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水竜(賽川)の小さな小さな復讐
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賽川はおでん屋台で先に呑みながら龍生のことを待っていた。
今日、理知から「おとぉさんがおじさんとお外でお話したいって」と言われたからだ。
外で話がしたいということは、理知に聞かれたくない話だろう。
まさか、自分が理知に邪な思いを抱いていることがバレたか。それとも、龍生もあの頃の記憶を思い出したのか。
前者だったらどう言い訳をしようかと思い悩みながら大根に箸を入れたとき、龍生が暖簾から顔を出した。
「お待たせしました」
「よお、先にいただいてるぜ」
龍生は席に付くと、この屋台で一番安いこんにゃくを頼んだ。
賽川が酒を勧めるも遠慮する。
「で、なんだよ話って」
「っ…」
内心ドキドキしながら賽川は龍生の口が開くのを待った。
「…あの、賽川さん…申し訳ないんですが…」
「おう…」
「今月の借金、2万ほど待ってください!」
「………あ?」
予想外のお願いに賽川の肩の力が抜ける。
「なんだよ、何か入り用でもあるのか?」
まだ言うほど月日は経っていないが、今まで耳を揃えてきちんと返済していたのに。
少し残念そうに聞いてきた賽川に龍生は申し訳なさそうに答えた。
「それが…、理知にランドセルを買ってやりたいんです…」
「…ああ、もうそんな時期か」
理知ももうすぐ小学生になる。
理知越しにリィリを見てきたつもりでいた賽川だったが、あの理知が着実に成長している事実を目の当たりにして思わず感慨に耽ってしまった。
「正直、自治会からおさがりのランドセルを貰えるんですが…理知には今まで色々と我慢させて来てるんで…。もちろん!その2万分また利息を付けてもらって構いません!だからどうか今月だけは!」
「あーあー、とにかくそのでけぇ声どうにかしろ。道行く人がめちゃくちゃ見てきて恥ずかしいだろうが」
「あ、すみません…」
大人しく座り直すも懇願の瞳でこちらをガン見してくる龍生に賽川は思いを巡らせた。
そして良いことを思い付いた。
「龍生、借金は毎月きっちり返してもらう」
「っ…」
「だが、お前の気持ちも良くわかる」
理知は母親が病弱で、亡くなる前からずっと我慢していたに違いない。
それが母親が亡くなってからは父親も兄も借金を返すために働き詰めで更に我慢をしている。
そんな理知を喜ばせるために龍生が新しいランドセルを理知に買ってあげたい気持ちは賽川にも充分理解出来た。
だからこそ、弱味に付け入れることが出来ることも。
「だから俺が個人的に買ってやるよ、理知のランドセル」
「えっ!いいんですか?!」
「ああ。その代わり、理知とランドセルを買いに行くのは俺だ。お前は家で指咥えて待ってろ」
「え…」
賽川からの突然の提案に龍生が狼狽える。
その表情を見た賽川は口角を上げ畳み掛けた。
「そういやランドセルだけじゃなく入学式の時の服も買ってやんねぇとな。ああいう服って一回しか着ねぇのに高ぇよなぁ。2万円じゃとても足りねぇ…それも出してやるよ」
「さ、賽川さん…?」
「ランドセルも服もちゃんと試着しないとぁ…。後あれだ、写真屋でちゃんとした写真も撮ってやんねぇと可哀想だよな?」
「賽川さんあんた…」
「残念だったなぁ龍生。理知の晴れ姿を一番最初に見れなくてよぉ…」
「~っ、あんたやっぱり悪魔だー!!」
「はっはっはー!って、そこは悪魔じゃなくてヤクザだろ」
冷静にツッコミながらも賽川は咽び泣く龍生に高笑いした。
水竜(賽川)はこの日、初めて人間が作った酒を美味いと感じた。
今日、理知から「おとぉさんがおじさんとお外でお話したいって」と言われたからだ。
外で話がしたいということは、理知に聞かれたくない話だろう。
まさか、自分が理知に邪な思いを抱いていることがバレたか。それとも、龍生もあの頃の記憶を思い出したのか。
前者だったらどう言い訳をしようかと思い悩みながら大根に箸を入れたとき、龍生が暖簾から顔を出した。
「お待たせしました」
「よお、先にいただいてるぜ」
龍生は席に付くと、この屋台で一番安いこんにゃくを頼んだ。
賽川が酒を勧めるも遠慮する。
「で、なんだよ話って」
「っ…」
内心ドキドキしながら賽川は龍生の口が開くのを待った。
「…あの、賽川さん…申し訳ないんですが…」
「おう…」
「今月の借金、2万ほど待ってください!」
「………あ?」
予想外のお願いに賽川の肩の力が抜ける。
「なんだよ、何か入り用でもあるのか?」
まだ言うほど月日は経っていないが、今まで耳を揃えてきちんと返済していたのに。
少し残念そうに聞いてきた賽川に龍生は申し訳なさそうに答えた。
「それが…、理知にランドセルを買ってやりたいんです…」
「…ああ、もうそんな時期か」
理知ももうすぐ小学生になる。
理知越しにリィリを見てきたつもりでいた賽川だったが、あの理知が着実に成長している事実を目の当たりにして思わず感慨に耽ってしまった。
「正直、自治会からおさがりのランドセルを貰えるんですが…理知には今まで色々と我慢させて来てるんで…。もちろん!その2万分また利息を付けてもらって構いません!だからどうか今月だけは!」
「あーあー、とにかくそのでけぇ声どうにかしろ。道行く人がめちゃくちゃ見てきて恥ずかしいだろうが」
「あ、すみません…」
大人しく座り直すも懇願の瞳でこちらをガン見してくる龍生に賽川は思いを巡らせた。
そして良いことを思い付いた。
「龍生、借金は毎月きっちり返してもらう」
「っ…」
「だが、お前の気持ちも良くわかる」
理知は母親が病弱で、亡くなる前からずっと我慢していたに違いない。
それが母親が亡くなってからは父親も兄も借金を返すために働き詰めで更に我慢をしている。
そんな理知を喜ばせるために龍生が新しいランドセルを理知に買ってあげたい気持ちは賽川にも充分理解出来た。
だからこそ、弱味に付け入れることが出来ることも。
「だから俺が個人的に買ってやるよ、理知のランドセル」
「えっ!いいんですか?!」
「ああ。その代わり、理知とランドセルを買いに行くのは俺だ。お前は家で指咥えて待ってろ」
「え…」
賽川からの突然の提案に龍生が狼狽える。
その表情を見た賽川は口角を上げ畳み掛けた。
「そういやランドセルだけじゃなく入学式の時の服も買ってやんねぇとな。ああいう服って一回しか着ねぇのに高ぇよなぁ。2万円じゃとても足りねぇ…それも出してやるよ」
「さ、賽川さん…?」
「ランドセルも服もちゃんと試着しないとぁ…。後あれだ、写真屋でちゃんとした写真も撮ってやんねぇと可哀想だよな?」
「賽川さんあんた…」
「残念だったなぁ龍生。理知の晴れ姿を一番最初に見れなくてよぉ…」
「~っ、あんたやっぱり悪魔だー!!」
「はっはっはー!って、そこは悪魔じゃなくてヤクザだろ」
冷静にツッコミながらも賽川は咽び泣く龍生に高笑いした。
水竜(賽川)はこの日、初めて人間が作った酒を美味いと感じた。
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