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第二章

◇10 プレゼントは……

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 今日お誕生日のヴィルは、俺をベッドに連れ込んだ。と言っても、俺はベッドに背を預けて座るヴィルの前に座り同じく背を預けているが。

 こんなんでいいのか? とも思ったけれど、本人がいいのであれば何も言わないでおこう。こんなの、いつでもしてやれるんだが。


「辛くはないか」

「大丈夫です」

「そうか」


 そう言ってお腹を触り始めた。そんなに触りたかったのか。まぁ言わずもがな、お腹の赤ちゃんは大喜びである。


「……嫌われてるらしいな」

「逆では?」

「リュークのお腹に触るなと言われてる気がする」


 ……まじか、そっちか。パパが触ると大喜びしてたんだと思ってたんだけど。真逆だったらしい。


「俺に似たようだな」

「そうですか?」

「あぁ。生まれたら大変なことになるな」


 らしい。一体何が起こるのやら。でも楽しみでもあるな。早く生まれてこないかな。


「あ、そういえば。本当に結婚式春にやるんですか?」

「いやか?」

「春だとお腹もっと大きくなりますけど。生まれてからの方がいいんじゃないですか?」

「長時間は負担がかかると思って短くする予定だが……そっちの方がいいならそうする」

「いや別にいいですけど」

「お腹が大きいのを気にしているのなら、俺は構わないぞ。3人で立てるんだ、喜ばしいことだろ」

「……」


 まぁ、確かにそう考えれば嬉しいな。もし生まれたら誰かに抱っこされて席の方にいるわけだし。うん、いいかも。


「3人で結婚式、楽しみですね」

「あぁ、そうだな。もちろんうるさい奴らは教会に入れないがな」

「あはは、でも教会には来ると思いますよ」

「だろうな」


 うるさい奴らとはきっと領民達のことだろう。というより言ってたし、この前。結婚式するんですってね! って。一体誰から聞いたのやら。ピモか?

 でも、領民達に祝ってもらえるのは嬉しいな。人生で一度きりの特別な日なんだ。嬉しいに決まってる。

 まぁ、書類に記入という形ではあったけれど結婚したのは約半年前。これまでいろいろとありすぎたから、なんか考えさせられるかも。

 結婚式かぁ。地球とこっちとでは一緒なのかな。うん、楽しみだ。

 けど……心配な事が一つ。ヴィルのタキシードだ。ちゃんと着飾った紳士服を着ただけでもう別人間かと言いたいくらいカッコ良すぎなんだ。俺、教会でヴィル見つけたら逃げそうな気がする。教会にタキシード姿のヴィルだぞ? 絶対破壊力抜群だろ。いや、殺されるって。妊婦は刺激が強すぎるものはダメなんだ。逃げるのは当たり前だよな。


「どうした」

「……春までにかっこ悪くなってください」

「何だそれ」

「いや、タキシード着たヴィルは……ヤバそうだなと」

「そうか? ウェディングドレスを着たリュークの方が綺麗だと思うがな」

「あの、黙ってください」


 この人にこれ以上言わせたらダメだ。この出来た旦那は色々と危険だ。ダメダメダメ。何が綺麗だ。言うな、そういうの。

 と、思っていたら耳元でささやかれてしまった。


「期待してるぞ」

「ヴィル!」

「大声を出したらお腹に負担がかかるぞ」

「言わせたのはどこのどなたですか!」

「ククッ、悪い悪い」


 全く……たまにこういうのがあるから危険なんだ、この人は。事前に言ってくれ、びっくりするから。


「……そういえば、俺ここに来てから今日まで大体8ヶ月ですね。でも、結構短いですね」

「そうだな。ここまで色々と騒がしかったからな」

「それ、どういう意味です?」


 俺が騒がしくしてたって事か。何、煩いってか。


「リュークといると毎日が退屈しない。今までがいかに退屈していたのかと驚くくらいにな」

「そうですか?」

「あぁ」


 まぁ、ヴィルはずっとここにいたって言ってたし……ご両親達も随分前にここから違う地に移り住んだって言ってたしな。妹さんもすぐに嫁いじゃったし。

 俺がヴィルの毎日を楽しくしてあげられてるんなら、それは嬉しいかも。そっか、半年か。

 じゃあ、あと4ヶ月経ったら結婚一年記念日でもやるか? まぁ料理を豪華にしてもらうくらいしか出来ないけど。何かやりたいな。その日まで何か考えておこうかな。



 なんて何気ない話をしていたら、気が付いたらもうだいぶ時間が経っていた。だいぶ楽しくお喋りしたな。今までだって普通に話をしてたのに、なんか思い出話が盛り上がったって感じか。

 そろそろ夕食か、と呼び鈴を鳴らしてピモを呼んだのだ。

 夕食はお約束で豪華な料理が並べられた。昼飯も豪華で美味しかったけど、昼以上に豪華だ。料理長頑張ったな。


「冬ごもりが始まったというのに、これだけ食料を使っていいのか?」

「問題ございません。この日のためにたくさんたくわえておりますから」

「……」


 真顔だな。そんなに不満か。でも美味しそう。なんか俺の方が喜んじゃってすみません。でも美味しいからしょうがないよね。俺が教えた料理もいくつもあって、もう俺以上に完璧に作り上げている。さすがだな。

 今日も美味しいご飯をありがとう、料理長。

 なんて感動しているところをまじまじと見ていたヴィルには気付かなかった。


 そして夜、もう寝るぞというタイミングで、俺は用意してたプレゼントをヴィルに渡した。いや、朝渡すって手もあったけど、今日一日マフラーつけるんじゃないかって思い今にした。だってこれ、外に出かける時に使うもんだろ。


「……ありがとう、リューク」

「気に入りました? 長さどうです?」

「あぁ、ちょうどいい」


 ベッドの端に座る俺の隣に座らせて、試しに巻いてみたけれど……うん、良さそう。よかった。やっぱりヴィルには黒だな。


「明日から付ける」

「いや、外に出る時使ってくださいよ」

「もったいない」

「ダメです」

「……」


 だいぶ不満気だな。でもダメ。俺の方も恥ずかしいから。まぁこんな猛吹雪なんだからしばらくは外に出られないだろうが。


「……だが、もう一つ残っているだろう」

「え?」

「プレゼント。俺はこっちも欲しいんだが?」


 なんて言いつつ、俺を軽く抱きしめ顔を覗いてきた。あぁ、あれか。プレゼントはわ・た・し♡ ってやつか。いやいやいや、そういうのないから。そんなつもりないから。


「もう十分でしょ」

「足りない」


 そう言って、隣に座る俺を押し倒してきた。いや、そういうつもりじゃないんだが。と、伝えたかったのに……気がつけばキスをされていて。あぁ、こりゃダメだとさとってしまったのだ。

 まぁ、お誕生日の人だからな。はぁ、しょうがないな。そう諦め、ヴィルの頬を包んで自分からキスをした。

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