92 / 110
■91 勝負だ!
しおりを挟む今日は、私達にとって乗り越えなければならない勝負の日である。
「心の準備は出来ていますか」
「ッ……はいっ!!」
私達は今、パーティーの会場に足を踏み入れた。
国王陛下主催のパーティの為、大勢の参加者で溢れている。
さぁ、勝負だ!!
私達が入った瞬間、当然視線が集まる。だけど、周りがどよめきだす。
隣にいる女性は一体誰だ。
そう思っている事だろう。
そして、彼女の正体を知っているであろう人物がこちらに向かってきたのだ。
「モストワ卿、これはどういう事だね。屋敷で療養中の病弱な私の娘を、こんな所に連れ出すなんて」
そう、今私の隣にいるのは……マグダレン・ターメリット侯爵令嬢だ。そしてこの人物は彼女の父親に当たるターメリット侯爵である。
「ッ……お、お久しぶりでございます……父上」
「……あぁ、だが……どうしてそれを着ているのだろうか」
君が着せたのか、と鋭い眼光をこちらに向けてくる。そう、彼女は今黒いドレスを着ている。パーティーではこの色のドレスは失礼に値する。しかも、これは陛下主催のパーティーだ。王家を侮辱する行動である。
こちらに来なさい、とマギーさんに手を差し伸べる彼。だが、彼の彼女に向ける視線は自分の娘を心配する父親の目ではなかった。まるで、命令をするかのようである。
「これで、合っていますよ」
「……何?」
あぁそうそう、と話を変える。
「実は、お伝えしたい報告がありまして。マグダレン嬢の実の父親である候爵にとって、とても重要なことなのです」
そして、隣のマギーさんに視線を変える。父である侯爵に怯えているようだ。顔色も悪い。ごめんなさい、もう少し頑張って。
「大丈夫ですか、マグダレン嬢」
言わんこっちゃない、お前が無理に連れ出すから。その侯爵の声を遮り私はこう言った。
「怖いでしょうが、大丈夫です。私が付いていますからね」
彼女は病弱なんかじゃない、家から出られなかったんだ。……出してもらえなかったんだ。
出来が悪いから、愛人との間に生まれた子だから。そのせいで愛してもらえず、蔑まれてきた。
そう、これが真実だったのだ。
「彼女は今、一児の母なのです」
その言葉に周りがざわつき、侯爵と彼女の妹であるアンジェリーナ嬢も驚きを隠せずにいた。
彼女は結婚していない、そして今はこの服を着ている。黒いドレスは、喪中を意味する。それなら、相手が今いないことを誰もが気付くだろう。そして、こう思っただろう。
病弱で屋敷から出られない彼女が身籠っていた事を、どうして侯爵は知らなかった?
こんな重要で、病弱な彼女の出産だなんて危ない事をしていた事を、娘思いの侯爵で有名なターメリット侯爵がだ。
未婚のマグダレン嬢が愛人を作っていた事にも驚きだが、皆はまずそちらを考えるだろう。
「……そうか、数ヵ月前に領地の方に行きたいと言い出した理由が分かったよ。秘密にしていた事は、もしかして事情が事情で言い出せなかったのかな。だが、父として頼ってくれなかったことがとても悲しいよ」
私の愛しい娘の、危険な出産に立ち会えなかったことを残念に思うよ、と傷ついたような態度をとる侯爵。だけど、心にもない事を言っている事はよく分かる、
「さて、お相手ですが……侯爵、貴方なら分かりますよね。……だって、貴方が亡き者にしたのですから」
先程よりも大きなどよめき。そして、私に向けてくる鋭い眼光。
「デタラメを言わないでもらおうか」
「デタラメではありません、証拠もあります」
「ここからは、私が代わりましょうか」
周りの貴族達の間を抜けてやってきたのは……
「ね? モストワ卿」
アスタロト公爵だ。そして、彼が出てきた瞬間、目の前のターメリット侯爵は顔を歪ませた。
アスタロト公爵は、裏社会の猛獣と呼ばれる人物。ありとあらゆる情報が彼の元へ入ってくる。社交界での話題、出回っている噂、そして――裏情報まで。
大体の貴族達は、恨めしい事はいくつもあるものだ。私だって、実は750歳なんですなんて絶対言えない秘密があるわけだし。
だからこそ、貴族達は彼を敵に回したくないのだ。
「おやおや、どうしたのです。顔色がよろしくないようですが」
「こ……小娘ぇ……!!」
ここにいる皆がこう思った。
『あぁ、終わったな』
と。
「国王陛下、王太子殿下のおなーりー」
その声に、皆が頭を下げる。
「さて、余興は終わったようだな」
これで満足か、モストワ卿。そう聞かれ、十分でございますと笑顔で答えた。この会話で、この事に陛下も一枚噛んでいたのだと皆が思っただろう。
その事に気が付いた侯爵は、膝を付き心が抜けたかのようになっていた。連れていけ、その王の声で彼は会場から退場させられたのだった。勿論、アンジェリーナ嬢もだ。
「お、お初にお目にかかります、国王陛下、王太子殿下」
「そうだな、初めてか。中々社交界に出てこなかったからな」
侯爵の件は本当に残念に思うと言っていて、そして子供の件に関して、無事に生まれたようで安心したとの一言を頂いた。その言葉に、彼女はホッとしていて。愛人との子供におめでとうという言葉を頂けたことに、周りは驚きを隠せないでいるようだ。
「それでモストワ卿、これから春が近づいてくるが……まだ首都に留まるのか」
「いえ、一旦領地に戻りたいと思っています」
「そうか、それは残念だ。またフレッドと3人でお茶をたしなみながら話でもしようと思っておったんだがな」
「申し訳ございません。実はつい先日討伐したリヴァイアサンから卵を採取いたしまして。そろそろ卵が孵化しそうなのです」
「ほほぉ! それは大変だな」
楽しみにしておるぞ、と肩をポンと叩き笑いかける陛下。
ほんと、陛下は流石だな。私が、陛下と殿下とこんなに親しい間柄であり、しかもバケモノ級のリヴァイアサンの卵を孵らせようとしているのに陛下は止めるどころか楽しみにされている様子だ。
まぁ実際そう思っているようだが。それだけ、信頼されている証だという事だ。
あの契約の事もあるし、陛下は私に武器を沢山渡してくれたという事だ。
成長したら拝見したいものですね、陛下。と殿下まで便乗してきた。少しやりすぎただろうか……まぁ、いっか。
そんなこんなで、パーティーは幕を閉じた。
「今日は本当に、ありがとうございました……!!」
「いえいえ、でも……本当に良かったのですか、マギーさん」
「はい」
これで、これから社交界で噂が広がるだろう。マグダレン嬢が愛人との子供を作ったと。批判する者達も大勢いるはず。それなのに、彼女はそれでも良いと笑顔で言った。
「私は、これから結婚もしません。私が愛したダンとの子供、ダリアがいてくれればそれでいい。何を言われたって、ダリアは絶対私が守ると誓いましたから」
これが、愛の形というものなのか。
もう立派な母親なんだね。
「私も手伝いますよ、マギーさん!」
「ありがとうございます、ステファニー様!」
因みに、今日のは台本を作ってもらったのだ。スティーブンに。頑張って何度も練習したんだよ? 練習の成果が出て良かった!!
3
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

大聖女様 世を謀る!
丁太郎。
恋愛
前世の私は大賢者だった。
転生した私は、今回は普通に生きることにした。
しかし、子供の危機を魔法で救った事がきっかけで聖女と勘違いされて、
あれよあれよという間に大聖女に祭り上げられたのだ。
私は大聖女として、今日も神の奇跡では無く、大魔術を使う。
これは、大聖女と勘違いされた大賢者の
ドタバタ奮闘記であり、彼女を巡る男達の恋愛争奪戦である。
1話2000〜3000字程度の予定です
不定期更新になります

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる