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■104 輪廻の輪
しおりを挟むアズライトからの無慈悲な攻撃を只受けるしか出来ない状況が続く。
『Terra』
私が避けた鎖が、転がっている参加者にぶつかろうとしていたのを土魔法で守る。
一ヵ所に集めたいけれど参加者を縛り付けているこの鎖の先端は地面に潜ってしまっている。これじゃ無理だから守りながら戦わなければならない。
一番は錬金術で結界を作るのが一番だけれど、それをしようとしたら聖水を奪われてしまい出来ない。
だが、彼はずっと武力と鎖でしか攻撃してこない。一向に錬金術を使ってこないのだ。
それどころか、私から奪った聖水を奪い集めている。どうして集める? 聖水なんて自分で出現させることが出来るだろうに。
「『Aqua』『Tonitrua《トニトルス》』ッッ!!」
水魔法で飲み込ませ雷を落とすが、今度は薄い壁が彼を囲うように出現させられて防がれた。
『Glacies』
駄目だ、氷魔法でも砕けない……あれを何とかしないと彼を止められない。
私は思いっきりその壁を殴った。
アズライトはその行為に疑問を持ったようだけど、その後すぐに気が付いたようだ。
壁がパリンと砕かれ、そのままアズライトの頬を殴り飛ばした。飛ばした先にあったのは、私がすぐに作り出した土魔法の壁。彼はそこに激突したのだ。
「ッ……はは、やるね……さすがお師匠様の弟子だ」
「錬金術だけじゃない、って事ですよ。よく知ってるでしょ」
「はは、あぁ、よく知ってる……よッ!!」
「ッ!?」
突っ込んできたアズライトが私を蹴り飛ばそうとしていた所を何とか避けた。
『Terra』
土魔法で作り出した岩石を彼の頭上から落とし、避けた場所を読んでいた為そのまま足蹴りをしたはずだったんだけど、アズライトはまた薄い壁で防いできた。さっきとは全然硬さが違う。強化してきたのか。
次の攻撃に、そう思っていた時。私は見えた。
「ッ!?」
王太子殿下に向かって鋭い槍のようなものが迫っている事に。
『Terra』
何とか防いだその時だった。
「__捕まえた」
「ッッ!?」
いきなり背後に回られてしまい、土魔法で間に壁を作り出したがそれはお見通しだったらしい。砕かれて腕を掴まれ背中から地面に押さえつけられてしまった。
それから、マナがどんどん経路を潜り抜けナイフから出ていて、彼の方へ流される。奪われていっている。
「ッ……」
「動いたら、周りの奴らがどうなるか分からないぞ」
だめだ、陣が閉じれない。強力な力で強引にこじ開けられているような感じだ。
だいぶ持ってかれてマナ欠乏症になりかけてる。鎖も絡みついてきて身体の動きを封じられて。これでは動けない。
「聖水も溜まったし、始めようか」
彼は、何かを唱えた。理解できない言語だ。そして、隣の地面から陣が出現され何かが出てきた。とても大きなものだ。
「……人……?」
透明な縦長の箱、中には透明な液体と共に女性が入っていた。眠っているのか目は閉じられていて。一体、誰なのだろうか。
彼は箱を開き彼女を取り出す。そして、私が作り出し奪われた聖水をかけたのだ。外傷は見られない、病にかかっているのか?
「だれ、なんです……?」
「私の、最愛の人だ」
慈しむような眼でをして彼女を見ている。きっと、それだけ愛しい人物なのだろう。
「彼女は、魂がない」
魂が、ない……? 亡くなって、身体だけが保存されていたって事……?
……でも、待って……これ…ま、さか……
「分かったか。そう、そのまさかだ」
狂ったような眼を向けてきて、これはマズいと思っていたその時、私の視線の先に彼はいなかった。彼が移動した先は……
「陛下ッ!!」
鎖に掴まっていた陛下の元だ。助けようにも動けない、力づくでも金属が掠れる音しかしない。マナは少しずつ戻ってきてはいるけれどこれでは使えない。
彼は、陛下の肩に触れ……
「お前のマナ、貰うよ」
マナを強制的に奪っているのだろう、陛下が倒れてしまった。……大丈夫、ここからしか見えないけれど、気を失っているのだろう。マナ欠乏症か。
それから、殿下、陛下の妹君であるスラモスト公爵夫人のマナも奪っていって。どうして、王族の……?
「不思議に思っただろう、王族のマナをって。こいつら、師匠の加護受けてんだ」
……えっ。王族が、お師匠様、の……?
「初代国王の妹が大怪我して師匠が治したみたいでさ。その時加護を施したんだ」
その話には、納得がいった。あの部屋で仲良くしている肖像画を見たし、初代が《友》と思っていたのはそういう事なのか。
さ、行こうか。その声の後にまた知らない言語を唱えた。陣が出現し、彼は見覚えのあるものを中心に落とした。あれは、見覚えがある。あの聖夜祭の時の小瓶だ。
それから、陣と触れた瞬間に蒼い炎が燃え上がった。
その炎が大きく燃え上がったその瞬間、陣が大きく大きく広がりここを覆う結界いっぱいに広がって。そして、心臓が脈打った。
__あ、これは、ダメだ。
周りの参加者達が気を失い、身体から白い光が一つずつ出てきて、あの蒼い炎に集まっていく。
あれは__魂だ。
私のは、無意識にマナが私の魂を分厚く覆っている為抜き取れなかったのだろう。
集まった魂は……蒼い炎に入っていってしまった。
『 』
彼が何かを唱えた。そして、空が白い光を放ち始める。
空から、金色の何かが出現したのだ。
「__輪廻の……輪……」
輪廻の輪、それは私達がこの世から生命を失った後に還る場所だ。
蒼い炎、参加者達の魂、何かの陣と詠唱、そして最愛の人の身体。
彼のしようとしている事は分かった、けれど、どうしていいか分からない、止められない。
〝死者を蘇らせる〟なんて__
「な、んでそんな事……!!」
「____彼女は偉大なる錬金術師だった」
「えっ」
「彼女は凄かったんだ、俺よりも。だが、__殺された」
彼女が助けた、人達に。恩を仇で返したんだ。心の優しい、どんな人にも手を差しのべ錬金術で人を助けた彼女が、こんな死に方はあんまりだろう。彼が、顔を歪ませ怒りと憎しみを放ちながらそう言い放つ。
でも、大勢の人の魂を使ってやる事じゃない……!!
『 タリア・ティターニァ 』
彼女の名前なのだろう。何度も、何度も呼びかける。輪廻の輪に向かって。
そして、一つの光が降りてきた。ゆっくりと、ゆっくりと彼の目の前で止まる。
「おいで」
彼が、彼女の身体を抱き光を呼ぶ。
だけど、
「タリア……? タ、タリア……?」
そのまま、その場にとどまり彼の声に応えない彼女の魂。
これは……魂が拒んでいるのか。
彼女自身が、拒んでいるのか。
『 ________これ以上は、ダメよ。 』
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