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第二章
◇9 いや、睨む事ないだろ
しおりを挟む外はゴーゴー猛吹雪。屋敷の中は大騒ぎ。
そして俺の手には毛糸である。
領民達が宴会でこちらに来て帰っていった日から数日後、本格的な雪に到来したのだ。冬が来るまで冬眠の準備は済ませていたけれど、やっぱり色々と大変らしくて。
そりゃそうだ、外には全く出られないのだから。何ヶ月間外に出ず生活出来るよう整えたんだし、ここには何人もの使用人達がいる。大変に決まってるだろ。
そして俺の手には毛糸があって今編み物をしてるんだが……
「リューク」
「嫌です」
攻防戦が続いている。俺はこのマフラーを完成させたいのに、ヴィルのかまってちゃんが発動してしまったのだ。本当に、ヴィルのかまってちゃんは困ったものだ。
今だって、バラの間のソファーに座る俺の隣に座って、肩を抱きしめてくる。じーっと見てくるが、俺はガン無視でちくちく編み物に集中してる。
いつもだったら、ここで押し倒すんだろうが、今俺は妊婦。押し倒せるわけがない。残念だったな。
どうしてこのマフラーを完成させたいのか。それは……ヴィルの誕生日が迫っているからだ。誕生日プレゼントってわけ。ヴィルにプレゼントなんてしたことなかったし、何がいいかなと考えた時に無難にこれだろとマフラーを選んだ。
買ってしまえば簡単なんだが、そのお金はヴィルからもらったお小遣い。毛糸だってそうなんだけど……せめて自分で作ったものにしたいと思ってマフラーにした。何色がいいかな、と思った時黒だろと即決したけどな。
さて、ヴィルはこれが自分への誕生日プレゼントだと気付いているのだろうか。だから邪魔してくるのか? そんなもの作らなくてもリュークが構ってくれた方が嬉しいって? そんなんじゃ形として残らないだろ。
「ヴィル、仕事は?」
「ない」
「わけないでしょ。馬鹿なこと言ってないでさっさと行ってください」
「何だ、意地悪か」
「な訳ないでしょ。お腹の赤ちゃんにまで呆れられたらどうするんです?」
「……」
あ、黙った。これは効果覿面か?
「カッコいいパパ、見せてあげてくださいよ」
「う"っ……」
あーあー悩んでる悩んでる。俺と赤ちゃんどっちを選ぶんだ?
結局、ヴィルは不満げな顔をして執務室に向かって行った。
「……これでもパパ、カッコいいんだぞ? 大きな剣振り回す最強なんだ。強いんだぞ~」
と、お腹の赤ちゃんにパパの株をあげておいた。なんかちょっと可哀想だし。武勇伝でも聞かせておくか? 白ヒョウに乗って雪山を駆け回ったとか。
なんて思いつつ、ようやくマフラーが完成した。ギリギリではあったけど。
うん、我ながらに上出来かな。……たぶん。手先器用になってよかった。でも、辺境伯だからちゃんとしたものを身につけないといけない、とは思うが……ま、ちゃんとした時にはちゃんとしたものを使ってもらうか。
ヴィルは、祝われるのが大の嫌いらしい。去年だって皆に「おめでとうございます」と言われただけで睨みつけられたらしい。でも全員言ったみたいだけど。怖いもの知らずか。
今年はまぁ大々的にやらないけど、せめて夕食だけは豪華にさせてくれ。
「ヴィル~、お誕生日おめでとうございます」
「……」
今日は12月17日。ヴィルの誕生日だ。
そして相変わらずの朝の狸寝入り。お腹大きいからぎゅ~っと強くは抱きしめてこないが。
「そんなに嫌ですか、自分の誕生日」
「……」
「でも考えてみてくださいよ。もしヴィルが生まれてこなかったら、俺今頃変な奴と結婚させられてたんですよ? そう考えたらすごくめでたい日じゃないですか」
「……」
「生まれてきてくれてありがとうございます、ヴィル」
まただんまりか、と思ったらクスクスと笑い声が聞こえてきて。そして顔を上げて俺の顔の目の前に持ってきた。
「そうだな、俺が生まれなきゃクソ野郎と結婚していたかもしれない」
「そうですよ。大変なことになってたかもしれませんよ?」
「なら、リュークと会うために生まれてきたも同然か」
「……そこまで言いますか」
「違うのか?」
「……どうでしょうね。とにかく、お誕生日おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
これでヴィルは……27か。俺よりだいぶ年上だしな。でも大人の子供だけどな。今だってベッドから一歩も出してもらえてないし。狸寝入りだってずっとだし。
まぁ、強く言えない俺もどうかと思うが。
そして、屋敷内の全員に「お誕生日おめでとうございます」との祝福の言葉をもらっていた。「あぁ」と答えたヴィルにみんなは……ニコニコ微笑ましい顔をしていて。まぁ、去年まで睨まれてたんだからそうなるわな。
でも自分の事のように嬉しいのはどうしてだろうか。ま、いっか。
「で、今日一日は俺に構ってくれるんだろう?」
「はいはい」
だいぶ拗ねてませんか、ちょっと。あーはいはい、構ってあげますから。お誕生日の人だしな。
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