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第二章
15.神竜
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王子は私と王子の花冠をすりつぶし、そこに私の涙を混ぜ込んだ。
特に頑張らなくてもおそるおそるその竜に近づき、怪我した足を覗き込んだら号泣出来た。
箱入り令嬢的に恐ろしいものを見てしまった。
竜の左の太ももには大きな鉄の矢が深々と刺さっていたのだ。
王子は、それを見て怒ったような低い声を出す。
「エルシー、離れろ。多分毒が塗ってある」
王子はその矢を引き抜くと、竜は、痛いのだろう、耳をつんざくような声を上げる。
王子は腐った肉を持っていた短剣でえぐり取り、万能薬を塗りつけた。
その上から自分のイラクサのマントを巻くが、少し長さが足りないらしい。
「エルシー、お前のもくれ」
と私のストールも足して巻き付ける。
それが終わって王子は満足そうに言った。
「これでいい。一ヶ月もすれば治る」
「一月も掛かるんですか?」
「かかる。毒で内蔵もかなり弱っている。もっと掛かるかも知れない」
万能薬の半分ほどを足に塗りつけた。
残りの万能薬を王子は団子状にして、その竜の口元に持って行くと竜は大きく口を開けた。
王子は万能薬を口に放り込み、飲み込んだ竜の顎を撫でる。
既に仲良しぽい。
「だが死ぬことはないし、足もいずれ治る」
あんまり役には立てなかったが、緊張はしていたので、それを聞いて何だか気が抜けた。
「良かったです」
思わずその場に座り込んでしまった。
「疲れたか?今、茶でも淹れてやろう。待っててくれ」
そう言うと王子は立ち上がり、私の胸元に光石のペンダントを掛けて自分は松明を手に来た道を戻ろうとする。
「えっ?あ…あの、グレン様?」
思わず呼び止めると彼は振り返った。
「水竜がお前を傷付けることはない。誇り高き竜は立てた誓いは守るものなのだ。すぐに戻る」
その言葉通り、王子はすぐに戻ってきた。先ほどのたき火の場所に置いた荷物を取ってきたらしい。寒くないように敷物を引いてくれる。
すぐ側に湧き水が湧いている。その水は飲めるらしい。
王子は湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。
「エルシー、飲め」
「あっ、ありがとうございます」
竜にもお水をあげて、さらに荷物の中から何か取り出して、食べさせている。
竜はさっきまで死んじゃいそうに浅く苦しげな息をしていたが、今は元気に咀嚼している。
「グレン様、何しているんですか?」
「滋養を付けないといけないので携帯食の干し肉を食わしている」
「あ、いいんですか、おやつあげて。じゃあ、あの、私、お菓子あげていいですか?」
「菓子か。何だ?」
「クッキーです。五日前、ジェローム様と作りました」
王子は楽しそうに竜に餌付をけしていたが、くるっと私の方を向く。
「何?そんなものを作ったのか?聞いてないぞ」
「そんなどうでもいいことはわざわざ言いません。結婚式の前の日、ちょっとだけ時間があったんで、おやつにしようと日持ちがするクッキーを作ったんです。ジンジャー入って甘くないクッキーだからグレン様も食べられると思います。食べませんか?」
「食う」
「じゃあ、グレン様にはジェローム様の作った分をあげます。ジェローム様はクッキー作るのお上手です」
と気を遣って、美味しいクッキーをあげたのだが、王子は首を横に振る。
「エルシーの作った方が良い」
「えっ、そうですか。じゃあどうぞ」
日持ち重視のクッキーなので、固くしっかりと焼き上げた甘さ控えめのクッキーだ。口の中の水分奪っていくやつである。
王宮で食べる砂糖とバターがたっぷり入ったサクサククッキーとは違う。
だが、かえって王子はそういう方がいいらしい。
「エルシーの手作り……」
と物珍しそうに食べている。
竜もクッキーを食べている。
でっかいが、可愛い竜だ。
「林檎もありますよ」
ゲルボルグの好物なので、旅に出る時にはいつも鞄に入れている。
返事は期待していなかったが、竜は私を見て、「そうか、頂こう」と言った。
話、出来た。
ちょっと感動である。
「あのう、竜さんはどうして怪我したんですか?」
「私は南の火山に住んでいたのだが、そこでいきなり矢で射られたのだ」
「えっ、どうして?」
竜は長い首を横に振る。
「分からん。突然に襲われた」
「…………」
王子は何か考え込んでいるのか、黙っている。
「大変でしたね。通り魔のしわざですかね?許せませんね、グレン様」
「竜の鱗は大抵の武器は跳ね返す。使われたのは特別な武器だ」
王子はむっつりと最高に機嫌が悪い時の声を出した。
「特別な武器ですか」
王子はその竜の怪我をした足に目を向ける。
「そうだ。使われたのは、マルティア国の王家が持つという聖なる弓だろう。マルティア国には大きな火山があり、それを長年、水の神である竜が噴火を抑えてきたという伝説を聞いたことがある」
「えっ、じゃあ、神様ですか、竜さんは」
「左様」
と竜は首肯した。
竜は、自然界の四つの力、火水風土の四つ全てを持つ。そのため竜は、その頭上に太陽と月と星しかないと言われている自然界最強の生物なのだ。
だが、稀にそれら四つの属性の化身と呼ばれる竜がいて、属性竜エレメントドラコンというそうだ。
グレイトドラゴンよりすごい竜で、人間の言葉を話し、竜というより神に近い存在らしい。
……神様と話してしまった。
特に頑張らなくてもおそるおそるその竜に近づき、怪我した足を覗き込んだら号泣出来た。
箱入り令嬢的に恐ろしいものを見てしまった。
竜の左の太ももには大きな鉄の矢が深々と刺さっていたのだ。
王子は、それを見て怒ったような低い声を出す。
「エルシー、離れろ。多分毒が塗ってある」
王子はその矢を引き抜くと、竜は、痛いのだろう、耳をつんざくような声を上げる。
王子は腐った肉を持っていた短剣でえぐり取り、万能薬を塗りつけた。
その上から自分のイラクサのマントを巻くが、少し長さが足りないらしい。
「エルシー、お前のもくれ」
と私のストールも足して巻き付ける。
それが終わって王子は満足そうに言った。
「これでいい。一ヶ月もすれば治る」
「一月も掛かるんですか?」
「かかる。毒で内蔵もかなり弱っている。もっと掛かるかも知れない」
万能薬の半分ほどを足に塗りつけた。
残りの万能薬を王子は団子状にして、その竜の口元に持って行くと竜は大きく口を開けた。
王子は万能薬を口に放り込み、飲み込んだ竜の顎を撫でる。
既に仲良しぽい。
「だが死ぬことはないし、足もいずれ治る」
あんまり役には立てなかったが、緊張はしていたので、それを聞いて何だか気が抜けた。
「良かったです」
思わずその場に座り込んでしまった。
「疲れたか?今、茶でも淹れてやろう。待っててくれ」
そう言うと王子は立ち上がり、私の胸元に光石のペンダントを掛けて自分は松明を手に来た道を戻ろうとする。
「えっ?あ…あの、グレン様?」
思わず呼び止めると彼は振り返った。
「水竜がお前を傷付けることはない。誇り高き竜は立てた誓いは守るものなのだ。すぐに戻る」
その言葉通り、王子はすぐに戻ってきた。先ほどのたき火の場所に置いた荷物を取ってきたらしい。寒くないように敷物を引いてくれる。
すぐ側に湧き水が湧いている。その水は飲めるらしい。
王子は湯を沸かしてお茶を淹れてくれた。
「エルシー、飲め」
「あっ、ありがとうございます」
竜にもお水をあげて、さらに荷物の中から何か取り出して、食べさせている。
竜はさっきまで死んじゃいそうに浅く苦しげな息をしていたが、今は元気に咀嚼している。
「グレン様、何しているんですか?」
「滋養を付けないといけないので携帯食の干し肉を食わしている」
「あ、いいんですか、おやつあげて。じゃあ、あの、私、お菓子あげていいですか?」
「菓子か。何だ?」
「クッキーです。五日前、ジェローム様と作りました」
王子は楽しそうに竜に餌付をけしていたが、くるっと私の方を向く。
「何?そんなものを作ったのか?聞いてないぞ」
「そんなどうでもいいことはわざわざ言いません。結婚式の前の日、ちょっとだけ時間があったんで、おやつにしようと日持ちがするクッキーを作ったんです。ジンジャー入って甘くないクッキーだからグレン様も食べられると思います。食べませんか?」
「食う」
「じゃあ、グレン様にはジェローム様の作った分をあげます。ジェローム様はクッキー作るのお上手です」
と気を遣って、美味しいクッキーをあげたのだが、王子は首を横に振る。
「エルシーの作った方が良い」
「えっ、そうですか。じゃあどうぞ」
日持ち重視のクッキーなので、固くしっかりと焼き上げた甘さ控えめのクッキーだ。口の中の水分奪っていくやつである。
王宮で食べる砂糖とバターがたっぷり入ったサクサククッキーとは違う。
だが、かえって王子はそういう方がいいらしい。
「エルシーの手作り……」
と物珍しそうに食べている。
竜もクッキーを食べている。
でっかいが、可愛い竜だ。
「林檎もありますよ」
ゲルボルグの好物なので、旅に出る時にはいつも鞄に入れている。
返事は期待していなかったが、竜は私を見て、「そうか、頂こう」と言った。
話、出来た。
ちょっと感動である。
「あのう、竜さんはどうして怪我したんですか?」
「私は南の火山に住んでいたのだが、そこでいきなり矢で射られたのだ」
「えっ、どうして?」
竜は長い首を横に振る。
「分からん。突然に襲われた」
「…………」
王子は何か考え込んでいるのか、黙っている。
「大変でしたね。通り魔のしわざですかね?許せませんね、グレン様」
「竜の鱗は大抵の武器は跳ね返す。使われたのは特別な武器だ」
王子はむっつりと最高に機嫌が悪い時の声を出した。
「特別な武器ですか」
王子はその竜の怪我をした足に目を向ける。
「そうだ。使われたのは、マルティア国の王家が持つという聖なる弓だろう。マルティア国には大きな火山があり、それを長年、水の神である竜が噴火を抑えてきたという伝説を聞いたことがある」
「えっ、じゃあ、神様ですか、竜さんは」
「左様」
と竜は首肯した。
竜は、自然界の四つの力、火水風土の四つ全てを持つ。そのため竜は、その頭上に太陽と月と星しかないと言われている自然界最強の生物なのだ。
だが、稀にそれら四つの属性の化身と呼ばれる竜がいて、属性竜エレメントドラコンというそうだ。
グレイトドラゴンよりすごい竜で、人間の言葉を話し、竜というより神に近い存在らしい。
……神様と話してしまった。
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