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第一章
第6話 新居
しおりを挟むそれから、車は1時間ほど走り続けていた。
赤信号で車が停車すると、玲子は脱走を試みた。
しかし、ドアは外側からロックされており、中からは開けられないようになっていた。
玲子は空を仰ぎ、窓の外を眺めた。
車は次第に街からは離れていき、段々と山奥へ向かっているようだった。
玲子は、辰美と口を聞くつもりは無かったのだが、さすがに不安になってきて、隣で口笛を吹いている辰美に問いかけた。
「いい加減、教えてくれない?どこに向かってるの?」
「うーん。そろそろ着く頃だと思うけど……。あ、ほら見えてきた」
辰美が指差す先を辿ると、フロントガラスから高く檻のようにそびえ立つ門が見えた。
段々と車のスピードが落ちていき、門前で止まると、何台もの監視カメラが一斉に車を映した。
そして、重苦しい音を立てながら左右に扉が開いていった。
庭に植えられた純白のバラが玲子達を出迎える。
中心には噴水が置かれており、その奥に大きな屋敷が見える。
車は噴水の側をゆっくりと走って停車した。
「着いたよ」
辰美が先におりて、玲子のドアを開ける。
そこには、西園寺家本邸の大きさには劣るものの、十分な大きさの屋敷があった。
「うわぁ……」
ベージュを基調とした洋風のお城のような建物は、美しく幻想的で、まるで物語の世界に入り込んだような気分になった。
辰美は、そんな玲子の心を見透かしているように尋ねる。
「気に入った?」
玲子の表情が一瞬で曇る。
「どこよここ?」
「新居だよ。俺たち2人のための」
「新居?」
玲子は眉間に皺を寄せた。
「少し早めの結婚祝いって幸之助様がくださったんだ」
玲子の眉間の縦じわがますます深くなる。
「誰と誰が結婚よ。バカバカしい、帰るわ。あなた、申し訳ないけど、引き返してちょうだい」
玲子は黒服の運転手に向かって言った。
しかしその男性は眉毛を八の字にして、玲子を見た。
「申し訳ありません。それは出来かねます」
生まれてから今の今まで、執事やメイド、勿論、運転手にもお願いを断られたことがない玲子は呆気に取られた。
「出来ないって、あなた、私を誰だか知ってて言ってるの?」
玲子は鋭い目つきで運転手を見た。
その声は一段と低く、その場が一瞬で凍りつく。
「ぞ、存じておりますとも、玲子お嬢様。しかし、大変申し上げにくいのですが、ここでは基本的に辰美様のご命令しか我々は聞くことができません」
運転手が額の汗をハンカチで拭いた。
「何よそれ、誰が決めたの!」
玲子は声を張り上げた。
「幸之助様だよ」
辰美が運転手と玲子との間に割って入った。
そして、車を車庫にしまっておくようにと指示を出し、2人きりになってから、怒りの感情で肩を上下させている玲子を見つめた。
「お嬢、とりあえず中に入って話そう」
「結構よ!車がダメなら適当にタクシーでも見つけて帰るから」
「それは無理だ。わかってると思うけど、かなり山道を走ってきたんだ。ここから、歩いて街に降りようと思ったら、軽く3時間はかかる」
「だったら、ここにタクシーを呼べばいい」
玲子はカバンからスマホを取り出した。しかし画面を見ると県外の二文字。
「ね? だから、中でお茶でも飲みながらゆっくり今後のことを話そう」
「あんたと話すことなんて何も無いわ」
玲子は腕を組んで、首をそっぽに向けた。
「さっきみたいに、手を引いてあげることもできるけど」
辰美は冷めた視線を玲子に向けた。
「.........っっ」
玲子は言い返せなかった。
先程、辰美に掴まれていた手首をさすると鋭い痛みが走る。玲子の白く透き通った肌が赤くなっていた。
玲子が抵抗していたという事もあるが、辰美の手首を掴む力はそれなりに強かった。
手を引くなんて、そんな優しいものじゃない。
これは、半ば脅しだ。
「嫌だったら、素直についてきて。悪いようにはしないから」
玲子は、唇をかみ締めて辰美と共に屋敷の中へと入った。
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