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第二部 七章:四日間
一話 破壊された街
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朝日が顔を覗かせる。
灰に包まれた農業地帯、未だに小さな炎と煙があった。
その手前にある高く並んでいたであろう城壁は無惨に砕け、瓦礫が散乱している。
怒声と地面を揺らす駆け足だけがその瓦礫の内を彩り、他は静かだ。寝ている。倒れている。死んでいる。
修道服に身を包んだ者以外は沈黙していた。
『これはひでぇな』
『うん』
飛行帽を被り、角を隠したライゼは眼下に広がる光景をただただ見つめる。
そんなライゼを背中に乗せながら高原にいる俺は、肉が焼ける臭いが漂う街の様子に尻尾を揺らし、鼻を鳴らす。魔力で強化した視力が人が焼死しているのをとらえる。
『ライゼ、分かってるな』
『うん』
そして俺は若干不機嫌になりながらも、ライゼにきつく言った。
ライゼは飛行帽を深く被り直し、ゴーグルを着ける。
『冒険者カードは分かる様に吊るしておけよ。あと』
『分かってる。ヘルメスの魔道具で種族欄は偽装しておくよ』
何度も言うが、この世界には人権はない。人自体に権利は与えられない。
この世界は種族と就いている職業、役職に権利が与えられる。世界でも類を見ない公平的な法治国家であるアイファング王国とは違うのだ。
魔物という資源が年月を経ても減ることなく襲ってきて、また、家畜にするには無理だから乱獲することもできない。魔人以外は魔物を操る事はできていない。レーラーもだ。
けれどアイファング王国は冒険者を擁護し、騎士や兵士、または防壁や魔道具や魔法の発展などの軍事に力を注いでいたからこそ、世界的なエネルギーの一つである魔石が安定的に手に入れる事ができる。
そして逆に、魔物という異形の存在と過酷な環境に囲まれているからこそ人類による表面上の侵略は殆んどなく、魔石というエネルギーコントロールによって外交政治的にも牽制している。
だから、国にある程度の安定があるのだ。
安定はあれど、やはり魔物が常に襲ってくるから安寧はなく競争的で正しい発展が起こる。
そして安定の中の競争によって、最低限度の人権やらが僅かに芽生え、子鬼人のライゼですら襲われて身包みを剥がれて、奴隷として働かされる事もない。ちょっと社会的に地位が低く、就職や賃金などに少しだけ困るくらいである。
というか、あの国は私的所有権という貴族以外の役職の個にも所有物があるという考え方を持っている。
平民は貴族に所有されているわけではなく、貴族に雇われていると考え方に近いのだ。それでも支配と保護だと支配が強いが。
だが、重要だから何度も言うが世界的な常識は違う。
世界の国々によっても違うし、冒険者という組織内での考え方も違う。
けれど、世界の国々も冒険者も根底にあるのは貴族だから、冒険者だからという役職が絶対なのだ。
だから、冒険者の世界では、子鬼人でもランクが高ければ襲われる事は少ないし、貴族は平民を好き勝手にしていい。平民自体を奪ってもいいし、売ってもいい。
まぁ、そこに領地経営という持続的な営利をとるか、短絡的な営利をとるかは別れるが、基本的に平民は貴族の所有物である。
王にそれを許されたのだ。
だから。
『ライゼ』
『分かってる』
悲惨な街へと向かおうとした俺達の周りに幾つかの魔力反応が現れた。
『六、七、九、十一にそれぞれ二。前方に三。その内二が闘気』
闘気持ちとは戦ったことないからな。
余計警戒は必要だろう。
『逃げる準備はしておくぞ』
『お願い』
スルリと俺の背中から降りたライゼは、“森顎”と“森彩”を構えることなく、深緑のグローブ型の魔道具を嵌めている両手を目一杯開き、また大きく振る。
敵意がない事を示すのだ。
「そこで止まってください!」
前方から朝日の鈍い光を反射する騎士鎧を纏った三人が見えた。後にいる者たちは姿を表さない。魔法使いか、遠距離系の騎士だろう。
そして現れた騎士たちは剣と盾を構え、ライゼに剣先を向けている。鎧に全身を覆われていて、顔の表情を見る事ができない。
そして歩みを止める事はない。
「僕はライゼ、人族、冒険者ランクC、こっちは馬代わりのトカゲ。……止まってください!」
前の街で冒険者ランクを挙げたライゼは、首に掛けていた青白い冒険者カードを歩みを止めない騎士たちに向かって放物線を描くように緩やかに投げる。
投げた後は、万歳する様に手を挙げる。
冒険者カードは血誓魔道具の一種で、触ったり、見せたりすることはできても奪う事はできない。念じれば直ぐに自分の手元に戻ってくる。だから、身分証明が楽だ。まぁ、俺とレーラーの特殊な魔道具で種族欄は改ざんしているが。
そんな冒険者カードは放物線を描きながら、真ん中にいる隊長らしき騎士の足元に落ちた。
隊長っぽい騎士は足元に落ちた冒険者カードに剣先をサッと向けた後、左にいた騎士に顔を向けて指図する。
その指図を受けた騎士は剣を左腕に着けている盾の内に仕舞うと、素早くしゃがみ、ゆっくりと警戒する様に冒険者カードを拾い上げる。
そして幾度となく冒険者カードに魔力を通そうとしたりして検査した後、本物だと分かったのか、丁重に隊長っぽい騎士に見せる。
隊長っぽい騎士はじっとそれを見た後、ライゼに向けていた剣先を下す。右にいた騎士は下すことはない。
「貴様の目的は何だ! そこのトカゲは何だ!」
これは既に回答が決まっている。
キチンと作っている。
「僕の目的は知り合いの安否を確認する事と情報収集です! こっちのトカゲは遺物によって召喚した召喚獣です!」
「知り合いとは誰だ! ファーバフェルクト都市の町人か、冒険者か、誰だ!」
騎士が厳しく問い詰める。
闘気と魔力の両方を放ち、威圧してくる。結構強い人だ。
「名前はトレーネ。所属は冒険者、Cランク。神官と戦士をやってる。異名は『聖金棒』!」
「……トレーネ殿はこの町にいない!」
いないのか。
灰に包まれた農業地帯、未だに小さな炎と煙があった。
その手前にある高く並んでいたであろう城壁は無惨に砕け、瓦礫が散乱している。
怒声と地面を揺らす駆け足だけがその瓦礫の内を彩り、他は静かだ。寝ている。倒れている。死んでいる。
修道服に身を包んだ者以外は沈黙していた。
『これはひでぇな』
『うん』
飛行帽を被り、角を隠したライゼは眼下に広がる光景をただただ見つめる。
そんなライゼを背中に乗せながら高原にいる俺は、肉が焼ける臭いが漂う街の様子に尻尾を揺らし、鼻を鳴らす。魔力で強化した視力が人が焼死しているのをとらえる。
『ライゼ、分かってるな』
『うん』
そして俺は若干不機嫌になりながらも、ライゼにきつく言った。
ライゼは飛行帽を深く被り直し、ゴーグルを着ける。
『冒険者カードは分かる様に吊るしておけよ。あと』
『分かってる。ヘルメスの魔道具で種族欄は偽装しておくよ』
何度も言うが、この世界には人権はない。人自体に権利は与えられない。
この世界は種族と就いている職業、役職に権利が与えられる。世界でも類を見ない公平的な法治国家であるアイファング王国とは違うのだ。
魔物という資源が年月を経ても減ることなく襲ってきて、また、家畜にするには無理だから乱獲することもできない。魔人以外は魔物を操る事はできていない。レーラーもだ。
けれどアイファング王国は冒険者を擁護し、騎士や兵士、または防壁や魔道具や魔法の発展などの軍事に力を注いでいたからこそ、世界的なエネルギーの一つである魔石が安定的に手に入れる事ができる。
そして逆に、魔物という異形の存在と過酷な環境に囲まれているからこそ人類による表面上の侵略は殆んどなく、魔石というエネルギーコントロールによって外交政治的にも牽制している。
だから、国にある程度の安定があるのだ。
安定はあれど、やはり魔物が常に襲ってくるから安寧はなく競争的で正しい発展が起こる。
そして安定の中の競争によって、最低限度の人権やらが僅かに芽生え、子鬼人のライゼですら襲われて身包みを剥がれて、奴隷として働かされる事もない。ちょっと社会的に地位が低く、就職や賃金などに少しだけ困るくらいである。
というか、あの国は私的所有権という貴族以外の役職の個にも所有物があるという考え方を持っている。
平民は貴族に所有されているわけではなく、貴族に雇われていると考え方に近いのだ。それでも支配と保護だと支配が強いが。
だが、重要だから何度も言うが世界的な常識は違う。
世界の国々によっても違うし、冒険者という組織内での考え方も違う。
けれど、世界の国々も冒険者も根底にあるのは貴族だから、冒険者だからという役職が絶対なのだ。
だから、冒険者の世界では、子鬼人でもランクが高ければ襲われる事は少ないし、貴族は平民を好き勝手にしていい。平民自体を奪ってもいいし、売ってもいい。
まぁ、そこに領地経営という持続的な営利をとるか、短絡的な営利をとるかは別れるが、基本的に平民は貴族の所有物である。
王にそれを許されたのだ。
だから。
『ライゼ』
『分かってる』
悲惨な街へと向かおうとした俺達の周りに幾つかの魔力反応が現れた。
『六、七、九、十一にそれぞれ二。前方に三。その内二が闘気』
闘気持ちとは戦ったことないからな。
余計警戒は必要だろう。
『逃げる準備はしておくぞ』
『お願い』
スルリと俺の背中から降りたライゼは、“森顎”と“森彩”を構えることなく、深緑のグローブ型の魔道具を嵌めている両手を目一杯開き、また大きく振る。
敵意がない事を示すのだ。
「そこで止まってください!」
前方から朝日の鈍い光を反射する騎士鎧を纏った三人が見えた。後にいる者たちは姿を表さない。魔法使いか、遠距離系の騎士だろう。
そして現れた騎士たちは剣と盾を構え、ライゼに剣先を向けている。鎧に全身を覆われていて、顔の表情を見る事ができない。
そして歩みを止める事はない。
「僕はライゼ、人族、冒険者ランクC、こっちは馬代わりのトカゲ。……止まってください!」
前の街で冒険者ランクを挙げたライゼは、首に掛けていた青白い冒険者カードを歩みを止めない騎士たちに向かって放物線を描くように緩やかに投げる。
投げた後は、万歳する様に手を挙げる。
冒険者カードは血誓魔道具の一種で、触ったり、見せたりすることはできても奪う事はできない。念じれば直ぐに自分の手元に戻ってくる。だから、身分証明が楽だ。まぁ、俺とレーラーの特殊な魔道具で種族欄は改ざんしているが。
そんな冒険者カードは放物線を描きながら、真ん中にいる隊長らしき騎士の足元に落ちた。
隊長っぽい騎士は足元に落ちた冒険者カードに剣先をサッと向けた後、左にいた騎士に顔を向けて指図する。
その指図を受けた騎士は剣を左腕に着けている盾の内に仕舞うと、素早くしゃがみ、ゆっくりと警戒する様に冒険者カードを拾い上げる。
そして幾度となく冒険者カードに魔力を通そうとしたりして検査した後、本物だと分かったのか、丁重に隊長っぽい騎士に見せる。
隊長っぽい騎士はじっとそれを見た後、ライゼに向けていた剣先を下す。右にいた騎士は下すことはない。
「貴様の目的は何だ! そこのトカゲは何だ!」
これは既に回答が決まっている。
キチンと作っている。
「僕の目的は知り合いの安否を確認する事と情報収集です! こっちのトカゲは遺物によって召喚した召喚獣です!」
「知り合いとは誰だ! ファーバフェルクト都市の町人か、冒険者か、誰だ!」
騎士が厳しく問い詰める。
闘気と魔力の両方を放ち、威圧してくる。結構強い人だ。
「名前はトレーネ。所属は冒険者、Cランク。神官と戦士をやってる。異名は『聖金棒』!」
「……トレーネ殿はこの町にいない!」
いないのか。
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