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第3章 罪火、戸惑いに揺れる心
勝利の余韻
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「ぶざまだな」
シンの冷ややかな一言に、ファルクは奥歯を噛み悔しそうな、あるいは恨めしげな顔でシンを凝視した。
その左頬から一筋の赤い血がつっと、流れ落ちていく。
ファルクの完全なる敗北であった。
「貴様こんな真似をして、どうなるか……」
「俺を役人につきだすって? いいぜ。やれるもんなら、やってみろ。ただし……」
相手に得物を突きつけたまま、シンはさらに目を細める。
「獄中でも、死刑台の上でもこの命が途切れるまで声を張り上げて言いふらしてやるよ。俺は剣の名手であるあんたを負かしてやったってね。その頬の傷が何よりの証拠だって」
「くそ……」
立ち上がり、ファルクは憎悪を漲らせた目でシンを睨みつけて去っていこうとした。
もはや、この場にいることが恥であるとでもいうかのように。
「忘れもんだ! 剣士が剣を忘れていくな」
シンはファルクの剣を足で蹴り上げた。
剣は虚空を舞い、ファルクの足元の地面へ突き刺さった。
忘れかけていた剣をとり、そそくさと逃げ去っていくファルクの背を見つめ、シンは嘲笑を浮かべた。
「相手にもならねえよ」
とっとと消え失せろ、と悪態をつく。
「シン!」
サラは息を弾ませ、シンの元へと駆け寄ると、ぎゅっと抱きついてきた。
「すごいわ! シンがこんなに強かったなんて!」
「だから言っただろ? 俺、強いって」
「まさかこんなに強いとは思わなかったし、そんなふうに見えなかったもの……」
「俺を信じてって言ったのに、疑ってた?」
サラ違うと首を振る。
「だって、私あんな場面見るの初めてだったし、怖かったの。でも、あのファルクを負かしてしまうなんて信じられない。ほんとにすごいわ! 私、シンの戦いに見とれてしまったわ! 素敵だったわ!」
興奮して褒め言葉を連呼するサラに、シンは気恥ずかしそうに頭をかく。
「いやあ、そこまで褒められると……俺、照れるよ」
調子に乗らないでと言われるかと思ったが、それでもサラは目を輝かせていた。
「ありがとう、シン」
「いや、別にたいしたことしてないし。っていうか、そう抱きつかれると……」
決意が鈍るというか、何というか……。
と、シンはもごもごと口ごもる。
サラははっとなって、シンから離れた。
「シン、さっきのことだけど……あの、私のことを」
言いづらそうに語気を濁すサラに、ああ、と言ってシンは緩く首を横に振る。
「忘れて」
どこかほっとしたように肩の力を抜くサラを見て、シンは複雑な気持ちを抱いた。
「ごめんなさい」
「いや、謝らなければいけないのは俺のほうだ」
あの時は、サラに拒むことを許さず、何としてでもうなずかせて自分のものにしてしまおうと思った。
たぶん、あのファルクという野郎が現れなかったら、間違いなくそうしていただろう。
確かにあの時は本気だった。
だけど今は。
だから、これでよかったのだと、無理矢理自分に言い聞かせることにした。
シンの冷ややかな一言に、ファルクは奥歯を噛み悔しそうな、あるいは恨めしげな顔でシンを凝視した。
その左頬から一筋の赤い血がつっと、流れ落ちていく。
ファルクの完全なる敗北であった。
「貴様こんな真似をして、どうなるか……」
「俺を役人につきだすって? いいぜ。やれるもんなら、やってみろ。ただし……」
相手に得物を突きつけたまま、シンはさらに目を細める。
「獄中でも、死刑台の上でもこの命が途切れるまで声を張り上げて言いふらしてやるよ。俺は剣の名手であるあんたを負かしてやったってね。その頬の傷が何よりの証拠だって」
「くそ……」
立ち上がり、ファルクは憎悪を漲らせた目でシンを睨みつけて去っていこうとした。
もはや、この場にいることが恥であるとでもいうかのように。
「忘れもんだ! 剣士が剣を忘れていくな」
シンはファルクの剣を足で蹴り上げた。
剣は虚空を舞い、ファルクの足元の地面へ突き刺さった。
忘れかけていた剣をとり、そそくさと逃げ去っていくファルクの背を見つめ、シンは嘲笑を浮かべた。
「相手にもならねえよ」
とっとと消え失せろ、と悪態をつく。
「シン!」
サラは息を弾ませ、シンの元へと駆け寄ると、ぎゅっと抱きついてきた。
「すごいわ! シンがこんなに強かったなんて!」
「だから言っただろ? 俺、強いって」
「まさかこんなに強いとは思わなかったし、そんなふうに見えなかったもの……」
「俺を信じてって言ったのに、疑ってた?」
サラ違うと首を振る。
「だって、私あんな場面見るの初めてだったし、怖かったの。でも、あのファルクを負かしてしまうなんて信じられない。ほんとにすごいわ! 私、シンの戦いに見とれてしまったわ! 素敵だったわ!」
興奮して褒め言葉を連呼するサラに、シンは気恥ずかしそうに頭をかく。
「いやあ、そこまで褒められると……俺、照れるよ」
調子に乗らないでと言われるかと思ったが、それでもサラは目を輝かせていた。
「ありがとう、シン」
「いや、別にたいしたことしてないし。っていうか、そう抱きつかれると……」
決意が鈍るというか、何というか……。
と、シンはもごもごと口ごもる。
サラははっとなって、シンから離れた。
「シン、さっきのことだけど……あの、私のことを」
言いづらそうに語気を濁すサラに、ああ、と言ってシンは緩く首を横に振る。
「忘れて」
どこかほっとしたように肩の力を抜くサラを見て、シンは複雑な気持ちを抱いた。
「ごめんなさい」
「いや、謝らなければいけないのは俺のほうだ」
あの時は、サラに拒むことを許さず、何としてでもうなずかせて自分のものにしてしまおうと思った。
たぶん、あのファルクという野郎が現れなかったら、間違いなくそうしていただろう。
確かにあの時は本気だった。
だけど今は。
だから、これでよかったのだと、無理矢理自分に言い聞かせることにした。
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