大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫

文字の大きさ
上 下
50 / 110

■49 屋敷内の日常

しおりを挟む


『展開』


Aquaアクア


Ventusヴェントゥス


Creareクレアーレ




 ウガルルムの鱗、水魔法、風魔法を組み合わせて錬成。そうして出来上がったのは、布団だ。あの国王陛下、王太子殿下他多数の方々に依頼されて作ったあのふかふかお布団です。

 あの後、鱗数枚と言わず全部持っていけと言われ死骸ごと貰ってしまったのだ。ありがとうございます。だから、鱗は大量に手元にあるわけで。


『陣よ、開け』


『大地を潤す水よ……』


『大地を駆ける風よ……』


『そして、全てを包み構築せよ_____錬成』



「うんうん、上手くできたね。じゃあもう一回だ」


 因みに今は、屋敷のお庭です。大きすぎるウガルルムの死骸を出すのには少し狭すぎたため外で作業中。剥がしては錬成、剥がしては錬成を繰り返しているという訳だ。

 これを、使用人全員に配ろうと思っていて。勉強になるからとジョシュにも手伝ってもらってます。

 あれからの私達に対する使用人達の対応は、困ったような、どう接していいのか分からないような、そんな様子で。

 それもそうだ、こんな見た目が小娘の、貴族になりたての錬金術師が自分達の主人になってしまったのだから。

 これから一緒に居る時間が長くなっていくのに、このままじゃちょっと嫌だよね。


「サマンサ、近くで見てみる?」

「えっ、よろしいのですか……?」

「うん、おいで」


 ちょっと遠くで作業しながら、ちらちらとこちらを見ていた彼女。錬金術を見たことがあまりないのかな?


「魔法を混ぜ合わせた魔法混合錬成って言うの」

「錬金術の知識は少しだけありましたが、魔法も取り入れたものは初めて拝見いたしました……!!」

「聞きたいことがあったら何でも聞いてね」

「ありがとうございます、男爵様」

「ねぇ、男爵様じゃなくてステファニーって呼んで?」

「で、ではステファニー様と、お呼びしてもよろしいでしょうか」

「うん、それでお願い」


 これ、出来たから皆に配ってほしいんだけれどいい? と言うと喜んでくれて。彼女一人じゃ大変そうだから男性何人かを呼んでお願いした。

 来てくれた人達は、ちょっと戸惑ってはいたけれど、


「ふ、ふかふかだ……!!」

「あったかい……!!」


 と、小さな声をこぼしていた。やっぱり作って正解だった。これから冬だったから、きっと重宝されるだろう。


「よ、よろしいのですか……? わ、我々使用人に……」

「えぇ、寒い時期だから大変でしょ? どうぞ使って。何かあったら遠慮なく言ってね」


 有難く使わせていただきます!! と、声を揃えて言ってくれた。

 一緒に作ったジョシュも嬉しそうだ。良かった。

 あとは、あの王宮騎士団の皆さんが絶賛してくださったあの暖房魔鉱石も作ってみよう。大きなものを作るのもいいかもしれない。


「男爵様、探しましたよ」

「あ、スティーブン……」

「早急に目を通していただかなければいけない書類がございます」

「はぁーい……」

「男爵様」

「……うん、今見るよ」


 言葉遣い、気をつけます。




「警備兵に関して、今いる者達の人数が足りず適当な人材を集めている所ですが、時間がかかるかと。早急に集めて参りますのでもう少々お待ちください」

「うん、分かった。あと、子供達の件だけど、」

「見回りをさせていた兵達から、数人の赤ん坊や幼い子供を何人か発見したとの報告がありました」

「じゃあ、世話についてはサマンサに一任してもらって」

「分かりました」


 そっか、まだいたのか。

 資料を確認したら、元先代のドラグラド子爵の時から急に出生率が下がっている。だからこんなに町の人数が減っているという事だ。

 やっぱり、税金と稼ぐお金が関係してくるって事か。この領地の生活水準もだいぶ低い。何とかしないとね。税金の件は何とかなってはいるけれど、稼ぎどころを何とかしなきゃ。


「時間が空いたら、湿地帯に行くべき……?」


 ルシルちゃんにお願いすればすぐに湿地帯に向かうことが出来るし。


「時間、空かない?」

「今の状況では1日は無理がございます。レッスンは予定以上に進んではいますが、通常業務の方がまだ大量にありますので……」

「そーだよね……」

「3日後に、モルティアート侯爵夫人が来訪していらっしゃるとの便りが来たではありませんか。それに本格的に夜会の準備を始めなければならなくなってきています。時間がありませんよ」


 時間よ、止まってくれ。



 ……なんて願い叶わず次の日、沢山の手紙が送られてきたとサマンサが持ってきてくれた。


「とっても大量。普段の貴族ってこんなに手紙のやり取りをするんだね。全部読むのに時間がかかりそう」

「そうですね。ですがステファニー様は貴族になりたての方ですから、普段よりも多く送られてきています」


 お手伝いいたします、と封を開けて読みやすくしてくれた。どれどれ。


「これは……お話がしたい? こっちは、事業に対するお話?」

「こちらは、恐らく領地経営の代わりを務めたいとのことでしょうか」

「殿下の言っていた事だよね、利用しようって」

「えぇ。では、お断りの手紙を送っておきましょう」

「ありがとう。……ん?」


 これ、どこかで見た様な印璽……どこだったかなぁ、覚えはいいはずなんだけど……チラッとしか見た事なかった?


「こちらは、アスタロト家の紋章です」

「アスタロト公爵様?」


 この領地で彼に会った時、馬車に書いてあったのを見たからじゃ。中身は、デビュタントのエスコートをさせてくれとのことだった。


「デビュタントって、初めて社交界に入るときの夜会って事だよね。お披露目の夜会?」

「はい、その通りです。恐らく、ステファニー様がアスタロト公爵家と良い関係を築いていると世間に見せる為。後ろ盾となってくださる、という事でしょうか。
 そうなっていくと、暫くは先程のような手紙を送ってきた貴族の方々は静かになると思われます」

「公爵様……!!」


 嬉しいです! ありがとうございます!

 今度お礼言わなきゃ。


「ステファニー様は、良い人脈をお持ちですね。モルティアート侯爵家とも、とても良い関係をお持ちですから」

「関わる方々がとてもお優しい方々だったから、ありがたいね」

「それもありますが、ステファニー様だからこそ、もあると思いますよ」

「え?」

「我々使用人まで気遣って下さるほど、お優しい方ですから。
 皆、声を揃えてお布団のお礼を言ってくれとお願いされました。皆の代わりに言わせてください。本当にありがとうございました」

「あ、はは。照れちゃうね。ありがとう。あと、ジョシュにも手伝ってもらったから彼にも言ってくれると嬉しいな」

「分かりました」


 ふふ、何とかやっていけそうな。そんな感じがする。

 ありがとう、皆さん。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

大聖女様 世を謀る!

丁太郎。
恋愛
 前世の私は大賢者だった。 転生した私は、今回は普通に生きることにした。 しかし、子供の危機を魔法で救った事がきっかけで聖女と勘違いされて、 あれよあれよという間に大聖女に祭り上げられたのだ。 私は大聖女として、今日も神の奇跡では無く、大魔術を使う。 これは、大聖女と勘違いされた大賢者の ドタバタ奮闘記であり、彼女を巡る男達の恋愛争奪戦である。 1話2000〜3000字程度の予定です 不定期更新になります

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...