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第3章 罪火、戸惑いに揺れる心
狂乱の円舞曲
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剣を一振りして、シンは再びファルクをかえりみる。
わずかに反った刀身の切っ先は、まるで、さながら満ちかけた月の鋭さを思わせた。
「片づけるだと? その科白が泣き言に変わるのが私は楽しみだよ」
「俺はてめえのその鼻っ柱を叩くのが楽しみだ」
「言っておくが、私は強い」
ファルクはにやりと口元を歪める。
「なら、こっちも遠慮はいらねえな。まあ、殺しはしないから安心しろ。軽く遊んでやる」
戯けた仕草でシンは肩をすくめる。だが、その口調と態度とは裏腹に、相手を見据えるその目は笑ってはいなかった。
ファルクは隙のないかまえで剣を持ち上げた。
同時に、シンも剣をかまえる。
二人の男の手にした剣の刀身が、傾きかけた月明かりに照らされ蒼い光を弾く。
緩やかな風が流れ、漂う緊迫した空気に甘い薔薇の香りが漂ってきた。
まるで、眩むような幻想的な空間。
蒼い月の光。
星のささやき。
匂い立つ薔薇。
剣の輝き。
向かい会う、二人の男の影。
二人はじりじりと間合いをつめ、互いに最初の一撃の機会をうかがっていた。
先に、動き出したのはファルクの方。
見かけの逞しさと同じく、彼の操る剣技も剛健の気風。
土を跳ね上がらせ、飛び込んでくる相手の一撃をシンはまずは刀身で受け止めた。
「シン!」
サラは悲鳴を上げ、口元を手でおおった。
「どうしよう……私のせいだわ。きっと酷い怪我を負わされてしまう……」
だが、サラは知らない。
数日間行動をともにしたシンという男の実力を。
強さを。
月明かりだけの夜の空間に剣花が散る。
振り下ろされた相手の一撃に、シンは片目を細めた。
普通ならその鋭く重い攻撃に腕を痺れさせ剣を取り落としてしまうところであろう。あながち、剣の名手というのも嘘ではないようだ。
だけど、このくらいで参ると思ったら大間違いだと、シンは相手を剣で押し返す。
刃を交えてはいったん互いに距離を取り、再び相手に斬りかかろうと躍り出る。
シンの剣に迷いはなかった。
「嘘でしょう?」
サラはぽつりと声をもらした。
「あいつと……ファルクとまともに剣を打ち交わせるなんて! すごいわ……シンは本当に強いのだわ!」
ふと、サラの耳に遠くから円舞曲の楽曲が流れてきた。そして、食い入るように二人の闘いを見る。
もう怖いことなんて何もない。
なぜなら、どちらが有利であるかサラの目にもはっきりと理解できたから。
それまで、互角を見せてきた二人の闘いに明らかな変化が現れた。
シンが攻めの体勢に移り変わったのである。
遠くから聞こえてくる円舞曲の調べにあわせ、剣を前へと突きだし、右、左、右さらに、右、左、右。一撃、二撃、三撃と……。
その攻撃はさながら、四分の三拍子を刻む軽やかな舞踏のようでもあった。もっとも、シンの耳に円舞曲が入ってきているかは定かではないが。
最後に鋭い一撃をファルク目がけて叩き込む。
相手もその攻撃を刀身で受け止めた。
互いに刃を噛み合わせる。
シンは相手を剣で押し返し、すぐさま後方へ飛んだ。
ファルクは肩を上下させ、荒い息を吐く。
「何、もう息切れ? あんたほんとに剣の名手?」
たいしたことねえな、とシンは息ひとつ乱さず、余裕の態度で腰に手をあて相手を見据える。
「な、んだと……」
「言っておくけど、俺まだ実力の半分も出してねえぞ。でも、あんたとこれ以上戦ってもつまらないし、もう終わりにするか」
ファルクは眉をひそめた。
剣を握る手が小刻みに震えている。
「小賢しいガキめ! どこまでも、ふざけた態度をとりやがって」
気色ばみ、剣を振り上げファルクは突進した。
その攻撃すら、難なくシンはかわしてしまう。
「ふざける? 俺、これでもけっこう腹を立てているんだぜ」
シンは目を鋭くさせた。
「このまま、てめえをぶっ殺してやりてえところだけど、そうもいかねえ。だから、あんたの自尊心をずたずたに切り裂いてやるよ」
シンは相手の剣を一撃のもとに弾き飛ばした。
さらに剣を横に一閃させ相手の頬を斬りつける。
月華を弾き、虚空を回転してファルクの剣がどっと地面に突き刺さる。
勝負ありと、刀身の切っ先をシンは相手の喉元に突きつけた。
シンの背後で皓々と月が輝く。
わずかに反った刀身の切っ先は、まるで、さながら満ちかけた月の鋭さを思わせた。
「片づけるだと? その科白が泣き言に変わるのが私は楽しみだよ」
「俺はてめえのその鼻っ柱を叩くのが楽しみだ」
「言っておくが、私は強い」
ファルクはにやりと口元を歪める。
「なら、こっちも遠慮はいらねえな。まあ、殺しはしないから安心しろ。軽く遊んでやる」
戯けた仕草でシンは肩をすくめる。だが、その口調と態度とは裏腹に、相手を見据えるその目は笑ってはいなかった。
ファルクは隙のないかまえで剣を持ち上げた。
同時に、シンも剣をかまえる。
二人の男の手にした剣の刀身が、傾きかけた月明かりに照らされ蒼い光を弾く。
緩やかな風が流れ、漂う緊迫した空気に甘い薔薇の香りが漂ってきた。
まるで、眩むような幻想的な空間。
蒼い月の光。
星のささやき。
匂い立つ薔薇。
剣の輝き。
向かい会う、二人の男の影。
二人はじりじりと間合いをつめ、互いに最初の一撃の機会をうかがっていた。
先に、動き出したのはファルクの方。
見かけの逞しさと同じく、彼の操る剣技も剛健の気風。
土を跳ね上がらせ、飛び込んでくる相手の一撃をシンはまずは刀身で受け止めた。
「シン!」
サラは悲鳴を上げ、口元を手でおおった。
「どうしよう……私のせいだわ。きっと酷い怪我を負わされてしまう……」
だが、サラは知らない。
数日間行動をともにしたシンという男の実力を。
強さを。
月明かりだけの夜の空間に剣花が散る。
振り下ろされた相手の一撃に、シンは片目を細めた。
普通ならその鋭く重い攻撃に腕を痺れさせ剣を取り落としてしまうところであろう。あながち、剣の名手というのも嘘ではないようだ。
だけど、このくらいで参ると思ったら大間違いだと、シンは相手を剣で押し返す。
刃を交えてはいったん互いに距離を取り、再び相手に斬りかかろうと躍り出る。
シンの剣に迷いはなかった。
「嘘でしょう?」
サラはぽつりと声をもらした。
「あいつと……ファルクとまともに剣を打ち交わせるなんて! すごいわ……シンは本当に強いのだわ!」
ふと、サラの耳に遠くから円舞曲の楽曲が流れてきた。そして、食い入るように二人の闘いを見る。
もう怖いことなんて何もない。
なぜなら、どちらが有利であるかサラの目にもはっきりと理解できたから。
それまで、互角を見せてきた二人の闘いに明らかな変化が現れた。
シンが攻めの体勢に移り変わったのである。
遠くから聞こえてくる円舞曲の調べにあわせ、剣を前へと突きだし、右、左、右さらに、右、左、右。一撃、二撃、三撃と……。
その攻撃はさながら、四分の三拍子を刻む軽やかな舞踏のようでもあった。もっとも、シンの耳に円舞曲が入ってきているかは定かではないが。
最後に鋭い一撃をファルク目がけて叩き込む。
相手もその攻撃を刀身で受け止めた。
互いに刃を噛み合わせる。
シンは相手を剣で押し返し、すぐさま後方へ飛んだ。
ファルクは肩を上下させ、荒い息を吐く。
「何、もう息切れ? あんたほんとに剣の名手?」
たいしたことねえな、とシンは息ひとつ乱さず、余裕の態度で腰に手をあて相手を見据える。
「な、んだと……」
「言っておくけど、俺まだ実力の半分も出してねえぞ。でも、あんたとこれ以上戦ってもつまらないし、もう終わりにするか」
ファルクは眉をひそめた。
剣を握る手が小刻みに震えている。
「小賢しいガキめ! どこまでも、ふざけた態度をとりやがって」
気色ばみ、剣を振り上げファルクは突進した。
その攻撃すら、難なくシンはかわしてしまう。
「ふざける? 俺、これでもけっこう腹を立てているんだぜ」
シンは目を鋭くさせた。
「このまま、てめえをぶっ殺してやりてえところだけど、そうもいかねえ。だから、あんたの自尊心をずたずたに切り裂いてやるよ」
シンは相手の剣を一撃のもとに弾き飛ばした。
さらに剣を横に一閃させ相手の頬を斬りつける。
月華を弾き、虚空を回転してファルクの剣がどっと地面に突き刺さる。
勝負ありと、刀身の切っ先をシンは相手の喉元に突きつけた。
シンの背後で皓々と月が輝く。
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