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■79 祈りの儀
しおりを挟む「白、か……私の杖、黒なんだけどなぁ」
「これが決まりなのですよ、ステファニー様」
聖夜祭当日。朝から大忙しで、衣装ですよと用意されたものを初めて見たけれど……白なのだ。サーペンテインを象徴する緑の刺繍はあしらわれているけれど、白なのだ。
白黒、になってしまうのだけれど……いいのだろうか。
以前もモワズリー卿は白の服装で祈りを捧げていましたよと言われ。これは変更してもらえなさそうだ。
「杖、替えようか」
「そんな、これがステファニー様が普段から使われているものなのですから」
この杖を使う前の緑色の杖があるにはあるのだけれど……ま、いいか。サマンサがいいって言ってるなら。なんか、ごめんなさいね。私の杖が黒で。でもこれお師匠様から頂いたもので、色は私が選んだわけではないんですよ。
そして、いつもの頭飾りを取ったために刺青のような白い花が額に咲く。まぁ、装飾が施された白いヴェールを被るらしいからあまり出ないけれど。……これ、モワズリー卿も被ったの?
「いえ、モワズリー卿は帽子でしたよ」
「え、じゃあ何で」
「陛下が、賢者殿はこちらが似合いそうだ、と」
陛下ぁ……こんなの用意したんですか。まぁどちらでもいいにはいいけれど。
「……なんだか、落ち着かないな」
「そうですか? とても美しいですよ、女神が降臨したようです!」
いや、そこまでお世辞を言わなくていいよ。というより、これから私女神様に祈りを捧げるのだけれどな。
「行く、かぁ……」
裾踏んだらどうしよう。風魔法使うか。素早く使えばあまりバレないのでは? と思いつつ待機していたらしい殿下とモワズリー卿と合流した。
「美しいな、聖女のようだ」
「……お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたします」
「ククッ、本当のことを言ったのだがな。そう不機嫌な顔をするな」
お世辞はいりません。これでも緊張してて心臓が止まっちゃいそうなんですから。前だって、一度やらかしちゃったし。
陛下や殿下達と初めて会った時、あの謁見でどこまで歩けばいいのかと混乱して固まっちゃって結局陛下に手招きをされてしまった事を。あれは本当に恥ずかしかった。
「聖女様が黒い杖を持っているはずないでしょう」
「さぁ、実際に見たことは無いからな。只のイメージだろ?」
「まぁ、そうですけど……」
では、また後で。と殿下は行ってしまって。我々も向かいましょうかとモワズリー卿と魔鉱車に乗り込んだのだった。
さっき、ジョシュとローレンスはスティーブンに連れられもう聖宮に向かったとの事。王宮術師と一緒に並ぶとの事だった。なんかちょっと寂しいなぁ。
でも、頑張って! と無邪気に微笑んでくれたのにはグッと来た。ありがとう、おばあちゃん頑張るね。
「では、いってらっしゃいませ」
「うん、いってきます」
空気の澄んだ、まるで自然のエネルギーを感じるような神聖な場所。大きな扉の前に立つと、もう既に開いていたため中の様子が見えた。
ガイア像に真っ直ぐ続く道。その両端に陛下、殿下達が立ちこちらに視線を向けた。
自分の手に持つ黒い杖を握りしめ、歩き出した。
大きな階段を上り、目の前にある大地の女神ガイアを模した大きな像の前で膝を付く。
よし、ここまでモワズリー卿が教えてくれた通り順調。そして、錬金術で使っている杖を両手を重ねて握り祈る。
『 我らが偉大なる大地の女神ガイア様
与えられし恩恵とご加護に感謝を込めて 』
錬成陣を展開し、浄水を作り出す。
そして、高く、高く上げ雨を降らせるかのように聖宮の中を潤した。
あははー、びしょびしょになるのを覚悟してここに立つわけね。陛下達も。まぁ風邪引きそうだけれどポーションがあるから大丈夫か。くしゃみしそうだな。なんてことを考えていた時、いきなり周囲が光り出した。私の立つ場所を中心に金色の陣が展開されてしまったからだ。
わ、私何もしてないよね……!? そうオロオロしていると、頭に何かが乗せられて。暖かい……これ、手だ。けど、見えなくて。この手って……
『 お前もこの地に辿り着くとはな 』
……えっ?
『 これが運命というやつか、何とも面白いものだな 』
聞いた事のある声、だ。
『 ま、大きくなってもお前は俺の一番弟子の癖してまだまだだからなぁ 』
この、声は……
『 いいか、この世は錬金術が全てじゃねぇ。それは一部だ 』
『 その意味を、自分で探せ 』
錬金術じゃない、大切なもの……
『 んじゃ、頑張れよ 』
頭に乗っていた手が離れ、何時もされていた額のデコピンが繰り出された。
「いデッ!?」
そして、陣が消えていってしまったのだ。
「え、えぇと……」
頑張れ、だなんて……言った事ありましたっけ……?
「……ふふっ」
なんか、私の中で一番最強な人からお言葉貰っちゃった。
「ありがとうございます、――お師匠様」
……あ、勝手に名前使っちゃった事、謝るの忘れてた。……ま、いっか。
何たって、私はお師匠様の一番弟子なんだもんね!!
「何だ、嬉しそうだな」
「私にとっての大切な方の事を思い出してました」
「ほぅ、見当が付いたな」
「たぶん正解ですよ、陛下」
「そうか、良かったではないか」
こうして、聖夜祭の祈りの儀が終わりを告げたのだった。
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