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第一章
第7話 辰美の思惑
しおりを挟む玄関の扉を開けると、直ぐに執事、メイドが玲子たちを出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。とりあえず部屋にお茶と何か甘いものを運んで欲しい。そうだな、お嬢は洋菓子が好きだったよね?」
辰美の問いに、玲子は何も答えなかった。無愛想にポケットに手を突っ込み、首をそっぽに向けている。
辰美は、微笑して「よろしく頼む」と執事に伝えた。
ステンドグラスから光が差し込んでいる廊下を進み、右側にあるドアを辰美が開けた。
「どうぞ」
玲子は辰美を睨みあげながら部屋の中に入る。
そこは、だだっ広い白とグレーを基調としたモダンな部屋だった。
家具は、キングサイズのベッド、机と椅子、間接照明がバランスよく置かれており、奥にはガラス張りのシャワールームがある。
「さてと」
辰美は椅子に腰がけて、その長い足を優雅に組んだ。
「今日からこの屋敷が俺とお嬢の家だ。街中からは離れてて少し不便だけど、車であればそう時間は———」
「ちょっと待って」
玲子が辰美の話をさえぎった。
「何度も言ってるけど、私、あんたと結婚するつもりは無いわ。色々と話を進めているようだけど、お断りよ。それより、電話を貸してくれない?タクシーを呼んで早く帰りたいの」
スマホの県外の2文字と睨めっこしている玲子を見て辰美は鼻で笑った。
「何がおかしいの」
「ああ、いや。まあ、俺もお嬢がこの話を聞いて素直に頷くとは思ってなかったよ。だから、まず提案だ。今日から3ヶ月間ここで一緒に暮らさないか?」
「嫌よ、なんであんたとそんな長い期間一緒に過ごさなきゃいけないの?
あのね、辰美。この際だから言っておくけど私、あなたのこと嫌いなのよ。女を取っかえ引っ変えしてる所とか、心底軽蔑してた。それが結婚相手って勘弁して欲しいわ」
玲子の毒舌にも、辰美は相変わらず表情を崩さなかった。
「そもそも、なんで辰美なの?だって、私とあんたって週に一度、2時間くらい礼儀作法の授業で会うだけで、別に深い関わりがあるわけじゃないのに……。まあ、とりあえず。この話はなしってことで。おじい様には私から伝えておくから」
玲子は辰美に笑顔で伝えると、颯爽と席をたちドアノブに手をかけた。
しかし、ドアはいくら押しても開かない。
「なんで……どうして開かないのよ」
玲子がドアの前に立ちつくしていると、後ろで辰美の声が聞こえた。
「随分なめたこと言ってくれるよねぇ」
振り返ると心底意地の悪い顔をした辰美が立っていた。
「ここからは出られないよ」
「どういうこと」
玲子は辰美に向き直る。
「この部屋のドアは、指紋認証をしている人物しか開けることは出来ない。勿論、俺は登録済みだけど」
「だったら、早く開けなさいよ!」
玲子は辰美に向かって怒鳴った。
辰美は、玲子との距離を1歩、また1歩と詰める。
そして、玲子の顔を覗き込んで子どものように意地悪く笑った。
「やだ」
玲子の頭の中で何かが切れる音がした。
もう我慢できない……。
遂に頭にきた玲子は辰美のネクタイを掴んだ。
「私をおちょくるのもいい加減にしなさいよ」
「俺はいつでも本気だよ」
辰美はその手を払いのけ、いとも簡単に玲子の体を持ち上げて、肩に担いだ。
「ちょっと、下ろしなさいよ!」
玲子が辰美の肩で暴れる。
しかし、辰美は気に止める様子もなく歩みを進め、玲子をベッドへと運んだ。
起き上がる暇もなく、辰美が玲子の上に馬乗りになる。
抵抗を封じるように左右の手首を抑えつけ、怒りで顔を赤くする玲子を見つめて、辰美は言った。
「逃がす気なんて更々ないんだよ」
辰美は玲子の唇に無理やり口づけた。
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