52 / 110
■51 新しい弟子達
しおりを挟む夜会から数日後、同じような忙しい日々を送っていた。
同じような、と言ってもあんなに詰め詰めでやっていたレッスンがゆっくりとなってスケジュール的には少しゆとりのある感じだけれど。
「あまり根を詰めてはお体に障りますよ」
「うん、分かってるよ。ありがとう」
あの夜会で言われた事。言われっぱなしは嫌だとちょっとムキになっているのは自分で分かっている。けれど……
「ステファニー様、お客様がご到着いたしました」
「うん、ありがとう。応接室にご案内して」
そう、今日はお客様がいらっしゃることになっているのです。その人物とは……
「お久しぶりです! マルギルさん!」
「久しぶりだなぁ。あぁ、こりゃ敬語にしなきゃならんか。もう男爵様だ」
「今まで通りで構いませんよ。わざわざここまで来てくださってありがとうございます」
「そんなもん気にすんな、元気そうで安心したぞ」
そう、今日は薬草店店主マルギルさんをご招待しました。あの護衛任務から色々立て込んでいたから、だいぶお久しぶりです。
「それでだ、ポーションの材料の件だったな」
「えぇ、王宮とモダルさんのお店にポーションを納品する件について相談して、以前より量が増えましたので出来ればマルギルさんの方で素材を定期的に購入したいと思っていまして」
数が増えて、以前よりも増えて今まで納品していなかった最上級のものも納品する事になってしまった。もうだいぶ感謝されてしまったわけだ。リンデルバート元帥とモダルさんに。
「なぁーるほど。だいぶ量が多いな、大丈夫か」
「あら、心配してくださるのですか?」
「ちげぇよ、途中で契約切られちまったらこっちが困っちまうじゃねぇか」
「はは、相変わらずですね。大丈夫ですよ、ジョシュアもいますし、この屋敷にも習いたいって人達がいるので」
そう、最近錬金術のお手伝いをしてくれる人達が増えたのだ。
最初は、何かお手伝いをさせていただけませんかというサマンサの声。そしてどんどん増えていった。知らないうちにあの短い杖を購入していたらしい使用人達がジョシュアに少しずつ教えてもらっている所を聞いたり目撃したり。
私に聞きに来てくれてもいいんだけどなぁ……とちょっと寂しくしていた時にサマンサが色々と質問に来てくれて本当に嬉しかった。
今ではポーション作成やジョシュに教えているタイミングで色々な人が来てくれるようになってだいぶ嬉しいのだ。
火魔法は、厨房や暖炉に。水魔法、風魔法は洗濯に、土魔法は庭仕事に使っているらしくて。錬金術に置いて、まずは魔法の方を使いこなすのが基本だ。錬成する時間が最初は遅いから、その間魔法を持続させる必要がある。だから、普段の仕事の作業に魔法を使い練習しているようで。
「ほほぅ、弟子が沢山増えちまったわけだ」
「弟子だなんて、私を師匠と思ってくださっている方がいるでしょうか……?」
「いやぁ? 分かんねーぞ、そこのねーちゃん見てみ」
え? サマンサの事? と思い視線を向けると、ちょっと恥ずかしそうなニッコリ顔で此方を見ている。ほんと? 私を師匠だと思ってくれてるの……?
「な? 良かったじゃねぇか」
「あ、はは、嬉しいものですね」
「先が楽しみだ。それじゃ、これで契約はどうだ?」
「そうですね……」
それからスティーブンを交えて交渉。何とかまとまってくれて契約成立となったのだ。
「もっとゆっくりしていっても構いませんよ、お部屋を用意します」
「気ぃ遣わんでもいい、店の事もあるかんな。じゃあこれからよろしく頼むぞ」
「わかりました、よろしくお願いしますね」
「帰ってから出来るだけ早く送ってやるよ」
「助かります」
また遊びにでも来てくださいねと一言言うと笑って帰っていった。これで収入は何とかなるだろう。
「ステファニー様!!」
「……?」
夕方に、少し焦ったサマンサが書斎に入ってきた。そんなに慌ててどうしたのだろうか。
「お、お客様が……」
「……?」
「そんな予定はなかったようだが」
「えぇ、スティーブン殿」
「名は?」
「えぇと……ローレンスと」
ローレンス……えっ?
思い当たる人物が一人。
私はすぐにその場に駆け付けた。
「やぁーっぱり貴方だったのね!!」
「お久しぶりです!!」
以前私の家に何度も来たことのある、ローレンス・ケルトニア伯爵子息だ。
何でこんな所に……そう言おうとした時に何かを取り出した。出したのは、以前私がプレゼントに渡した鉢に植わっている植物〝ティフォラシーラ〟
以前は茶色の幹だけだったものが、白くなり葉が生えピンクの小さい花が沢山開いている。
「どうですか」
「……」
私が、これと一緒に〝コラミア石〟を渡した意味が伝わったようだ。
これは、毎日マナを注ぎ込まないと成長しない。錬成の際使われる浄水を与え、光合成の為に光魔法をかけなければいけない。そして、この〝コラミア石〟で錬成し土に栄養を与える。
大きなサイズの石を渡したから、砕いてから大体1週間に1回錬成し栄養を与えなければいけない。だいぶ手のかかる植物なのである。だけど、錬金術の練習にはもってこいの代物だ。
「そうだね、良い仕上がりだよ。で、その様子じゃこれを見せる為だけにここまで来たわけじゃないよね?」
「はい! どうか弟子にしていただけませんか!」
ほら、やーっぱり。首都で会った時に一体何回言われただろうか。
「言ったよね、貴方にはやる事があるんじゃないって。まさか家出したんじゃ…」
「その通りです!」
「……」
「でも、もうあの家は弟のケインが継ぐことになりました。弟は父上達が思っているほど出来ない子じゃない。俺以上に優秀な奴です。やっと父上達がケインを見てくれるようになって、だからもう大丈夫だと思って家出してきました」
「はぁ、全く……」
「大丈夫ですよ、俺が家出するって言っても何も言わなかったんですから。恐らく行き先も分かっていると思います」
「それで、弟子になりたいと?」
「駄目、ですか?」
全く……そんな顔されちゃったら……と、溜息をしながら収納魔法陣を開き杖を取り出した。
『展開』
『Ventus』
『Aqua』
『Terra』
魔法を組み合わせながら混ぜて彼の出した〝ティフォラシーラ〟も巻き込んでいく。出来上がったのは……
「わぁ……杖!!」
彼の身長よりちょっと短いくらいの、緑の杖が出来上がった。
「これにはローレンス、貴方のマナが沢山注ぎ込まれてる。だから使いやすいと思うよ。これからよろしくね」
「ほっ本当ですか!? ありがとうございます!!」
こんなに喜んでくれるなんて思わなかった。ジョシュよりもお兄さんだから、彼にとっても良い仲間が出来て良かった。
「さ、皆に挨拶しに行こうか」
「はいっ! これからよろしくお願いします! 師匠!!」
おぉ、私を師匠と呼んでくれる人がもう一人増えた。これから、ジョシュとローレンスが弟子となった訳だけれど……これからの屋敷での立ち位置をちゃんと決めなければだなぁ。
8
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
目の前で不細工だと王子に笑われ婚約破棄されました。余りに腹が立ったのでその場で王子を殴ったら、それ以来王子に復縁を迫られて困っています
榊与一
恋愛
ある日侯爵令嬢カルボ・ナーラは、顔も見た事も無い第一王子ペペロン・チーノの婚約者に指名される。所謂政略結婚だ。
そして運命のあの日。
初顔合わせの日に目の前で王子にブス呼ばわりされ、婚約破棄を言い渡された。
余りのショックにパニックになった私は思わず王子の顔面にグーパン。
何故か王子はその一撃にいたく感動し、破棄の事は忘れて私に是非結婚して欲しいと迫って来る様になる。
打ち所が悪くておかしくなったのか?
それとも何かの陰謀?
はたまた天性のドMなのか?
これはグーパンから始まる恋物語である。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる