65 / 110
■64 知識とは一番の財産である
しおりを挟むこの屋敷には、温室が3つある。と言っても、殆どが錬金術に必要な素材ばかりだけれど。因みにこっちにはあの日採取したビルランカが植わっている。採取してきたものをここに保存させているのだ。
そしてこっち。以前湿地帯に視察に行き、いくつか採取してきた植物の種だ。
「……ちょっと温度下げる?」
でもなぁ、うーん、と唸っていた時、温室の外から声が聞こえてきた。これは……とそっと外に出ると……あれは、ジョシュとアルさんだ。とっても楽しそうにお喋りしてる。
「ししょー!」
あ、気が付かれた。
ジョシュは、アルさんの手を取り私の方に走ってきて。何とまぁ可愛いこと。
「おはようございます、モストワ男…」
「嫌です」
「えっ……!?」
ステファニーさん、じゃなきゃ嫌です。そう答えた。貴族になった途端に皆畏っちゃうのは本当に嫌い。ギルバートさんも以前みたいに接してくれたのに、アルさんは畏まっちゃうなんて。
「で、ですが」
「私、アルさんがいなかったらサーペンテインに来てませんでしたよ」
「いえ、ですが、」
「アルさんが親切にしてくれたから、知らない国でもきちんと生活ができたんですよ」
「……」
「そんな私にとってとても大切な恩人であるアルさんに畏まられると、心が痛いのですが」
「えっ、ちょっ、えぇえ!?」
「ジョシュアとは変わらず話すのに、私は畏まるなんてずるいです」
「ずっずるっ!?」
「アルさん?」
「い、いえ、えっと」
「アルさん?」
「……ハイ、ステファニーサン」
やったぁ! やっと折れてくれた! これでダメだったら首都にいるルナンさんに言い付ける所だったよ~。だいぶ効果的じゃない?
だって、あの日アルさんに偶然会ったから、この素敵な国に来ることが出来たんだもん。感謝してもしきれないよ。
久しぶりに皆さんに会えたけれど、本当に元気そうで。本当に会えて良かった。機会を与えてくださってありがとうございます、陛下。
「あの、聞いてもいいでしょうか」
アルさんが、質問をしてきた。ここに来て1日が過ぎた。それで気が付いた事があるのだとか。
「ここの人達って、皆錬金術が使えるのですか?」
彼らが懐に錬金術用の杖を持っていた事を何度も見ていたらしい。それと、実際に使っている所も。もしかして、私が全員に教えてるのでは? と思ったらしい。
「違いますよ、自主的にです」
「自主的に?」
「知らず知らずに皆杖を用意してて、いろいろと手伝ってくれたりしてくれるんです」
皆、本当に優しい人達だよね。お手伝いさせてください、って目をキラキラさせて言ってくれて。自分達の仕事もあるだろうに、とも思ったけれど……楽しそうにしてくれてるから何も言えない。
「このまえね、なわ、おしえたの!」
「縄?」
何でも、洗濯を干す為の棒が折れちゃったらしくて、応急処置の為にジョシュ達の所に駆け込み縄の作り方を教えてもらったのだとか。
あとねー、布もおしえてあげたよー! と。私、それ知らないんだけどなぁ。あ、でも最近髪でリボンで結わえている侍女さん達見かけるようになったな。皆付けてた。まさぁ、ねぇ。
それから、ジョシュがハンカチ作るんだっていってたよ! と。皆、頑張ってるね。私に聞いてくれてもいいんだけどなぁ……
この話を聞いていたアルさんは、流石賢者様ですねっ!! と、いつものアルさんになっていて。こういうの、久しぶりだなぁ。そう思った。
それから、アルさんは去っていき私達は温室から屋敷に戻った。そして、侍女さんにローレンス君が探してましたよと伝えてくれて。きっと錬金術に関する質問だろう。ありがとう、と答えて練習部屋に足を向けた。
因みに、鑑定してみたら、侍女さんが結わえていたリボンは錬金術によって作られたものであった。あとさっき使用人が使っていたハンカチも。
「師匠!」
練習部屋には、本とにらめっこしていたローレンスがいて。良かった、すれ違いにならなくて。
それで、どうしたの? と聞くと……本のページを見せてきた。
「実は、この素材が必要で……」
自分で購入してもいいでしょうか、との事だった。ふむ、マルギルさんのお店に発注すればいいのだけれど……と思いつつ、机に置いてあったとある鉱石を手に取った。
私が何故この鉱石を手に取ったのかが分からず頭にはてなを浮かべるローレンスとジョシュ。収納魔法陣から私の杖を取り出して、陣を開いた。
〝ドドノラ鉱石〟+『Ignis』
『Creare』
そうして出来上がったのは、また違った鉱石。そして、私はその素材と『Ventus』で錬成させる。そうして、次は出来上がったものと『Glacies』『Lux』を。
『Creare』
最後に出来上がったのは、今ローレンスが購入したいと言っていた素材だ。
これは、ローレンスが最初に私の所に来て見せてくれた錬成と似ている。錬成して作られたものをまた錬成素材として新たなものを作り出す。まぁこれは、知識がないと出来ないことだ。
知識とは、錬金術師にとっては一番の財産である。無知であれば何もできないのだ。まぁ、これは何に対しても言える事ではあるけれど。錬金術師にとっては本当に大きなことである。
彼らが使っているこの部屋にある本達は、実は私全部は読んでないんだよね。だから、私の知らないこともあるけれど……約750年も未開拓地を歩き、肌で感じた事も沢山ある。だから、教えられるものは全て教えてあげたいな。全部詰め込んであげるよ。
だから、もっと成長して偉大なる錬金術師になってくれると嬉しいな。
「さ、どこまで出来るようになったか見てあげようか」
「わーい!」
「お願いしますっ!!」
二人の将来がとても楽しみだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる