大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■92 新しい挑戦

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 静かな私の領地モストワ領に帰ってきて、私達は羽を伸ばしていた。

 書斎には、処理した書類とソファーに座る私の隣に大きな卵が置いてある。今は、いつ生まれるか分からないから極力離れないようにしている。早く生まれないかなぁ。生まれる時が楽しみだ。

 そんな時、外から声が聞こえた。この声は……と外にある庭に視線を向けると、正解。錬金術の練習をしているであろうジョシュアとローレンスだった。

 二人とも頑張ってくれているようで、私はとても嬉しい。成長する姿を見ると、とても誇らしく思う。


「……えっ」


 二人が、隣に並びタイミングを合わせ錬成している姿を見ていた。あれは……





『我に蓄積するエネルギーよ__』 『陣よ、開け__』


『大地を照らす火よ』 『火よ』


『大地を潤す水よ』 『水よ』


『『構築せよ。__錬成』』





 出来上がったのは……鉱石だ。そして、彼らはそれを素材としてまた錬成を始めた。次は、その鉱石と空気の中にある物質の一つを使うようだ。





『激しく燃え盛る炎よ』 『炎よ』


『大地を作る土よ』 『土よ』


『『構築せよ。__錬成』』





 それから錬成を三回繰り返し、出来上がったのは大きな石像。ジョシュは小さく開く花が沢山ついた植物。ローレンスは大きく開いた一輪の花。

 私は、窓を開けて飛び降りた。彼らの所に急いで向かい、近づいてきた私に驚く二人。慌てているようだ。


「あ、あの、これは……」

「し、ししょー……」

「これ、どうしたの?」


 私が教えた陣と違ったものを使っていた。これは、どこで覚えたのだろうか。ここにある本は半分くらい読んだけれど……見覚えがない。きっとこの国で使われているものだろう。


「じ、実は……王宮術師になる為の試験の課題なんです」


 課題? 王宮術師の?

 王宮術師になりたかった? と聞くと慌てて首を横に振る二人。


「み、見返して、やりたくて……」


 見返す、王宮術師の試験課題、もしかして……見返す相手は王宮術師なのだろうか。そう聞いてみると、視線を逸らす二人。正解か。きっと、何か言われたのだろう。


「だから、同じ錬成で、錬成陣紙を使わないで成功させてやるって思って……」


 そっか、もしかして言われたのは聖夜祭の時かな。じゃあ、二人がモワズリー卿の所に行ったのはこれを教わりたかったなのだろう。

 ちょっとスティーブン、一緒について行ったよね。何で教えてくれなかったの。まぁ、止められていたのかもしれないけれど。


「そっか、頑張ったね」


 偉い偉い、と頭を撫でてやる。今まで教えた事を踏まえてこれを完成させたのだから、私は嬉しいよ。


「でもね、もっと早くしたいの」

「もっと早く?」

「はい。僕達、詠唱が長いから……その分錬成する時間が遅くなってると思って」

「だから、ししょーと同じえいしょうでしたいって思ったの!!」


 私と同じ? と聞くと、火を『Ignisイグニス』に、水を『Aquaアクア』に、風を『Ventusヴェントゥス』に変えたいらしい。ローレンスはともかく、ジョシュは文字数で言えば同じくらいだと思ったんだけれど……?

 でも、詠唱を変えるのはちょっと苦労するのだ。

 詠唱とは、簡単に言えば説明のようなものだ。詠唱を変えると言うのは説明分を同じく伝わるよう言い換えるという事。こうして、こうしたい。それをマナに伝える、と考えたほうが分かりやすいかな。

 例えば、『激しく燃え盛る炎よ』という先程ローレンスが使った詠唱。詠唱を作り替えるとすると、簡単にするなら『火よ、激しく燃えろ』でも良いわけだ。

 そして、省略するという事はその一言で全部伝えるという事になる。何度も何度も錬成を繰り返し、マナに覚えさせると言った所か。

 マナを人と例えてみれば分かりやすいかな。相手に寄り添い心を通わせれば全部言わなくても分かってくれる。まぁ時間もかかるが。そんな関係が作れれば一言だけでも相手に伝わるでしょ? まぁそんな所だ。


「頑張りますっ!!」

「うんっ!!」

「何か聞きたいことがあれば言ってね」


 いつも、彼らには『見て覚えて』と言っている。今まで私の錬成を何度も見て来た二人なら、きっとすぐに出来るはずだ。ものにして、見せてくれる時がとても楽しみだ。

 

 二人は、言わなかった。

 きっかけはあったけれど、実は自分達が師匠であるステファニーが使う詠唱がとてもカッコイイと思っていてこれに挑戦しようと決めていた事を。
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