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第二章
◇14 BL本を子供に読み聞かせしていいのか?
しおりを挟む「リューク、今日はここでゆっくり休め」
朝食後、ヴィルに寝室に連れられそう言われた。
「本が必要か?」
「ピモに頼みます」
「そうか。何かあれば必ずピモに言え。俺も呼べばすぐ行けるようにしておく」
「ちゃんと仕事してください」
「してるから心配するな」
一体この会話を何回繰り返したのか分からない。本当にヴィルは心配性だな。……いや、そうさせてるのは俺の方か。
はぁ、と息を吐きつつピモに本を持ってくるよう任せた。昨日の読みかけと、まだ読んでないやつを。まぁでも、読みかけといってもちゃんとは読んでないからなぁ。ちゃんと読まないといけないんだけど……
また、はぁ、とため息をついてしまった……
「は~い奥様~! ご本ですよ~!」
「……は?」
……ん、だけど。
ピモに頼んだはずなのに、何故だか本を持って寝室に入ってきたのはテワールだった。元離宮使用人の一人。この寝室には、何人かしか入れない決まりなんだけど、テワールって入れないんじゃなかったっけ。
それに、手に持っているその本……俺が頼んだやつじゃないよな。厚さからして絵本だろそれ!
「ほら、とっても素敵なご本でしょう? 他にも色々と持ってきてみたんですよ。どうです?」
なんて言いつつ、ソファーに座る俺の隣に「失礼しますね」と普通に座ってきて、持っていた本を少しずらしつつ膝に並べてきた。はぁ、お前はそういうやつだったよな。
「バカにしてるのか?」
「ほら、絵本の読み聞かせが上手に出来ないと後で困ってしまいますよ? 離宮には絵本がありませんでしたから、奥様は読み聞かせした事もされた事もなかったでしょう?」
「それは……そうだけど」
「じゃあ、まずは私がお手本を見せてあげないとですね。どれから読みましょうか?」
おい、お前が読み聞かせするのかよ。というか、何だよこの絵本達。ラブロマンス? 普通童話とかじゃないのか? こんなの聞かせちゃっていいのか。
「さ、まずはお膝にどうぞ」
「はぁ?」
膝に乗せていた本を横に置き、ポンポンと膝を叩くテワール。なんだ、膝に頭を乗せろと、そう言いたいのか。俺もう19なんですけど。もうそんな年じゃないだろ。読み聞かせの手本とか、別にここに頭を乗せずともいいだろ。
じーっと睨みつけるけれど、ニコニコとこちらを見ては肩を引かれゆっくりと倒され頭を乗せられてしまったのだ。まぁ、何度もされてきたことだから別に緊張とかしないけどさぁ、これ、恥ずかしくないか? ……いや、そういえばどっかの誰かさんは膝枕好きだったな。あの大きな子供。
「さ、読み聞かせを始めましょうか」
なんて楽しそうに読み始めたテワール。あの離宮には絵本がなかったから、絵本読んでくれるって初体験だ。前世だと……記憶がないな。もう忘れたか。両親とか、幼稚園とかで読んでもらったのかな。
でもさ、膝枕されてBL本聞かされるのってどうなんだ? ほら、王子様とお姫様出てきてもお姫様はただのアメロで男なんだよ。付いてるもんは付いてるんだよ。そう考えるとなぁ……複雑だ。
テワール、なんか楽しそうに読んでるけど……いいのか?
絵本はページが少ないし文字数も少ないから読み聞かせなんてすぐに終わる。ようやくハッピーエンドで終わったけれど、次はどれがいいですか? とさも全部読むかのような勢いだ。
けど……
「……俺、ちゃんと出来るかな」
そんな俺のつぶやきに、テワールは静かに微笑んだ。俺のこの呟きの意味を、見透かされているようだ。
この子が生まれた後、ちゃんと生きているかという事。俺の母親のように、本の読み聞かせが出来ないかもしれないという事だ。
「……殿下」
「?」
「殿下がお生まれになられた際、殿下のお母様は殿下をお抱きになりこうおっしゃったのですよ」
俺の母親の最後の言葉。
『幸せになってね、リューク』
幸せに、か。
「殿下はこの家に嫁ぎ、何ヶ月も経ちました。お優しい旦那様と出会えて今、幸せですか」
「……うん」
「ですが、幸せってこんなもんじゃないと私は思います」
「っ!?」
「もっと、もっと、旦那様と、この地にいらっしゃる皆様と、私達と、そしてこのお腹の中にいらっしゃるお二人の子と、一緒に幸せになりましょう?」
幸せ……もっと、幸せ。
確かに、ここに来てからは楽しくて、ヴィルといる日々がとても幸せに感じる。
けど、それ以上の幸せ、か。
「このままではお母様に叱られてしまいますよ? もっと幸せにならなきゃ。きっと旦那様だってそうお思いです。だから、幸せになるための覚悟を決めてください。大丈夫、私達も付いています。そして何よりも、旦那様が殿下を、奥様を想っていらっしゃいますよ」
俺の頭を撫でる手が、一瞬だけ、乳母の手のように感じた。そんな事はないって分かってるのに、どうしてだろう。あの、しわしわで、けど暖かい、あの人の手に……
「……うん」
「奥様、ちゃんと旦那様にもお伝えしましょうね」
「えっ? ヴィル?」
「どうせ奥様、旦那様に迷惑かけたくないとでも思ってるんじゃないですか? いいですか、奥様。心配や不安や愚痴は旦那にぶつけてなんぼですよ」
「……マジ? え、いいの?」
「いいに決まってるじゃないですか。そのための旦那ですよ?」
……前世じゃずっと独身、そして結婚生活はこれが初めてだからこういうのは良いのか悪いのかよく分からない。けど……いいのか? ヴィルに愚痴とか言っちゃって。
「不安が絶えない妊娠期間である今こそ、旦那様に何でもぶつける時じゃないんですか?」
「……」
「奥様、我慢はダメですよ。我慢してたら爆発して火傷するのがオチですからね」
爆発して火傷とか……でもなんか説得力ありそう。まぁ、喧嘩したら「何が?」って答えろって言ったのこいつだしな。
「……ヴィルに会いたい」
「お呼びしますか?」
「けど、今は嫌だ」
「はいはい、じゃあ今はひと眠りいたしますか?」
「……うん」
テワールは全部分かっていたらしい。不眠だったことも。まぁ、19年俺と一緒にいたからお手のものか。
でも、なんだかすっきりしたような気分にもなった。ゆっくりとまぶたをおろすと、自然と意識が落ちていったのだ。
そんな二人の様子を見に来た、ヴィルヘルムとピモ。
「あの者達はリュークにとって親のような存在だろう。やはり、例え夫であっても親には勝てないものだな」
「奥様がお生まれになってからずっと一緒に過ごしてきたようですからね。そう言った存在も、今の奥様には必要でしょう」
「あぁ……だが、思った以上に悔しいものだな。困った事に」
「奥様が知ったらきっと呆れられてしまうでしょうね」
「だろうな」
なんて事を二人が話していた事は、今の俺は全く知りもしなかった。
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