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第二章
◇15 俺は一人じゃない
しおりを挟むテワールの膝に頭を乗せつつ爆睡した俺は、目が覚めた時にはもうお昼を通り越して夕方になっていた事にポカーンとしてしまった。なにこんなに寝てるんだよ俺、と呆れまで出てくる始末。
「疲れていたんだろう、気にするな」
「……はい」
ヴィルは俺が起きてすぐ来てくれたが、安心しきったような顔を見せてきた。俺がなかなか寝付けなかったことを知っていたからだろう。
寝る前に、ヴィルに会いたいとか何だとかって言ったのを覚えてる、が……どうしたものか。と、思いつつ俺の座るソファーの前に膝を付きこちらを見てくるヴィルに抱きつ……こうとしたけどお腹大きいから届かなかった。
それに気が付きすぐさま隣に座ったヴィルは、抱きしめ返してくれた。背中をさすってくるあたり……まだ寝ぼけてるとでも思ってるのか?
「……頑張れるかな、俺」
「リューク?」
「……」
ぼそりとそう呟いてしまった。当然ヴィルにも聞こえただろう。俺の背中をさすっていた手が、今度は頭を撫でてきた。
「……死にたくない」
「……」
こんな突拍子もない事を言い出した俺をどう思っただろうか、ヴィルは。 けれど、その言葉を聞いて、ぎゅぅ、と腕の力をこめてきた。苦しくないくらいに。でも、しっかりと。
ヴィルは、知ってるだろうか。俺の母親が出産時に亡くなっていることを。いや、知ってるだろうな。調べたっぽいし、俺の事。
「……ここには、経験豊富で優秀な助産師が何人もいる。俺の母上の時にも立ち会った者達だ。設備もちゃんと揃えるつもりだ」
「……何人も?」
「俺が生まれたのはこんな吹雪の日だ。当時予定日を知った父上は優秀な助産師や医療関係の者達を何人も連れてきたそうだ。その者達はそのままこの屋敷で働いている。だからリュークの時も最善を尽くしてくれることだろう」
……確かに、ヴィルの誕生日は冬ごもりの最中だったからな。こんな吹雪の中何かあってもここから出られないからこれは大変だと思ったんだろうな。けれど、まだここにいるのか。その人達。
「あとは、リュークの根気だ。だが、俺も付いてる。一緒に頑張ろうか」
「……はい」
「お腹の赤ん坊にも頑張ってもらう事にしよう。何、俺達の子供だ。さっさと出てくるだろ」
「……はは、そうかもしれませんね。元気いっぱいですから。でも、活発すぎるのは困りますから静かに出てきてほしいですけどね」
「それもそうだな」
そうだよな、ヴィルがいるもんな。何怖気づいてるんだろ、俺。まぁ、死ぬのは怖いけど……ヴィルを一人にさせたくない。ヴィルと、俺と、赤ちゃんの三人で笑いたい。周りのみんなとも。
「生まれたら、きっと大変でしょうね」
「だな。だがエキスパートが3人いるだろ」
「……もしかして、テワール達の事言ってます?」
「子供時代はやんちゃだった奴が何を言ってるんだ?」
「……そこまでやんちゃでは……」
なかった、ような。いや、なんか中身は歳のいった大人だったけど、年相応になっていくような気がしてたのは本当だ。走り回って、隠れては使用人達を困らせて、つまみ食いなんかもして。まぁ、言い返せないな、これは。
「……小さい頃から剣を持たせないでくださいね」
「持たせるわけないだろう。そもそも、まだ性別は分かっていないだろ」
「……」
まぁ、性別は生まれてみなければ分からないわけだけど……もし男の子(?)だった時、4歳で剣を持たせたヴィルのお父上と同じようになってしまわないよう俺が見張っておこう。うん。
でも、もし本人がやりたいなんて事を言い出したら……全力で止めよう。ヴィルが何か言ってきたら……呪いの言葉でも言ってみるか?
けど、思い出した。そういえば、ヴィルの妹さん。ルファニスさんさ、初めてお会いした日にヴィルと口喧嘩になった時……表に出ろだの受けてたつだのと言っていた気がしたんだが。
……いやぁ、まっさかぁ。ま、まぁ、俺も短剣使ってたけどさ。
と、とにかく、出産してからの試練はいくつもあるんだ。ヴィル一人でなんて超えられるのは……ちょっと大変どころじゃなくなっていくんじゃないかとひやひやする。だったら死んでるどころじゃない。赤ちゃんの将来を守ってあげないと!
「……ヴィル」
「ん?」
「頑張りますね」
「あぁ、一緒に頑張ろう」
出産日までまだまだ時間がある。それまでに覚悟を決めて、立ち向かってやろうじゃないか。
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