この裏切りは、君を守るため

島崎 紗都子

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第3章 思いがけない再会

6 クレイの秘密

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「大丈夫? 落ち着いた?」
 クレイの胸の中で、ファンローゼは静かに頷き、そろりと顔をあげた。
「取り乱してごめんなさい」
「そんなことはいいんだ」
 クレイのしなやかな指先が、目の縁に浮かんだファンローゼの涙を拭った。
「我慢しなくていい」
「ううん、もう大丈夫」
「記憶、取り戻したんだね」
 ファンローゼは今気づいたように、目を見開き唇を震わせた。
「思いだしたわ。何もかも、すべて」
 震える手を胸のあたりに持っていく。
「三年前のことを」
 震えが止まらなかった。
 失っていた記憶のすべてが、一気に流れ込むように脳裏を駆け巡っていく。
 そんなファンローゼの身体を、クレイは再び抱きしめた。
「クレイ……」
「何も言わなくていい。震えが止まるまでこうして抱きしめていてあげるよ」
 身動きがとれないほどに抱きしめられる。
 記憶が蘇ったが、それはつらい過去を呼び覚まさせるだけとなった。
「ファンローゼ、よく聞いて欲しい」
 神妙な顔で切り出したクレイに、ファンローゼは首を傾げた。
「僕、君に内緒にしていたことがある」
「内緒にしていたこと?」
「驚かないで聞いて欲しい」
 クレイの真摯な眼差しがファンローゼを射る。
「実は僕、エスツェリア軍に対抗する組織にいるんだ」
「まさか、反エスツェリア組織」
 言って、ファンローゼは口元を手で押さえ、辺りを見渡した。
 この会話を誰かに聞かれてはいないだろうかと。もし、このことが知られたら、大変なことになる。
 しかし、幸いなことにここは車内。当然、運転している男以外誰もいない。他の者にこの会話を聞かれることはなかった。
 それよりも、いつも穏やかで優しいクレイが、まさかエスツェリア軍に対抗する組織にいたとは、驚きを隠すことはできなかった。
「お父様がいた組織?」
「いや、クルトさんの組織とは別だ。どうだろう? 僕の所に来ないか?」
「クレイの組織に?」
 ファンローゼは言葉をつまらせた。
「いや、誤解しないで欲しい。組織に入ってとか、協力して欲しいと言っているわけではない。ただ、僕のいる組織なら君を匿えるし、何より、君の側にいて守ってあげられる」
 ふと、殺された父のことを思い出す。
 父も軍に対抗する組織に入っていたため殺された。
 正直どうすればいいのか分からなかった。
「いや……今のことは忘れて欲しい。そうだね。君はもうスヴェリアに、アレナさんのところに帰った方がいい。これ以上ここにいるのは危険だ。送っていこう」
 クレイは苦笑いを浮かべる。
「いいえ! 私をそこに、クレイの組織に連れて行って!」
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