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第3章 お師匠さまの秘密を知ってしまいました

お師匠様の罪 1

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「水は涸れ作物もろくに育たず、多くの人たちが為す術もなく倒れていった。ツェツイ、人が神を喚び天の摂理をねじ曲げること、これもまた〝灯〟の掟に違反することだ。だけど、俺はただ黙って見ていることなんてできなかった。〝灯〟の掟がなんだという。何が世界に平和と希望のともしびをだ。そんな掟に縛られ、苦しんで倒れていく人々を救えずして何が魔道士だ。普通の人にはない力を持った時点で、その力は誰かのために役立てるんじゃないのか。そう思った俺は龍神を喚んだ。いや、決断したのは目の前で大切な奴が死にかけようとしたから……雨は降った。だが結局、俺はそいつを救えなかった。遅かった。間に合わなかったんだ」
 イェンはわずかにまぶたを伏せ、視線を斜めに落とす。
 ツェツイはただ黙ってイェンの告白に耳を傾けていた。
「俺の腕の中でそいつは息をひきとった。何度呼びかけても、そいつが目を開けることはなかった。何故、俺はもっと早く行動を起こさなかったのか。〝灯〟の掟と大切な者の命、どちらが重要かなど悩むまでもなかった。そして、どうしてもそいつを失いたくないと思った俺は……」
 蘇りの術など使ったことはない。
 だが、知識として自分の中に存在する。
 成功させる自信はあった。
 たとえ、禁忌にふれたとしても、そのせいで罰を受けることになったとしても、ただそいつを救いたいと願う気持ちがイェンを突き動かした。
 まさに衝動だった。
「そう、俺は蘇りの術でそいつの魂を呼び戻した。その後、俺は罪をおかした魔道士として捕らえられ〝灯〟の地下深くの牢に閉じ込められた。長である親父から受けた言葉は死刑の宣告だ。当然だ。死んだ人間を蘇らせる。そんなとんでもないことをやらかした危険な魔道士を生かしておくわけにはいかない」
 自分の父親から死刑の宣告を受けた。
「たぶん、逃げようと思えば逃げることはできた。だが、俺は罪を償うつもりで処刑の日を待つつもりでいた。だけど、そいつが地下牢に現れ必死になって俺を救おうと親父を説得したんだ。俺を殺すなら、自分も死ぬんだと言ってな。さすがの親父もその時は慌てた顔をしてたよ。何しろ相手が相手だっただけに。だけど、おかげで俺は処刑だけは免れた。禁術とはいえ、雨を降らせてこの国を救ったというのも恩赦のひとつだが」
 〝灯〟の掟、そして、長がくだした決断さえ覆してしまう、それほどの力を持つ相手とはいったい誰なのか。
 ツェツイはおそるおそる問いかける。
「その人は?」
「生きてるよ。いつもぼんやりして、もしかしたら俺の魔術が不完全で、心まで取り戻すことはできなかったのかと時々不安になるけどな」
 その人物のことを思い出しているのか、イェンの表情がふっと和らぐ。
 よほど大切な人なのだろう、こんな顔をするお師匠様を見るのは初めてだと、ツェツイは思った。
「まあ、元々おっとりした奴だったが」
「今は?」
「王宮にいる」
「王宮……」
 何も不思議ではない。腕のいい魔道士は王族に仕え、その身を守護する任につくことだってある。
 落ちこぼれだとか無能魔道士だとか言われていたイェンだが、誰も知らないだけで実はかなりの魔術の使い手だ。
「この国の王子だ」
「王子様……お師匠様が言っていた強力な後ろ盾って」
 イェンははは、と肩を揺らして笑う。
「まあ、そいつのことだな」
「あの……この間もそうだったけど、強力な後ろ盾と言いながら、どうしてそこで笑うんですか?」
「後ろ盾っていっても、そいつ、まだおまえと年のかわらない十二、三のがきだから。王族のことなんて俺にはさっぱりだが、いろいろ事情があって小さな頃からうちで暮らしてんだよ。今は何かの行事があるらしくて王宮に戻ったけどな。そのうちひょっこり帰ってくんじゃねえ。ああ、それと、別に俺はそいつに仕えているわけでも何でもねえよ。まあ、弟みてえなもんだ」
 肩を揺らしてひとしきり笑うイェンの顔からすっと笑みが消えた。
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