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■50 デビュタント
しおりを挟む月日は過ぎ、夜会の日となった。
これは、王宮主催のもの。絶対この夜会でお披露目にしましょうとスティーブンに言われここまでやっと準備が整ったのだ。
「久しぶりだな、デイム・ステファニー」
「お久しぶりで御座います。エスコートを申し出てくださり本当にありがとうございます……!!」
「了承してくれて感謝する、さぁ行こうか」
「よろしくお願いいたします!」
公爵家の馬車で王宮へ向かうことに。以前にも乗ったことがあるけれど、とっても座面がふかふか。ずっと座ってられるくらい!
「レディのドレス、見た事のないものだ」
「モルティアート侯爵夫人が紹介してくださった仕立て屋で作っていただいたんです。初めての社交界だからと頑張って作ってくださいました」
そう、キツいコルセット付けてないんです!! あの頑張って締め上げるアレを!! 何とありがたい!!
「色々と注目の的になりそうだ、そんなレディをエスコートさせてもらえるのは光栄だよ」
「そんな。私の方こそ公爵様にエスコートして頂けるなんて心強くて頑張れそうです!」
「そうか、それは良かった」
貴族の夜会というものは、とても華やかだ。あの子爵邸での晩餐会でもそうだったけれど、夜会ってなると自分が思っていた以上に華やかで煌びやかだ。しかも王宮主催だから人数も多い。
緊張しなくていい、肩の力を抜いていいと言われても、これは難しい。
入っていくと、とても凄い視線が送られてきて顔が強張ってしまった。
しかも、あまり着ない新しいドレスにヒールの高い靴。階段を下りるのに踏み外さないよう細心の注意を払って下を向いてしまって。
隣が知っている公爵様で良かったと心から思ってしまった。
「初めまして、モストワ卿」
「お初にお目にかかります」
どんどん来る貴族の方達、全員覚えられるかな。何とか覚えようとは思っても緊張しすぎてダメかもしれない。
そして、挨拶に行ってくるよと隣にいた公爵様が席を外してしまい大混乱。今がチャンスだとまたまた貴族様達が押し寄せてくる。
領地はどうだとか、私のお師匠様の話だとか、術師としての話だとか。答えられるものには限りがあるけれど、何とかついていけそう。
やっと解放された時、今度はドレスを着た方々が押し寄せてきた。
「初めまして、モストワ卿。_______家令嬢の________と申します。こちらは______________」
どんどん自己紹介が始まっていって。えぇと、令嬢達は男爵である私より身分が下なんだよね。
「初めまして、ステファニー・モストワ男爵です」
「私達、卿に早くお会いしたかったのですわ。今日がデビュタントだとお聞きしましたの」
「失礼ですが、お歳をお聞きしてもよろしいでしょうか」
750歳くらいだったけど、身分証発行の際見た目と大体同じような歳で登録したんだよね。
「16です」
「まぁ! 初めての社交界では14歳が規則ですのよ……?」
「_____令嬢、この方はつい最近貴族になった方ですのよ。これは仕方のない事ですわ」
「あぁ、そうでしたわね。ごめんなさい……」
「もし、何かお困りになったことがあれば遠慮せずに言って下さって構いませんわ。私達は、生まれてからずっと貴族でしたから」
「私達、男爵様と良い関係を築きたいと思ってますの。これからよろしくお願いいたしますわ」
これは、馬鹿にされてる? けど……言い返せない。本当の事だもんなぁ。
「それにしても、素晴らしいドレスですのね」
「一目見て素晴らしいものだと思っていましたの。どなたからのプレゼントですの?」
「アスタロト公爵様かしら」
「まぁ! 何とお優しい!」
「これは、モルティアート侯爵夫人からのプレゼントです」
「まぁ! やはりプレゼントでしたのね!」
「そうですわね、貴族になりたての方ですものね」
それは、私がお金のない庶民だったからってことを言いたいのかな。
まぁ、本当の事だけれど。
「そういえば、男爵様は初めて領地の経営をなさっているとか」
「は、はい」
「経験もなく難しいのではなくて? もしよろしければ私のお父様に相談されてはいかが?」
「そうですわ、まだ16歳ですもの。経験のある方々にご相談されれば、領民達も安心すると思いますわ」
「……」
これは、どう返せばいいのだろうか。失礼のないように、とは思っていても……こんなにクスクス笑われてるのになぁ。やり過ぎたらスティーブンの怖いお説教を食らうし……やっぱり貴族は怖い……
「皆さん、御機嫌よう」
「あら、ご機嫌麗しゅうアンジェリーナ様。お会いできて嬉しいですわ!」
「お久しぶりですアンジェリーナ様!」
「本日のドレスも素敵ですわ!」
「ありがとう、皆さん」
この人は、あの殿下とのお茶会の時一回会ったことのある怖い人だ。やっぱり今日も怖いです……
「またお会いしましたね、ティファニーさん。……いえ、ステファニーさん」
ティファニーさん? と皆さん頭にはてなを浮かべているよう。
「偶然殿下とこの方がいらっしゃった所にお会いしましたの。その際、ティファニーさんと殿下に紹介されました。どうしてなのでしょうか……?」
「偽名だなんて、どういう……?」
「あぁ、まだただの庶民でしたのできちんとご紹介できなかったのではないでしょうか?」
「成程、納得ですわ」
「まさか男爵様になられるとは思いもしませんでしたわ。殿下はお優しいですね、錬金術師の貴方にこんなに目をかけて下さるなんて。私も、そんなお優しい殿下を支える事の出来る女性になりたく日々精進しておりますの」
「アンジェリーナ様も十分素敵な方ですわよ?」
「殿下の隣に立つことの出来る女性なんてアンジェリーナ様を置いて他にいませんわ」
「私も思いつきませんわ」
「あら、御機嫌ようお嬢さん方」
「「「「!?」」」」
後ろから聞こえた声の主は、
「モルティアート侯爵夫人、ユージーン侯爵子息も……」
「あら、とってもお似合いよ、ステファニーちゃん。貴方はとっても良いものを持っているから、斬新で新しいドレスがよく似合うわ」
「あ、ありがとうございます夫人」
「皆さん。私、デイム・ステファニーとお話があるの。いいかしら」
「は、はい……」
「で、では御機嫌よう……」
「……御機嫌よう、モルティアート夫人、ユージーン侯爵子息」
「えぇ」
あ、行っちゃった。
「大変でしたね、デイム」
「初めての社交界、大変でしょう。もう、いじめられちゃって。言い返してもいいのよ?」
「……いえ、私にはちょっと難しかったようです。助けて頂きありがとうございました、夫人」
「皆最初はこのようなものよ」
「これから経験を積めばいいんです」
「そうよ、手助けしてあげるって言ったじゃない。私達の仲でしょ?」
「……ふふ、ありがとうございます」
助けられちゃったなぁ。でも、これは私のせいだ。これからだって夫人が言ってくれたし、頑張んなきゃ。
「ユージーン、本当はちょっと悔しいのよね?」
「ちょ、母上……!」
「ステファニーちゃんのエスコート、アスタロト公爵に先を越されちゃったから」
「えっ……」
「折角ドレスの色を合わせたのにぃ」
「は、母上……!」
「あら、ふふ、言いすぎちゃったかしら」
「ではデイム、次は僕とよろしいですか?」
「ふふ、はい。光栄です、ありがとうございます」
「約束ですからね?」
「はい!」
こんなに仲良くしてくださって、とっても光栄です。本当に、ありがとうございます。
「レディ」
「え?」
わぁ、今度は殿下だ。すっごくキラキラしててしかもニコニコ顔。眩しい。
「お久しぶりでございます、王太子殿下」
「ご機嫌麗しゅう、殿下」
「ご、ご機嫌麗しゅう」
「えぇ、モルティアート侯爵夫人、子息、モストワ卿」
そんな時、曲が変わった。これは、まさか……
「踊って頂けないだろうか、レディ」
「………」
スティーブンの言葉を思い出した。
『極力踊らないように、男爵様』
あぁ、ダメだ。
この顔は、断れない。
「初めてのダンスのパートナーに、私を選んでくれないか?」
隣の夫人達に助けを求めようとしても、ニコニコ返されるだけ。
「……では、よろしくお願いいたします」
スティーブン、ごめんなさい。
「ダンス、苦手か?」
「え?」
「先程の反応だと、そうだろう?」
「……」
「ククッ、図星か。だが、安心していい。レディに足を踏まれるほど下手ではない。ただ委ねてくれればいいさ」
「殿下……」
不安と緊張でどうにかなってしまいそうだったけれど、曲が始まった瞬間にどこかへ行ってしまった。
あんなにスティーブンの足を踏んでたのに、ぜーんぜん踏んでない! 殿下がリードしてくださってるからとっても踊りやすい!!
殿下はとってもダンスが上手かっただなんて、本当に尊敬します。そのダンスの才能を私にも、ほんの少しだけでいいから分けてほしいです。
「ありがとうございました、殿下」
「いいや、短期間でよく練習したのだろうと感じたよ。良い時間だった」
「こちらこそ、ありがとうございました」
無事踏まずに、転ばずに終われたのは殿下のお陰です。本当にありがとうございました。
「レディ」
踊り終わって端に捌けようとした時に、やっと戻ってきてくださった公爵様。
「悪かった、だいぶ一人にしてしまったな」
「いえ、公爵様にもお仕事がございますから。こちらこそ申し訳ありません」
「当主となって短いし、中々社交界には顔を出さなかったからな。色々と面倒だ」
あぁ、そういえば初対面の時当主になったって言ってたよね。大変そうだなぁ。まぁ他人事にならないんだけどさ。
「それでだ、レディ」
「はい?」
「私がパートナーとしてレディと来たのに、このまま踊らず、とはいかないだろう。それに周りのご令嬢が煩い。人助けと思って一曲付き合ってくれないだろうか」
「……え”!?」
「レディ、私と一曲如何ですか?」
「えぇーっと、」
「レディ?」
「……はい」
「ククッ、感謝する」
スティーブン、ごめんなさい。言われていたけれど、断れませんでした。あの顔じゃ、無理です。……私、悪くないよ、ね? 不可抗力、というやつだよ、ね?
そうして、何事もなく夜会に幕が下りたのだった。
スティーブンには、盛大な溜息をつかれてしまった。でも誰の足も踏んでませんよ。
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