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第1章 わたしの師匠になってください!
お師匠様のお家に 2
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食べきれないと思われた料理の皿もすっかり空となり、食後にハーブティーを飲んでくつろいでいたツェツイは、はっと時計を見上げ椅子から勢いよく立ち上がった。
「いけない、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」
「俺、家まで送ってく」
「なら俺も一緒に行く」
「何よ、泊まってけばいいじゃないのさ。もう遅いし、そうしなさい」
「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」
ツェツイは慌てて首を振る。
そんなツェツイに、アリーセは意味ありげな笑いを浮かべた。
「あら、それは残念。りんごのタルトがもうすぐ焼きあがるのに」
その言葉に素早く反応したのは双子たちの方であった。
テーブルから身を乗り出し、きらきらと目を輝かせている。
「まじか? りんごのタルト焼いたのか!」
「母ちゃんのりんごのタルトは最高だぜ!」
「これを食ってかないと」
「ツェツイ、後悔するぞ」
ツェツイはごくりと喉を鳴らした。
確かに、キッチンからシナモンのきいた、いい香りが漂ってくる。
「あ、あの……あたし、後かたづけ手伝います!」
もう食べられないってほど夕飯をごちそうになったのに、おやつの誘惑には勝てなかった。ツェツイはテーブルの上の食器を台所に運び始めた。
その後、アリーセ自慢のりんごのタルトを二切れも平らげ、双子たちと居間でカードゲームを楽しんだ。
気がつくと、ツェツイはソファーの上で眠っていた。
よほど楽しかったのか、ツェツイの口元には笑みが浮かんでいる。
その隣では双子たちが互いに肩を寄せ合い、カードを握りしめたまま首をこっくりとさせていた。
そんな三人の姿を見たアリーセは、やれやれと肩をすくめて笑う。
「あんたたち、寝るならベッドでしょう。ほら、起きなさい」
アリーセに追い立てられ、双子たちは眠たそうに目をこすりながら立ち上がる。
「ちゃんと歯を磨いて、寝間着に着替えるのよ」
「ツェツイ、明日も遊ぼうぜ」
「だから、泊まっていけよな」
話しかけている相手がすでに眠っているとも知らず、寝ぼけまなこのアルトとノイはふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
静かな寝息をたて、身体を丸めて気持ちよさそうに眠っているツェツイを見下ろし、イェンは苦笑する。
「ツェツイはあたしのベッドに寝かせてあげて」
「はいはい」
ツェツイを抱き上げようと手を伸ばしかけたその時。
「ちょっと待って!」
「何だよ」
「起こしちゃだめよ。優しくするのよ。間違っても、双子たちみたいに乱暴に肩にかついだりしないでちょうだい。女の子なんだから」
「わかってるよ!」
「あらそう? まあ、言うまでもなかったかしら。あんた、女には特別優しいものね。だけど、その子にまだ手を出しちゃだめだからね」
「だから、出すかよ! 常識的に考えろ。だいいち、女というより、こいつは女の子だろ。女の子。子ども」
こんな子どもに手をだすほど女に困っちゃいねえよ。
「そう思っているなら、あんたもまだまだだね」
ふっと笑ってアリーセは肩をすくめる。
「何それ?」
「あんた、少しばかり悩むことになるかもしれないよ」
「どういう意味だよ?」
さあ、と意味ありげな笑いを口元に含むだけで、アリーセはそれ以上のことを口にすることはなかった。
さっぱり意味がわからない。
やれやれと肩をすくめ、イェンはツェツイの身体を抱き上げる。そして、おもわず眉をひそめる。
腕にかかる重みは信じられないほど軽く、柔らかかった。抱き上げたと同時にツェツイが、首に手を回してきゅっとしがみついてきた。
「あらあら、すっかり懐かれちゃって。可愛い子ね」
くすくすと笑うアリーセを、イェンは一瞥しただけであった。
ツェツイの身体から、ふわりとミルクのような甘い香りがした。
「それはそうと、あんた、気づいているでしょう?」
扉に向かって歩きかけたイェンはアリーセの問いかけに何が? と、肩越しに振り返る。
「その子、すごい魔力を内に秘めてるよ。うまくその子の眠っている能力を引き出してあげたら、とてつもない勢いで成長する」
と、意味ありげに言ってアリーセはイェンを見上げる。
しばし、目を見合わせる二人。
けれど、イェンは無言で肩をすくめただけであった。
「いけない、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ」
「俺、家まで送ってく」
「なら俺も一緒に行く」
「何よ、泊まってけばいいじゃないのさ。もう遅いし、そうしなさい」
「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」
ツェツイは慌てて首を振る。
そんなツェツイに、アリーセは意味ありげな笑いを浮かべた。
「あら、それは残念。りんごのタルトがもうすぐ焼きあがるのに」
その言葉に素早く反応したのは双子たちの方であった。
テーブルから身を乗り出し、きらきらと目を輝かせている。
「まじか? りんごのタルト焼いたのか!」
「母ちゃんのりんごのタルトは最高だぜ!」
「これを食ってかないと」
「ツェツイ、後悔するぞ」
ツェツイはごくりと喉を鳴らした。
確かに、キッチンからシナモンのきいた、いい香りが漂ってくる。
「あ、あの……あたし、後かたづけ手伝います!」
もう食べられないってほど夕飯をごちそうになったのに、おやつの誘惑には勝てなかった。ツェツイはテーブルの上の食器を台所に運び始めた。
その後、アリーセ自慢のりんごのタルトを二切れも平らげ、双子たちと居間でカードゲームを楽しんだ。
気がつくと、ツェツイはソファーの上で眠っていた。
よほど楽しかったのか、ツェツイの口元には笑みが浮かんでいる。
その隣では双子たちが互いに肩を寄せ合い、カードを握りしめたまま首をこっくりとさせていた。
そんな三人の姿を見たアリーセは、やれやれと肩をすくめて笑う。
「あんたたち、寝るならベッドでしょう。ほら、起きなさい」
アリーセに追い立てられ、双子たちは眠たそうに目をこすりながら立ち上がる。
「ちゃんと歯を磨いて、寝間着に着替えるのよ」
「ツェツイ、明日も遊ぼうぜ」
「だから、泊まっていけよな」
話しかけている相手がすでに眠っているとも知らず、寝ぼけまなこのアルトとノイはふらふらとした足取りで部屋を出て行った。
静かな寝息をたて、身体を丸めて気持ちよさそうに眠っているツェツイを見下ろし、イェンは苦笑する。
「ツェツイはあたしのベッドに寝かせてあげて」
「はいはい」
ツェツイを抱き上げようと手を伸ばしかけたその時。
「ちょっと待って!」
「何だよ」
「起こしちゃだめよ。優しくするのよ。間違っても、双子たちみたいに乱暴に肩にかついだりしないでちょうだい。女の子なんだから」
「わかってるよ!」
「あらそう? まあ、言うまでもなかったかしら。あんた、女には特別優しいものね。だけど、その子にまだ手を出しちゃだめだからね」
「だから、出すかよ! 常識的に考えろ。だいいち、女というより、こいつは女の子だろ。女の子。子ども」
こんな子どもに手をだすほど女に困っちゃいねえよ。
「そう思っているなら、あんたもまだまだだね」
ふっと笑ってアリーセは肩をすくめる。
「何それ?」
「あんた、少しばかり悩むことになるかもしれないよ」
「どういう意味だよ?」
さあ、と意味ありげな笑いを口元に含むだけで、アリーセはそれ以上のことを口にすることはなかった。
さっぱり意味がわからない。
やれやれと肩をすくめ、イェンはツェツイの身体を抱き上げる。そして、おもわず眉をひそめる。
腕にかかる重みは信じられないほど軽く、柔らかかった。抱き上げたと同時にツェツイが、首に手を回してきゅっとしがみついてきた。
「あらあら、すっかり懐かれちゃって。可愛い子ね」
くすくすと笑うアリーセを、イェンは一瞥しただけであった。
ツェツイの身体から、ふわりとミルクのような甘い香りがした。
「それはそうと、あんた、気づいているでしょう?」
扉に向かって歩きかけたイェンはアリーセの問いかけに何が? と、肩越しに振り返る。
「その子、すごい魔力を内に秘めてるよ。うまくその子の眠っている能力を引き出してあげたら、とてつもない勢いで成長する」
と、意味ありげに言ってアリーセはイェンを見上げる。
しばし、目を見合わせる二人。
けれど、イェンは無言で肩をすくめただけであった。
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