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七章 蜃気楼都市小閑編
予期せぬ拝謁③表
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アルパインとビルギットが円形闘技場の中央、今はレッドカーペットが敷かれ催事用であろう特設会場が組まれたところで立っている。
両パーティともどこか所在無げな様子だ。
一言二言小声で会話を交わすものの、客席は満員、外からも多数の気配を感じるこの状況。
当然ながら見世物扱いの視線が無遠慮に彼らに投げかけられている。
居心地が良くないのは当然である。
「見事なまでにヒューマンはいないわねぇ。蜃気楼都市、なるほど興味深くて楽しそうで……怖いとこね」
「連中がその気なら全滅は間違いなかろうしな。第一巴殿と澪殿がいる時点でどうしようもない、かはは」
「見直したぞハザル。やはりやる時はやる。私たちの目は間違っていなかったな」
「何が何だか、というのが本音ですけどね。あのレヴィってのは本来一人でもかなりの強敵でしょうから勝てた? のは結構な運もあったかと」
アルパインの方がやや余裕がある。
客席を見渡して呆れたように呟くリーダーでヒューマンのトア、応じつつ開き直って笑うドワーフのラニーナ。
肘で軽く、じゃれるように唯一の男性であるハザルを突くのはエルフのルイザ。
この都市ではヒューマンは圧倒的にマイナーな存在だと既に肌で感じてなおそこまでのアウェイ感は覚えていない。
元々ヒューマンと亜人の混成パーティであるというのも余裕の原因かもしれない。
一方のビルギットの方は完全にヒューマンだけで構成されるパーティ。
蜃気楼都市の滞在歴は長くともこれだけの亜人たちに囲まれた経験は当然なく、自分たちの実力で通用する相手の方が少ないと理解している。
万が一の事態を思えば余裕が失われるのも当然の反応かもしれない。
アルパインの傍らにはエルダードワーフのベレン。
ビルギットにはゴルゴンのレイシーが同行しているが、この両者もまた緊張に身を包んでいた。
「これだけの力ある者をまとめ上げる王とは、一体どのような……逃げたいような早く目にしたいような……不思議な気分だなアコス」
「馬鹿言うな、俺は一刻も早く逃げ出したい一択だよ。ビルよお、お前はやっぱ頭のどっかがぶっ壊れてんだよ」
「海王、あんなにいるの? いえ、ここに住人全てがいる訳じゃないのだからもっと? もしかしたら本当に、ツナを超えるような海の覇者が存在するのかな。なにそれ、た、滾るんですケド」
「ちっちゃくボソボソ何いってんのよギット。声も体もブルブル震えてるじゃないの。怖いのはわかるけどもっとシャキッとなさいな。どうせどうにもならないならせめて胸を張って自分らしく、が一番よ。上手に諦めなさい」
ビル、アコス、ギット、ラナイ。
彼らの中で唯一ラナイだけが他の三名とは違う境地でこの場に立っていた。
彼女は冒険者ではあるが、その視点は意外や広い。
女性として、ヒューマンとして、一個の生物として。
この場に立って本能的に色々な事を理解した、というのも一因だった。
あらゆる選択を考慮して、生きて帰るには相手の了解が必須だと悟っていた。
欲や感情、これまでの経験も実力も、そして美貌さえ。
意味を為さない、価値に繋がらない場所があるのだと彼女は知ったのだ。
道中で巴や澪の名を聞いた事も納得できる。
これだけの環境でトップに上り詰める存在ならば冒険者として破格のレベルであっても何ら不思議もない。
クズノハ商会についてもだ。
これだけの猛者が求める品を用立ててきた商会ならばツィーゲが求める品くらい廉価で提供しつつ利益を出す事も可能だろう。
「違い過ぎるの。そう、何もかもが違い過ぎる。これでは大人と幼児にすら……」
「どうしたラナイ?」
「……いえ、何でもないわビル。私たちは私たちに出来る事しかできない。冒険者になりたての頃には右から左に聞き流してた事が急にね、胸にすとんと落ちただけ」
「お前がすとんとしたまな板だというならギットはどうなる? あのなあラナイ、お前もう少し場の空気を読んで発言の内容をだな」
「ビルは、ある意味物凄くリーダー向きの性格をしているかもしれないわね」
「なんだいきなり」
「うん、死ね」
「!?」
「そだね、死んでいいんじゃないかな」
「!?!?」
別方向からギットがぼそりと。
「場は和んだけど石になればいいんじゃない?」
「!?!?!?」
何故かレイシーからも酷い言葉が冷たい視線と一緒に撃ち込まれる。
助けを求めるビルだがアコスは目を合わせてくれない。
あまりに器用な聞き間違いに呆れつつ、やはりまともな頭をしていないと納得している様子だった。
ちなみにラナイは一般的な感覚でも豊かな方、ギットはとてもスレンダーな方だ。
レイシーはラナイ寄りで、アコス曰く丁度良い理想の、らしい。
「解せん」
彼以外は全員理解できている事にビルが首を傾げた時。
「静粛に!」
凛とした美しい声が闘技場に響く。
『!!』
「これより御屋形様、巴様、澪様、識様、環様がお見えになる! 残念ながら若様はおられぬが、此度は日々の鍛錬の末闘技場のランキングに君臨するに至った上位者も御方々に侍る名誉を賜った!」
オオオオ、と地を揺らすような興奮の歓声が沸く。
静粛に、との女オークの言葉が忘れ去られるほどにその名誉とやらが凄い事なのだろうとビルは漠然と考えた。
「彼らを讃えよ! そして……存分に羨み、奮起し、目指しなさい!」
初めて会うオークの言葉にトアは感心していた。
言外に、妬み引きずりおろすのではなく己を研鑽し超えろと発破をかけている。
そして彼女の言葉に客席からは実に素直な歓声と反応が返ってきている。
権謀術数が存在しない組織などなかろうが、少なくとも戦士は理想的な姿勢で日々鍛えているんだろうと納得できる歓声の色だった。
歓声とおそらく足踏みと。
円形闘技場には異様なまでの熱気が渦巻き、高まっている。
そしてアルパインとビルギットがこの興奮に収拾などつくまいと半ば呆れ笑いを浮かべそうになった時。
「あと少しの間だけ、静粛になさい」
魔術で拡声こそすれ、大声でも怒鳴り声でもない静かな声が会場に響いた。
先ほどと同じ女のオークの声。
しかし魔力でもスキルでもない恐ろしいナニカが込められている、静かな声だった。
冒険者からは遠方に見える彼女は可愛らしく笑顔だ。
「エマがキレそうじゃぞ」
「片足分キレてます。怖いです」
ベレンとレイシーのひそひそ声。
二人が冷や汗を流しているのは冒険者たちから見ても貴重で、そして何故か納得できてしまっていた。
今の声にはそれだけの迫力があった。
案の定、会場は一瞬で静まり彼女の次句を待つばかりとなっている。
「ありがとう。恐らくこの後の興奮は私などではとても収められないでしょうから無理な事は言いません。ですがせめて方々を迎えるその瞬間だけはお静かに。アルパイン」
『!?』
突如名を呼ばれ視線を向けられトア達が緊張感を高める。
「そしてビルギット」
『!?』
「両パーティはそれぞれ八区のベレン、三区のレイシーより御屋形様に紹介をしていただきます」
エマと呼んでいたオークの言葉にベレンとレイシーが膝をつき頭を下げる。
言うまでもなく肯定しての所作だろう。
「お客様については無礼講、一切の礼儀を気にする必要は無いと御屋形様より言葉を授かっています。ただし。私もここにいる皆も、皆様の紳士的な言動に期待しております。よしなに」
ビジネスライクな笑顔から一層親しみある笑顔にスライドしたエマがアルパインとビルギットに言葉を向ける。
だがトアもビルも、他の面々も。
絶対にあの人目は笑ってない、と心の底で断言しつつ頷く。
表情などロクに確認もできない距離であるというのに、皆確信を持っていた。
前方、誰も座っていないエリアの中ほどに現れ話し出したエマがすっと横に退く。
彼女が背にしていた通路から方々というのが出てくるのだろうと冒険者の誰もが思っていた。
それは間違っていない。
少しばかりギミックが付け足されはしたが。
通路から下、闘技場のトアらが待つ場までの間が音もなく階段として変形し即座に二つのパーティのところまで真紅の絨毯が飛び出して敷かれていく。
闘技場の一部が組み変わる程度はまだ受け止められても、それが無音と思える程静かだと話が変わる。
客席の一部、ドワーフ達がどこかほっとした様子を見せた事に冷静であればトアやビルも気づいただろうが歓声から大分浮足立っていた為彼らはベレンにも多少見られたその様子に気付く事はなかった。
「あれは……確かジュウキとかって……そう、アレもここから」
「完成度が段違いだがな。私も戦士の道に進んだとはいえドワーフの端くれ、影すら踏めん匠の技の結晶とはああいうものか」
「巴サンに澪サンか。それにもう一人の男性も見覚えがある、確か識、という名だったかな。確か何度か店で見た」
「後は初めて見る方ばかりですね、人型の女性に大きな魚にオークですか。せめてレヴィでもいてくれたら少しは気が楽になったかな、はは……」
アルパインのメンバーが次々に姿を見せる蜃気楼都市の頂点にいるのだろう存在に感嘆のため息を漏らしながら目を離す事はなく小さいながらも言葉を紡ぐ。
これが戦場であれば王が先頭に立って登場する事などないのだろうが、今日この場では彼、或いは彼女が先頭に立って歩いてきた。
続いてアルパインにとっては見知った巴と澪、識。
そして見覚えのない女性一人に異形の戦士が二人。
もっとも巴と澪の表情はトアでさえ一度も見たことがない真剣なもので、普段見て知っている二人とは完全に別人であるかのように感じていたが。
「思ったよりも魔力は感じないな、あまりに強大な存在だと相対しただけで感知力が高いのは吐くらしいが、どうやらウチの二人は大丈夫らしい」
「ジュウキのオリジナル、か? 明らかにやべーやつだな。それに巴サンと澪サンもいる。これはもう……」
「ビル君は馬鹿で幸せだよねえ。ジュウキっていったら着用者の魔力を完全に封じちゃうんだよ? あれ着て私ら以上の魔力をしっかり感じさせる事がどんだけ異常かわかってないんだもんね。氷山の一角って知ってる? 知らないよねビル君は。幸せだよねえ、はぁ~」
「おかげで吐かないで済むのは事実だけどね。高貴で圧倒的で……え? 違う、もう一人いる。なに、凄く小さいアレ、妖精?」
ビルギットも近づいてくる異様なジュウキの着用者である、恐らくは王であろう人と付き従う者たちに圧倒されながら観察していた。
そして生命力を見る特殊な目を持つラナイが何気にスキルを発動させでもしたのか、他の皆が見えず気付かなかったもう一つの存在に気付く。
「違うぞヒューマンの女! 僕こそはアルエレメラを束ねし王だ!」
「!? え、王?」
突如目の前に出現した妖精らしき存在から放たれた言葉にラナイが混乱する。
王とは、あのジュウキで全身を守っている存在ではないのかと。
すると次の瞬間その妖精はラナイの目の前から消え彼女の顔を風が撫で、そして識の後ろに控えた女の右手の中に掴まれてぐったりしていた。
いつの間にか彼女の左手には鞭がある。
「寸劇は控えよ、御屋形様の御前である」
巴が口を開く。
怒りであれ呆れであれ、或いは喜びであれ緊張であれ。
仮面の付いたフルフェイスの兜を装備しているようなものだから御屋形様の表情はわからない。
ただ数歩、前に出た。
程よい距離だ。
すると識が何事かを呟く。
個人が腰かけるにはあまりに大きい椅子が地面からせり上がり、そして当然の様にジュウキを身に着けた者が腰を下ろした。
巴達が両脇に並び立つと、アルパインとビルギットはベレンとレイシーに倣うように自然と膝を付く。
ベレンが横にいるレイシーと目配せして顔を上げた。
「御屋形様、八区より二つの門を超えたるツィーゲの冒険者をご紹介致します。トア、ラニーナ、ルイザ、ハザル。かの都市で頂点に位置するパーティアルパインでございます」
ベレンに促されトア達が順に自己紹介と挨拶を述べていく。
作法や礼法は備えているとは言い難い様だったが、持つべき敬意はきちんと含めたそれは紳士的と呼べる挨拶だった。
一通り終わると御屋形様は大きく頷いて見せた。
次いでレイシーが立ち上がり顔を上げる。
「御屋形様、三区より親しき友たる冒険者をご紹介致します! ビル、アコス、ギット、ラナイ。ツィーゲの冒険者でありビルギットという名で活躍しております! ご報告いたしましたツキノワグリズリーを我らの求めに応じて鎮めてくれた者たちでございます!」
ベレンと違い、かなり上ずった興奮した様子で紹介するレイシー。
しかし最初の言葉からしてアルパインとの明確な違いがあり、ビルギットの面々はやや悔し気な顔を見せる。
もっとも促された後の挨拶はビルをはじめアルパインのお手本があったのもあって無事に済ませる事ができた。
同じく、御屋形様は彼らの挨拶を聞き終えると大きく頷いた。
「では……ハザルとやら」
「! は、はい!?」
「先ほどの戦いにて見せたあの魔獣、呼んでもらえるだろうか」
「あ、ええと。そのですね、実はあの戦いで初めて出会った次第でして……戦いの中断のドサクサで何処かへ消えてしまったのです」
「……ふむ」
それはもう焦った様子のハザル。
アルパインの面々も彼の言葉を肯定し頷いている。
御屋形様は巴と澪を見るも、彼女たちも訳が分からないとばかりに首を振っていた。
「そういうイレギュラーも、あるのか」
「? は、あのう」
「いや、こちらの話だ。では一方的に好かれて潜まれているという訳だな」
「潜まれて、ですか?」
意味が解らない、といった様子のハザル。
御屋形様はその様子に困ったものだとばかりに指でこめかみを触る。
「仕方ない。これが早かろう」
え、とハザルが思わず椅子に座る異形の王から視線を逸らし左側を見る。
唐突に直近で生まれた聞き慣れない音。
そこにはヒビがあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
しっかし無駄に渋いイケボだと思ってたら、これ鬼平様の声じゃあないか。
巴め、甲冑みたいなデザインは無いと思ってたらこんなところに趣味の要素をぶっこんでくるかね。
名優中村某の渋さと色気の両在するあの声を自分が放っているかと思うと荷が勝ちすぎる。
さてアルパインとビルギットに対面した僕だけど。
自己紹介もしてもらったしハザルの召喚したっていう魔獣について確認を先に済ませようと聞いてみたんだ。
巴と澪も気にしてたからね。
しかし帰ってきた返答は初めての事だったしよくわからないと。
……いるんだけどねえ、ハザルの肩辺りに。
透明化というよりも異空間に隠れてる感じ、なのかなこれ。
まあこっちの自己紹介も控えてるし、出てきてもらうのが手っ取りばやいか。
「仕方ない、これが早かろう」
若干御屋形様というかお頭様というかを意識しつつ宣言して、まだ新しい空間の綻びを割る。
気分は小動物が逃げ込んだ木のウロをかき回す感じだよ。
確かにでかかったけど、あのナリ、多分可愛らしいアレだもんな。
ええっと。
あ、いたな。
優しく、だけど確実に掴むと柔らかな毛に包まれた全身が大袈裟に震えた。
多少の罪悪感を抑えて魔力体の触手に捕縛された魔獣を手元まで移動させて姿を確認すると、やはり想像した通りの容姿だ。
だけど……となると亜空の獣って事になる。
なんだって亜空初日のアルパインに加勢したんだか。
『……』
アルパインとビルギットは僕のした事が珍しかったのか僕と突然何もない空間から出てきた小動物を交互に見て絶句している。
「ここの魔獣には特殊な隠れ方をする種もいる。まあ、気にせず楽にな」
返事はない。
うーん、気まずいな。
「で、どうして初対面の冒険者に味方するような真似を?」
とはいえこっちに時間をあまりかけたくもない。
本当に疑問に思っていた事をさっさと聞いてみる。
何故か僕に向けられる目が若干変わった気もするけど気にしない事にする。
『……この地には星を頼る者がいなかった、から』
「星を頼る者か。ああ、そうか惑星とか衛星じゃなくもっと曖昧に星なのか」
月の力は一応何度か使ってるけどそれはカウントしてくれてないらしい。
『星の力、ボクが好むのは星座を扱う力を持つ術士なの』
「星座……ああ! 成程!」
『彼からは星の力を自在に扱わんとする強い意志と可能性の匂いがした。だからボクは我が種である星海モモンガの本能であの星詠術士に助力し、彼と召喚の契約を交わしたんだ』
「つまり――」
『挨拶くらいはしておかないとって――』
傍目にはキュイキュイ言ってるネズミもどきの魔獣と至近距離で頷き合ってるシュールな絵面だ。
空で巨大化し膜を広げる事で下の影になった空間をハザルの扱う星関係の術を強化、補助したりできるとか。
普段は小さい身体で省エネに過ごせる事とか、仲間は見かけた事ないけど自分の役割がいわゆる使い魔の様なものである事とか。
色々な情報を聞けた。
つまりこいつは、僕と巴の亜空に混じった女神の世界寄りの存在……いや始まりの冒険者のスキルで生まれた特殊な生物である可能性が高いんじゃなかろうか。
ハザルの現在のジョブは確か星術士だか星詠みだか。
使うスキルには地球の夜空前提の名称スキルが沢山あるらしい。
女神の世界の空には黄道十二星座なんて無いから、このモモンガ型の魔獣はこれまであっちの世界には存在しなかったのかも?
いやだからといって僕らの亜空に混じる理由もよくわからないし、何なんだろうな。
相当強い存在みたいで、格でいうなら狼のボスや岩鳥なんかと同格っぽい気がするのも……。
「……ん、大方はわかった。しかしそうなるとハザルのスキルは先ほどの戦闘で見せた威力の方が素という事か……」
『!?』
僕の呟きにアルパインが大きく反応を見せる。
ハザルなんか目を見開いてるよ。
「同行したいか。ん、気持ちはわかるぞ。しかし二つ返事は難しい。悪いようにはせんがしばし保留で頼む、星海モモンガよ」
コクコクと頷いて甲高く鳴くモモンガ。
実際の鳴き声はどうなのか知らないけど中々可愛らしい。
当面僕の肩に置いておくとして、待たせてしまっているこちらの自己紹介をしてしまおう。
僕はまあ御屋形様って存在で通せばいいや。
「さて、予定外の出来事は片付いた。待たせて済まなかったな。両パーティの誠実な自己紹介、確かに聞かせてもらった。次はこちらの番だな。既に察しがついているものも多いだろうが……私がここの主だ。君たちには御屋形様と認識してもらえればそれで良い。この奇妙に見えるかもしれん鎧は私の身を案じて我が臣民たちが全力を持って作り上げてくれた傑作でな。このままでの挨拶は許して欲しい。さて、ではまず私が最も頼りとする腹心たちを紹介しよう。まずは……巴」
「はっ!!」
僕の言葉に巴が威勢よく声を上げて前に出る。
「我が第一の従者で、巴という。ここでも一、二を争う実力者で頭も良い。縁ある者にやらせているクズノハ商会でも幹部として働いてもらっているからツィーゲの街で見かけた者もいるかもしれないな」
「アルパインの面々とはそれなりに面識がございます。多少の手ほどきをした事も」
トア達は大きく頷いて巴に感謝の視線を投げかけている。
「聞いている。優れた冒険者の育成までこなす、つい頼りたくなってしまう主泣かせの忠臣だ。澪」
「はい!」
「彼女がその巴と双璧を為す存在、澪だ。同じくクズノハ商会の手伝いもさせているから面識がある冒険者も多いと思う」
巴の照れた感じを見て、あのまま放置すると話がまた脱線しそうな予感があったから早々に澪の紹介に移る。
「ええ、皆顔くらいは見た事がある冒険者たちです。少し前はトア達と戯れもしましたわ」
「ツィーゲで見る未知の食材に興味津々の料理人としての側面も持っている。宴でも彼女に料理を任せておけば失望する事などない。よく尽くしてくれる、これまた私にはもったいない程の忠臣だな」
「そんな……」
「続いて識」
「はい」
「彼は魔術と学芸、知識に優れる私が頼りとしている頭脳だ。もちろんクズノハ商会にも協力させている。冒険者よりも商人との関わりの方が強い従者だが……ここでは五指に入る戦闘能力も有している。強さというものはあって困るものではない。彼はその体現者でもあるな」
「恐れ入ります。ビルギットの皆さんとは言葉を交わした事がありませんでしたね。識と申します、以後よろしくお願い致します」
頭を下げてみせる識。
意外と意地悪な事をする。
案の定ビルギットは困惑しているし、圧倒されている。
腰を折り頭を下げているのに、識が大きく威圧的に見えているんだろうな。
「……さて、従者としては最後の一人となる、環」
「はい」
「彼女はクズノハ商会とも関わりなくツィーゲにも出向いた事がない。おそらく皆初対面だろう。この地における信仰のまとめ役、とでも言おうか。様々な種族が共存するこの都市において彼女は識と共に縁の下の力持ちとしてよく尽くしてくれている」
「勿体ないお言葉ですオヤカタサマ」
……。
なんか、あざとい。
忠誠心ばっちりの態度でありながら、どこかこう毒も匂わせる。
特に何かするでもなく、ただ悪ふざけの余興でやるのが環らしくもある。
「以上が私が最も頼りとする従者たちだ。さて……ラナイ」
「! え、は、はい!」
確か特殊な目を持ってる娘だったな。
聞いた限りだとライフバーが見える的な特殊能力。
ヒーラーには願ったりな力だよな。
そして一番驚いたのは彼女のジョブだ。
ここに来るようになってビルギットのリーダーであるビルはローニンからケンカク、そしてケンゴウにクラスアップしていった。
元々ユニークジョブだった早熟なギットという女冒険者以外は何度かクラスアップしていて、槍使いの彼は確かロイヤルガードを経てパトリオットスピアなる槍専門のジョブになったとか。
そしてユニークではないものにレア職だったビショップシエスタだったこのラナイは、今は何とも……僕、日本人にとって面白い名前のジョブになっている。
ブラックナース、だ。
後で彼女には教える予定だけど、非常に優秀な回復能力と敵能力の減衰ができる純ヒーラーにしてデバッファーである。
ただし。
とある幾つかの条件をクリアした衣装を身に纏った場合のみ、である。
久々にローレルのアズノワールさんに聞いてみたら爆笑して大興奮してた。
六夜さんにトアがトビカトウになった事を伝えた時に近い。
悪運が強い女性らしいけど、ブラックナース……どうなんだろうか。
「この場は闘技場である」
「? はい」
「普段はこの都市を守る戦士たちが日々鍛錬の成果を示し切磋琢磨する特別な場だ」
「……はい」
「先ほど紹介した従者たちは皆、この闘技場で滅多に戦う事無く、かつ戦士たちの上にいる存在だが。是非君たちに紹介したい。これは私のわがままだ。この闘技場で位を競い優れた戦士足ろうと力を尽くす猛者たち、その中でも今現在トップスリーに名を連ねる者らだ」
「いずれも、素晴らしい力を備えた方々なのですね」
ラナイはいきなり自分に話を振られた理由がわからず当たり障りなく答えている感じだ。
理由なんてブラックナースだったから不憫で、ってだけの何でもないものだ。申し訳ない。
「うむ。少しの間私の自慢に付き合ってほしい」
僕の鎧に色々な視線を向けてきていた客席の皆が、控えている三名に意識を向ける。
順番が来た、と思ったんだろう。
もしかしたら僕からの感謝も少しは心に響いてくれたかもしれない。
だったら、こんなに嬉しい事はない。
「いえ光栄です」
「感謝する。ランキング一位、海王セル鯨!」
「はっ!!」
「日々の研鑽、見事だ。陸での戦闘を強いられる中、それでも偉大なる海王の長たる存在として確かな力を示してくれた」
「アルパインなる冒険者の恐るべき実力を見てからでは私などまだまだでございます。以後も戦士として恥ずかしくない様努力を重ねて参ります!」
「頼りにしている」
「!」
「次……ランキング二位、アルエレメラ、ラインハルト!」
「! はーいっ!!」
「アルエレメラ最強の名は確かなもの、実に強大な魔術の嵐を展開して小さき身体をものともせぬ素晴らしき戦士である事をよく示した」
「まぁ王様にも僕らの本当の力ってのをちゃんと見せておきたかったもの! ねえ、それよりその鎧すっげーかっこいいよ! 僕らでも着られるのを作ってほしいな! あとさあとさ! ラインハルトって名前超かっこよくない!? どうどうどう!?」
「……環」
アルエレメラは通常運転だなあと嵐のようなトークに身を任せていたら、そこそこ不機嫌な巴の声がして環の鞭が唸った。
ぴゅんぴゅん飛び回っていた自称ラインハルトは再び環の手の中に戻っていった。強制なる物理的に。
何故かな。
ジエルやレイシーはともかく、アルパインとビルギットもほっとした様子になってるのは。
初対面だろうに。
「ランキング三位、ハイランドオーク、アガレス!」
「応!」
おっと。
凄く気合の入った返事が返ってきました。
アガレス、超頑張ったもんな。
意外と正統派のパワーファイターってだけだと今の亜空ランキングは苦戦する事が多い。
強くてタフで硬いってのは相手取ると厄介なんだけど、搦め手が限られる分対戦相手のトリッキーさに翻弄されてしまうケースも増えていく。
特に自分と同格やそれ以上の相手と戦えばね。
格上相手に番狂わせを起こすのも難しい。
ただただ強く、タフに、硬く、を少しずつ少しずつ追及していくしかない求道のスタイルともいえる。
僕は好きだよ?
今回はアルエレメラに負けた事でエマからも叱られて自分の不甲斐なさにも怒りを覚えてと、アガレスにしてはかなり落ち込んだと聞いている。
「胸を張れ。間違いなく素晴らしい成果を残したからこそお前はここにいる。種族最強の戦士として堂々と戦うその姿は後に続く戦士たちが見習うべきものだ。だからそう気負うな、ランキング三位アガレス」
「一層の鍛錬をもって鍛え直して参ります! この場で直接のお言葉をいただいた事、一生忘れません!」
「……期待している」
真面目すぎるのが玉に瑕であり、最大の長所でもあるアガレス。
元々は一位争いをしていた彼だけに三位で今日こうして紹介されるのが本意ではないのもわかる。
エマがなあ、アルエレメラにきついもんだから一個上にそれがいる事でアガレスににこにこプレッシャーかけてそうなんだよなあ。
後でエマに一言いっておこう……。
「とまあ、私自慢の戦士たちだ。ここで戦い、序列を得た者は冒険者諸君からすると、そうだな門番などもランカーが務める名誉ある職だ」
「! 御屋形様、一つ、よろしいでしょうか!」
「ビル、か。なんだ?」
「私どもが挑んだ門番はその序列では何位の者が務めるのでしょうか!」
「一つ目の門だったか」
「……はい」
「それに限っては当番制だ。ランカーは配置されない」
「!!」
「そちらのアルパインが挑み超えてみせた第二の門からランキング三十番台から選抜される」
「!!」
冒険者たちがわかりやすく動揺している。
ちなみに第三が二十番台、第四が十番台、最後の第五が一桁ランカー担当。
そこまでぶち抜いてくる人と御屋形様が対面、個人的な付き合いも始めるって感じらしい。
生きてる間にそんな人出てくるのかと思ってたけど、アルパインは意外と到達するかもしれない。
スキュラのレヴィは調子の波が激しいけれど二十番台に入った事あるわけで。
ハルカさんにぼこぼこにされてまだスランプにいるとはいえそのレヴィが乱入してきても勝ってるんだもんな。
巴と澪が見極めておくべきと判断するのもわかる。
「ひとまず、これでお互いの紹介は終了だな。どうだろう、興味深い力を持つ冒険者たちよ。折角の闘技場だ、少しばかり君たちの力を私に見せてはくれないか」
この鎧の多少のテストにもなる。
案の定何を言ってるんだこのイケボの王様は、という反応が全員から返ってくるが気にしない。
ケンゴウのスキルやらハザルのスキルの神髄やら肩に乗って借りてきた猫みたく大人しくなってるモモンガの実態やら。
明らかにしておきたい事、結構あるからね。
ただの挨拶だけじゃ終わらせないよ?
両パーティともどこか所在無げな様子だ。
一言二言小声で会話を交わすものの、客席は満員、外からも多数の気配を感じるこの状況。
当然ながら見世物扱いの視線が無遠慮に彼らに投げかけられている。
居心地が良くないのは当然である。
「見事なまでにヒューマンはいないわねぇ。蜃気楼都市、なるほど興味深くて楽しそうで……怖いとこね」
「連中がその気なら全滅は間違いなかろうしな。第一巴殿と澪殿がいる時点でどうしようもない、かはは」
「見直したぞハザル。やはりやる時はやる。私たちの目は間違っていなかったな」
「何が何だか、というのが本音ですけどね。あのレヴィってのは本来一人でもかなりの強敵でしょうから勝てた? のは結構な運もあったかと」
アルパインの方がやや余裕がある。
客席を見渡して呆れたように呟くリーダーでヒューマンのトア、応じつつ開き直って笑うドワーフのラニーナ。
肘で軽く、じゃれるように唯一の男性であるハザルを突くのはエルフのルイザ。
この都市ではヒューマンは圧倒的にマイナーな存在だと既に肌で感じてなおそこまでのアウェイ感は覚えていない。
元々ヒューマンと亜人の混成パーティであるというのも余裕の原因かもしれない。
一方のビルギットの方は完全にヒューマンだけで構成されるパーティ。
蜃気楼都市の滞在歴は長くともこれだけの亜人たちに囲まれた経験は当然なく、自分たちの実力で通用する相手の方が少ないと理解している。
万が一の事態を思えば余裕が失われるのも当然の反応かもしれない。
アルパインの傍らにはエルダードワーフのベレン。
ビルギットにはゴルゴンのレイシーが同行しているが、この両者もまた緊張に身を包んでいた。
「これだけの力ある者をまとめ上げる王とは、一体どのような……逃げたいような早く目にしたいような……不思議な気分だなアコス」
「馬鹿言うな、俺は一刻も早く逃げ出したい一択だよ。ビルよお、お前はやっぱ頭のどっかがぶっ壊れてんだよ」
「海王、あんなにいるの? いえ、ここに住人全てがいる訳じゃないのだからもっと? もしかしたら本当に、ツナを超えるような海の覇者が存在するのかな。なにそれ、た、滾るんですケド」
「ちっちゃくボソボソ何いってんのよギット。声も体もブルブル震えてるじゃないの。怖いのはわかるけどもっとシャキッとなさいな。どうせどうにもならないならせめて胸を張って自分らしく、が一番よ。上手に諦めなさい」
ビル、アコス、ギット、ラナイ。
彼らの中で唯一ラナイだけが他の三名とは違う境地でこの場に立っていた。
彼女は冒険者ではあるが、その視点は意外や広い。
女性として、ヒューマンとして、一個の生物として。
この場に立って本能的に色々な事を理解した、というのも一因だった。
あらゆる選択を考慮して、生きて帰るには相手の了解が必須だと悟っていた。
欲や感情、これまでの経験も実力も、そして美貌さえ。
意味を為さない、価値に繋がらない場所があるのだと彼女は知ったのだ。
道中で巴や澪の名を聞いた事も納得できる。
これだけの環境でトップに上り詰める存在ならば冒険者として破格のレベルであっても何ら不思議もない。
クズノハ商会についてもだ。
これだけの猛者が求める品を用立ててきた商会ならばツィーゲが求める品くらい廉価で提供しつつ利益を出す事も可能だろう。
「違い過ぎるの。そう、何もかもが違い過ぎる。これでは大人と幼児にすら……」
「どうしたラナイ?」
「……いえ、何でもないわビル。私たちは私たちに出来る事しかできない。冒険者になりたての頃には右から左に聞き流してた事が急にね、胸にすとんと落ちただけ」
「お前がすとんとしたまな板だというならギットはどうなる? あのなあラナイ、お前もう少し場の空気を読んで発言の内容をだな」
「ビルは、ある意味物凄くリーダー向きの性格をしているかもしれないわね」
「なんだいきなり」
「うん、死ね」
「!?」
「そだね、死んでいいんじゃないかな」
「!?!?」
別方向からギットがぼそりと。
「場は和んだけど石になればいいんじゃない?」
「!?!?!?」
何故かレイシーからも酷い言葉が冷たい視線と一緒に撃ち込まれる。
助けを求めるビルだがアコスは目を合わせてくれない。
あまりに器用な聞き間違いに呆れつつ、やはりまともな頭をしていないと納得している様子だった。
ちなみにラナイは一般的な感覚でも豊かな方、ギットはとてもスレンダーな方だ。
レイシーはラナイ寄りで、アコス曰く丁度良い理想の、らしい。
「解せん」
彼以外は全員理解できている事にビルが首を傾げた時。
「静粛に!」
凛とした美しい声が闘技場に響く。
『!!』
「これより御屋形様、巴様、澪様、識様、環様がお見えになる! 残念ながら若様はおられぬが、此度は日々の鍛錬の末闘技場のランキングに君臨するに至った上位者も御方々に侍る名誉を賜った!」
オオオオ、と地を揺らすような興奮の歓声が沸く。
静粛に、との女オークの言葉が忘れ去られるほどにその名誉とやらが凄い事なのだろうとビルは漠然と考えた。
「彼らを讃えよ! そして……存分に羨み、奮起し、目指しなさい!」
初めて会うオークの言葉にトアは感心していた。
言外に、妬み引きずりおろすのではなく己を研鑽し超えろと発破をかけている。
そして彼女の言葉に客席からは実に素直な歓声と反応が返ってきている。
権謀術数が存在しない組織などなかろうが、少なくとも戦士は理想的な姿勢で日々鍛えているんだろうと納得できる歓声の色だった。
歓声とおそらく足踏みと。
円形闘技場には異様なまでの熱気が渦巻き、高まっている。
そしてアルパインとビルギットがこの興奮に収拾などつくまいと半ば呆れ笑いを浮かべそうになった時。
「あと少しの間だけ、静粛になさい」
魔術で拡声こそすれ、大声でも怒鳴り声でもない静かな声が会場に響いた。
先ほどと同じ女のオークの声。
しかし魔力でもスキルでもない恐ろしいナニカが込められている、静かな声だった。
冒険者からは遠方に見える彼女は可愛らしく笑顔だ。
「エマがキレそうじゃぞ」
「片足分キレてます。怖いです」
ベレンとレイシーのひそひそ声。
二人が冷や汗を流しているのは冒険者たちから見ても貴重で、そして何故か納得できてしまっていた。
今の声にはそれだけの迫力があった。
案の定、会場は一瞬で静まり彼女の次句を待つばかりとなっている。
「ありがとう。恐らくこの後の興奮は私などではとても収められないでしょうから無理な事は言いません。ですがせめて方々を迎えるその瞬間だけはお静かに。アルパイン」
『!?』
突如名を呼ばれ視線を向けられトア達が緊張感を高める。
「そしてビルギット」
『!?』
「両パーティはそれぞれ八区のベレン、三区のレイシーより御屋形様に紹介をしていただきます」
エマと呼んでいたオークの言葉にベレンとレイシーが膝をつき頭を下げる。
言うまでもなく肯定しての所作だろう。
「お客様については無礼講、一切の礼儀を気にする必要は無いと御屋形様より言葉を授かっています。ただし。私もここにいる皆も、皆様の紳士的な言動に期待しております。よしなに」
ビジネスライクな笑顔から一層親しみある笑顔にスライドしたエマがアルパインとビルギットに言葉を向ける。
だがトアもビルも、他の面々も。
絶対にあの人目は笑ってない、と心の底で断言しつつ頷く。
表情などロクに確認もできない距離であるというのに、皆確信を持っていた。
前方、誰も座っていないエリアの中ほどに現れ話し出したエマがすっと横に退く。
彼女が背にしていた通路から方々というのが出てくるのだろうと冒険者の誰もが思っていた。
それは間違っていない。
少しばかりギミックが付け足されはしたが。
通路から下、闘技場のトアらが待つ場までの間が音もなく階段として変形し即座に二つのパーティのところまで真紅の絨毯が飛び出して敷かれていく。
闘技場の一部が組み変わる程度はまだ受け止められても、それが無音と思える程静かだと話が変わる。
客席の一部、ドワーフ達がどこかほっとした様子を見せた事に冷静であればトアやビルも気づいただろうが歓声から大分浮足立っていた為彼らはベレンにも多少見られたその様子に気付く事はなかった。
「あれは……確かジュウキとかって……そう、アレもここから」
「完成度が段違いだがな。私も戦士の道に進んだとはいえドワーフの端くれ、影すら踏めん匠の技の結晶とはああいうものか」
「巴サンに澪サンか。それにもう一人の男性も見覚えがある、確か識、という名だったかな。確か何度か店で見た」
「後は初めて見る方ばかりですね、人型の女性に大きな魚にオークですか。せめてレヴィでもいてくれたら少しは気が楽になったかな、はは……」
アルパインのメンバーが次々に姿を見せる蜃気楼都市の頂点にいるのだろう存在に感嘆のため息を漏らしながら目を離す事はなく小さいながらも言葉を紡ぐ。
これが戦場であれば王が先頭に立って登場する事などないのだろうが、今日この場では彼、或いは彼女が先頭に立って歩いてきた。
続いてアルパインにとっては見知った巴と澪、識。
そして見覚えのない女性一人に異形の戦士が二人。
もっとも巴と澪の表情はトアでさえ一度も見たことがない真剣なもので、普段見て知っている二人とは完全に別人であるかのように感じていたが。
「思ったよりも魔力は感じないな、あまりに強大な存在だと相対しただけで感知力が高いのは吐くらしいが、どうやらウチの二人は大丈夫らしい」
「ジュウキのオリジナル、か? 明らかにやべーやつだな。それに巴サンと澪サンもいる。これはもう……」
「ビル君は馬鹿で幸せだよねえ。ジュウキっていったら着用者の魔力を完全に封じちゃうんだよ? あれ着て私ら以上の魔力をしっかり感じさせる事がどんだけ異常かわかってないんだもんね。氷山の一角って知ってる? 知らないよねビル君は。幸せだよねえ、はぁ~」
「おかげで吐かないで済むのは事実だけどね。高貴で圧倒的で……え? 違う、もう一人いる。なに、凄く小さいアレ、妖精?」
ビルギットも近づいてくる異様なジュウキの着用者である、恐らくは王であろう人と付き従う者たちに圧倒されながら観察していた。
そして生命力を見る特殊な目を持つラナイが何気にスキルを発動させでもしたのか、他の皆が見えず気付かなかったもう一つの存在に気付く。
「違うぞヒューマンの女! 僕こそはアルエレメラを束ねし王だ!」
「!? え、王?」
突如目の前に出現した妖精らしき存在から放たれた言葉にラナイが混乱する。
王とは、あのジュウキで全身を守っている存在ではないのかと。
すると次の瞬間その妖精はラナイの目の前から消え彼女の顔を風が撫で、そして識の後ろに控えた女の右手の中に掴まれてぐったりしていた。
いつの間にか彼女の左手には鞭がある。
「寸劇は控えよ、御屋形様の御前である」
巴が口を開く。
怒りであれ呆れであれ、或いは喜びであれ緊張であれ。
仮面の付いたフルフェイスの兜を装備しているようなものだから御屋形様の表情はわからない。
ただ数歩、前に出た。
程よい距離だ。
すると識が何事かを呟く。
個人が腰かけるにはあまりに大きい椅子が地面からせり上がり、そして当然の様にジュウキを身に着けた者が腰を下ろした。
巴達が両脇に並び立つと、アルパインとビルギットはベレンとレイシーに倣うように自然と膝を付く。
ベレンが横にいるレイシーと目配せして顔を上げた。
「御屋形様、八区より二つの門を超えたるツィーゲの冒険者をご紹介致します。トア、ラニーナ、ルイザ、ハザル。かの都市で頂点に位置するパーティアルパインでございます」
ベレンに促されトア達が順に自己紹介と挨拶を述べていく。
作法や礼法は備えているとは言い難い様だったが、持つべき敬意はきちんと含めたそれは紳士的と呼べる挨拶だった。
一通り終わると御屋形様は大きく頷いて見せた。
次いでレイシーが立ち上がり顔を上げる。
「御屋形様、三区より親しき友たる冒険者をご紹介致します! ビル、アコス、ギット、ラナイ。ツィーゲの冒険者でありビルギットという名で活躍しております! ご報告いたしましたツキノワグリズリーを我らの求めに応じて鎮めてくれた者たちでございます!」
ベレンと違い、かなり上ずった興奮した様子で紹介するレイシー。
しかし最初の言葉からしてアルパインとの明確な違いがあり、ビルギットの面々はやや悔し気な顔を見せる。
もっとも促された後の挨拶はビルをはじめアルパインのお手本があったのもあって無事に済ませる事ができた。
同じく、御屋形様は彼らの挨拶を聞き終えると大きく頷いた。
「では……ハザルとやら」
「! は、はい!?」
「先ほどの戦いにて見せたあの魔獣、呼んでもらえるだろうか」
「あ、ええと。そのですね、実はあの戦いで初めて出会った次第でして……戦いの中断のドサクサで何処かへ消えてしまったのです」
「……ふむ」
それはもう焦った様子のハザル。
アルパインの面々も彼の言葉を肯定し頷いている。
御屋形様は巴と澪を見るも、彼女たちも訳が分からないとばかりに首を振っていた。
「そういうイレギュラーも、あるのか」
「? は、あのう」
「いや、こちらの話だ。では一方的に好かれて潜まれているという訳だな」
「潜まれて、ですか?」
意味が解らない、といった様子のハザル。
御屋形様はその様子に困ったものだとばかりに指でこめかみを触る。
「仕方ない。これが早かろう」
え、とハザルが思わず椅子に座る異形の王から視線を逸らし左側を見る。
唐突に直近で生まれた聞き慣れない音。
そこにはヒビがあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
しっかし無駄に渋いイケボだと思ってたら、これ鬼平様の声じゃあないか。
巴め、甲冑みたいなデザインは無いと思ってたらこんなところに趣味の要素をぶっこんでくるかね。
名優中村某の渋さと色気の両在するあの声を自分が放っているかと思うと荷が勝ちすぎる。
さてアルパインとビルギットに対面した僕だけど。
自己紹介もしてもらったしハザルの召喚したっていう魔獣について確認を先に済ませようと聞いてみたんだ。
巴と澪も気にしてたからね。
しかし帰ってきた返答は初めての事だったしよくわからないと。
……いるんだけどねえ、ハザルの肩辺りに。
透明化というよりも異空間に隠れてる感じ、なのかなこれ。
まあこっちの自己紹介も控えてるし、出てきてもらうのが手っ取りばやいか。
「仕方ない、これが早かろう」
若干御屋形様というかお頭様というかを意識しつつ宣言して、まだ新しい空間の綻びを割る。
気分は小動物が逃げ込んだ木のウロをかき回す感じだよ。
確かにでかかったけど、あのナリ、多分可愛らしいアレだもんな。
ええっと。
あ、いたな。
優しく、だけど確実に掴むと柔らかな毛に包まれた全身が大袈裟に震えた。
多少の罪悪感を抑えて魔力体の触手に捕縛された魔獣を手元まで移動させて姿を確認すると、やはり想像した通りの容姿だ。
だけど……となると亜空の獣って事になる。
なんだって亜空初日のアルパインに加勢したんだか。
『……』
アルパインとビルギットは僕のした事が珍しかったのか僕と突然何もない空間から出てきた小動物を交互に見て絶句している。
「ここの魔獣には特殊な隠れ方をする種もいる。まあ、気にせず楽にな」
返事はない。
うーん、気まずいな。
「で、どうして初対面の冒険者に味方するような真似を?」
とはいえこっちに時間をあまりかけたくもない。
本当に疑問に思っていた事をさっさと聞いてみる。
何故か僕に向けられる目が若干変わった気もするけど気にしない事にする。
『……この地には星を頼る者がいなかった、から』
「星を頼る者か。ああ、そうか惑星とか衛星じゃなくもっと曖昧に星なのか」
月の力は一応何度か使ってるけどそれはカウントしてくれてないらしい。
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「星座……ああ! 成程!」
『彼からは星の力を自在に扱わんとする強い意志と可能性の匂いがした。だからボクは我が種である星海モモンガの本能であの星詠術士に助力し、彼と召喚の契約を交わしたんだ』
「つまり――」
『挨拶くらいはしておかないとって――』
傍目にはキュイキュイ言ってるネズミもどきの魔獣と至近距離で頷き合ってるシュールな絵面だ。
空で巨大化し膜を広げる事で下の影になった空間をハザルの扱う星関係の術を強化、補助したりできるとか。
普段は小さい身体で省エネに過ごせる事とか、仲間は見かけた事ないけど自分の役割がいわゆる使い魔の様なものである事とか。
色々な情報を聞けた。
つまりこいつは、僕と巴の亜空に混じった女神の世界寄りの存在……いや始まりの冒険者のスキルで生まれた特殊な生物である可能性が高いんじゃなかろうか。
ハザルの現在のジョブは確か星術士だか星詠みだか。
使うスキルには地球の夜空前提の名称スキルが沢山あるらしい。
女神の世界の空には黄道十二星座なんて無いから、このモモンガ型の魔獣はこれまであっちの世界には存在しなかったのかも?
いやだからといって僕らの亜空に混じる理由もよくわからないし、何なんだろうな。
相当強い存在みたいで、格でいうなら狼のボスや岩鳥なんかと同格っぽい気がするのも……。
「……ん、大方はわかった。しかしそうなるとハザルのスキルは先ほどの戦闘で見せた威力の方が素という事か……」
『!?』
僕の呟きにアルパインが大きく反応を見せる。
ハザルなんか目を見開いてるよ。
「同行したいか。ん、気持ちはわかるぞ。しかし二つ返事は難しい。悪いようにはせんがしばし保留で頼む、星海モモンガよ」
コクコクと頷いて甲高く鳴くモモンガ。
実際の鳴き声はどうなのか知らないけど中々可愛らしい。
当面僕の肩に置いておくとして、待たせてしまっているこちらの自己紹介をしてしまおう。
僕はまあ御屋形様って存在で通せばいいや。
「さて、予定外の出来事は片付いた。待たせて済まなかったな。両パーティの誠実な自己紹介、確かに聞かせてもらった。次はこちらの番だな。既に察しがついているものも多いだろうが……私がここの主だ。君たちには御屋形様と認識してもらえればそれで良い。この奇妙に見えるかもしれん鎧は私の身を案じて我が臣民たちが全力を持って作り上げてくれた傑作でな。このままでの挨拶は許して欲しい。さて、ではまず私が最も頼りとする腹心たちを紹介しよう。まずは……巴」
「はっ!!」
僕の言葉に巴が威勢よく声を上げて前に出る。
「我が第一の従者で、巴という。ここでも一、二を争う実力者で頭も良い。縁ある者にやらせているクズノハ商会でも幹部として働いてもらっているからツィーゲの街で見かけた者もいるかもしれないな」
「アルパインの面々とはそれなりに面識がございます。多少の手ほどきをした事も」
トア達は大きく頷いて巴に感謝の視線を投げかけている。
「聞いている。優れた冒険者の育成までこなす、つい頼りたくなってしまう主泣かせの忠臣だ。澪」
「はい!」
「彼女がその巴と双璧を為す存在、澪だ。同じくクズノハ商会の手伝いもさせているから面識がある冒険者も多いと思う」
巴の照れた感じを見て、あのまま放置すると話がまた脱線しそうな予感があったから早々に澪の紹介に移る。
「ええ、皆顔くらいは見た事がある冒険者たちです。少し前はトア達と戯れもしましたわ」
「ツィーゲで見る未知の食材に興味津々の料理人としての側面も持っている。宴でも彼女に料理を任せておけば失望する事などない。よく尽くしてくれる、これまた私にはもったいない程の忠臣だな」
「そんな……」
「続いて識」
「はい」
「彼は魔術と学芸、知識に優れる私が頼りとしている頭脳だ。もちろんクズノハ商会にも協力させている。冒険者よりも商人との関わりの方が強い従者だが……ここでは五指に入る戦闘能力も有している。強さというものはあって困るものではない。彼はその体現者でもあるな」
「恐れ入ります。ビルギットの皆さんとは言葉を交わした事がありませんでしたね。識と申します、以後よろしくお願い致します」
頭を下げてみせる識。
意外と意地悪な事をする。
案の定ビルギットは困惑しているし、圧倒されている。
腰を折り頭を下げているのに、識が大きく威圧的に見えているんだろうな。
「……さて、従者としては最後の一人となる、環」
「はい」
「彼女はクズノハ商会とも関わりなくツィーゲにも出向いた事がない。おそらく皆初対面だろう。この地における信仰のまとめ役、とでも言おうか。様々な種族が共存するこの都市において彼女は識と共に縁の下の力持ちとしてよく尽くしてくれている」
「勿体ないお言葉ですオヤカタサマ」
……。
なんか、あざとい。
忠誠心ばっちりの態度でありながら、どこかこう毒も匂わせる。
特に何かするでもなく、ただ悪ふざけの余興でやるのが環らしくもある。
「以上が私が最も頼りとする従者たちだ。さて……ラナイ」
「! え、は、はい!」
確か特殊な目を持ってる娘だったな。
聞いた限りだとライフバーが見える的な特殊能力。
ヒーラーには願ったりな力だよな。
そして一番驚いたのは彼女のジョブだ。
ここに来るようになってビルギットのリーダーであるビルはローニンからケンカク、そしてケンゴウにクラスアップしていった。
元々ユニークジョブだった早熟なギットという女冒険者以外は何度かクラスアップしていて、槍使いの彼は確かロイヤルガードを経てパトリオットスピアなる槍専門のジョブになったとか。
そしてユニークではないものにレア職だったビショップシエスタだったこのラナイは、今は何とも……僕、日本人にとって面白い名前のジョブになっている。
ブラックナース、だ。
後で彼女には教える予定だけど、非常に優秀な回復能力と敵能力の減衰ができる純ヒーラーにしてデバッファーである。
ただし。
とある幾つかの条件をクリアした衣装を身に纏った場合のみ、である。
久々にローレルのアズノワールさんに聞いてみたら爆笑して大興奮してた。
六夜さんにトアがトビカトウになった事を伝えた時に近い。
悪運が強い女性らしいけど、ブラックナース……どうなんだろうか。
「この場は闘技場である」
「? はい」
「普段はこの都市を守る戦士たちが日々鍛錬の成果を示し切磋琢磨する特別な場だ」
「……はい」
「先ほど紹介した従者たちは皆、この闘技場で滅多に戦う事無く、かつ戦士たちの上にいる存在だが。是非君たちに紹介したい。これは私のわがままだ。この闘技場で位を競い優れた戦士足ろうと力を尽くす猛者たち、その中でも今現在トップスリーに名を連ねる者らだ」
「いずれも、素晴らしい力を備えた方々なのですね」
ラナイはいきなり自分に話を振られた理由がわからず当たり障りなく答えている感じだ。
理由なんてブラックナースだったから不憫で、ってだけの何でもないものだ。申し訳ない。
「うむ。少しの間私の自慢に付き合ってほしい」
僕の鎧に色々な視線を向けてきていた客席の皆が、控えている三名に意識を向ける。
順番が来た、と思ったんだろう。
もしかしたら僕からの感謝も少しは心に響いてくれたかもしれない。
だったら、こんなに嬉しい事はない。
「いえ光栄です」
「感謝する。ランキング一位、海王セル鯨!」
「はっ!!」
「日々の研鑽、見事だ。陸での戦闘を強いられる中、それでも偉大なる海王の長たる存在として確かな力を示してくれた」
「アルパインなる冒険者の恐るべき実力を見てからでは私などまだまだでございます。以後も戦士として恥ずかしくない様努力を重ねて参ります!」
「頼りにしている」
「!」
「次……ランキング二位、アルエレメラ、ラインハルト!」
「! はーいっ!!」
「アルエレメラ最強の名は確かなもの、実に強大な魔術の嵐を展開して小さき身体をものともせぬ素晴らしき戦士である事をよく示した」
「まぁ王様にも僕らの本当の力ってのをちゃんと見せておきたかったもの! ねえ、それよりその鎧すっげーかっこいいよ! 僕らでも着られるのを作ってほしいな! あとさあとさ! ラインハルトって名前超かっこよくない!? どうどうどう!?」
「……環」
アルエレメラは通常運転だなあと嵐のようなトークに身を任せていたら、そこそこ不機嫌な巴の声がして環の鞭が唸った。
ぴゅんぴゅん飛び回っていた自称ラインハルトは再び環の手の中に戻っていった。強制なる物理的に。
何故かな。
ジエルやレイシーはともかく、アルパインとビルギットもほっとした様子になってるのは。
初対面だろうに。
「ランキング三位、ハイランドオーク、アガレス!」
「応!」
おっと。
凄く気合の入った返事が返ってきました。
アガレス、超頑張ったもんな。
意外と正統派のパワーファイターってだけだと今の亜空ランキングは苦戦する事が多い。
強くてタフで硬いってのは相手取ると厄介なんだけど、搦め手が限られる分対戦相手のトリッキーさに翻弄されてしまうケースも増えていく。
特に自分と同格やそれ以上の相手と戦えばね。
格上相手に番狂わせを起こすのも難しい。
ただただ強く、タフに、硬く、を少しずつ少しずつ追及していくしかない求道のスタイルともいえる。
僕は好きだよ?
今回はアルエレメラに負けた事でエマからも叱られて自分の不甲斐なさにも怒りを覚えてと、アガレスにしてはかなり落ち込んだと聞いている。
「胸を張れ。間違いなく素晴らしい成果を残したからこそお前はここにいる。種族最強の戦士として堂々と戦うその姿は後に続く戦士たちが見習うべきものだ。だからそう気負うな、ランキング三位アガレス」
「一層の鍛錬をもって鍛え直して参ります! この場で直接のお言葉をいただいた事、一生忘れません!」
「……期待している」
真面目すぎるのが玉に瑕であり、最大の長所でもあるアガレス。
元々は一位争いをしていた彼だけに三位で今日こうして紹介されるのが本意ではないのもわかる。
エマがなあ、アルエレメラにきついもんだから一個上にそれがいる事でアガレスににこにこプレッシャーかけてそうなんだよなあ。
後でエマに一言いっておこう……。
「とまあ、私自慢の戦士たちだ。ここで戦い、序列を得た者は冒険者諸君からすると、そうだな門番などもランカーが務める名誉ある職だ」
「! 御屋形様、一つ、よろしいでしょうか!」
「ビル、か。なんだ?」
「私どもが挑んだ門番はその序列では何位の者が務めるのでしょうか!」
「一つ目の門だったか」
「……はい」
「それに限っては当番制だ。ランカーは配置されない」
「!!」
「そちらのアルパインが挑み超えてみせた第二の門からランキング三十番台から選抜される」
「!!」
冒険者たちがわかりやすく動揺している。
ちなみに第三が二十番台、第四が十番台、最後の第五が一桁ランカー担当。
そこまでぶち抜いてくる人と御屋形様が対面、個人的な付き合いも始めるって感じらしい。
生きてる間にそんな人出てくるのかと思ってたけど、アルパインは意外と到達するかもしれない。
スキュラのレヴィは調子の波が激しいけれど二十番台に入った事あるわけで。
ハルカさんにぼこぼこにされてまだスランプにいるとはいえそのレヴィが乱入してきても勝ってるんだもんな。
巴と澪が見極めておくべきと判断するのもわかる。
「ひとまず、これでお互いの紹介は終了だな。どうだろう、興味深い力を持つ冒険者たちよ。折角の闘技場だ、少しばかり君たちの力を私に見せてはくれないか」
この鎧の多少のテストにもなる。
案の定何を言ってるんだこのイケボの王様は、という反応が全員から返ってくるが気にしない。
ケンゴウのスキルやらハザルのスキルの神髄やら肩に乗って借りてきた猫みたく大人しくなってるモモンガの実態やら。
明らかにしておきたい事、結構あるからね。
ただの挨拶だけじゃ終わらせないよ?
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