大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

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■91 勝負だ!

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 今日は、私にとって乗り越えなければならない勝負の日である。


「心の準備は出来ていますか」

「ッ……はいっ!!」


 私は今、パーティーの会場に足を踏み入れた。

 国王陛下主催のパーティの為、大勢の参加者で溢れている。

 さぁ、勝負だ!!



 私達が入った瞬間、当然視線が集まる。だけど、周りがどよめきだす。

 隣にいる女性は一体誰だ。

 そう思っている事だろう。

 そして、彼女の正体を知っているであろう人物がこちらに向かってきたのだ。


「モストワ卿、これはどういう事だね。屋敷で療養中の病弱な私の娘・・・を、こんな所に連れ出すなんて」


 そう、今私の隣にいるのは……マグダレン・ターメリット侯爵令嬢だ。そしてこの人物は彼女の父親に当たるターメリット侯爵である。


「ッ……お、お久しぶりでございます……父上」

「……あぁ、だが……どうしてそれを着ているのだろうか」


 君が着せたのか、と鋭い眼光をこちらに向けてくる。そう、彼女は今黒いドレスを着ている。パーティーではこの色のドレスは失礼に値する。しかも、これは陛下主催のパーティーだ。王家を侮辱する行動である。

 こちらに来なさい、とマギーさんに手を差し伸べる彼。だが、彼の彼女に向ける視線は自分の娘を心配する父親の目ではなかった。まるで、命令をするかのようである。


「これで、合っていますよ」

「……何?」

 
 あぁそうそう、と話を変える。


「実は、お伝えしたい報告がありまして。マグダレン嬢の実の父親である候爵にとって、とても重要なことなのです」


 そして、隣のマギーさんに視線を変える。父である侯爵に怯えているようだ。顔色も悪い。ごめんなさい、もう少し頑張って。


「大丈夫ですか、マグダレン嬢」


 言わんこっちゃない、お前が無理に連れ出すから。その侯爵の声を遮り私はこう言った。


「怖いでしょうが、大丈夫です。私が付いていますからね」


 彼女は病弱なんかじゃない、家から出られなかったんだ。……出してもらえなかったんだ。

 出来が悪いから、愛人との間に生まれた子だから。そのせいで愛してもらえず、蔑まれてきた。

 そう、これが真実だったのだ。


「彼女は今、一児の母なのです」


 その言葉に周りがざわつき、侯爵と彼女の妹であるアンジェリーナ嬢も驚きを隠せずにいた。

 彼女は結婚していない、そして今はこの服を着ている。黒いドレスは、喪中を意味する。それなら、相手が今いないことを誰もが気付くだろう。そして、こう思っただろう。


 病弱で屋敷から出られない彼女が身籠っていた事を、どうして侯爵は知らなかった?


 こんな重要で、病弱な彼女の出産だなんて危ない事をしていた事を、娘思いの侯爵で有名なターメリット侯爵がだ。

 未婚のマグダレン嬢が愛人を作っていた事にも驚きだが、皆はまずそちらを考えるだろう。


「……そうか、数ヵ月前に領地の方に行きたいと言い出した理由が分かったよ。秘密にしていた事は、もしかして事情が事情で言い出せなかったのかな。だが、父として頼ってくれなかったことがとても悲しいよ」


 私の愛しい娘の、危険な出産に立ち会えなかったことを残念に思うよ、と傷ついたような態度をとる侯爵。だけど、心にもない事を言っている事はよく分かる、


「さて、お相手ですが……侯爵、貴方なら分かりますよね。……だって、貴方が亡き者にしたのですから」


 先程よりも大きなどよめき。そして、私に向けてくる鋭い眼光。


「デタラメを言わないでもらおうか」

「デタラメではありません、証拠もあります」



「ここからは、私が代わりましょうか」
 


 周りの貴族達の間を抜けてやってきたのは……


「ね? モストワ卿」


 アスタロト公爵だ。そして、彼が出てきた瞬間、目の前のターメリット侯爵は顔を歪ませた。

 アスタロト公爵は、裏社会の猛獣と呼ばれる人物。ありとあらゆる情報が彼の元へ入ってくる。社交界での話題、出回っている噂、そして――裏情報まで。

 大体の貴族達は、恨めしい事はいくつもあるものだ。私だって、実は750歳なんですなんて絶対言えない秘密があるわけだし。

 だからこそ、貴族達は彼を敵に回したくないのだ。


「おやおや、どうしたのです。顔色がよろしくないようですが」

「こ……小娘ぇ……!!」


 ここにいる皆がこう思った。



『あぁ、終わったな』
 


 と。




「国王陛下、王太子殿下のおなーりー」



 その声に、皆が頭を下げる。


「さて、余興は終わったようだな」


 これで満足か、モストワ卿。そう聞かれ、十分でございますと笑顔で答えた。この会話で、この事に陛下も一枚噛んでいたのだと皆が思っただろう。

 その事に気が付いた侯爵は、膝を付き心が抜けたかのようになっていた。連れていけ、その王の声で彼は会場から退場させられたのだった。勿論、アンジェリーナ嬢もだ。


「お、お初にお目にかかります、国王陛下、王太子殿下」

「そうだな、初めてか。中々社交界に出てこなかったからな」


 侯爵の件は本当に残念に思うと言っていて、そして子供の件に関して、無事に生まれたようで安心したとの一言を頂いた。その言葉に、彼女はホッとしていて。愛人との子供におめでとうという言葉を頂けたことに、周りは驚きを隠せないでいるようだ。


「それでモストワ卿、これから春が近づいてくるが……まだ首都に留まるのか」

「いえ、一旦領地に戻りたいと思っています」

「そうか、それは残念だ。またフレッドと3人でお茶をたしなみながら話でもしようと思っておったんだがな」

「申し訳ございません。実はつい先日討伐したリヴァイアサンから卵を採取いたしまして。そろそろ卵が孵化しそうなのです」

「ほほぉ! それは大変だな」


 楽しみにしておるぞ、と肩をポンと叩き笑いかける陛下。

 ほんと、陛下は流石だな。私が、陛下と殿下とこんなに親しい間柄であり、しかもバケモノ級のリヴァイアサンの卵を孵らせようとしているのに陛下は止めるどころか楽しみにされている様子だ。

 まぁ実際そう思っているようだが。それだけ、信頼されている証だという事だ。

 あの契約の事もあるし、陛下は私に武器を沢山渡してくれたという事だ。

 成長したら拝見したいものですね、陛下。と殿下まで便乗してきた。少しやりすぎただろうか……まぁ、いっか。




 そんなこんなで、パーティーは幕を閉じた。





「今日は本当に、ありがとうございました……!!」

「いえいえ、でも……本当に良かったのですか、マギーさん」

「はい」


 これで、これから社交界で噂が広がるだろう。マグダレン嬢が愛人との子供を作ったと。批判する者達も大勢いるはず。それなのに、彼女はそれでも良いと笑顔で言った。


「私は、これから結婚もしません。私が愛したダンとの子供、ダリアがいてくれればそれでいい。何を言われたって、ダリアは絶対私が守ると誓いましたから」


 これが、愛の形というものなのか。

 もう立派な母親なんだね。


「私も手伝いますよ、マギーさん!」

「ありがとうございます、ステファニー様!」



 因みに、今日のは台本を作ってもらったのだ。スティーブンに。頑張って何度も練習したんだよ? 練習の成果が出て良かった!!
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