意地っ張りなオメガの君へ

萩の椿

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第18話

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 バーベキューの片づけが済んだ後は、子供の頃よく探検していた宝来の別荘の近くを四人で歩いた。植物や動物、普段都会で過ごすことの多かった四人にとってそこは未知の領域で、一日中外で遊びまわることもあった。当時見ていた光景に昔の思い出が蘇り、懐かしい記憶に思いをはせながら日が落ちるまで四人で語り合った。

 こうして話していると、まるで時間が戻ったみたいだった。あの頃、宝来の別荘の周りを走り回っていた頃と何も変わらない昔の関係に四人は戻っていた。

「案外時間が過ぎちゃったね」

 屋敷に戻ったころには、辺りは真っ暗になっていた。ガラス張りの窓に立ち、夜空を眺めている一条の視線の先には、幾つもの星が瞬いていた。こんな光景は、都会では見られない。

「一応着替えもあったから、泊まることはできるけど。どうする?」

 宝来がリビングに戻ってきた。両手にはバスローブやベッドに敷くシーツを抱えている。

「俺は明日も予定がないから大丈夫だが、皆はどうだ?」

 近衛の問いかけに、一条も宝来も頷いた。

「大丈夫だよ」

「僕も」

 三人の視線が西園寺に注がれる。

「俺も、大丈夫だ」

 明日は日曜日で学校もない。バーベキューで疲れるだろうからと予定も入れていなかった。

「じゃあ、泊りってことで! お風呂沸かしてくる」

 そう言って部屋を出て行く宝来の後姿は、どこか嬉しそうに見えた。正直に言えば、西園寺も嬉しかった。関係を修復できた三人とは語り合いたい事が他にもある。今日一日では時間が足りないくらいだと思っていた。

「俺達はシーツとか枕とか寝床の準備をしよう」

 宝来の屋敷は部屋数が多いから、一人一つの部屋が使用できるはずだ。風呂を入れてくれている宝来の分までベッドメイクをしてやろうと、西園寺がシーツを手に立ち上がった時だった。

「あれ……」

 視界がぐらっと歪み、西園寺の体が傾いていく。


「旭?」

 床に倒れ込むすんでのところで、近衛に受け止められた。

「はあっ……っ」

体を受け止めた近衛は、すぐに西園寺の異変に気づいた。

「ヒートか……?」

 鼻先をかすめる甘ったるい匂いに、赤く染まった頬はオメガのヒート時の症状だ。だが、近衛の問いかけに、西園寺は首を横に振った。

(そんなはずはない……。だってヒートならこの前……)

その時、斎藤と交わした会話が脳裏にふと浮かんだ。



『ヒートを薬で抑えているオメガは、ヒートの周期が狂ったり、欲望をため込んだ状態だから、ヒート時に症状が悪化しやすい』


 斎藤の言葉をまったく忘れていたわけではないが、こんなにも頻繁に起こるものだとは思わなかった。


「れい……、鞄に、薬があるんだ……、とって、くれ……」

 幸いにも、斎藤に渡された薬は鞄の中に常備している。西園寺は鞄の近くにいた一条に助けを求めた。


「……おい、怜?」

しかし、一条は西園寺の目を見据えたまま動かない。


「薬、飲まなくていいんじゃない?」

「何言って……」

 西園寺は一条の発言に目を剥いた。薬を飲まなければヒートが収まることはなく、この前のように地獄のような苦しみをずっと味合わなければならない。周期がずれたヒート時の苦しみは忘れたくても忘れられない。なににしても、早く薬を飲まなければ手遅れになってしまう。一条が取ってくれないなら、這ってでも取りに行こうともがいた時、近衛が声を上げた。


「そうか。俺達がいるから、薬を飲まなくても抑えられる」

 近衛の言葉が何を意味しているのか。それが分かった西園寺は激しく首を左右に振った。


「……だめだ、そんなのっ」


「旭、よく聞いて。この前のヒートに、それから今回のヒート。オメガのヒートは通常なら一ヵ月ごとに起こるのに、これは異常だ。その薬を飲んで抑えることができても、またいつヒートに襲われるか分からないよ」


 まさに、斎藤に言われた通りの事を一条に繰り返される。以前ヒートが来たのは三月中旬で、今は四月初旬。一条の言うように異常な周期だ。

「旭は自分の欲望を抑え込みすぎてる。体がもう限界だって言ってるんだ」

「だからって、お前らとは……、できない」

 やっと、昔の友人関係に戻ることができたのに。これではまた、アルファとオメガの関係に逆戻りしてしまう。


「旭、ベットに行こう」

「いやだっ……」

 手足をばたつかせ抵抗する西園寺を軽々と持ち上げた近衛は、リビングを出た。向かった先は隣にあるゲストルーム。ベットメイキングも十分に済んでいない、真っ白なシーツが一枚敷かれただけのベッドに西園寺は優しく寝かされる。
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