月が導く異世界道中

あずみ 圭

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七章 蜃気楼都市小閑編

予期せぬ拝謁③裏

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 この世には死よりも恐ろしい事がある。
 死が如何なるものかを事前に知る事が出来ない以上、それよりも恐ろしい事なんて容易くは思い付かないだろう。
 しかしだ。
 こう例えたらどうだろうか。
 この世には裸よりも恥ずかしい事がある。
 うん、これなら簡単だ。
 裸は恥ずかしいし、どれくらい恥ずかしいかも当人にわかる。
 ちなみに僕は女装なんかは裸なみに恥ずかしいと感じる性質だ。
 え、それじゃあ裸より、じゃない?
 ウンソウダネ。
 僕にとって裸よりも恥ずかしい恰好というのは、今まさに僕が着ている、いや着させられてるこういうのを言うんだヨ。

「若様、素晴らしいです。惚れ直します、素敵です!」

「……よ、よろしいかと。ぶふっ、うふ、ふはっ。いえちと茶が気道の方にですな……っ……!」

 少し前になるけど、蜃気楼都市とクズノハ商会はその関係の曖昧さから陰謀に利用された。
 途中式は滅茶苦茶だったにせよ、奇跡的に蜃気楼都市とクズノハ商会の関係を正解に限りなく近い形で推理(こじつけとも言うけどね)され僕はそれなりに焦る羽目になったんだ。
 ひとまずは事なきを得たけれどこの一件で巴と澪、それに環がにんまりと悪だくみを思いついたようでさ。
 一人目曰く。
 そういえば若様とお呼びするからには御屋形様もいなくては落ち着きがよろしくありませんな。
 うろ覚えだけどさ、そもそも殿様とかご隠居とか元からかなり適当な選択肢から若様が選抜されたような記憶があるんだよね。前後なんてはなから考えてなかったでしょうよ。
 二人目曰く。
 ならば御屋形様は若様よりも凄くなくてはなりません。そう、以前リミアでお着替えになったのよりももっと凄くなくては!
 あれは僕の中でかなりの羞恥プレイだった。先輩もいたしね。いっそフルフェイスヘルメットに全裸の方がまだ……いやそれもどうかな。
 三人目曰く。
 確かに、当地の王が「若様」では国の格を疑われるやもしれません。では若様よりも色々とグレードアップしたオヤカタサマ? とやらを仕立てましょう。あ、一人称はどう致しましょう? いっそ麿とかオレとか朕なんていかがですか?
 有無を言わさぬ悪ノリぶりの環。巴と澪があらぬ方向に行こうとすると彼女は大概加速させる方向で煽る。
 何事も楽しむ性質タチなので、と実に良い顔をして言ってくれたもんだ。
 ……。
 コレに比べれば。
 リミアのフォー〇チックなアーマーはまだ良かった。
 何かやけにメタリックな輝きを放つ黒と金の鎧。
 鎧というからには戦闘を想定しているだろうに何の意味があるのか物凄く豪奢なマント。
 腰には使いもしない長剣がぶら下がってる。せめて弓が良かった……。
 単なる密着タイプとは違ってゴテゴテしてるからか普段の僕よりも一回りと少しサイズがボリュームアップしてるのに、これまた無駄に動きやすいハイスペック仕様。
 そうだね。
 本当にさ、これはさ……平成ライダー路線の最強フォーム的な奴ダヨネ。
 レンブラント姉妹の妹の方とか、ツィーゲの冒険者の一部ではジュウキ、とか言う名前で愛好されてるアレの亜種だ。
 よく好んでこれを着る。ある意味尊敬するぞ、ホント。
 僕としてはさっきからずっと、何度も思ってる通り。
 裸よりも恥ずかしい。
 これに尽きる。
 メイン製作者である澪だけが本気で心底から魅力的だと思ってて、巴は僕の愉快な仮装を心底楽しんでる感じだ。

「本気でこの姿で冒険者の前に出てくの?」

 ついこれからする事を聞き返してしまう。
 言ってて現実感が無い事この上ない。
 しかも一組はアルパイン、見知った相手ときた。
 巴たちを率いてここの王様、御屋形様(仮)として、それをやる。
 うおおおおおおおおおおおおお……何たる罰ゲーム。

「無論です。ヴェールに包まれた蜃気楼都市の王の姿をここらで一度見せておく。極めて利も多い手ですぞ」

「素性が全くわからないという意味ではこれまでと大して変わらないと思う」

 顔も声も体格もフェイクときちゃあなあ。

「ジュウキの頂点に立つ最高傑作の姿を、ツィーゲに知らせておくのも一興です。きっと面白い噂が次々出てきますわ!」

「だよね、オヤカタサマの存在と姿については口止めしないんだもんね……」

 面白さをそこまで求めてないんだ。
 ジュウキの頂点云々については、何か、おおそうなのかと納得しそうになる自分がいるのがヤダな。

「今回は至高のワンオフ作品という事でしたので私も存分に協力させて頂きました。これまでの様に若様にはデメリットばかりが目立つ物ではなく、使い様によってはそのコートよりも有用な場面も出てくるかと。澪さんが熱心に参考にしていましたとある仮〇ライダー平成作品の最強フォームであるゴールデンカイザーフォームクウをベースにしつつ特化性能も追求し具体的にはル〇ン、次〇、五〇衛門フォームを搭載、かつ澪さんには内緒で私的に気に入りました昭和世代BLACK、RXのスタイルも取り入れた全亜空住人の浪漫と協力、それに技術までもを詰め込んだ渾身の武具に仕上がって――」

「怖い怖い長い長い! 伏字は多いわ早口だわ熱量が右肩上がりだわ!」

 どこで息継ぎしてんだと問いたくなるような環の熱弁。
 平成最強フォームくらいしか頭に残ってないぞ!?

「落ち着け環。若、確かに見た目は冗談みたいじゃし和の要素など欠片ほどしかない無粋な玩具にも見えますがこれはこれで意外な事に亜空の全てが奇跡的に詰まった品でもあります。ご着用いただき皆の前に姿をお見せになる事は多くの意義がございます」

「わかってます。理解はしてるし納得もできてます。ほんの少しだけつっかえてるだけですー」

 なぜこれに亜空の住人が技術や浪漫をかけてしまったのか。
 これなら巨大ロボットのがマシだったかもしれない。

「亜空ランキングの上位陣には良い褒美になりますしね」

 環は少しだけ冷静になってうんうんと頷いている。
 確かに。
 今回は巴たち従者だけじゃなく、亜空ランキングの上位陣も一緒に従えて出ていく事になると聞いてる。
 楽しみにしてるって誰からも聞くもんな。
 露骨に悔しがってる人もかなりいた。
 ……やるしかないよなあ。
 そうだよなあ。
 じゃ、覚悟決めるか。

「……よし。じゃあ行こうか」

『はい!』

 良い返事が返ってくる。
 打てば響くとはこの事だ。

「ではランキング上位勢、入れ。一位セルゲイ! 二位――」

 巴が三位までの名前を呼び、そして間もなく三名が入室してくる。
 セル鯨さんの表情にも何とはなしに緊張が見て取れる。
 三者の誰も、この姿の僕に笑いもしなければ哀れみも向けない。
 それどころか畏敬や畏怖さえ混じらせた感嘆の視線で僕を見る。
 ……亜空の結晶か。
 なら、せめて僕も前向きな気持ちで着ないとな。
 くそ、覚悟どころか心底納得も出来てしまった。
 従者四名、ランキング上位陣三名を背に。
 僕は皆の前に歩を進めていった。

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