厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫

文字の大きさ
30 / 47
第二章

◇14 BL本を子供に読み聞かせしていいのか?

しおりを挟む

「リューク、今日はここでゆっくり休め」


 朝食後、ヴィルに寝室に連れられそう言われた。


「本が必要か?」

「ピモに頼みます」

「そうか。何かあれば必ずピモに言え。俺も呼べばすぐ行けるようにしておく」

「ちゃんと仕事してください」

「してるから心配するな」


 一体この会話を何回繰り返したのか分からない。本当にヴィルは心配性だな。……いや、そうさせてるのは俺の方か。

 はぁ、と息を吐きつつピモに本を持ってくるよう任せた。昨日の読みかけと、まだ読んでないやつを。まぁでも、読みかけといってもちゃんとは読んでないからなぁ。ちゃんと読まないといけないんだけど……

 また、はぁ、とため息をついてしまった……


「は~い奥様~! ご本ですよ~!」

「……は?」


 ……ん、だけど。

 ピモに頼んだはずなのに、何故だか本を持って寝室に入ってきたのはテワールだった。元離宮使用人の一人。この寝室には、何人かしか入れない決まりなんだけど、テワールって入れないんじゃなかったっけ。

 それに、手に持っているその本……俺が頼んだやつじゃないよな。厚さからして絵本だろそれ!


「ほら、とっても素敵なご本でしょう? 他にも色々と持ってきてみたんですよ。どうです?」


 なんて言いつつ、ソファーに座る俺の隣に「失礼しますね」と普通に座ってきて、持っていた本を少しずらしつつ膝に並べてきた。はぁ、お前はそういうやつだったよな。


「バカにしてるのか?」

「ほら、絵本の読み聞かせが上手に出来ないと後で困ってしまいますよ? 離宮には絵本がありませんでしたから、奥様は読み聞かせした事もされた事もなかったでしょう?」

「それは……そうだけど」

「じゃあ、まずは私がお手本を見せてあげないとですね。どれから読みましょうか?」


 おい、お前が読み聞かせするのかよ。というか、何だよこの絵本達。ラブロマンス? 普通童話とかじゃないのか? こんなの聞かせちゃっていいのか。


「さ、まずはお膝にどうぞ」

「はぁ?」


 膝に乗せていた本を横に置き、ポンポンと膝を叩くテワール。なんだ、膝に頭を乗せろと、そう言いたいのか。俺もう19なんですけど。もうそんな年じゃないだろ。読み聞かせの手本とか、別にここに頭を乗せずともいいだろ。

 じーっと睨みつけるけれど、ニコニコとこちらを見ては肩を引かれゆっくりと倒され頭を乗せられてしまったのだ。まぁ、何度もされてきたことだから別に緊張とかしないけどさぁ、これ、恥ずかしくないか? ……いや、そういえばどっかの誰かさんは膝枕好きだったな。あの大きな子供。


「さ、読み聞かせを始めましょうか」


 なんて楽しそうに読み始めたテワール。あの離宮には絵本がなかったから、絵本読んでくれるって初体験だ。前世だと……記憶がないな。もう忘れたか。両親とか、幼稚園とかで読んでもらったのかな。

 でもさ、膝枕されてBL本聞かされるのってどうなんだ? ほら、王子様とお姫様出てきてもお姫様はただのアメロで男なんだよ。付いてるもんは付いてるんだよ。そう考えるとなぁ……複雑だ。

 テワール、なんか楽しそうに読んでるけど……いいのか?


 絵本はページが少ないし文字数も少ないから読み聞かせなんてすぐに終わる。ようやくハッピーエンドで終わったけれど、次はどれがいいですか? とさも全部読むかのような勢いだ。

 けど……


「……俺、ちゃんと出来るかな」


 そんな俺のつぶやきに、テワールは静かに微笑んだ。俺のこの呟きの意味を、見透かされているようだ。

 この子が生まれた後、ちゃんと生きているかという事。俺の母親のように、本の読み聞かせが出来ないかもしれないという事だ。


「……殿下・・

「?」

「殿下がお生まれになられた際、殿下のお母様は殿下をお抱きになりこうおっしゃったのですよ」


 俺の母親の最後の言葉。


『幸せになってね、リューク』


 幸せに、か。


「殿下はこの家に嫁ぎ、何ヶ月も経ちました。お優しい旦那様と出会えて今、幸せですか」

「……うん」

「ですが、幸せってこんなもんじゃないと私は思います」

「っ!?」

「もっと、もっと、旦那様と、この地にいらっしゃる皆様と、私達と、そしてこのお腹の中にいらっしゃるお二人の子と、一緒に幸せになりましょう?」


 幸せ……もっと、幸せ。

 確かに、ここに来てからは楽しくて、ヴィルといる日々がとても幸せに感じる。

 けど、それ以上の幸せ、か。


「このままではお母様にしかられてしまいますよ? もっと幸せにならなきゃ。きっと旦那様だってそうお思いです。だから、幸せになるための覚悟を決めてください。大丈夫、私達も付いています。そして何よりも、旦那様が殿下を、奥様を想っていらっしゃいますよ」


 俺の頭を撫でる手が、一瞬だけ、乳母の手のように感じた。そんな事はないって分かってるのに、どうしてだろう。あの、しわしわで、けど暖かい、あの人の手に……


「……うん」

「奥様、ちゃんと旦那様にもお伝えしましょうね」

「えっ? ヴィル?」

「どうせ奥様、旦那様に迷惑かけたくないとでも思ってるんじゃないですか? いいですか、奥様。心配や不安や愚痴ぐちは旦那にぶつけてなんぼですよ」

「……マジ? え、いいの?」

「いいに決まってるじゃないですか。そのための旦那ですよ?」


 ……前世じゃずっと独身、そして結婚生活はこれが初めてだからこういうのは良いのか悪いのかよく分からない。けど……いいのか? ヴィルに愚痴ぐちとか言っちゃって。


「不安が絶えない妊娠期間である今こそ、旦那様に何でもぶつける時じゃないんですか?」

「……」

「奥様、我慢がまんはダメですよ。我慢がまんしてたら爆発して火傷やけどするのがオチですからね」


 爆発して火傷やけどとか……でもなんか説得力ありそう。まぁ、喧嘩けんかしたら「何が?」って答えろって言ったのこいつだしな。


「……ヴィルに会いたい」

「お呼びしますか?」

「けど、今は嫌だ」

「はいはい、じゃあ今はひと眠りいたしますか?」

「……うん」


 テワールは全部分かっていたらしい。不眠だったことも。まぁ、19年俺と一緒にいたからお手のものか。

 でも、なんだかすっきりしたような気分にもなった。ゆっくりとまぶたをおろすと、自然と意識が落ちていったのだ。



 そんな二人の様子を見に来た、ヴィルヘルムとピモ。


「あの者達はリュークにとって親のような存在だろう。やはり、例え夫であっても親には勝てないものだな」

「奥様がお生まれになってからずっと一緒に過ごしてきたようですからね。そう言った存在も、今の奥様には必要でしょう」

「あぁ……だが、思った以上に悔しいものだな。困った事に」

「奥様が知ったらきっと呆れられてしまうでしょうね」

「だろうな」


 なんて事を二人が話していた事は、今の俺は全く知りもしなかった。

しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。