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くっついたまま少し上を見ると、皇輝と目が合う。
ずっとどきどきしていた心臓が、これ以上おかしくなることなんかあるの、ってくらい早かったのに、まだぎゅっとなった気がした。
かっこいい、すき、またキスしたい、していいかな、してほしいな、
手を伸ばしたその瞬間、皇輝くーん!と階下から声が掛かった。
母さんだ。
「今日ご飯食べてくー?あと少しで出来るんだけどー!」
思わずびくっと離れてしまった僕をまた片腕で抱き寄せると、扉から顔だけ出して、今日はもう帰る、と返す皇輝。
母さんがすぐ近くにいるっていうのに、なんでまた抱き締めたんだ、と思うのに、もう頭ん中がお花畑になってしまった僕は嬉しい嬉しいとしか思えなかった。
「もう時間ないな、話、明日にしようか」
「……うん?」
「ごめん、帰るな」
「待って」
離れようとした皇輝を引き止める。
もう一回、もう一回だけ、
「もっかい……」
皇輝は驚いたような顔をして、それから少し意地悪い顔になった。
もっかい、何すんの、と訊かれて言い淀む。絶対わかってる。
絶対わかってるのに、僕に言わせる気だ。
言わなきゃしてくれない?
「さ、さっきの……」
「さっきの?」
「……くち」
「口が?」
「…………くっつけるやつ」
「……」
「皇輝?」
「……ごめん、そんな幼稚園児みたいな言い方されるとは思わなくて」
「だって!」
だって口にするのすっげー恥ずかしいなって気付いて。動いてしまった方が幾らかましだってくらい。
しょうがないじゃん、ずっとこういうの、無縁だったんだし。それも皇輝のせいだし。
「だめなら……」
「ごめんごめん、違う、碧がいつもそんなんだから……」
「……?」
「だから俺はずっと碧がかわいいんだよな」
顎を掬われて、固定されて、ちゅっちゅと軽く二回。
一瞬唇が離れて、あ、次、またあの、舌入ってくるやつ、と思ったら、そんなことはなく、もう一回唇が重なって、終わり、と言われた。
終わり?これだけ?あのふわふわなるやつやんないの?もう帰っちゃうの?
「碧、顔に出てる」
「へ」
「だめだよ、これ以上は俺も我慢出来ないし。下、おばさんたちいるし」
「あ」
「今度ね」
今度、という言葉に、どきっとした。
今度。
今度がある。
今度があるのかあ……
「う、うん……」
「ほら、下に降りる前にその顔どうにかして。おばさんたちにみせられない顔してる」
「ど、どんなかお……」
「真っ赤でとけてる」
「……」
「また明日」
碧はここでいいから、と皇輝は出て行った。
下の方で母さんと何か話してる声が聞こえる。
玄関の開いて、閉まる音。皇輝がうちから出て行った。
「はー……」
力が抜けて、しゃがみこんでしまう。
この十数分で、なんかどえらいことになってしまった気がする。
皇輝も僕のことがすきで……
まだ佐倉の話とか、ちゃんと出来てないけど、でも話してくれるって言ってたし……多分、大丈夫。
前世のことは思い出してないっぽいけど、もう寧ろ思い出してくれない方がいいのかもしれない。
僕が余計なことをしなければ、これはこれでハッピーエンドだ。
前世の人魚姫の恋は報われなくても、僕の恋は報われたのだ。
「……うそみたい」
時間が経つにつれ、さっきまでのことが僕の勝手な妄想ではないかという気持ちになってくる。
でも唇を触って、あの感触を思い出すと、いや妄想なんかじゃない、確かに触れたし、もっとすごいこともしてしまった、とそこまで思い出してじたばたしてしまう。
嬉しくて恥ずかしくて、しあわせで少しこわくって。
ひとりでにやにやして、泣きそうになって、でもやっぱりにやけちゃって。
頬が緩むってこんな感じなんだな、油断してるとにへっと笑っちゃう。
碧、ご飯!と母さんに呼ばれるまで部屋の中でずっと皇輝のことを考えてたし、夕飯中も、まだあんた熱あるんじゃないのと指摘する言葉にまた皇輝を思い出してたし、お風呂でだって鏡を見ながらついつい唇を触ってしまったりした。
……先日のプールのことだって大事件だったんだけど、キスよりもっとすごいことされたんだけど、それでもやっぱり、今日の方がもっと……もっと衝撃的だった。
寝る前にきた、おやすみ、だけの連絡が、前だってしたことはあるけど、だけど、今日の方がずっとずっと嬉しい。嬉しい。すき。
全部保存しておきたいくらい。
いや待てよ、中学の頃からってことは、昨日までの連絡にも、少しは好意が紛れてたりしない?
遡って読んでみる。わからん。
わからないんだけど、やっぱり皇輝が優しいのはわかった。
たまに嫌味や怒ったり、スルーされることもあったけど。
でも、これだけまめに連絡があるのはきっと僕だけだ。
黒川や塚山もだけど、女子達も連絡遅い、ないって言ってたっけ。
でも僕には結構口煩いくらい連絡あったんだよな、それってやっぱり僕と連絡取りたかったってことだよね。
……かわいいとこあんじゃん。
ふふふと笑ってしまう。皇輝本人はいないのに、なんか胸がきゅっとなって、でもなんだかあったかい気持ち。
これは余裕が出来たからなのかもなあ。
この日はスマホを握り締めたまま、寝落ちした。
ずっとどきどきしていた心臓が、これ以上おかしくなることなんかあるの、ってくらい早かったのに、まだぎゅっとなった気がした。
かっこいい、すき、またキスしたい、していいかな、してほしいな、
手を伸ばしたその瞬間、皇輝くーん!と階下から声が掛かった。
母さんだ。
「今日ご飯食べてくー?あと少しで出来るんだけどー!」
思わずびくっと離れてしまった僕をまた片腕で抱き寄せると、扉から顔だけ出して、今日はもう帰る、と返す皇輝。
母さんがすぐ近くにいるっていうのに、なんでまた抱き締めたんだ、と思うのに、もう頭ん中がお花畑になってしまった僕は嬉しい嬉しいとしか思えなかった。
「もう時間ないな、話、明日にしようか」
「……うん?」
「ごめん、帰るな」
「待って」
離れようとした皇輝を引き止める。
もう一回、もう一回だけ、
「もっかい……」
皇輝は驚いたような顔をして、それから少し意地悪い顔になった。
もっかい、何すんの、と訊かれて言い淀む。絶対わかってる。
絶対わかってるのに、僕に言わせる気だ。
言わなきゃしてくれない?
「さ、さっきの……」
「さっきの?」
「……くち」
「口が?」
「…………くっつけるやつ」
「……」
「皇輝?」
「……ごめん、そんな幼稚園児みたいな言い方されるとは思わなくて」
「だって!」
だって口にするのすっげー恥ずかしいなって気付いて。動いてしまった方が幾らかましだってくらい。
しょうがないじゃん、ずっとこういうの、無縁だったんだし。それも皇輝のせいだし。
「だめなら……」
「ごめんごめん、違う、碧がいつもそんなんだから……」
「……?」
「だから俺はずっと碧がかわいいんだよな」
顎を掬われて、固定されて、ちゅっちゅと軽く二回。
一瞬唇が離れて、あ、次、またあの、舌入ってくるやつ、と思ったら、そんなことはなく、もう一回唇が重なって、終わり、と言われた。
終わり?これだけ?あのふわふわなるやつやんないの?もう帰っちゃうの?
「碧、顔に出てる」
「へ」
「だめだよ、これ以上は俺も我慢出来ないし。下、おばさんたちいるし」
「あ」
「今度ね」
今度、という言葉に、どきっとした。
今度。
今度がある。
今度があるのかあ……
「う、うん……」
「ほら、下に降りる前にその顔どうにかして。おばさんたちにみせられない顔してる」
「ど、どんなかお……」
「真っ赤でとけてる」
「……」
「また明日」
碧はここでいいから、と皇輝は出て行った。
下の方で母さんと何か話してる声が聞こえる。
玄関の開いて、閉まる音。皇輝がうちから出て行った。
「はー……」
力が抜けて、しゃがみこんでしまう。
この十数分で、なんかどえらいことになってしまった気がする。
皇輝も僕のことがすきで……
まだ佐倉の話とか、ちゃんと出来てないけど、でも話してくれるって言ってたし……多分、大丈夫。
前世のことは思い出してないっぽいけど、もう寧ろ思い出してくれない方がいいのかもしれない。
僕が余計なことをしなければ、これはこれでハッピーエンドだ。
前世の人魚姫の恋は報われなくても、僕の恋は報われたのだ。
「……うそみたい」
時間が経つにつれ、さっきまでのことが僕の勝手な妄想ではないかという気持ちになってくる。
でも唇を触って、あの感触を思い出すと、いや妄想なんかじゃない、確かに触れたし、もっとすごいこともしてしまった、とそこまで思い出してじたばたしてしまう。
嬉しくて恥ずかしくて、しあわせで少しこわくって。
ひとりでにやにやして、泣きそうになって、でもやっぱりにやけちゃって。
頬が緩むってこんな感じなんだな、油断してるとにへっと笑っちゃう。
碧、ご飯!と母さんに呼ばれるまで部屋の中でずっと皇輝のことを考えてたし、夕飯中も、まだあんた熱あるんじゃないのと指摘する言葉にまた皇輝を思い出してたし、お風呂でだって鏡を見ながらついつい唇を触ってしまったりした。
……先日のプールのことだって大事件だったんだけど、キスよりもっとすごいことされたんだけど、それでもやっぱり、今日の方がもっと……もっと衝撃的だった。
寝る前にきた、おやすみ、だけの連絡が、前だってしたことはあるけど、だけど、今日の方がずっとずっと嬉しい。嬉しい。すき。
全部保存しておきたいくらい。
いや待てよ、中学の頃からってことは、昨日までの連絡にも、少しは好意が紛れてたりしない?
遡って読んでみる。わからん。
わからないんだけど、やっぱり皇輝が優しいのはわかった。
たまに嫌味や怒ったり、スルーされることもあったけど。
でも、これだけまめに連絡があるのはきっと僕だけだ。
黒川や塚山もだけど、女子達も連絡遅い、ないって言ってたっけ。
でも僕には結構口煩いくらい連絡あったんだよな、それってやっぱり僕と連絡取りたかったってことだよね。
……かわいいとこあんじゃん。
ふふふと笑ってしまう。皇輝本人はいないのに、なんか胸がきゅっとなって、でもなんだかあったかい気持ち。
これは余裕が出来たからなのかもなあ。
この日はスマホを握り締めたまま、寝落ちした。
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