ドラゴンヤクザ

がぶ

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ある日の組員たちの会話

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午後14時半。
昼のピークが過ぎた事務所近くのラーメン屋に、賽川組の組員4人が暖簾をくぐる。

「さっせ~」

やる気のない声の店員を無視し、4人はテーブル席に着いた。

「とんこつバリカタ」
「俺味噌、もやし多め」
「醤油、いつものやつ」
「俺も醤油、海苔ぬきで。てかお前ちゃんと『いらっしゃいませ』って言えよ」

「さっす」

「え?なに?今の返事?」
「やめろって、疲れるだけだぞ」

やる気のない声の店員は黙ってラーメンを作り始める。
それに一人が舌打ちをして各々は煙草に火を点けた。

年齢も容貌も服装もバラバラの4人だが同期で賽川を心酔しているため仲が良く、こうやって一緒に食事をすることが多い。

「ふー…、…俺らさ、いずれ理知ちゃんのこと姐さんって呼ぶことになんのかな?」

舌打ちをした醤油海苔ぬきの三森(みもり)が呟く。
27歳、血気盛ん。たまに賽川も呆れるほどの暴れっぷりで、極道界隈では将来有望とも言われている。

「…明らかに親父気に入ってるよな。でもまだ5才だぜ?…都山(つやま)さんも複雑じゃないっすか?」

いつも冷静で三森を止める役である戸崎(とざき)は、まだ吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。
三森と同い年。頭が良いため賽川組の経理も担当している。

「まあな、正直複雑だが…親父の決めたことに文句は言わねぇよ…。それに、ほら金澤会んとこのジジイも最近ハタチの嫁さん貰ったって言うじゃねぇか」
「えっ!あの人確か今年で70になるんじゃ…」
「な?この世界じゃよくあることだって」

バリカタとんこつを頼んだ都山は賽川より年上の42歳。妻子持ちで娘が理知と同い年であるため心境は複雑だった。

「いやちょっと待ってよ。そもそも俺が言いたいのは親父がすげぇロリコンって話じゃなくて理知ちゃんを姐さんって呼ばなきゃいけなくなるのかな?ちょっと違和感あってやだな…って話なんだけど?」
「なっ…」
「お前っ…」

三森の言葉に都山と戸崎がバツの悪そうな顔をする。

「おまちぃ」

そこへラーメンが運ばれ、都山と戸崎は助かったと言わんばかりに食べ始めた。

「ま、でも実際そうだよな。さすがに手を出すのは理知ちゃんが大人になってからだろうけど、5才から目ぇ付けるって親父もやるよなあ」
「三森、お前もう黙れ」

戸崎に言われ三森は口を膨らませながらも黙ってラーメンを啜る。
都山はさっきからずっと黙っている元田(もとだ)に視線を送った。

「元田さんは、どう思ってんですか?」

都山に話を振られ、元田は口の中のしゃきしゃきもやしをよく噛んで飲み込んだ。

元田は賽川の専属運転手で賽川と同じ35歳。
寡黙で実直な男である。

「俺は…あの2人に何か運命的なものを感じとる。自分でもよくわからへんが、2人が結ばれるためなら何だってしてやりたい。そう思ぉとる…」

元田の意外な言葉に3人の箸が止まる。

実は元田は、賽川が水竜だったころ小判鮫のように着いてまわっていた名もない魚であった。
もちろんリィリとも交遊があったため、記憶が戻らないにしても賽川と理知が前世で悲しい別れをしたことを頭の隅で憶えているのであろう。

「いやまあ俺も、正直親父と理知ちゃんの結婚式見たいなあっ思ってたんすよね」
「…龍生さん許してくれっかな?」
「その前に理知ちゃんが親父に惚れてくれるかだろ」
「親父の努力しだいやな…」

三森は姐さんになった理知に傅く自分の姿を、
戸崎は賽川と龍生が理知との結婚を巡って争い血の雨が降ることを、
都山は自分の娘の花嫁姿を、
そして元田は賽川と理知の結婚式を、
それぞれ想像しながら食事を終えた。

「ありあとっした~」

「『ありがとうございました』な?!」
「どうどう」

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