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57.一週間後
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さらに翌日、また王妃様から手紙が届いた。
ママ様の最新情報通り、クラリッサ様が陛下と熱愛。これもあなたがしっかりしてないから!
と書かれていた。
ご使者がお待ちだ。
「ごめんなさい。頑張って下さい」と書いて渡した。
この分では王子はフラれるのだろうか?
それとも、二人と子作りするというあの謎案を了承するのか、ちょっと興味はある。
こうして一週間は鬱々と過ぎ、そして夜になり、夕飯を食べた後、父に呼ばれて書斎に行った。
「今日で一週間。殿下から、そして王宮から何の連絡もない」
父は大きくため息を吐いた。
ママ様の話では、まだクラリッサ様は王宮にご滞在とのことだ。
「今日までは待ったが、明日以降、お話があってももう信用は出来ない。無理に王家に嫁ぐことはない。エルシーが言うように、ここにいるのが辛いなら領地に戻りなさい。明日は難しいかもしれないが、数日の内にここを出よう。わしも一緒に行く」
父は意外と乗り気のようだ。
「はい。ありがとうございます」
「旦那様まで」
と母が泣いた。
「エルシーを守ると言ったのに守らなかった殿下の責任だ」
父は冷たく言い放つ。椅子の肘掛けにおかれた手が少し震えている。
お怒りの様子だ。
「まあ、事情が変わりましたから仕方ありません。慰謝料をはずんで下されば、お恨み申し上げる筋ではないかと」
とついとりなしてしまった。
元々王子と私は竜が選んだしょうがない結婚である。
ご縁がなかったのだろう。
夜は更に更ける。
すぐには眠れず、私はぼんやりと窓辺で佇む。
チラリと時計塔を見ると時刻は十一時半。
「異常はないか」「はっ」
下を見ると警護の兵士様もいて、捨てられたお妃候補としてはこのような物々しい厳戒態勢は心苦しく、失礼ながら監視されているようなこの生活はいささか気が滅入る。
せっかくお家に戻ったというのに散歩一つ出来ない。
もっとも警備がなくなろうとも世間の目があるので私が王都を歩くことはもはやない。
さっさと田舎に行こう。
そうすればこんな鬱々とした気分も晴れるだろう。
窓の扉を閉じようとした時、聞き覚えのある羽音が小さく聞こえた。
私は音のする方を吸い寄せられるように見つめた。
月夜に点のように見えた影が見る間に近づいてくる。
青銅色の竜だった。
「えっ?」
唖然としている間にも、竜は迫ってくる。
もしかしてこのままだとあれ、ここに突っ込んでくるんじゃあ……。
「エルシー、退け」
と竜の上に乗る人はそのまま窓から飛び込んで来た。
私も壁にへばりついてあわてて避ける。
「うわっ、危なっ!」
その人が飛び込んだ拍子に風が蝋燭の明かりが吹き消し、部屋は真っ暗になる。
背のとても高い人だった。
暗闇で彼は私に近づくと両肩に手を置く。
「間に合ったな。エルシーだな」
と彼は私の顔を覗き込んでくる。
金色に光る目。
そして聞き覚えのある低く深みのある声。
「殿下?」
「グオグオ」
と声を上げてゲルボルグが窓に顔を突っ込み、入ってこようとする。
「えっ、無理だから。屋敷壊れる!」
「エルシー、行くぞ」
王子は私に近づき、いつものようにひょいと抱きかかえた。
「でも、ゲルボルグは私のこと……」
王子は私を抱えると、ゲルボルグも突っ込んでいた顔を抜き、王子と私を背に乗せた。
「殿下」
と下から騎士様が王子に呼びかける。
「大義であった。エルシーは離宮に戻る。お父上にもそう伝えよ」
そう言うと、王子はゲルボルグを操り、あっという間に空へと舞い上がる。
辿り着いた先は、離宮だった。
ママ様の最新情報通り、クラリッサ様が陛下と熱愛。これもあなたがしっかりしてないから!
と書かれていた。
ご使者がお待ちだ。
「ごめんなさい。頑張って下さい」と書いて渡した。
この分では王子はフラれるのだろうか?
それとも、二人と子作りするというあの謎案を了承するのか、ちょっと興味はある。
こうして一週間は鬱々と過ぎ、そして夜になり、夕飯を食べた後、父に呼ばれて書斎に行った。
「今日で一週間。殿下から、そして王宮から何の連絡もない」
父は大きくため息を吐いた。
ママ様の話では、まだクラリッサ様は王宮にご滞在とのことだ。
「今日までは待ったが、明日以降、お話があってももう信用は出来ない。無理に王家に嫁ぐことはない。エルシーが言うように、ここにいるのが辛いなら領地に戻りなさい。明日は難しいかもしれないが、数日の内にここを出よう。わしも一緒に行く」
父は意外と乗り気のようだ。
「はい。ありがとうございます」
「旦那様まで」
と母が泣いた。
「エルシーを守ると言ったのに守らなかった殿下の責任だ」
父は冷たく言い放つ。椅子の肘掛けにおかれた手が少し震えている。
お怒りの様子だ。
「まあ、事情が変わりましたから仕方ありません。慰謝料をはずんで下されば、お恨み申し上げる筋ではないかと」
とついとりなしてしまった。
元々王子と私は竜が選んだしょうがない結婚である。
ご縁がなかったのだろう。
夜は更に更ける。
すぐには眠れず、私はぼんやりと窓辺で佇む。
チラリと時計塔を見ると時刻は十一時半。
「異常はないか」「はっ」
下を見ると警護の兵士様もいて、捨てられたお妃候補としてはこのような物々しい厳戒態勢は心苦しく、失礼ながら監視されているようなこの生活はいささか気が滅入る。
せっかくお家に戻ったというのに散歩一つ出来ない。
もっとも警備がなくなろうとも世間の目があるので私が王都を歩くことはもはやない。
さっさと田舎に行こう。
そうすればこんな鬱々とした気分も晴れるだろう。
窓の扉を閉じようとした時、聞き覚えのある羽音が小さく聞こえた。
私は音のする方を吸い寄せられるように見つめた。
月夜に点のように見えた影が見る間に近づいてくる。
青銅色の竜だった。
「えっ?」
唖然としている間にも、竜は迫ってくる。
もしかしてこのままだとあれ、ここに突っ込んでくるんじゃあ……。
「エルシー、退け」
と竜の上に乗る人はそのまま窓から飛び込んで来た。
私も壁にへばりついてあわてて避ける。
「うわっ、危なっ!」
その人が飛び込んだ拍子に風が蝋燭の明かりが吹き消し、部屋は真っ暗になる。
背のとても高い人だった。
暗闇で彼は私に近づくと両肩に手を置く。
「間に合ったな。エルシーだな」
と彼は私の顔を覗き込んでくる。
金色に光る目。
そして聞き覚えのある低く深みのある声。
「殿下?」
「グオグオ」
と声を上げてゲルボルグが窓に顔を突っ込み、入ってこようとする。
「えっ、無理だから。屋敷壊れる!」
「エルシー、行くぞ」
王子は私に近づき、いつものようにひょいと抱きかかえた。
「でも、ゲルボルグは私のこと……」
王子は私を抱えると、ゲルボルグも突っ込んでいた顔を抜き、王子と私を背に乗せた。
「殿下」
と下から騎士様が王子に呼びかける。
「大義であった。エルシーは離宮に戻る。お父上にもそう伝えよ」
そう言うと、王子はゲルボルグを操り、あっという間に空へと舞い上がる。
辿り着いた先は、離宮だった。
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