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73.誓いの言葉
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今日は本番さながらの大きなリハーサルで、父も母も来ていた。
特に父は花嫁の父だから重要な役がある。
花嫁と一緒にバージンロードを歩くのだ。
父は花嫁の父役は私で四回目。
もはや、プロである。
花嫁は誓いのキスまでベールを被っていて、ドレスはとても重い。
それに私、リハーサルなのに少し緊張している。
だけど父は落ち着いていて、
「エルシー、お父様に捕まってゆっくり歩くんだぞ。あわてなくて良いからな」
と堂に入ったものである。
バージンロードの先で王子が待っている。
王子は、さすが式典に慣れているのかいつもと変わりない様子だ。
父と王子は共に一礼し、そして王子は私に手を差し伸べる。
「エルシー」
私と王子は数歩、ともに歩いて祭壇の前に立ち、司祭様を前に、王子は宣誓する。
「汝を妻とし……」
王子は美形な上に声までいい。
堂々とした声が教会に響く。
王子の宣誓が終わり、そして次に「はい、あなたに従います」と言うはずの私は、ほんの一拍だけ躊躇った。
「は……」
だが「はい」の「い」を言う前に、前を向いていたはずの王子は鋭い目つきで私をにらみ、私の肩を掴んだ。
えっ?と思う間もなく、ベールが外される。
「エルシー、お前、今、嘘つこうとしたな」
***
「えっ、あっ、うううう、嘘なんてついてません」
王子は大きく首を横に振る。
怒りのオーラ出てる。これは怒っている。
「いいや、俺には分かる。欺こうとしても無駄だ。なんで嘘をつく?」
「それは……」
だって私は本当のお妃様じゃないから。
でもそれは言えないから、黙って唇を噛んだ。
王子は背をかがめて、私を覗き込む。
金色の目が私のことを見ている。
そして王子はとても悲しそうな声で言った。
「エルシー、お前、やはり俺と結婚するのが嫌なんだな」
「えっ?」
私は驚いて王子を見る。
そんなこと思ったことない。
でも王子はやっぱり悲しそうに続ける。
「お前にとって俺との結婚は『仕方のない』もので、そこに『愛はない』のだろうが……それでも俺は……」
私はあわてて王子に言った。
「ちっ、ちょっと待って下さい。そんなこと思ってないです」
「だが、お前は言うじゃないか。俺達はしょうがない結婚で、もし子供が出来なければ俺とは離婚すると」
確かに言ったことある。
でも、それは。
「だってそれは……」
「元々お前はゲルボルグに選ばれて国のために仕方なく俺と結婚するはめになった」
「それはそうですけど」
「だからゲルボルグに拒絶された瞬間にお前は役目を終えたとばかりに、俺から逃げ出そうとした」
「あの時は捨てられてたと思って、私……」
王子は金目の目を伏せる。
「エルシーにとっては次の金目の王子を得るだけの結婚だ。だから俺と子が出来ない以上、お前にとってこの結婚の価値はない」
「そんな風に思ってません!」
「…………」
どうしよう。
全然、気付いてなかった。
ずっと私、王子に言ってた。
「私達、しょうがない結婚ですから、赤ちゃんが出来ないと私はここに居ちゃいけないんですよ。だからずっと一緒じゃないです。当分一緒です」
それは私にとっては自分に言い聞かせる言葉で、でも王子は、全然違う意味だと思ってたんだ。
――王子はずっと私が仕方なく王子と結婚するんだと思っていた。
「確かに俺はお前の理想の男ではない。エルシーの理想は平民で、赤ん坊を産めなくても離婚はせず、心優しく、浮気しないで、尊敬出来る人物だ」
確か実家でやけになっている時、私、そんなこと言ったような……。
王子は思い詰めた様に私を見つめる。
「お前にとって王太子妃も竜騎士の妻も面倒なだけ」
「ちが……」
王子は何か、決意をしたように、私に言う。
「もし俺が竜騎士でもなく、王子でもなくなるのだとしたら、エルシーは俺を愛してくれるか?」
特に父は花嫁の父だから重要な役がある。
花嫁と一緒にバージンロードを歩くのだ。
父は花嫁の父役は私で四回目。
もはや、プロである。
花嫁は誓いのキスまでベールを被っていて、ドレスはとても重い。
それに私、リハーサルなのに少し緊張している。
だけど父は落ち着いていて、
「エルシー、お父様に捕まってゆっくり歩くんだぞ。あわてなくて良いからな」
と堂に入ったものである。
バージンロードの先で王子が待っている。
王子は、さすが式典に慣れているのかいつもと変わりない様子だ。
父と王子は共に一礼し、そして王子は私に手を差し伸べる。
「エルシー」
私と王子は数歩、ともに歩いて祭壇の前に立ち、司祭様を前に、王子は宣誓する。
「汝を妻とし……」
王子は美形な上に声までいい。
堂々とした声が教会に響く。
王子の宣誓が終わり、そして次に「はい、あなたに従います」と言うはずの私は、ほんの一拍だけ躊躇った。
「は……」
だが「はい」の「い」を言う前に、前を向いていたはずの王子は鋭い目つきで私をにらみ、私の肩を掴んだ。
えっ?と思う間もなく、ベールが外される。
「エルシー、お前、今、嘘つこうとしたな」
***
「えっ、あっ、うううう、嘘なんてついてません」
王子は大きく首を横に振る。
怒りのオーラ出てる。これは怒っている。
「いいや、俺には分かる。欺こうとしても無駄だ。なんで嘘をつく?」
「それは……」
だって私は本当のお妃様じゃないから。
でもそれは言えないから、黙って唇を噛んだ。
王子は背をかがめて、私を覗き込む。
金色の目が私のことを見ている。
そして王子はとても悲しそうな声で言った。
「エルシー、お前、やはり俺と結婚するのが嫌なんだな」
「えっ?」
私は驚いて王子を見る。
そんなこと思ったことない。
でも王子はやっぱり悲しそうに続ける。
「お前にとって俺との結婚は『仕方のない』もので、そこに『愛はない』のだろうが……それでも俺は……」
私はあわてて王子に言った。
「ちっ、ちょっと待って下さい。そんなこと思ってないです」
「だが、お前は言うじゃないか。俺達はしょうがない結婚で、もし子供が出来なければ俺とは離婚すると」
確かに言ったことある。
でも、それは。
「だってそれは……」
「元々お前はゲルボルグに選ばれて国のために仕方なく俺と結婚するはめになった」
「それはそうですけど」
「だからゲルボルグに拒絶された瞬間にお前は役目を終えたとばかりに、俺から逃げ出そうとした」
「あの時は捨てられてたと思って、私……」
王子は金目の目を伏せる。
「エルシーにとっては次の金目の王子を得るだけの結婚だ。だから俺と子が出来ない以上、お前にとってこの結婚の価値はない」
「そんな風に思ってません!」
「…………」
どうしよう。
全然、気付いてなかった。
ずっと私、王子に言ってた。
「私達、しょうがない結婚ですから、赤ちゃんが出来ないと私はここに居ちゃいけないんですよ。だからずっと一緒じゃないです。当分一緒です」
それは私にとっては自分に言い聞かせる言葉で、でも王子は、全然違う意味だと思ってたんだ。
――王子はずっと私が仕方なく王子と結婚するんだと思っていた。
「確かに俺はお前の理想の男ではない。エルシーの理想は平民で、赤ん坊を産めなくても離婚はせず、心優しく、浮気しないで、尊敬出来る人物だ」
確か実家でやけになっている時、私、そんなこと言ったような……。
王子は思い詰めた様に私を見つめる。
「お前にとって王太子妃も竜騎士の妻も面倒なだけ」
「ちが……」
王子は何か、決意をしたように、私に言う。
「もし俺が竜騎士でもなく、王子でもなくなるのだとしたら、エルシーは俺を愛してくれるか?」
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