大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

文字の大きさ
51 / 110

■50 デビュタント

しおりを挟む

 月日は過ぎ、夜会の日となった。

 これは、王宮主催のもの。絶対この夜会でお披露目にしましょうとスティーブンに言われここまでやっと準備が整ったのだ。


「久しぶりだな、デイム・ステファニー」

「お久しぶりで御座います。エスコートを申し出てくださり本当にありがとうございます……!!」

「了承してくれて感謝する、さぁ行こうか」

「よろしくお願いいたします!」


 公爵家の馬車で王宮へ向かうことに。以前にも乗ったことがあるけれど、とっても座面がふかふか。ずっと座ってられるくらい!


「レディのドレス、見た事のないものだ」

「モルティアート侯爵夫人が紹介してくださった仕立て屋で作っていただいたんです。初めての社交界だからと頑張って作ってくださいました」


 そう、キツいコルセット付けてないんです!! あの頑張って締め上げるアレを!! 何とありがたい!!


「色々と注目の的になりそうだ、そんなレディをエスコートさせてもらえるのは光栄だよ」

「そんな。私の方こそ公爵様にエスコートして頂けるなんて心強くて頑張れそうです!」

「そうか、それは良かった」




 貴族の夜会というものは、とても華やかだ。あの子爵邸での晩餐会でもそうだったけれど、夜会ってなると自分が思っていた以上に華やかで煌びやかだ。しかも王宮主催だから人数も多い。

 緊張しなくていい、肩の力を抜いていいと言われても、これは難しい。


 入っていくと、とても凄い視線が送られてきて顔が強張ってしまった。

 しかも、あまり着ない新しいドレスにヒールの高い靴。階段を下りるのに踏み外さないよう細心の注意を払って下を向いてしまって。

 隣が知っている公爵様で良かったと心から思ってしまった。




「初めまして、モストワ卿」

「お初にお目にかかります」


 どんどん来る貴族の方達、全員覚えられるかな。何とか覚えようとは思っても緊張しすぎてダメかもしれない。

 そして、挨拶に行ってくるよと隣にいた公爵様が席を外してしまい大混乱。今がチャンスだとまたまた貴族様達が押し寄せてくる。

 領地はどうだとか、私のお師匠様の話だとか、術師としての話だとか。答えられるものには限りがあるけれど、何とかついていけそう。




 やっと解放された時、今度はドレスを着た方々が押し寄せてきた。


「初めまして、モストワ卿。_______家令嬢の________と申します。こちらは______________」


 どんどん自己紹介が始まっていって。えぇと、令嬢達は男爵である私より身分が下なんだよね。


「初めまして、ステファニー・モストワ男爵です」

「私達、卿に早くお会いしたかったのですわ。今日がデビュタントだとお聞きしましたの」

「失礼ですが、お歳をお聞きしてもよろしいでしょうか」


 750歳くらいだったけど、身分証発行の際見た目と大体同じような歳で登録したんだよね。


「16です」

「まぁ! 初めての社交界では14歳が規則ですのよ……?」

「_____令嬢、この方はつい最近貴族になった方ですのよ。これは仕方のない事ですわ」

「あぁ、そうでしたわね。ごめんなさい……」

「もし、何かお困りになったことがあれば遠慮せずに言って下さって構いませんわ。私達は、生まれてからずっと貴族でしたから」

「私達、男爵様と良い関係を築きたいと思ってますの。これからよろしくお願いいたしますわ」


 これは、馬鹿にされてる? けど……言い返せない。本当の事だもんなぁ。


「それにしても、素晴らしいドレスですのね」

「一目見て素晴らしいものだと思っていましたの。どなたからのプレゼントですの?」

「アスタロト公爵様かしら」

「まぁ! 何とお優しい!」

「これは、モルティアート侯爵夫人からのプレゼントです」

「まぁ! やはりプレゼントでしたのね!」

「そうですわね、貴族になりたての方ですものね」


 それは、私がお金のない庶民だったからってことを言いたいのかな。

 まぁ、本当の事だけれど。


「そういえば、男爵様は初めて領地の経営をなさっているとか」

「は、はい」

「経験もなく難しいのではなくて? もしよろしければ私のお父様に相談されてはいかが?」

「そうですわ、まだ16歳ですもの。経験のある方々にご相談されれば、領民達も安心すると思いますわ」

「……」


 これは、どう返せばいいのだろうか。失礼のないように、とは思っていても……こんなにクスクス笑われてるのになぁ。やり過ぎたらスティーブンの怖いお説教を食らうし……やっぱり貴族は怖い……


「皆さん、御機嫌よう」


「あら、ご機嫌麗しゅうアンジェリーナ様。お会いできて嬉しいですわ!」

「お久しぶりですアンジェリーナ様!」

「本日のドレスも素敵ですわ!」

「ありがとう、皆さん」


 この人は、あの殿下とのお茶会の時一回会ったことのある怖い人だ。やっぱり今日も怖いです……


「またお会いしましたね、ティファニーさん。……いえ、ステファニーさん」


 ティファニーさん? と皆さん頭にはてなを浮かべているよう。


「偶然殿下とこの方がいらっしゃった所にお会いしましたの。その際、ティファニーさんと殿下に紹介されました。どうしてなのでしょうか……?」

「偽名だなんて、どういう……?」

「あぁ、まだただの庶民・・・・・でしたのできちんとご紹介できなかったのではないでしょうか?」

「成程、納得ですわ」

「まさか男爵様になられるとは思いもしませんでしたわ。殿下はお優しいですね、錬金術師の貴方にこんなに目をかけて下さるなんて。私も、そんなお優しい殿下を支える事の出来る女性になりたく日々精進しておりますの」

「アンジェリーナ様も十分素敵な方ですわよ?」

「殿下の隣に立つことの出来る女性なんてアンジェリーナ様を置いて他にいませんわ」

「私も思いつきませんわ」


「あら、御機嫌ようお嬢さん方」


「「「「!?」」」」


 後ろから聞こえた声の主は、


「モルティアート侯爵夫人、ユージーン侯爵子息も……」

「あら、とってもお似合いよ、ステファニーちゃん。貴方はとっても良いものを持っているから、斬新で新しいドレスがよく似合うわ」

「あ、ありがとうございます夫人」

「皆さん。私、デイム・ステファニーとお話があるの。いいかしら」

「は、はい……」

「で、では御機嫌よう……」

「……御機嫌よう、モルティアート夫人、ユージーン侯爵子息」

「えぇ」


 あ、行っちゃった。


「大変でしたね、デイム」

「初めての社交界、大変でしょう。もう、いじめられちゃって。言い返してもいいのよ?」

「……いえ、私にはちょっと難しかったようです。助けて頂きありがとうございました、夫人」

「皆最初はこのようなものよ」

「これから経験を積めばいいんです」

「そうよ、手助けしてあげるって言ったじゃない。私達の仲でしょ?」

「……ふふ、ありがとうございます」


 助けられちゃったなぁ。でも、これは私のせいだ。これからだって夫人が言ってくれたし、頑張んなきゃ。


「ユージーン、本当はちょっと悔しいのよね?」

「ちょ、母上……!」

「ステファニーちゃんのエスコート、アスタロト公爵に先を越されちゃったから」

「えっ……」

「折角ドレスの色を合わせたのにぃ」

「は、母上……!」

「あら、ふふ、言いすぎちゃったかしら」

「ではデイム、次は僕とよろしいですか?」

「ふふ、はい。光栄です、ありがとうございます」

「約束ですからね?」

「はい!」


 こんなに仲良くしてくださって、とっても光栄です。本当に、ありがとうございます。



「レディ」

「え?」


 わぁ、今度は殿下だ。すっごくキラキラしててしかもニコニコ顔。眩しい。


「お久しぶりでございます、王太子殿下」

「ご機嫌麗しゅう、殿下」

「ご、ご機嫌麗しゅう」

「えぇ、モルティアート侯爵夫人、子息、モストワ卿」


 そんな時、曲が変わった。これは、まさか……


「踊って頂けないだろうか、レディ」

「………」


 スティーブンの言葉を思い出した。


『極力踊らないように、男爵様』


 あぁ、ダメだ。

 この顔は、断れない。


「初めてのダンスのパートナーに、私を選んでくれないか?」


 隣の夫人達に助けを求めようとしても、ニコニコ返されるだけ。


「……では、よろしくお願いいたします」


 スティーブン、ごめんなさい。


「ダンス、苦手か?」

「え?」

「先程の反応だと、そうだろう?」

「……」

「ククッ、図星か。だが、安心していい。レディに足を踏まれるほど下手ではない。ただ委ねてくれればいいさ」

「殿下……」


 不安と緊張でどうにかなってしまいそうだったけれど、曲が始まった瞬間にどこかへ行ってしまった。

 あんなにスティーブンの足を踏んでたのに、ぜーんぜん踏んでない! 殿下がリードしてくださってるからとっても踊りやすい!!

 殿下はとってもダンスが上手かっただなんて、本当に尊敬します。そのダンスの才能を私にも、ほんの少しだけでいいから分けてほしいです。





「ありがとうございました、殿下」

「いいや、短期間でよく練習したのだろうと感じたよ。良い時間だった」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 無事踏まずに、転ばずに終われたのは殿下のお陰です。本当にありがとうございました。



「レディ」


 踊り終わって端に捌けようとした時に、やっと戻ってきてくださった公爵様。


「悪かった、だいぶ一人にしてしまったな」

「いえ、公爵様にもお仕事がございますから。こちらこそ申し訳ありません」

「当主となって短いし、中々社交界には顔を出さなかったからな。色々と面倒だ」


 あぁ、そういえば初対面の時当主になったって言ってたよね。大変そうだなぁ。まぁ他人事にならないんだけどさ。


「それでだ、レディ」

「はい?」

「私がパートナーとしてレディと来たのに、このまま踊らず、とはいかないだろう。それに周りのご令嬢が煩い。人助けと思って一曲付き合ってくれないだろうか」

「……え”!?」

「レディ、私と一曲如何ですか?」

「えぇーっと、」

「レディ?」

「……はい」

「ククッ、感謝する」


 スティーブン、ごめんなさい。言われていたけれど、断れませんでした。あの顔じゃ、無理です。……私、悪くないよ、ね? 不可抗力、というやつだよ、ね?





 そうして、何事もなく夜会に幕が下りたのだった。

 スティーブンには、盛大な溜息をつかれてしまった。でも誰の足も踏んでませんよ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...