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第二部 七章:四日間
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「久しぶり、トレーネさ――」
「――ライゼ様」
部屋に訪れたトレーネに荷物の整理がようやく終わりに向かっていたライゼが、一旦“空鞄”を閉じてトレーネに顔を向ける。
旅行鞄一つと身長の二倍近くある金棒だけを背負ったトレーネは一瞬だけ嶮のある表情をする。
ライゼはウグッと言葉に詰まり、溜息を吐く。
さんざん言われてたからな。
「久しぶり、トレーネ」
「お久しぶりです、ライゼ様」
なんで呼び捨てにこだわるのかはさっぱりであるが、落ち着いたトレーネにしては呼び捨てにしないと、タメ口にしないと何故か機嫌が悪くなることが前に会った時に知った。
特にライゼにはそれを強要している。別に惚れてるとかどうかではない。彼女の変なプライドとかそんな感じだろう。
そんなトレーネは真っ白なシスター服を少しだけ払う動作をした後、ライゼに楚々と頭を下げる。そしてゆっくりと顔を上げる。
艶めく黒の長髪が動作一つ一つで細かく靡き、伏せられた黄金の瞳がゆっくりとライゼを見つめていて、清楚だと思う。
ライゼは普通にボヘッとしている。
ライゼが気の抜けた表情を晒すのは、俺かレーラーの前だけだったが、そこにトレーネも加わったらしい。
「それとヘルメス様もお久しぶりです」
『ああ、久しぶりだな』
そしてトレーネはそんなライゼの視線に少しだけ白銀の宝石に覆われた尖った耳をピコピコと動かしていたものの、直ぐに俺の方を向いてもう一度頭を下げる。
俺は〝思念を伝える魔法〟を使って返す。
ライゼがそれに気が付いて驚く。
トレーネも少しだけ驚いている。が、直ぐに落ち着いた微笑みを浮かべている。
「本当に話せるのですね」
『ああ、〝思念を伝える魔法〟っていう魔法だ』
興味深げにトレーネは黄金の瞳を細める。
……顔立ちはいたって平凡だが、小さな体に巨大な黒金棒やら真っ白の服に褐色肌といった強調が強いせいで、怖い雰囲気があるな。ギャップのせいであらゆる印象が強いんだ。
そしてそんな俺の感想を他所にライゼは少しだけ混乱する。
「ちょ、え、トレーネはヘルメスが話せる事を知ってるの?」
「今確認を取りました。ヘルメス様が思わず私にその〝思念を伝える魔法〟とやらを使ってしまったのですが、確認はとれておりませんでした」
ライゼはギロリと俺にこげ茶の瞳を向ける。
顔を少しだけ横に動かしたからか、天井に吊るしてあるシャンデリアの光がこげ茶の角に上手く反射して、俺は目を細める。
『ヘルメス?』
『いや、何、どうせ俺の事は伝えるんだろ。ならいいじゃないか。それより、今後の予定について簡単に話さないと』
『……そうだね』
ライゼはそれもそうかと思い直したのか、俺から視線を外す。
また、荷物の整理を再開する。
「トレーネ。これから僕たちはパーティーを組まなきゃならない」
「ええ、分かっています」
トレーネはライゼが整理している荷物に視線をチラチラと送りながらも頷く。
俺はライゼがもうそろそろ荷物整理が終わるのを感じて、急いで写真の整理を行っていく。
「情報交換や今後の予定を話し合いたいけど、今日中には街を出なきゃいけないから、そこまで時間はない。こっちに闘気と魔力が強い人が向かってきてるし」
「騎士団長様ですね。私たちを地下水路に案内するのでしょう」
……あれが騎士団長の魔力と闘気か。
あ、そういえば俺がせっせとライゼの衣服を洗っていた時に来たおっさんか。忘れてた。
「だから、ひとまずはここから北西方面にあるグリュック町に移動するってことでいいかな。食料調達はたぶんできないと思うけど。まぁ、この領地からも直ぐに出ていかなきゃいけないから、一日くらいの滞在だと思う」
「はい、それで大丈夫です」
と、ライゼが荷物整理を終えた。
俺はどうにでもなれ、と投げやりに写真の整理を終わらせた。俺専用の写真入れ魔法袋に収まればいいのだ。それくらいの整理なら終わった。
「トレーネ。はい、魔法袋。持っておいた方が楽だから」
「……ありがとうございます」
ライゼは俺が頑張って開けた魔法袋をトレーネに渡す。
俺達が持っている魔法袋は、レーラーが長く生きてきた中で集めた貴重な魔道具なのだが、ライゼが自費で買ったものもいくつかある。魔導袋はめっちゃ腕のいい魔道具師しか作れないので、高いのだが、それでも貯金をしていたライゼは幾つか買えた。
トレーネに渡したのもライゼが買った魔法袋である。
レーラーが集めた魔法袋は基本的に置いてきた。何か言われるのも面倒だったし、それらの魔法袋にはレーラーの私物も多かったからだ。
まぁ、それはそうとして丁度トレーネが魔法袋を受け取ったら、騎士団長のおっさんがやってきた。
ライゼはいつも通り、トレーネは放出していた魔力と闘気を隠蔽する。騎士団長がそんな二人を地下水路へと案内した。俺もついて行った。
そして俺たちは街を出た。
途中、冒険者ギルドの使者がいて、報告通り褒賞として幾らかのゲルトの箱を貰い、また冒険者カードに記載されているランクをCからBへと特殊な魔道具で書き換えてもらった。また、それに伴って青白い冒険者カードが金属特有の光を帯びた黒色へ変わった。黒鉄である。
ようやく、ライゼはある程度の安全を手に入れた。
社会的には強い権利を持っていて、安心な立場だった。トレーネも同様である。
「――ライゼ様」
部屋に訪れたトレーネに荷物の整理がようやく終わりに向かっていたライゼが、一旦“空鞄”を閉じてトレーネに顔を向ける。
旅行鞄一つと身長の二倍近くある金棒だけを背負ったトレーネは一瞬だけ嶮のある表情をする。
ライゼはウグッと言葉に詰まり、溜息を吐く。
さんざん言われてたからな。
「久しぶり、トレーネ」
「お久しぶりです、ライゼ様」
なんで呼び捨てにこだわるのかはさっぱりであるが、落ち着いたトレーネにしては呼び捨てにしないと、タメ口にしないと何故か機嫌が悪くなることが前に会った時に知った。
特にライゼにはそれを強要している。別に惚れてるとかどうかではない。彼女の変なプライドとかそんな感じだろう。
そんなトレーネは真っ白なシスター服を少しだけ払う動作をした後、ライゼに楚々と頭を下げる。そしてゆっくりと顔を上げる。
艶めく黒の長髪が動作一つ一つで細かく靡き、伏せられた黄金の瞳がゆっくりとライゼを見つめていて、清楚だと思う。
ライゼは普通にボヘッとしている。
ライゼが気の抜けた表情を晒すのは、俺かレーラーの前だけだったが、そこにトレーネも加わったらしい。
「それとヘルメス様もお久しぶりです」
『ああ、久しぶりだな』
そしてトレーネはそんなライゼの視線に少しだけ白銀の宝石に覆われた尖った耳をピコピコと動かしていたものの、直ぐに俺の方を向いてもう一度頭を下げる。
俺は〝思念を伝える魔法〟を使って返す。
ライゼがそれに気が付いて驚く。
トレーネも少しだけ驚いている。が、直ぐに落ち着いた微笑みを浮かべている。
「本当に話せるのですね」
『ああ、〝思念を伝える魔法〟っていう魔法だ』
興味深げにトレーネは黄金の瞳を細める。
……顔立ちはいたって平凡だが、小さな体に巨大な黒金棒やら真っ白の服に褐色肌といった強調が強いせいで、怖い雰囲気があるな。ギャップのせいであらゆる印象が強いんだ。
そしてそんな俺の感想を他所にライゼは少しだけ混乱する。
「ちょ、え、トレーネはヘルメスが話せる事を知ってるの?」
「今確認を取りました。ヘルメス様が思わず私にその〝思念を伝える魔法〟とやらを使ってしまったのですが、確認はとれておりませんでした」
ライゼはギロリと俺にこげ茶の瞳を向ける。
顔を少しだけ横に動かしたからか、天井に吊るしてあるシャンデリアの光がこげ茶の角に上手く反射して、俺は目を細める。
『ヘルメス?』
『いや、何、どうせ俺の事は伝えるんだろ。ならいいじゃないか。それより、今後の予定について簡単に話さないと』
『……そうだね』
ライゼはそれもそうかと思い直したのか、俺から視線を外す。
また、荷物の整理を再開する。
「トレーネ。これから僕たちはパーティーを組まなきゃならない」
「ええ、分かっています」
トレーネはライゼが整理している荷物に視線をチラチラと送りながらも頷く。
俺はライゼがもうそろそろ荷物整理が終わるのを感じて、急いで写真の整理を行っていく。
「情報交換や今後の予定を話し合いたいけど、今日中には街を出なきゃいけないから、そこまで時間はない。こっちに闘気と魔力が強い人が向かってきてるし」
「騎士団長様ですね。私たちを地下水路に案内するのでしょう」
……あれが騎士団長の魔力と闘気か。
あ、そういえば俺がせっせとライゼの衣服を洗っていた時に来たおっさんか。忘れてた。
「だから、ひとまずはここから北西方面にあるグリュック町に移動するってことでいいかな。食料調達はたぶんできないと思うけど。まぁ、この領地からも直ぐに出ていかなきゃいけないから、一日くらいの滞在だと思う」
「はい、それで大丈夫です」
と、ライゼが荷物整理を終えた。
俺はどうにでもなれ、と投げやりに写真の整理を終わらせた。俺専用の写真入れ魔法袋に収まればいいのだ。それくらいの整理なら終わった。
「トレーネ。はい、魔法袋。持っておいた方が楽だから」
「……ありがとうございます」
ライゼは俺が頑張って開けた魔法袋をトレーネに渡す。
俺達が持っている魔法袋は、レーラーが長く生きてきた中で集めた貴重な魔道具なのだが、ライゼが自費で買ったものもいくつかある。魔導袋はめっちゃ腕のいい魔道具師しか作れないので、高いのだが、それでも貯金をしていたライゼは幾つか買えた。
トレーネに渡したのもライゼが買った魔法袋である。
レーラーが集めた魔法袋は基本的に置いてきた。何か言われるのも面倒だったし、それらの魔法袋にはレーラーの私物も多かったからだ。
まぁ、それはそうとして丁度トレーネが魔法袋を受け取ったら、騎士団長のおっさんがやってきた。
ライゼはいつも通り、トレーネは放出していた魔力と闘気を隠蔽する。騎士団長がそんな二人を地下水路へと案内した。俺もついて行った。
そして俺たちは街を出た。
途中、冒険者ギルドの使者がいて、報告通り褒賞として幾らかのゲルトの箱を貰い、また冒険者カードに記載されているランクをCからBへと特殊な魔道具で書き換えてもらった。また、それに伴って青白い冒険者カードが金属特有の光を帯びた黒色へ変わった。黒鉄である。
ようやく、ライゼはある程度の安全を手に入れた。
社会的には強い権利を持っていて、安心な立場だった。トレーネも同様である。
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