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物語

05.第二王子の婚約者になった訳(過去)02

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 ティアとジェフロアの婚約をきめたのは、今のノーザングリア国の女主人であるサンテ王妃だ。

 サンテ王妃は、前王妃が病についた時、前王妃の延命に務め、幼かったジェフロアの母代わりを務めていた。 彼女が国に帰ると決めた時、ジェフロアが母代わりの彼女を恋しがった事から、前王妃の喪が明けると共に現王妃の座についた女性である。

 サンテがジェフロアの行いを心配している姿を知らない者はいない。

 だからこその誰もがサンテの言葉に納得したのだ。

「このように賢い娘こそがジェフロアの妻に相応しいと思いますの。 だって、私の子は少しばかりやんちゃでしょう? 妻として迎えるなら、ティアほどシッカリした子がいいわぁ~」

 そんな一言で、ティアはジェフロアの婚約者になってしまったのだ。

 当時はティアも喜んだ。
 誇りだとすら感じていた。

「あの頃は、見る目がなかったわぁ」

 今なら、遠い瞳でそう言うのだが、幼いティアに拒否権等ある訳が無かった。



 それからと言うもの、ティアは第二王妃様のお茶会に招かれ、ジェフロアと交流を深めて……居った。



 と思っていた。



 ジェフロアが成人となった頃から、幼い暴力は鳴りを潜め色へと走り出していたのだ。

 貴族令嬢を観劇に誘い、茶に誘い、美しいデートスポットに誘い……様々な女性と浮きなをながしていることも知らず、ティアは王妃を交えた茶会、買い物、旅行等をデートだと勘違いし続けていた。

 実際には、王妃様付きの専属侍女として利用されていた事にも気づかず……。

 少しずつ少しずつ、そうあるべきなのだと仕込まれていた。

 お茶を淹れ、有名どころの菓子を常に準備し、気温、天候から察する衣装装飾品を選び、お茶会の采配を行い、楽団員を招き、大道芸人を招き、時には彼女のために劇団を招いた。 外食をしたいと言えば、何件かの店に予約を入れ、選ばれなかった店には断りの連絡と謝罪と謝礼の準備を行う。

「貴族の方々を招くと言う事は、大変な事なの。 まずは私を満足させる事から慣れていきましょうね」

 サンテは優しく語りソレが間違っていると気づいたのは、王妃に日常的にかかる予算を大公家で負担されており、義父ルキウスが帳簿のチェックをしていた時だった。 そしてティアの侍女生活は無事に終わりを迎える事となる。

「なぜ、理不尽な目に合っていると言わなかった? 私は常に王都にいる訳でもないのだぞ、言葉にして助けを求められなければ、分からない事も多いんだ。 今度からはちゃんと言葉にして助けを求めなさい」

 そう言われ、ティアは理不尽そうに拗ねながら言う訳だ。

「私には、ソレが当たり前なのだと思っておりました」

「……では、私に報告するために、1日を記した日記をつけるように。 プライベートに関わる事、知られたくないような事は書かなくていいから、分からない事、知って欲しい事を綴るんだよ」

 そうしてティアと義父の交換日記が始まった。

 義父による戒めにより、ティアの日々は一転した。

 かのように見えた。

「仕立屋に行き新しいドレスを見繕い、カフェでお茶をし食事をしよう。 コレは僕とのデートだ。 全てにおいて最高の店を予約しておいてくれないか?」

 ジェフロアからの誘い。

 とうぜん、謝罪だと思ったのだけれど……そうやって行った先には女性が待っていた。 寄り添い小さく語り合いクスクス笑う婚約者と豪華な髪色をした令嬢。 それは髪も肌も白く瞳も淡い色合いのティアには持ち合わせていないもので、刺激される劣等感は楽し気に笑う2人の後を距離を置きついていくことしかできなかった。

 貴族女性と分かれた後、ティアは聞いた。

「アレはどういう事なのよ!! とても、とても惨めだったわ」

「叔父上が余計な事をするから、僕が悪く言われるようになったじゃないか。 なら、ティアが責任をとって、皆で遊びに行っていると言う形を作るのは当然の事だろう?」



 等と言われれば……



「今日は、ジェフロアと出かけたそうですね。 楽しかったか?」

 そう問いかける義父にどう答えればいいのか分からなかった。

 ティアの態度はぎこちなく大人を誤魔化せるものでは決してなくて、義父ルキウスが王都を離れると同時にジェフロアに呼び出されれば、待っていたのはジェフロアだけでなく王妃サンテだった。

「アナタの賢さを見込んでジェフロアの婚約者へと推薦したのに、ジェフロアと令嬢との会話を盛り上げるどころか、大公に不満をぶつけるなんて……アナタはジェフロアを貶めて楽しいのかしら?」

「そういう訳では……」

「服を脱ぎなさい」

「ぇ?」

「悪い子は、罰を受けるもの。 ソレが物分かりの悪い子供に対する大人の義務ですの。 アナタは痛みと共にジェフロアへの忠誠を身に着けるのよ」

 当時はまだ流行の濃い色をしたドレスを身に着けており、ソレは鞭打った身から滲む血の色を隠す事となった。

「しばらく、奥宮でジェフロアの妻としての教育を施しましょう。 気高き血を持たず、親も分からず、妻も子もおらぬ大公に育てられたアナタには、王族の妻となるための心得を教える必要があります。 誰もアナタに教える者がいない……それはとても不幸な事ですわ」

 義父がティアに関わるなと王妃に告げるたびに改善したかのような態度を王妃は取るが、大公が王都から離れるたびに同じ事が繰り返された。

「王妃としての務めは、王妃である私しか教える事は出来ません!!」

 と言うのが彼女の言い分だったが、義父ルキウスはジェフロアの婚約者、未来の王弟妃としてではなく大公家の跡継ぎとしての領地に共に連れ帰ってくれ、一時の安らぎを得る事が出来た。

 そして、私が居ないことで少しでも反省してくれるといいんだけど……ティアは僅かな望みを抱いていた。
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