り締めたまま、寝落ちした。
14
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ボクの推しアイドルに会える方法
たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2)
学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。
そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。
攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる