厄介払いで結婚させられた異世界転生王子、辺境伯に溺愛される

楠ノ木雫

文字の大きさ
上 下
31 / 47
第二章

◇15 俺は一人じゃない

しおりを挟む

 テワールの膝に頭を乗せつつ爆睡した俺は、目が覚めた時にはもうお昼を通り越して夕方になっていた事にポカーンとしてしまった。なにこんなに寝てるんだよ俺、と呆れまで出てくる始末。


「疲れていたんだろう、気にするな」

「……はい」


 ヴィルは俺が起きてすぐ来てくれたが、安心しきったような顔を見せてきた。俺がなかなか寝付けなかったことを知っていたからだろう。

 寝る前に、ヴィルに会いたいとか何だとかって言ったのを覚えてる、が……どうしたものか。と、思いつつ俺の座るソファーの前に膝を付きこちらを見てくるヴィルに抱きつ……こうとしたけどお腹大きいから届かなかった。

 それに気が付きすぐさま隣に座ったヴィルは、抱きしめ返してくれた。背中をさすってくるあたり……まだ寝ぼけてるとでも思ってるのか?


「……頑張れるかな、俺」

「リューク?」

「……」


 ぼそりとそう呟いてしまった。当然ヴィルにも聞こえただろう。俺の背中をさすっていた手が、今度は頭を撫でてきた。


「……死にたくない」

「……」


 こんな突拍子とっぴょうしもない事を言い出した俺をどう思っただろうか、ヴィルは。 けれど、その言葉を聞いて、ぎゅぅ、と腕の力をこめてきた。苦しくないくらいに。でも、しっかりと。

 ヴィルは、知ってるだろうか。俺の母親が出産時に亡くなっていることを。いや、知ってるだろうな。調べたっぽいし、俺の事。


「……ここには、経験豊富で優秀な助産師が何人もいる。俺の母上の時にも立ち会った者達だ。設備もちゃんとそろえるつもりだ」

「……何人も?」

「俺が生まれたのはこんな吹雪の日だ。当時予定日を知った父上は優秀な助産師や医療関係の者達を何人も連れてきたそうだ。その者達はそのままこの屋敷で働いている。だからリュークの時も最善を尽くしてくれることだろう」


 ……確かに、ヴィルの誕生日は冬ごもりの最中だったからな。こんな吹雪の中何かあってもここから出られないからこれは大変だと思ったんだろうな。けれど、まだここにいるのか。その人達。


「あとは、リュークの根気だ。だが、俺も付いてる。一緒に頑張ろうか」

「……はい」

「お腹の赤ん坊にも頑張ってもらう事にしよう。何、俺達の子供だ。さっさと出てくるだろ」

「……はは、そうかもしれませんね。元気いっぱいですから。でも、活発すぎるのは困りますから静かに出てきてほしいですけどね」

「それもそうだな」


 そうだよな、ヴィルがいるもんな。何怖気おじけづいてるんだろ、俺。まぁ、死ぬのは怖いけど……ヴィルを一人にさせたくない。ヴィルと、俺と、赤ちゃんの三人で笑いたい。周りのみんなとも。


「生まれたら、きっと大変でしょうね」

「だな。だがエキスパートが3人いるだろ」

「……もしかして、テワール達の事言ってます?」

「子供時代はやんちゃだった奴が何を言ってるんだ?」

「……そこまでやんちゃでは……」


 なかった、ような。いや、なんか中身は歳のいった大人だったけど、年相応になっていくような気がしてたのは本当だ。走り回って、隠れては使用人達を困らせて、つまみ食いなんかもして。まぁ、言い返せないな、これは。


「……小さい頃から剣を持たせないでくださいね」

「持たせるわけないだろう。そもそも、まだ性別は分かっていないだろ」

「……」


 まぁ、性別は生まれてみなければ分からないわけだけど……もし男の子(?)だった時、4歳で剣を持たせたヴィルのお父上と同じようになってしまわないよう俺が見張っておこう。うん。

 でも、もし本人がやりたいなんて事を言い出したら……全力で止めよう。ヴィルが何か言ってきたら……呪いの言葉でも言ってみるか?

 けど、思い出した。そういえば、ヴィルの妹さん。ルファニスさんさ、初めてお会いした日にヴィルと口喧嘩くちげんかになった時……表に出ろだの受けてたつだのと言っていた気がしたんだが。

 ……いやぁ、まっさかぁ。ま、まぁ、俺も短剣使ってたけどさ。

 と、とにかく、出産してからの試練はいくつもあるんだ。ヴィル一人でなんて超えられるのは……ちょっと大変どころじゃなくなっていくんじゃないかとひやひやする。だったら死んでるどころじゃない。赤ちゃんの将来を守ってあげないと!


「……ヴィル」

「ん?」

「頑張りますね」

「あぁ、一緒に頑張ろう」


 出産日までまだまだ時間がある。それまでに覚悟を決めて、立ち向かってやろうじゃないか。

しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。