大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

文字の大きさ
上 下
105 / 110

■104 輪廻の輪

しおりを挟む

 アズライトからの無慈悲な攻撃を只受けるしか出来ない状況が続く。

 『Terraテラ

 私が避けた鎖が、転がっている参加者にぶつかろうとしていたのを土魔法で守る。

 一ヵ所に集めたいけれど参加者を縛り付けているこの鎖の先端は地面に潜ってしまっている。これじゃ無理だから守りながら戦わなければならない。

 一番は錬金術で結界を作るのが一番だけれど、それをしようとしたら聖水を奪われてしまい出来ない。

 だが、彼はずっと武力と鎖でしか攻撃してこない。一向に錬金術を使ってこないのだ。

 それどころか、私から奪った聖水を奪い集めている。どうして集める? 聖水なんて自分で出現させることが出来るだろうに。


「『Aquaアクア』『Tonitrua《トニトルス》』ッッ!!」


 水魔法で飲み込ませ雷を落とすが、今度は薄い壁が彼を囲うように出現させられて防がれた。

 『Glaciesグラシエス

 駄目だ、氷魔法でも砕けない……あれを何とかしないと彼を止められない。

 私は思いっきりその壁を殴った。

 アズライトはその行為に疑問を持ったようだけど、その後すぐに気が付いたようだ。

 壁がパリンと砕かれ、そのままアズライトの頬を殴り飛ばした。飛ばした先にあったのは、私がすぐに作り出した土魔法の壁。彼はそこに激突したのだ。


「ッ……はは、やるね……さすがお師匠様の弟子だ」


「錬金術だけじゃない、って事ですよ。よく知ってるでしょ」


「はは、あぁ、よく知ってる……よッ!!」


「ッ!?」


 突っ込んできたアズライトが私を蹴り飛ばそうとしていた所を何とか避けた。

Terraテラ

 土魔法で作り出した岩石を彼の頭上から落とし、避けた場所を読んでいた為そのまま足蹴りをしたはずだったんだけど、アズライトはまた薄い壁で防いできた。さっきとは全然硬さが違う。強化してきたのか。

 次の攻撃に、そう思っていた時。私は見えた。


「ッ!?」


 王太子殿下に向かって鋭い槍のようなものが迫っている事に。

Terraテラ

 何とか防いだその時だった。


「__捕まえた」


「ッッ!?」


 いきなり背後に回られてしまい、土魔法で間に壁を作り出したがそれはお見通しだったらしい。砕かれて腕を掴まれ背中から地面に押さえつけられてしまった。

 それから、マナがどんどん経路を潜り抜けナイフから出ていて、彼の方へ流される。奪われていっている。


「ッ……」

「動いたら、周りの奴らがどうなるか分からないぞ」


 だめだ、陣が閉じれない。強力な力で強引にこじ開けられているような感じだ。

 だいぶ持ってかれてマナ欠乏症になりかけてる。鎖も絡みついてきて身体の動きを封じられて。これでは動けない。


「聖水も溜まったし、始めようか」


 彼は、何かを唱えた。理解できない言語だ。そして、隣の地面から陣が出現され何かが出てきた。とても大きなものだ。


「……人……?」


 透明な縦長の箱、中には透明な液体と共に女性が入っていた。眠っているのか目は閉じられていて。一体、誰なのだろうか。

 彼は箱を開き彼女を取り出す。そして、私が作り出し奪われた聖水をかけたのだ。外傷は見られない、病にかかっているのか?


「だれ、なんです……?」

「私の、最愛の人だ」


 慈しむような眼でをして彼女を見ている。きっと、それだけ愛しい人物なのだろう。


「彼女は、魂がない」


 魂が、ない……? 亡くなって、身体だけが保存されていたって事……?

 ……でも、待って……これ…ま、さか……


「分かったか。そう、そのまさかだ」


 狂ったような眼を向けてきて、これはマズいと思っていたその時、私の視線の先に彼はいなかった。彼が移動した先は……


「陛下ッ!!」


 鎖に掴まっていた陛下の元だ。助けようにも動けない、力づくでも金属が掠れる音しかしない。マナは少しずつ戻ってきてはいるけれどこれでは使えない。

 彼は、陛下の肩に触れ……


「お前のマナ、貰うよ」


 マナを強制的に奪っているのだろう、陛下が倒れてしまった。……大丈夫、ここからしか見えないけれど、気を失っているのだろう。マナ欠乏症か。

 それから、殿下、陛下の妹君であるスラモスト公爵夫人のマナも奪っていって。どうして、王族の……?


「不思議に思っただろう、王族のマナをって。こいつら、師匠の加護受けてんだ」


 ……えっ。王族が、お師匠様、の……?


「初代国王の妹が大怪我して師匠が治したみたいでさ。その時加護を施したんだ」


 その話には、納得がいった。あの部屋で仲良くしている肖像画を見たし、初代が《友》と思っていたのはそういう事なのか。

 さ、行こうか。その声の後にまた知らない言語を唱えた。陣が出現し、彼は見覚えのあるものを中心に落とした。あれは、見覚えがある。あの聖夜祭の時の小瓶だ。

 それから、陣と触れた瞬間に蒼い炎が燃え上がった。

 その炎が大きく燃え上がったその瞬間、陣が大きく大きく広がりここを覆う結界いっぱいに広がって。そして、心臓が脈打った。


 __あ、これは、ダメだ。


 周りの参加者達が気を失い、身体から白い光が一つずつ出てきて、あの蒼い炎に集まっていく。

 あれは__魂だ。

 私のは、無意識にマナが私の魂を分厚く覆っている為抜き取れなかったのだろう。

 集まった魂は……蒼い炎に入っていってしまった。

 
『       』


 彼が何かを唱えた。そして、空が白い光を放ち始める。

 空から、金色の何かが出現したのだ。


「__輪廻の……輪……」


 輪廻の輪、それは私達がこの世から生命を失った後に還る場所だ。

 蒼い炎、参加者達の魂、何かの陣と詠唱、そして最愛の人の身体。

 彼のしようとしている事は分かった、けれど、どうしていいか分からない、止められない。



 〝死者を蘇らせる〟なんて__



「な、んでそんな事……!!」


「____彼女は偉大なる錬金術師だった」


「えっ」


「彼女は凄かったんだ、俺よりも。だが、__殺された」


 彼女が助けた、人達に。恩を仇で返したんだ。心の優しい、どんな人にも手を差しのべ錬金術で人を助けた彼女が、こんな死に方はあんまりだろう。彼が、顔を歪ませ怒りと憎しみを放ちながらそう言い放つ。

 でも、大勢の人の魂を使ってやる事じゃない……!!



『 タリア・ティターニァ 』



 彼女の名前なのだろう。何度も、何度も呼びかける。輪廻の輪に向かって。

 そして、一つの光が降りてきた。ゆっくりと、ゆっくりと彼の目の前で止まる。


「おいで」


 彼が、彼女の身体を抱き光を呼ぶ。



 だけど、




「タリア……? タ、タリア……?」


 そのまま、その場にとどまり彼の声に応えない彼女の魂。


 これは……魂が拒んでいるのか。

 彼女自身が、拒んでいるのか。




『 ________これ以上は、ダメよ。 』



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

大聖女様 世を謀る!

丁太郎。
恋愛
 前世の私は大賢者だった。 転生した私は、今回は普通に生きることにした。 しかし、子供の危機を魔法で救った事がきっかけで聖女と勘違いされて、 あれよあれよという間に大聖女に祭り上げられたのだ。 私は大聖女として、今日も神の奇跡では無く、大魔術を使う。 これは、大聖女と勘違いされた大賢者の ドタバタ奮闘記であり、彼女を巡る男達の恋愛争奪戦である。 1話2000〜3000字程度の予定です 不定期更新になります

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...