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■103 奇襲
しおりを挟む__大きな大きな荒波に飲み込まれるような、そんな災厄というものは、何の前触れもなく突然訪れるものだ。
王族の誕生日を祝う日は1日では終わらない。色々な催し物も用意され、そしてパーティーなどもいくつも開かれる。
他国の者達が一挙に集まっている為、交流の場を多く作る為だ。そうする事で、他国との良い関係を築き付き合っていくことが出来る。さすが国王陛下だ。
2日目である今日は、昼からガーデンパーティーが行われる。王宮の外にある庭園が会場となっている。王宮の庭は本当に美しく、皆見惚れているようだ。
私と殿下が会場に入ると、注目の的になるのは予測済み。婚約のお祝いの言葉が溢れるくらいかけられて。でも、やはり良く思っている者と思っていない者が分かれる。状況を伺っている人もいるか。
殿下が離れていった瞬間笑顔ではあるけれど、皆の心の内が大爆発。
本当に貴方に務まる訳がない。
どうせすぐ根を上げて諦めてしまうのだから私と交換しましょう。
ここに来て1年足らずの小娘に殿下の婚約者など、そんな権利があるわけがない。
錬金術以外何の取り柄のない小娘なのだからやめた方が身のためだ。自ら身を引きなさい。
遠回しに言ってくる者や、そのままストレートに言ってくる者達。それに便乗してクスクス笑いながらこちらを見下してくる。いや、私小娘じゃないです。おばあちゃんです。
殿下のせいです、と言いたいがこれは口から出してはいけない事だろう。私は皆より大人だ、心は海より広いのだからそれくらいね、うんうん。
「まだまだ未熟な私ですが、殿下の為、この国の為に精進してまいります」
笑顔でそう言ってみたら、殿下が背後からひょこっと顔を出してきて。その瞬間周りの顔は真っ青、冷汗が出ているようで。お見通しだぞ、とでも顔で言われているようだった。
ほら、やっぱりこうなった。と顔で訴えてみたけれど、何の事だ? と笑顔で返される。
ほんと酷い人だよね、勝手な人だし。因みに、陛下には何かあったら此方に来てもいいぞと避難場所を用意してくださった。ありがたや。
__それは、突然現れた。
「おめでとう、フレッド」
声を掛けてきたのは、ライドン閣下。国王陛下の弟であり、殿下の叔父だ。お祝いの言葉をかけてくれているけれど、何だか嫌な予感がして。
そして、閣下は、最後にニヒルな笑みを見せてきた。……そして、片足をその場に踏んだ。
「「「ッッッ!?」」」
その場から、大きな陣が形成されてしまった。紫の陣だ。
そして、床から無数の鎖が伸びてきて参加者を縛り上げ地面に転がされていく。私は殿下を掴んで下がったけれど……殿下が引っ張られ鎖に捕まえられてしまった。
これで、全員が捕まった。
__私以外だ。
会場が暗くなったと思ったら、もう既に会場に結界が張られている。あの、聖夜祭の時の聖宮に張られていたやつと同じだろう。
しまった、気付くのが遅かった。
「やぁ、ステファニー」
一瞬にして、先程の閣下の容姿が変わった。背の少し低い男性だったはずなのに、今はあの狩猟大会で見たあの男性に変わってる。
そう、彼はアズライトだ。
一体何をしに来たんだ、そう聞きだそうとしていた時……目が光り出した。それを認識した時にはもう遅くて、至近距離まで迫ってきて殴られる寸前だったのだ。
「ッ!?」
いきなりの事で、両腕で受け止めるしか出来ずふっ飛ばされてしまい、庭にあった木に激突してしまった。
ッたいなぁ……腕の骨折れたか。
「おぉ、受け身が上手じゃないか」
「……何回お師匠様に投げられたと思ってんだ……!!」
「はは、あの人も相変わらずだな」
マズいな、いつもの杖は会場入りする前に預けてしまった。パーティーなどの会場に入る時には武器等は係に預けるのがルールだ。だから、私の杖はこの結界の外だ。
収納魔法陣を開き、HPポーションを取り出し一気飲みをする。あぁもう、あの杖の前に使っていたあの緑の杖も持ってくるんだった、タウンハウスに何で置いてきちゃったんだ私のばかぁ。
もう一本、私の魔法陣の中にあるにはあるけれど……使うにはここは不利すぎる。駄目だな。
「ほらほら、さっさと受け身を取れ」
またさっきのように至近距離に詰めてきて、同じく受け身を取る。それから、会場にあるテーブルに走り出しとあるものを取った。食事で使うナイフだ。杖じゃないけどもうなんでもいい。今は文句も言ってられない!!
杖とは、補助の役目を持っている。マナを経路に通らせ出口を作る。だからこそ杖は錬金術にとって大事なものとなってくる。
今私が取ったナイフに大量に私のマナを送り込み、手動で出口を開かせる。マナが出てくる場所と出てくる通り道があればいいだけだ。
まぁすぐに壊れてしまうだろうから悪い使い方ではあるけれど、周りには同じものが沢山あるのだから壊れたら交換していけばいい。
私はすぐに陣を展開した。以前やった事のある空気中の物質との錬成をし盾を作……ろうとしたけれどそのまま拳を受けてしまった。
「え……うそ……!」
錬成が、出来なかった。
……いや、取られた。
彼の掌の上にふわふわと浮上しているのは、さっき私が出現させた聖水だ。
待て待て待て、聖水がなければ錬成は出来ない。これを浄水に変える事は出来ても精度が落ちるし、また同じことをされるに違いない。
それからすぐに足元から先程の鎖が伸びてきて私を捕まえようとしたけれど、何とか反応でき跳躍で地面から足を離し避け、鎖から逃げる。錬成をしようとしたが、またしても聖水がアズライトの方に流れてしまった。
使いずらく杖ですらないナイフを使っているのに、錬成すらさせてもらえないなんてどうしたらいいのよ……!! わっ!?
いきなり足に鎖が絡まってしまった。後ろかっ……!?
『Glacies』
鎖を凍らせ圧力をかけて破壊する。これで何とか外れたけれど、どれだけ通用するか分からない。
錬成は聖水を奪われるけど魔法なら使うことが出来る。けれど、それでは彼には届かない。一体どうしたら……
また鎖が、と思っていた時向こうから何かが飛んできた。3本の鎖の丁度隙間を通ったソレは紐状のもので、鎖を結び留めたのだ。この紐が通ってきた元は……アスタロト公爵!?
「チッ、大人しくしてろ」
「ッ!?」
アスタロト公爵に絡みついた鎖が強く締め付けられてしまっていて、うめき声が聞こえてきた。そしてアスタロト公爵が作ってくださった紐も引き千切られて鎖が追尾し始めてきた。
私がこの男の目の前で錬成をしたら聖水を奪われ止められる。じゃあこの鎖を、一体どうしたら……
……いや、待て。落ち着け。これは、錬金術じゃない。陣がまるで違う。私の兄弟子、大賢者ヒューズ・モストワ師匠の弟子のあの人がだ。
そして、一つの疑問が浮かぶ。
__どうして、錬金術を使わないのだろうか。
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