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■78 聖宮
しおりを挟む聖夜祭で一番重要なのは〝祈りの儀〟
私がガイアの石像の前で祈りを捧げるのはその時だ。それは、王宮の中にある聖宮で行われる。と言っても、王城からは魔鉱車で移動しなければいけないくらいの距離にあるのだが。
「さ、着いたぞ」
王太子殿下の案内の元、私達はその聖宮に赴いていた。結構大きな建物だ。神秘的、とはこのことを言うのだろうか。今まで聖宮というものに行った事のない私でも、そう感じた。
そして大きな扉をくぐると、これまた凄い景色が広がっていた。一番に目に入ったのは、奥にある石の階段の一番上に置かれた石像。大地の女神ガイアだ。ここは天井がない為、空から差し込む陽の光がガイアを照らしていて。そして、この空間の両端には水が流れている。流れる水の音が心地よく聞こえる。
とても素敵な、心が癒されるような。そんな空間となっていた。
「ここは、初代陛下が建てたものだ。だが、あのガイア像を作り出したのが誰なのかは分かっていない」
「へぇ……」
石像のガイアは、私達に向けて微笑んでいる。暖かく包み込んでくれるような、そんな印象だ。
「緊張しているか?」
「……そうですね、少し。けど、お役目を承りましたので、ご期待に添えられるよう尽力いたします」
「ククッ、そう硬くなるな」
と、言われましても。初めてな上に、皆の代表だなんて。緊張しない訳ないじゃないですか。
「そういえば、あの子達は?」
あの子達、とはジョシュアとローレンスの事だろう。二人も、私の泊る部屋の隣に部屋を用意させてもらったから王城内にいる。
「モワズリー卿に用があるみたいで。スティーブンに任せてあるのですが……」
用事って? と聞いても教えてもらえず。一体何なのだろうか。モワズリー卿、という事は錬金術関係だと思うんだけど……
「あの二人は、偉大なる賢者様の弟子達だから、王宮術師達の注目の的だろう。君の執事が一緒なら大丈夫だと思うが……」
あの、偉大なる、はやめて下さい。そんなんじゃないですから。ただ基礎を教えているだけですから。
まぁ確かに、以前ここにジョシュを連れてきた時にあまり良い雰囲気ではなかったし、冷たい視線がジョシュに集まっていた。大丈夫、だとは思うんだけど……
「今、各地に散らばっていた術師達が集まってきている。どうか賢者様にお会いしたいと思っていると同時に、弟子がどんなものなのか気になっているのだろう。ステファニー殿も、大変だろうが付き合ってやってくれないか。どうかよろしく頼む」
「は、はい」
ま、また、あの初めて会った日のように質問の嵐があるだろうか。いや、確実だな。
困った時には言ってくれ、と殿下のありがたい御言葉を頂き城の方に戻る事になった。
「賢者様だ……!」
「まさかここでお目にかかれるとは……!」
「祈りの儀でしかお目にかかれないと思っていたが……」
「第三の大賢者様の弟子なのだろう? もしかしたら大賢者様になりうる錬金術師様という事か!」
「お前ずるいぞ、賢者様と何度も話をしたんだろ」
「いいだろ~、賢者様の陣もお見せして頂けたんだぞ!」
「く~、ずる過ぎる!!」
「だ、そうだが。賢者殿?」
殿下と城に戻り路を歩くたびに聞こえてくるこんな会話。以前なら、あまり広められてなかったからこんな視線なんてなかったのに、陛下が男爵の爵位を頂いた時にお師匠様の事言っちゃったから……!! まさか王宮でこんな事になっていたなんて……
「という事で、これからお茶なんてどうだろうか。賢者殿。人払いもしてやろう」
「ありがとうございます、殿下……!!」
「ククッ」
今日は天気がいいからと東屋にしてくれて。あぁ、すっごく良い紅茶の香り。癒される……
「領地での件、色々と聞いているぞ。それで、変異種が出てきたそうではないか」
「えぇ、何とか倒すことが出来ましたが……ちょっと気になった点がありまして……」
気になった点。それは、以前のラファール領でのモンスターを興奮状態に陥る効果を持った水晶が森に埋め込まれていた時だ。あの日、処理した水晶に入れられていたものと同じようなものを感じたのだ。
襲撃を収めた後、第二騎士団の方々が湿地帯を調査したところ、私達がまだ足を踏み込んでいなかった最奥に大量のリザードマンの卵の残骸が残っていたそうだ。でも、リザードマンは1匹しか確認できなかった。という事は、あのリザードマンが全て喰らったという事になる。
でも、あの〝憎悪〟は一体……
「まぁ、また何かあったら手を貸そう。ステファニー殿なら大丈夫だと思うが」
「過大評価しすぎです。今回はだいぶギリギリでしたし、第二騎士団の方々やアスタロト公爵様がいなければどうなっていた事か」
「君はこの国に来てから沢山の縁を結んだ。その結果だろうな」
「縁、ですか……」
「あぁ。良い縁を結んでおくと、後々役に立つし、力にもなる」
そういう事だ、と殿下が笑っていて。縁、か。この国に来てから沢山の人と関わった。そのお陰という事だろうか。ここに来てからじゃないとできなかった事だ。
こんなに力になってくれるだなんて、なんと嬉しい事なのだろうか。
そう、思ったのだった。
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