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三章 湯けむり温泉、ぬるぬるおふろ

揺れ動く気持ち

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 露天風呂にまん丸のお月さまが映っていた。はらはらと散る紅葉がライトアップされて目にも艶やか。三人は無言のまま温泉に入っていた。
 この温泉の泉質は強アルカリ。肌の上をすべるような、とろみのあるお湯をすくって、凛は肩にかける。肌の新陳代謝に良い成分と、古い角質を除去する効果のある高いpH値。月の光で、凛の白い肩がきらきらと光る。

「かわいい! 凛ちゃんは今日もとってもかわいい!」
「……ありがと」
「…………」

 いつもなら綾瀬と共に凛を可愛がる航が、何も言わなかった。それが不満なのか、凛も頬を膨らませる。空気は最悪を通り越してもはや地獄である。間に挟まれた綾瀬はいたたまれない。どうしたものかと思いつつも、とりあえずとろっとろのお湯をすくって航にかけた。

「ちょ、何するの……」
「お前もお肌つるつるになれぇー!」
「髪の毛濡れるから!」

 やけくそでバチャバチャと子どもみたいにお湯をかけてみた。それは小さな頃に、プールの授業の自由時間で遊んだみたいだった。鬼ごっこをしたり、どっちが長く潜ってられるか勝負したり……こんなふうに水をかけあいっこした。
 あの時とはだいぶ変わってしまった関係。


「ふふ……小学生の時みたいだね」
「あ、やっぱりプールの授業みたいだよな……」

「君は、全然変わらないね……誰よりも泳ぎが上手で魚みたいだった……今から思えば、あの頃からずっと好きだよ……」

「え……」


 しまった、どうにか兄弟げんかをやめてほしくてふざけてみたら、最悪の展開になってしまった。綾瀬は煩悶する。でも、なぜだろう……頬が赤くなっていく。それは温泉のぬくもりだけではない何か。胸がどきどきして、航を真っ直ぐにみていられなくなってしまう。

「ちょ、ちょっとちょっと、良い感じになってる! そういうのやめて!」
「何で? 僕は自分の気持ちを伝えただけだ……決めたよ凛。僕は正攻法で臨を落とす。いつかきっと、凛も航も好きだって言わせてみせるから……」

 きらり、と航の目が月の光で輝いた。凛は焦る。今は自分の事だけを好きな綾瀬。でも、これからは分からない。凛はちらりと綾瀬を見た。本人も気付かないうちに揺らいでいる……そういう風に見えた。凛の事が本当に好き、凛を自分だけのものにしたい。そう言っていた綾瀬。でも、いつかはそれが変わってしまう……そんな日が来るかもしれない。
 そう思ったら怖くなった。凛の知らない所で航と綾瀬が何かをしている。そう思うと、それだけで胸が苦しくて締めつけられるようだった。
 凛が色々考え込んでいるうちに、航はそっと綾瀬の肩に頭を乗せていた。

「わ、何やってるのお兄ちゃん! 綾瀬さんから離れて!」
「何で? さっき言ったよね……僕は僕なりに色々やっているだけだよ」

 そう言いながら白くぬるぬるとした濁り湯の中で手を動かす。その行く先は見えないけれど、腕の位置から大体の場所を想像して……凛の顔色がさっと変わる。航に負けじと手を伸ばしてみる。


「え、え? 二人とも何でそんな所を触って……えっ?」


 綾瀬がおろおととしているうちに、二人の手が綾瀬の性器に伸び、濁ったお湯の中で撫でまわされる。
 音もたてぬように静かに二人の手で扱かれて、綾瀬は気持ちいいけれど訳が分からない。

 
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